スカーフェイス 《コントラストの美しいポスター》
映画の点数…50点
ポスターの点数…87点
「苦手」な映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は「スカーフェイス」です。
あらかじめ言い訳しておきます。
今回映画の点数を50点としてますが、これはもうすごく単純に「僕がデパルマ監督作品が苦手だから」です。
映画の出来が悪いとかそういう話ではありません。
実際、公開から35年くらい経っても愛されている作品ですからね。
なので点数はもう無視してもらっていいです。
1983年公開のギャング映画。
主演は僕が最も好きな俳優、アル・パチーノ。
上映時間も3時間近くある大作ですね。
えー、それでもなお、僕はどうしても苦手なんですよね笑
映画のストーリー
ストーリーはシンプルです。
キューバのチンピラに過ぎなかったトニー(アル・パチーノ)は、アメリカでギャングに取り入り、出し抜き、コカインの売人として成り上がっていく。
巨大な権力を手にしたトニーであったが、それと引き換えに妻や友人に対しても疑心暗鬼になっていく。
と同時に自信もコカインに溺れ、ついには身を滅ぼしていく。
みたいな話です。
ギャングのサクセスストーリー×アル・パチーノというこの上ないくらい大好きな組み合わせなのです。
ところが。。。
映画の苦手な点
前述の通り、僕はどうしてもこの作品が苦手でして。
この10年後くらいに公開される《カリートの道》も苦手だったので、やっぱり僕はデパルマ監督と合わないんでしょうね。。。
「全体的に淡くぼんやりしたショットが多い」ことや「音楽の使い方がやたら説明的なうえにくどい」という二点が特にダメで、トレンディドラマを観ているような気恥ずかしさがあるんですよね。
女性が出るシーンではやたらとキラキラしたエフェクトがかかるような映像になったり、悲しいシーンでは何回も何回も同じ音楽が流れるし。
こういうのって時代によって評価は変わるのだろうし、この手法が不正解だとは言いませんがとにかく僕が苦手ってことです。
まぁあとはこれも時代的なことでしょうかね、あまりにも女性がバカっぽく見えちゃうというか。
シーンとしては「バカな男性と違い、大人な視点を持った女性」みたいな描かれ方をしてるんですよ。
でも実際におかれている状況は「男性に金だけ出して貰って偉そうにしている」ようなヒロインだったりして。
それじゃ魅力も何も感じないなぁなんて。
やたらエロい服装をしているのもバカっぽいななんて。
これを言ってもしょうがないか。。。
ポスターの感想
この映画は、映画以上に映画ポスターがとても良いと思ってます。
まずとても有名なビジュアル。
画面を真っ二つにバキッと大胆に分割したレイアウト。
その中心に主人公トニーが立っています。
白と黒の分割が、「チンピラから麻薬王へ」とか「親不孝なヤクザと家族思いな青年」とか「裏切るか裏切られるか」とか「天国から地獄」とか、映画に度々出てくる極端な二面性を感じさせます。
銃を手に不遜な態度を感じますが、決して幸せそうだったり豪胆さは感じません。
もっと陰湿で不穏な暴力の匂いを感じます。
タイトルは赤と白に映える赤で、これはもちろん暴力性の表現であると共にデザイン的な美しさも持ち合わせています。
単純なレイアウトのように見えますが、単純だからこそ美しく見せるのに苦労するデザインです。
日本語版ポスター
なんかちょっと笑っちゃうデザインのポスターです。
一個もいい点が見当たらないけどどういうことでしょうか笑
なんでアル・パチーノの文字が鮮やかな青色なのでしょう。
なぜタイトルがこんなに肉太でもっさりしているのでしょう。
それより何より、なんで主役のアルの写真がこんなにかっこ悪いものを採用しているのでしょうか笑
いちいち文句を言うようなことでもないくらい変なポスターですね。
添えられているコピーもなんか勢いで言ってるだけでよく分からない笑
まぁちょっとした紹介でした。
まとめ
「良い映画なのにポスターがダメ!」とか「ポスターが映画の内容を誤魔化してる!」
とかそういう意見をいつも書いている気がするのですが、今作に関しては「そもそも映画が苦手」というなんとも言えない姿勢での感想になってしまいました。
このブログを書く前に、10年ぶりくらいに映画を見直したんですよ。
改めて観るとよく見えるかもしれないって。
でもやっぱりダメでしたね笑
いつかデパルマ監督作で好きな作品に出会えたらいいななんて思ってます。
それでは、また。
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オールドボーイ 《ポスターで損をしてる?傑作映画》
映画の点数…87点
ポスターの点数…40点
今につながる韓国映画の傑作
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《オールドボーイ》です。
2003年の作品なのでもう15年以上たつんですね。
ちょうど韓国映画が日本でも流行していたのが2003年くらいでしょうか。
冬ソナが2003年に放送していたらしいです。
当時は「まぁ、悪くはないけど日本の映画やドラマのパクリだよな」みたいなクオリティの作品も多々あったと思ってます。
そのなかにおいて、《オールドボーイ》は飛び抜けた傑作で。
今となっては悔しいけれど韓国映画のレベルは日本映画のレベルを軽く超えていると感じています。
《オールドボーイ》はその韓国映画のレベルを向上させたきっかけの一つでもあるんじゃないかなと思ったり。
公開から15年以上たった現在でも、オールドボーイを超えるような邦画ってないんじゃないかなぁなんて思います(というか、こういうジャンルの映画自体が少ないんだけど)。
映画のストーリー
謎の組織に15年間誘拐・監禁されてしまっ主人公、デス。
監禁されている間に妻は殺害され、娘とも生き別れます。
15年たったある日突如解放された主人公は、わずかな情報を頼りに自分を監禁した犯人と、犯行の目的を見つけるために奔走します。
そのなかで犯人捜しを手伝ってくれる女性や昔の友人の力を借りて、少しずつ犯人像が見えてきます。
真相が判明していくにつれ、全く予期しなかった事実が明らかになっていき……
みたいな話です。
基本的な話は「15年も監禁したやつに復讐だ!」という話です。
そこだけでも十分に面白いと思えるレベルの映画なのですが、後半そこからさらにツイストしてくる「本当の地獄」にかなり驚かされました。
元々日本のマンガが原作なのですが、だとしたら邦画としてこんな最高な作品を観たかったところ。
映画の良かった点
この映画の美点は数多くあるのですが、ここでは「フレッシュな映像」と「脚本」の二点に絞りたいと思います。
フレッシュな映像
映画前半はまだ何故監禁されたかなどの情報が少ないため、いくら謎解きをしているとはいえ「状況的に退屈」な場面が多々あります。
人に話を聞いていたり、街をウロウロしていたりするシーンですね。
そのシーンを退屈させないための工夫が、フレッシュな映像として用意されています。
まず全体的な美術のレベルが高いです。
部屋の小物や衣装など細かいところまで気を配っていて、キャラクター達の実在感を増すことに貢献しています。
ミドという名前のヒロインなんかも、微妙~~な感じで衣装がエロいんですよね。
そのバランスがとても良かったり。
また、とても有名なシーンのようですが長い廊下でのワンカット長回し格闘シーンのフレッシュさ。
別にアクション映画ではないのですからそんなシーンは必須ではないのですが、このワンカット長回しのフレッシュな映像のおかげで「永遠と終わらないうんざりするような地獄が続く」ような錯覚を感じて。
自分の思いもしない贅沢が出来ているようで観ていて楽しいです。
見事な脚本
正直言って、設定とかはおかしいところも目立ちます。
「いくらなんでも15年監禁されたわりには対応力がありすぎる」とか「催眠術ってそんなに万能?」とか。
それを気にする方がいてもしょうがないとは思うんですけど、個人的には「そういう矛盾点は無理矢理突破してしまう脚本」の方が素晴らしいなと感じます。
後半にいくにつれ「え??そんなことでこんな犯罪を???」とか「え??こんな地獄があっていいの???」みたいなシーンがインフレしていくので、細かいところは気にならなくなっていくんですよね。
その「こんな地獄があるのか」というシーンをどのように展開するのか、いつ観客に提示するのか、というのが非常にうまいなと。
真相自体は明らかになっていくのに、何故か目の前の出来事が非現実的な感じがしてクラクラしてくる。
全体的なビジュアルが濃厚で過剰なのもあって、元々ファンタジー感が強いのもプラスに働いていると思います。
ポスターの感想
有名なビジュアルはこちらだと思います。
ハリウッドリメイクの方も似たようなビジュアルでしたね。
まぁ確かに、インパクトはありますよ。
ハンマーを使った拷問描写とかも印象的です。
ビジュアルとしてはこれでもいいかもとは思います。
ただし、映画ポスターとしては僕は良くないのではないかと思います。
映画ポスターである以上は「お客さんを映画館に呼び込む」ことと「映画の内容を正しく伝える」ことが大事です。
このポスターの場合「映画の内容を正しく伝える」ことは出来ていないと思います。
まず主人公の顔ですが、小汚い格好とはいえちょっとカッコよすぎですよね。
劇中の主人公はもっと、頼りなくフラフラしたダメな人間です。
そのダメ人間が暴力を振るうからこその恐怖と、反逆のカタルシスがあるのであって。
このポスターじゃただのクライムサスペンスに見えちゃいます。
また、映画の主なテーマである「監禁した奴への復讐」という要素がまるで感じられません。
監禁の孤独感を演出するなら後ろ姿にするとか、もっと引きの絵にするとか方法はあったはずです。
このポスターからは「家族を失った男の悲しみ」のようなものは感じられないですよね。
「大事なものを失った男の復讐」がこの映画のテーマなのですから、もう少しドライで冷静なビジュアルが必要だったと思います。
別案
こちらのポスターは良いと思います。
主人公達が頼りなく韓国のネオン街を歩いています。
街に飲み込まれそうなくらい人物は小さく表現されており、謎はなかなか解けないという印象があります。
それでも二人の距離はかなり近く、深い愛情のようなものが感じられます。
まとめ
公開から15年たってもまだまだ傑作であり続ける一作だと思います。
だからこそ、ポスターのビジュアルが惜しいと感じるところ。
有名なポスターなので変更しにくいとは思いますが、新しいお客さんに観てもらうのを目的に、ちょっとビジュアルの変更をしてもいいんじゃないの?なんて思ったり。
それでは、また。
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さくら(小説)《洪水のような心地よい衝動》
小説の点数…95点
装丁の点数…83点
溺れるような小説体験
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回は映画の感想ではなく、小説のお話です。
僕自身そこまで小説を読む方ではなく、年間で10冊程度しか読みません。
それもあって、恥ずかしながら西加奈子さんの小説も今現在この《さくら》しか読んだことがないありさまです。
売れっ子さんだからか名前は聞いたことがあったのですが、正直なところ女流作家さんよりも男性作家さんの作品の方が好みなので触手が伸びなかったんですよね。
でも今回、人の推薦もあってちょっと読んでみることに。
感想を一言で言うなら、足下がぐらつくような傑作、ですね。
読み終わって一週間程度たつのですが、まだ主役3人(+2人+1匹)のことを思い浮かべる日々です。
もっと早く彼らと出会いたかったなと強く思います。
もしもこのブログを見ていて、ほんの少しでも興味を持ったらすぐに手をのばして欲しいです。
個人的には、10代とか若いうちに読むのが一番良いのではないかと思います。
もちろんオッサンでもおばさんでも、違う味わい方はあるから同じくお薦めですが。
小説のストーリー
ネタバレはしませんが、「あらすじにのっているくらい」の内容はお話します。
長谷川家の3兄弟、はじめ、薫、ミカの三人は、仲の良い両親に育まれ、そして一家のアイドル犬さくらと共に健やかに暮らしていました。
特にはじめやミカは非凡な才能や容姿にも恵まれ、まわりから羨望される魅力をもつ人物です。
でもある日、20歳になる長男はじめが命を落とすことになります。
そこから長谷川家は少しずつ狂いだしていき………
みたいな感じですね。
小説内で起こる大きな事件は「長男が死ぬ」というくらいであとはほとんど日常シーンの連続、特に「長男が死んでしまう20歳までの15年間くらい」を丁寧に丁寧に描くのですが、その間にほとんど事件なんて起こらないんですよ。
でも小説の冒頭で「20歳で死ぬ」ことだけは判明しているので、読み手はそれを理解した状態でページをめくることになります。
語り部は次男である薫が担っており、例えば「スポーツマンでモテモテで人気者の兄ちゃん」と語るときもあくまで「次男にはそう見えている」という構図になっています。
当たり前のことですがこのへんが映画では使えない文法なので面白いなと。
映画では画面で思い切り写ってしまうので、本当にモテてるのかカッコイイのかは観ている人には分かりますからね。
小説の良かった点
物語の語り部である次男・薫というのがなかなかくせ者で、彼がどこまで本当のことを喋っているのかが完全には読み取れないのが素晴らしいなと思います。
例えば「AさんはBさんが好き」というのはなんとなく薫が気付いていても、それを言葉にしたくないと感じたら話さない→読み手にそれを伝えない、というような自体がまま発生します。
特に家族に関する描写に顕著で「うちの家族がいかに素晴らしい人物達で幸せか」ということは丁寧に丁寧に説明するのに、家族が狂いだしたあとは家族のイヤな面は直接的には表現せず匂わせる程度に留めていたりします。
小説を読んでいると「ああ、なんて素敵な家族なんだ」と思わせる一方で「いやでも、実はこの家族おかしいよな」という気持ちがいったりきたりすることになります。
恋をしたり、性に悩んだりといった描写があり、それがドラマチックに描かれてはいるのですが、言ってしまえばそれも「ごく普通のこと」でしかなくて。
書いてある内容自体は本当に「絵本に出てくるような作り物のような家族」なんですよね。
そのパーフェクトさが狂っていく様子を勢いよく描くのが気持ち良かったです。
西加奈子さんという才能
「波のような」文章を書く方だなと思いました。
読んでいる間中、ぷかりぷかりと浮き輪にのって、リズミカルな心地よさに任せて波に乗っているよう。
いつまでもいつまでもこの波に乗って幸せな思い出を味わっていたいなと思うのですが、読んでいる間中ずーーーーっと不安を感じています。
それは、目の前に大きな時化がやってきているのが分かっていて読み進めなければならないからです。
このあと、絶対に、波ののまれてしまうと分かっているながら相変わらずぷかりぷかりとリズミカルな文体は続いていきます。
話のテーマこそ違いますが、伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」を思い出しました。
あちらも「兄弟の話」「このあと、絶対に良からぬことが起こることが分かっていて読み進める」という点で共通しています。
また、映画「葛城事件」のような「家族という地獄」という共通点もあるかと思います。
正直なところ、「文句のつけようがないくらい文章力が素晴らしい」という感じではないんです。
かなり若々しく瑞々しい。
それもそのはず、執筆時はまだ二十代半ばで長編二作目の小説とのこと。
もうそれを隠すこともなくというか、後半は特に衝動にまかせっきりとも思えるような文体で襲いかかってきます。
こういう若さ溢れるみたいな表現はそんなに好きなジャンルではないのですが、この小説に限っては100%それが良い方向に働いたんじゃないでしょうか。
装丁の感想
シンプルな線画のイラストの上に、タイトルが明朝体で、すぅっとのっています。
さくらというタイトル通り、色もさくら色。
装丁を観るかぎりは「日常を描いた内容かな」と予想できますし、実際にその通りです。
ただし、線画は暗いグレーで、全体として「明るく楽しそう」な印象はありません。
ほのぼのはしているけど、楽しくはない。そんな感じ。
これは小説を読み終わるとより意図が見えてきます。
街並みはよく観るとフリーハンドで描かれています。
定規とかを使わないということですね。
フリーハンドで描くメリットは、手描きの温かさが出るとか生き生きとした印象になるとかです。
ですが今回の装丁のタッチは少し違うようです。
ほのぼのしているように見えるけれど、少し街並みが傾いているように見えます。
ましてや全く色がありません。
これは「愛すべき日常」が狂ったまま色を無くしてしまった、という風に見えてきます。
小説を読む前と後で、受ける印象が微妙に変化するというとてもいい装丁だなと思いました。
また、意図的かは分かりませんが中央の家からY字に道路が広がっており、「もしあの時別の道があったならば」というような意味にも見えますね。
まとめ
考えてみると当たり前なんですけど、映画と違って映像のない小説は装丁によって受けるイメージが映画よりもかなり大きいですよね。
だから小説の装丁って「ぼんやりとした」ものが多くなってしまうのだと思いますが。
でもそういうのこそグラフィックデザイナー冥利につきるよなぁというか、美しい装丁を観ると「いいなぁうらやましいなぁ」なんていつも悔しくなります。
この冬はまだ何冊か小説を読む予定があるので、気に入ったものがあったらまたアップしたいと思います。
ギブアップ。
それでは、また。
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遊星からの物体X 《世界名作ポスター》
映画の点数…70点
ポスターの点数…95点
世界一有名なポスター!かも
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《遊星からの物体X》です。
このブログでは毎回「映画と、映画ポスター」の感想などを挙げているわけですが、もしかしたらこの《遊星からの物体X》こそ、世界で最も有名なポスターの一つなんじゃないかなと思っています。
他には《ショーシャンクの空に》や《プラトーン》や《羊たちの沈黙》なんかも候補じゃないかと。
これら「映画は観たことないが、ポスターは知ってる」というほどにポスターのビジュアルが強い映画というのがたまに生まれます(いいか悪いかは別の話ですが)。
特にこの《遊星からの物体X》はポスター単体のビジュアルがそもそもカッコよく、映画ポスターとしても単にポスターとしてもレベルが高い作品です。
映画のストーリー
南極探査中のアメリカ部隊の中に、地球外生命体と思われる異星人が紛れ込む。
人間に擬態しながら次々と隊員を殺害していく異星人から、彼らは逃れられるのか
みたいな感じです。
エイリアンに代表される「限られた空間の中での異種族戦争」ものですね。
ストーリー自体はシンプルですが、シンプル故に今現在に至るまで40年近く愛されてきた映画ということなのでしょう。
ただしCGは無しです。
現在ではCGでいくらでも作り出せてしまう宇宙人や破壊される人体描写もすべて演技や特殊技術のみで表現しなければなりません。
映画の良かった点
映画の脚本などよりもむしろその特殊技術をいかに楽しめるかでこの映画の感想は大きく変わってくると思われます。
少なくとも、2019年現在の僕がこの「宇宙人の表現方法」を観ても「なんてこった!こんなすごい技術があるなんて!!」とはならないわけです。当たり前ですけど。
それはスターウォーズの初期3部作やターミネーターの一作目なども同じです。
ただそれだけで映画の価値が決まると言うのならば、これらの映画が今現在に至るまで長く評価されているわけがありません。
遊星からの物体Xの素晴らしさはやはり「人間を内側から乗っ取り、なりすまし、最終的には入れ物から出てくるように人体を破壊する」というアイデアと、それを実現させた技術だと思います。
スターウォーズは「はじめて観るデザインなのに、何故か整って見える」というデザイン力が凄いのですが、遊星からの物体Xのデザインは「なんだこれ?えーっと、なんだこれ?」といつまでも解明できない凄さがあります。
ただ単にデタラメな生物描写にすればいいというわけではなくて「おそらくここが消化器官なのだろうけど」とか「あの部分は犬の頭部が外側に出てるのだな」とかギリギリ理解しようとは出来る範囲のデザインです。
このSFXを手がけたのが当時まだ22歳のロブさんという方らしいんですが、まさに驚愕の才能ですね。
ポスターの感想
世界一有名なポスターとも言えるデザインですが、少し掘り下げてみようかと思います。
まず分かりやすいところから言うと、顔がビカーッと発光していて何が何だか分かりません。
この「顔が見えない」という状況は人間が一番想像力を働かせる瞬間です。
先ほどのスターウォーズでいえば、皇帝は最初顔が見えずに登場します。
夜のお店なんかでも女の子が顔だけにモザイクをいれた写真がたくさんあります。
相手の顔が見えないと「不安」や「興味」がかき立てられ様々なイメージが沸いてきます。
この映画ポスターはまさしく「どんな顔をしているんだろう、どんな映画なんだろう」と興味を引く仕掛けがあるわけですね。
SF的要素
一見、顔が発光しているというだけのシンプルな構成ですが、色彩などには細かい配慮があります。
文字の色などを筆頭に、全体的にクールな青色が多用されています。
この青色が近未来感やSF的な要素を演出しています。
同時に、南極という寒々しい張り詰めた印象の表現としても役だっており、少ない情報ながらも強いイメージを持っているわけですね。
日本語版ポスター
日本語版ポスターの方は、なんといってもタイトルデザインが特徴的です。
おそらく2020年現在で「The Thing」というタイトルの映画を「遊星からの物体X」なんて改変はしないと思うのですが(あ、でも「Frozen」を「アナと雪の女王」なんて改変したりするな)。
「遊星からの物体X」という仰々しいタイトルを、やはり過度にデザインで演出しています。
まぁ正直デザイン自体は時代を感じる古さがあるのですが、この角張った直線的な書体が1980年代における未来感だったのでしょうね。
まとめ
簡単な内容でしたが、一度観たら忘れられないデザインの代表「遊星からの物体X」の紹介でした。
僕はあまり「このポスターのデザイナーは◎◎で〜」と言うのは好きではないのですが(観る人には関係ないから)、もし良かったら「ドリュー・ストルーザン」なんて検索してみたら面白いかもしれませんよ。
それでは、また。
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ドクタースリープ 《結局はオマージュでしかないのか…??》
映画の点数…76点
ポスターの点数…70点
シャイニング・40年ぶりの続編
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《ドクタースリープ》です。
原作はS.キング、前作にあたるシャイニングはキューブリックが映画化してますね。
シャイニングから40年後を舞台に、前作の主人公・ジャックニコルソンの息子を演じたダニーが今作では主人公となっています(役者は全然違う人、ユアン・マクレガーが演じています)。
今年はターミネーターやスターウォーズ、ロッキー、ミスターガラスなんかも続編が公開されました。
ただしこのドクタースリープは本当に40年まるまる空いての続編なので、そういう意味では一番のサプライズだったかも知れません。
ドクタースリープに関しては「続編」というよりは「シャイニングに対するカウンター」のような作りになっている点も特徴です。
映画のストーリー
前作シャイニングで死亡した父親と同じように、自らもアルコール依存に悩まされるようになったダニー。
自分の人生をやり直すべく引っ越した先の街で、アルコール依存のセミナーに通い友人を作り就職もし、順調な生活を過ごしていた。
そんなある日、どこか遠くからシャイニングを使いコンタクトをとってくる人物が現れる。
今までの人生のトラウマから平穏に過ごしたいダニーだったが、人ならざるものとの接近は避けられず……
みたいな感じです。
前作のダニーがあんなオッサンになっていることにまず驚きですが、そりゃあんな経験をしたらその後の人生に影響を及ぼすのは当然といえば当然ですね。
新しいキャラクターも複数登場するのですが、やはり最後は「ダニーがあのホテルでの出来事に決着をつける」という方向に話はすすんでいきます。
映画の良かった点
この映画の良かった点は、映画の悪かった点と裏表になっていると思います。
映画の良かった点のほとんどは「前作シャイニングに関連するシーン」なんですよね。
映画の前半こそ新キャラクター達を使ってほとんどオリジナルストーリーを展開するのですが、物語のラスト40分ほどになるといよいよあのホテルが舞台になります。
ホテルに近づきシャイニングでかかっていた音楽が響き出すと「よっしゃー!きたー!!!」とテンションがあがります。
そこからは「そうそう!こういうのが観たかったんだよ!」と言いたくなるサービスショット満載。
ラスト、敵との決着シーンなんかは「シャイニング版アベンジャーズ」みたいな感じで。
ちょっと笑っちゃったくらいなんですけどね。
賛否両論ありそうですが、物語としては「なるほど、こういう形になるよね」というところに落ち着いたのかなと。
変に希望なんか持たせず、ちゃんと落とし前をつけるあたりがS.キングらしいのかなと思いました。
映画の不満点
これは映画の良かった点と同じです。
結局のところシャイニングの遺産を楽しむという映画になっていました。
新しいキャラクター達も物語後半になるとどんどん影が薄くなっていき、特に主人公の女の子なんかはホテルに着いたあとはほとんど何もしていないんですよね。
せめてラストくらいはダニーと共に敵に立ち向かうシーンが欲しかったです。
逆にダニーの方はというと映画の前半では特にやることがないんですよね。
せめて「定期的にホテルの亡霊達の影に悩まされている」とか「酒が切れてくると父親の恐怖を思い出す」とか何かしら演出があっても良かったんじゃないでしょうか。
映画の前半と後半で鏡合わせのように面白い部分と退屈な部分が入れ替わります。
ポスターの感想
ポスターの感想もまた、映画の評価と近いですね。
「お、いいな」と思う部分は結局シャイニングを思わせる部分なわけです。
オリジナルな要素はほとんど見受けられず、そこは少し寂しいですね。
ただし、映画ポスターとしてはある意味当然の出来というか。
映画自体が「ダニーが過去の出来事と向き合う」という作りになっているため、大人になったダニーがホテル内で過去にあった出来事と対峙するというポスターになるというのはとても自然なことです。
かつて三輪車で走った廊下を歩き、斧で切り裂いたドアから顔をのぞかせる。
ファンへのサービスであるのと共に、映画の内容ともマッチしています。
ここに何かしらの新しいアイデアがあったらパーフェクトだったなぁと思います。
まとめ
考えれば考えるほど、キューブリックという監督の異常な芸術性が浮かび上がってきます。
今作の不満点をいくら指摘しようとも「でもキューブリックが作った映画を作り直すということがそもそも難しい」という結論になっちゃうんですよね。
それほどまでにやはりシャイニングは一つの映画として完成されきっていたと思います。
このドクタースリープを観ることが出来たこと自体は非常に満足していますが、身も蓋もない言い方をすると「相手が悪かった」という感想になりそうです。
それでは、また。
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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン 《映画もポスターも“パッケージ”がうまい》
映画の点数…78点
ポスターの点数…85点
“3”スターのそろい踏み
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン》です。
日本語になおすなら「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」みたいなことらしいです。
鬼ごっこの際に使われる言葉みたいですね。
大胆不敵な若手詐欺師【ディカプリオ】と、それを追うFBI【トム・ハンクス】、そして監督に【スピルバーグ】という、もはや2大スターならぬ3大スター映画です。
さらには脇にクリストファー・ウォーケン(アカデミーノミネート)らしっかりとした役者陣を揃えています。
今から考えるとですが、スピルバーグや制作陣には「役者がしっかりしてないと、けっこう簡単につまらない映画になるぞ」という危機感があったのかも知れません。
その危機感をクリア出来る人材こそがスピルバーグだったのだろうし、見事にそれに応えていると思いました。
映画のストーリー
16歳で家出した主人公フランク(ディカプリオ)は、小切手を使った詐欺を繰り返していました。
さらにはパイロットや医者、検事になりすまし社会的ステータス・地位まで確立。
名前を変え場所を変え職業を変え詐欺行為を続けるフランクを、FBI捜査官カール(トム)が徐々に追い詰めていく……
みたいな映画です。
やっていることは大胆で軽やかさも感じる犯罪映画です。
実際、劇中で陰惨なシーンなんかは描かれず、基本的にはコメディと言ってもいいくらいのバランスになっています。
ただそこには弱点もあって、多額のお金が詐欺に遭った大事件にも関わらず「映画的には地味」なんですよね。
画面で起こっていることは「文字を消したり書いたりする(偽造)」とか「たまに走って逃げる」くらいなもので。
銃をぶっ放したりカーチェイスがあったりなんかはしないんですよ。
それもあってスピルバーグは信用のおける役者を準備したんじゃないでしょうか。
また、映画のオープニングの時点ですぐに最終的にフランクは逮捕されてしまうということが判明します。
これもいかにも映画らしい大捕物のシーンがないと分かっているからこその脚本だったのかも知れません。
映画の良かった点
やはり「さすがスピルバーグ」という評価になってしまいます。
音楽も盟友ジョン・ウィリアムズ。
地味なシーンやセリフだけのシーンでも「それっぽく」まとめあげています。
スピルバーグらしさを特に感じるのは父親に対する描写にとても力が入っているところです。
脚本はスピルバーグではないのですが、スピルバーグ作品はいつも映画に出てくる父親が「ダメな父親」とか「大人になりきれない父親」とか「そもそも父親がいない」とかだったりします。
今作では「尊敬されたいのに、どうしてもうまくいかない父親」をクリストファーが見事に演じています。
息子であるフランクも父親に尊敬されたく、そして父に威厳を取り戻してほしいとずっと願って行動しています。
ただの地味な小切手詐欺事件を、誰しもが共感出来る親子の話にまとめるあたりが素晴らしいなと思いました。
それとやっぱりトム・ハンクスはいいですね。
映画の中ではほとんど犯人に振り回される可哀想な役なんですけど、その「犯人逮捕に右往左往する仕事人の側面」と「どれだけ痛い目にあっても人としての優しさを忘れない人格者としての面」と「家族と離婚してしまった独身者としての面」を見事に体現しきっています。
陽気で強い人なのにどこか寂しげな人とかを演じさせたら右に出る人はいないですね。
映画の不満点
不満点もあげておくと、単純に上映時間が長すぎると思います。
この内容で2時間20分は不要だったでしょう。
女性をナンパしたりするシーンやパーティーでバカ騒ぎするシーンなんかは丸ごとカットでも良かったんじゃないですかね(ウルフ・オブ・ウォール・ストリートなどではパーティーシーンは必須なのですが)。
いらないシーンをタイトにまとめて1時間50分くらいに出来ていたら密度の濃い映画になっていたように思います。
それと、トム・ハンクスとは対照的にディカプリオが良くなかった気がします。
今でこそ文句のつけようのない素晴らしい役者だと思っていますが、2002年時点ではまだ少し経験値が足りていないように感じました(偉そうに何言ってんだか)。
このフランクという役は先ほどのトム・ハンクス同様「大胆不敵な天才詐欺師の側面」と「家族の愛に飢えたティーンエイジャーという側面」という多面的な人物を演じる必要があります。
でもそのどちらも中途半端なバランスになっちゃっていて、結果的に「いまいち何を考えているのか分からない」人物に見えちゃったのかなと。
まぁ今となっては「クズでワガママでダメ男」を表現する天才であるディカプリオですが、この時点ではまだまだアイドル的な面が前に出すぎていたのかな、とは思います。
ポスターの感想
映画のオープニングムービーがまさにそうだったのですが、この映画はグラフィカルな遊びがあってとても面白かったですね。
そんな映画ポスターがこちら。
これだけですでに楽しそうじゃないですか。
ディカプリオとトムという役者名はハッキリと可読出来るのに対し、二人がとても早いスピードで逃げたり追いかけたりしているので顔が全く見えません。
普通顔が見えないなんてデザインとして一発アウトなのですが、これはディカプリオとトムの知名度が世界中で十分にあるからこそ出来る表現ですね。
タイトルのCatch me if you canも、行ったり来たりしながら逃げたり追いかけたりという映画のストーリーに合っています。
パイロットに偽装するところから映画が本格化するのを考えると、空を思わせるような配色も納得です。
キャッチコピー
このポスターで個人的にいいなと思っているのはキャッチコピーです。
「The true story of a real fake」
日本語版ポスターの翻訳を借りるならば「本物の偽物を描いた真実のドラマ」です。
この映画が実在の人物をモデルにしているので、真実のドラマです。
かつ主人公が詐欺師なので偽物を描いています。
という、なんだかゴチャゴチャしてて一瞬「ん?何言ってんの?」と思ってしまうあたりがこの映画らしいですね。
軽やかにはぐらかされる映画の魅力を一言でうまく表現しています。
日本語版ポスター
先ほどのデザインバージョンも日本語版ポスターにあるので「日本語版ポスターがダサいぞ!!」と言うつもりは全くないです。
単純に別デザインですね。
このポスター、二人の顔がハッキリ見えるから作られたと思うんですけど、それにしてもなんでディカプリオはこの衣装なんでしょう笑?
劇中こんな衣装をしていたことすら思い出せないのですが、特に理由はあるんですかね?
もしも僕が衣装を担当していいなら、白衣の上にパイロットの帽子をかぶせて、手には小切手を大量に持たせます。
そういうのじゃダメだったのかな?
ちょっとよく分からないデザインですね。
まとめ
さすがスピルバーグ、の一言ですね。
傑作とは思いませんが、やっぱり観ている間中はずっと楽しいですよ。
スピルバーグ×トム・ハンクスの映画はおそらく全部見ていると思うのですが、いずれも大傑作ばかり。
ここ数年で立て続けに2本傑作も出ていることですし、良かったらまたこのコンビで映画とってもらえないでしょうか?
お願いしますお二人さん。
それでは、また。
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ブラック・ファイル《久々に観たぞ、ポンコツ映画》
映画の点数…40点
ポスターの点数…45点
二大スターの共演
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《ブラック・ファイル》です。
主演はジョシュ・デュアメルさんですが共演にアンソニー・ホプキンスとアルパチーノという豪華仕様。
新人監督の映画にも積極的に出演するのがハリウッドスターの素晴らしいところだと思います。
特にアルパチーノは何歳になっても作品を選ぶ才能が本当にないというか笑
先日のワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのような良作に出たと思ったら今作のようなポンコツ映画にも当たり前にも出演します。
まぁ僕からすると、動いているアルパチーノを観ることが出来るだけでけっこう幸せなんですけどね。
いつまでもお元気で活躍してください。
映画のストーリー
映画のストーリーが、これが実に説明しづらい。
悪徳製薬会社の社長がアンソニー・ホプキンスさん。
その製薬会社を訴えるのがジョシュ&アルパチーノの弁護士達、というのが構図なんですけど、あまりにもその他の人物達が飲み込みづらくて。
アンソニーの現恋人、かつジョシュの元恋人のメアリーさんって方がいて、何か悪いことをたくらんでるっぽいとか。
イビョンホン演じる謎の男が、本当に謎の行動をとったりとか。
ジョシュの奥さんがサイコパスな感じになったりとか。
話が終わってみると、悪徳製薬会社とかいう設定は特に活かされることはないんですよね。
このあたりが実にポンコツ映画なんですよねぇ。
色々な伏線が張ってあるように見えるんですけど、そんなものは全部バッツバツに切り刻み、逆に今まで全く観たことの無いステルス伏線をワサワサと回収しまくります。
映画の良かった点
良かった点はアルパチーノが観ることが出来たとかそのくらいですね(僕はアルパチーノが最も好きな俳優なのです)。
あとは出てる女優さんが何故かみんなノーブラなのがラッキーくらいな感じで。
映画の不満点
順序だてて説明してもしょうがないくらいおかしな点が多い映画なんですよね。
これは監督以前に脚本がおかしい点が山盛りなのが原因で。
それをいくつか挙げてみたいと思います。
- アンソニー・ホプキンスが最初に美術商を殴るシーンが伏線かと思いきや、ただの勘違いで何も意味がない
アルパチーノのペンのくだりが最後まで意味不明
主人公が逃亡する際にお腹を怪我する理由が全くない
主人公が逃亡するのに友人が応じる理由が全くない(電話履歴残るだろう)
友人が逃亡に拳銃を渡す意味が全くない(結局必要ない場面でぶっ放してるし)
子どもを流産したと思われる設定が全く必要ない
元カノがSNSを通じて主人公に接近してきたけど、コンタクトをとれる確実性が低すぎる
このあたりはまぁ可愛げがあるんですけど。
ただ
元カノが何がしたかったのか結局よく分からない
点と
イビョンホンが何故残りわずかな命という設定だったのか分からない
という点なんかは見逃そうにも見逃せないんですよね。
これらの余計な情報のおかげで、ご覧なさいよ、映画を見終わった今でもまったくストーリーが理解できていないんですよ。
いや、もちろん「こうして→こうして→こうなった」みたいなストーリーは分かりますよ?
でもそれが映画としての魅力に全くなっていないんですよね。
「観客の予想を超える展開」なんて言いますけど、そりゃもう軽々と超えてくるというか、予想なんて出来るわけねーだろって感じなんですよ。
ただまぁここまで悪口言っておいてなんですが、こういうポンコツ映画は嫌いじゃなくって。
そりゃ一生で見返すことは絶対にないですけど、見ている間は楽しいんですよ。
だってずーーーっと腑に落ちないから、観ていて飽きない笑
こういう映画体験も悪くないじゃないですか。
ポスターの感想
まず本国版のポスター
まぁ、こうなるよねって感じのポスターですね。
主人公だけじゃ弱いから、後ろに豪華な花を用意しているわけです。
あとは意味ありげにテーブルに拳銃が置いてありますが特に意味はないですね。
いやー、本当に薄っぺらいポスターだなぁ笑
アルパチーノもアンソニー・ホプキンスも表情に覇気がありません。
韓国版ポスター
韓国版ポスターには先ほどの三人にイビョンホンが加わります。
映画を観てみると分かりますが、イビョンホンはそこまでストーリーラインに関わらないのでポスターにのせるほどではないとは思いますが。
そこは「本国のスターがハリウッド映画に出てる!」ってことでポスターにのせるのは当然ですかね。
イビョンホンさんも他にハリウッド映画で佳作にはちょこちょこ出てますし、こういう映画にはもう出なくていいんじゃないですかね笑
日本語版ポスター
日本語版ポスターになるともっと悪いです。
先ほどの4人に加え、女優二人がのっているのですが、なんなんですかねこのレイアウトは。
男性4人は顔のドアップなのに、女優は何故か引きのショットなんですよね。
これって明らかにおっぱいを強調しているだけでしょう笑
キャッチコピーも「狂いだした歯車」とか「驚愕のラスト」とか本当に書くことが無いときの言葉を無理矢理貼り付けたみたいな感じで笑
で、もう伝えることもないからおっぱいを足してみました!みたいな。
嫌いじゃ無いですよ、そんないきなりおっぱいも。
まとめ
良くも悪くも悪くも悪くも悪くも、小粒でさっぱりな映画でした。
ただこんな映画があってこそゴッドファーザーや羊たちの沈黙も輝くんですからね、これはこれでいいじゃないですか。
そんな優しい気持ちに僕はなりましたよ。
それでは、また。
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裏切りのサーカス 《極上のスパイサスペンス》
映画の点数…85点
ポスターの点数…30点
デッぷりとしたスパイ映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《裏切りのサーカス》です。
冷戦下イギリスでの諜報機関【サーカス】を舞台にしたスパイ映画。
スパイ映画といってもイーサン・ハントやジェームス・ボンドは登場しなくって、実に上質で雰囲気たっぷりのリアルな(まぁスパイに会ったことないから本当にリアルかは分からないけど)スパイ映画ですよ。
最近滝沢カレンさんの料理レシピが話題になってますけど、彼女の表現を借りるなら「デッぷりとした」描写の数々。
登場人物はほとんど初老以上の男性なのですが、色気が画面ごしにムッハムッハと溢れ出してきてました。
まぁキャスト陣がゲイリー・オールドマンにコリン・ファースにカンバーバッチと、これでもかとダンディズム溢れる俳優が次々と投下されてきますので。
実は「誰が犯人だったのかよく分からんかった」のですが大変楽しい映画でしたよ(なんだそりゃ)。
映画のストーリー
ストーリーはある意味王道中の王道。
イギリスのスパイ組織・サーカスの中にソ連側の二重スパイがいるという情報が。
ゲイリー・オールドマンをリーダーとし、誰が裏切り者か探る任務が始まる……
みたいな話です。
僕も一応「誰が犯人なのか推理しよう」と思って観ていたんですけど、正直よく分からなかったです。
もちろん画面上では「こいつが犯人です」というのは分かるのですが、どうして判明したかとかはよく分からんというか。
そういう謎解きそのものを期待する人からすると評価は分かれるところなのでしょうけど、個人的には謎解き要素よりも人間ドラマや美術の美しさを堪能する映画だと思って観ていたので全然気にならなかったですね。
映画の良かった点
とにかくルックの美しさを楽しむタイプの映画だと思いました。
こう書くと「ただ見た目だけの映画なの?」と思われるかも知れませんがそうではなく、「スパイ活動という裏切りばかりの日々に疲れた顔」とか「仕事の危険を考え最愛の恋人と別れる決断をする顔」とか、映画にドッシリとした物語があるからこそ画面に魅力が出るんですよね。
複雑な感情を説明的なセリフでは表現せず、表情の変化や演出だけで見事に形にしてみせたのが素晴らしい。
と言いつつも、スパイ同士なので基本的にはポーカーフェイスなんですよね。
ポーカーフェイスなんだけど感情が伝わってくるという、なんて離れ業をやってのけてるんだという感じですが。
登場人物達は部屋で会話したり歩いたりしているだけなんですけど(銃とかはほとんど使わないから)、見た目で飽きることは一切なかったですね。
映画の不満点
まぁ、いくらなんでも説明不足な点は気になりました。
登場人物が多いので名前を初見ですぐに覚えられる人は少ないと思いますし、場所もいくつか転々とするのでどこがどこかよく分からなくなる。
映画の前半だけでももう少し人物の役割の説明などに説いても良かったんじゃないですかね。
最初の飲み込みづらさで映画に集中出来なかったらもったいないですよ。
ポスターの感想
映画はかなりドッシリとした映画だったのですが、ポスターは少し違います。
ポスター全面に数字が打ち込んであり、暗号化されたメッセージのイメージなのでしょうね。
カンバーバッチ主演のイミテーションゲームも同じようなデザインでした。
イミテーションゲームの場合は「エニグマ(暗号機)の解読」が映画のテーマでしたのでこのビジュアルで良いとは思います。
ただし、裏切りのサーカスに関してはどうでしょうか?
暗号化されたメッセージを読むシーンは2回程度しか登場せず、そもそも暗号自体があまり重要なテーマではありません。
スパイものだからということでこのようなデザインになったと思うのですが僕はこの映画には合っていないと思います。
画面全体にデジタルなフォントが敷き詰められることで、全体的に軽い印象になっていると思うんです。
そうすると「重厚でドッシリした映画」と「軽いポスター」が対照的になっちゃうんですよ。
ゲイリー・オールドマン単体のアップだと単調なポスターになってしまうかも知れませんが、だったら他のレイアウトで作っても良かったんじゃないでしょうか。
別案
こちらは別案。
やはり敷き詰められた文字情報で「犯人は誰なんだ」みたいな雰囲気を出しているのは共通ですね。
でもやはりこちらも不満点があって。
何故背景を「青ベース」にしたのでしょうか?
この映画にはこのような少し未来的な寒色の印象はありません。
繰り返しになりますが、重厚でドッシリした映画です。
だったら背景もそれに合わせた黄色系やセピア調なんかにした方が良かったと思うのですが。
日本語版ポスター
この日本語版ポスターは悪くないデザインだなと思います。
このレイアウトにすることで「誰が犯人でしょうか」と思わせることが出来ています。
またゲイリー・オールドマンも先ほどのように暗号デザインではないので重厚感を感じます。
また、黒いベタ(正確には柄が入っていますが)が下部にたっぷりとられているので重心が下がっており、これもまた画面全体の安定感を出すことに成功しています。
とはいえこのポスターも少し不満が。
右側にいる人物達が、「ストーリーの重要度」を優先して配置されています。
その代わり、「誰が犯人か」の候補の何人かが外されているんですよね。
それじゃ映画の本筋と違ってきます。
ここはやはり「裏切り者候補」は絶対にのせて、余ったスペースにカンバーバッチとかをのせるなら分かるんですけどね。
まとめ
映画がとにかく近年最高なくらい渋くて上質だったのですが、ポスターワークがそれに対してギャップがあったのが残念です。
こういう映画だったらむしろ「部屋に飾りたい!」と思わせるくらい渋めのポスターなんかにしても良かったと思うんですけどね。
日本でもこういう「初老達のガチンコ映画」が作られたらいいななんて思いましたよ。
それでは、また。
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スプリット 《意図が改変された最低なポスター》
映画の点数…75点
ポスターの点数…2点(日本版)
シャマラン監督作
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《スプリット》です。
シックスセンスやサインで知られるM.シャマラン監督作。
具体的なネタバレはしませんが、本作は他のシャマラン作品とリンクしていたりと特殊な位置づけの作品です。
映画のストーリー
23(+1)人の人格を持つケヴィン(ジェームス・マカヴォイ)。
その主人格の一人が女子高生3人を誘拐してしまいます。
レイプや身代金目的というわけではなく、新たに生まれてくる人格“ビースト”への捧げ物として連れてきたとのこと。
女子高生3人は脱出を目指し、ケヴィンは人格の誕生を待つ。
映画のジャンルがいまいち掴みきれないあたりがシャマラン監督らしいとも言えます。
ホラーなのかサスペンスなのかヒューマンなのか。
映画の良かった点
特に前半は良かったですね。
サスペンス要素とホラー要素をうまく組み合わせてドキドキしっぱなしでした。
やはりジェームス・マカヴォイの演技が素晴らしいの一言で、さすがに24人分は無理でも(というかそもそも映画内に出てこない)7人くらいは見分けがつくくらいに演技だけで人格を表現できていました。
今の時代ちょっと人格のチェンジをCGで手伝ってあげたりも可能だとは思うのですが、ちゃんと正統に演技だけで表現しています。
ちゃんと「別の人に見えた」というだけでもすごいことだなと思います。
まぁあとこれを言っちゃあなんですが、女子高生側の主人公の女の子が可愛すぎてスタイル抜群で。
彼女を見ているだけで幸せというのは正直あります。
映画の不満点
前半は良かった映画なのですが、後半すべての謎や目的が判明したあとは「すごく普通」な映画になってしまいます。
自己のトラウマを克服したり、もう一人の人格が誕生したり、友人が死んじゃったり。
起こっていることは確かによくある映画のパターンなんですけど、僕がシャマランに求めていることとは違うというか。
シャマランに期待しているのは「ちょっとピントがズレた恐怖」であって、ストレートな映画運びをされちゃうとちょっと残念でしたね。
ポスターの感想
まず日本語版ポスター以外をいくつか紹介します。
一番シンプルなポスターがこちら。
もはや説明すら不要かも知れませんが、人格が分かれているということをガラスのヒビで表現していあます。
それと同時に、「今まさに人格が壊れようとしている(24人目の人格が解放されようとしている)」という予感も感じさせます。
もっと言えば、ガラスを割ってこちらに犯罪者が来るという恐怖感の表現でもありますね。
アイデアはシンプルながら、いくつかの意味合いを持たせることが可能ないいデザインです。
デザイン2
先ほどのポスターたはまた違ったデザインですが、意図は共通していますね。
下に様々な人格の影がシルエットとして確認できます。
さらに24人目の人格・ビーストが誕生しようとしているという予感もポスターから伝わってきますね。
先ほどのポスターもこのポスターも、書いてあるキャッチコピーは同じです。
「ケヴィンの中には23人の人格があって、24人目が解放されようとしている(意訳)」とあります。
ポスター内にはケヴィン以外はまったく存在していません。
このことからもこの映画は「ケヴィンという人間の多重人格」がメインテーマであることが分かります。
日本語版ポスター
では日本語版ポスターはどうなのか。
はい、非常に残念なポスターになってしまいました。
なんですかねこれは。。。
色々と突っ込みたいところが多くて心配になってきます。
まず許容範囲というか、色々な人格をガラスの中にうつしだしたのはアリなアイデアだと思います。
日本人すべての人が「スプリット=分かれる、分離する」ということをすぐに理解は出来ないでしょうし、だったらあらかじめ「多重人格の話ですよ」と提示してあげるのはいいですね。
ところがその割れたガラスの中に、誘拐された女子高生達まで出てきています。
そうなると急に話は変わります。
ガラスは「分離した人格」を表現しているわけで、そこに他人が混ざっちゃうと「ただのデザイン」に見えちゃうんですよね。
そもそもこんなにゴチャゴチャしてたら何が何だかどうせ分からないでしょう。
あと「2週連続No.1ヒット」って煽り文字。
真っ赤な上に黒のシャドーに極太フォント。
ダサい。
すげー芋っぽい。
元のポスターのスタイリッシュさをここまで台無しに出来るかね。
ひどいデザインだと思います。
キャッチコピー
なぜ女子高生達をポスターにのせたかというと、キャッチコピーを見ると理解出来ます。
「誘拐された女子高生3人vs誘拐した男23人格」というビックリするようなキャッチコピー。
え、そういう映画じゃなかったでしょ???????
このキャッチコピーをつけた人は映画を全く見ていない、もしくは「こっちの方が緊迫感あっていいよね」ということでしょうね。
まぁおそらく後者でしょう。
非常に腹立たしいなと思います。
この映画を見たら分かる通り、後半は特に「女子高生の脱出」という要素は無くなっていきます。
それよりももっと「自分との対峙」の話であって、誘拐犯も女子高生も「自分を解放する」というクライマックスがシンクロするような作りになっています。
おそらく「誘拐された女子高生3人vs誘拐した男23人格」というキャッチフレーズにつられて映画を鑑賞した人は「こんな映画と思わなかった」と感じたのではないでしょうか。
このような行為って、監督やスタッフに対する冒涜ですよね。
映画のテーマをねじ曲げて宣伝して、鑑賞した人の感想までねじ曲げて。
ここまでひどい改悪のキャッチコピーってそうないんじゃないですか?
「とりあえず勢いでつけた!」みたいなキャッチコピーの方が1000倍いいですよ。
この映画のキャッチコピーは、明らかに映画のテーマ自体の改変です。
まとめ
映画自体は最終的にちょっとこじんまりしたエンディングになります。
とはいえこの映画も続編があるわけで、評価はまた後日になるとも言えますが。
それより何より、映画ポスターの改悪があまりにもひどかった一作だと思います。
こんなの見せられると非常にガッカリしちゃいますね。
気分が悪いです。
それでは、また。
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アナと雪の女王2 《さすが。及第点は楽々と越えてきた》
M
映画の点数…82点
ポスターの点数…85点
※注意!!ネタバレあり!!
今作に関しては全編ネタバレがあります。
良かったら映画を実際に観てから読んでくださいね。
偉大な作品の続編
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《アナと雪の女王2》です。
社会現象となった前作の続編が発表されたとき「やっぱりか…やめとけばいいのに」という感情が先にやってきました。
同じく偉大な作品であるライオンキングやリトルマーメイドやトイストーリーでさえ二作目はアレな出来だったのを観てきたので、ディズニーは決して二作目を作るのが得意な会社ではないという印象だったのです。
ましてやアナ雪、一作目で完結した話でもあるしその後スピンオフまで制作されています。
(特に“家族の思い出”の方は色々と良くない点も目立ちました)
ハードルがあまりにも高すぎる棒高跳び。
実際にはどうなったのか。。
結論としては「前作には遠く及ばないが、及第点は軽くこえてきた」という感じでしょうか。
ハッキリ言っちゃえば「Let it go」という名曲が無いアナと雪の女王なんですよね。
曲の力に頼らずに映画を観ていくとなると、色々とマイナス点は見つかるけど、でもまぁやっぱり魅力的な映画だなって感じでしょうか。
映画の良かった点
まず前作でもすでにすさまじいレベルだったビジュアル表現がさらに加速していました。
具体的には幼少期のアナとエルサの表現。
実に感情豊かに動き回るアナと、親の顔色を慎重にうかがうエルサの表情の変化。
もう単純に「か、かわいすぎる!!」と思いますね。
等身が人間と違うにも関わらずもはや生きているとしか思えないレベルでしたね。
トイストーリー4の時にも同じ事を思ったんですけど、もはやエルサやアナが画面で動いているのを観ているだけでちょっと泣けるんですよねぇ。
その技術の向上もあったためか、キャラクター達の性格の表現もさらに愉快になっていましたね。
泣いたり怒ったり大騒ぎのアナが、実はエルサの事を強く思っているという表情だけの演技。
しっかりしてそうに見えるのに、意外とポンコツでいっぱいいっぱいなエルサのコミカルさ。
クリストフに関しては何があったんだというくらいアホなキャラクターになっていましたが笑
特にクリストフの歌唱シーンではお腹を抱えて爆笑してしまいました。
会場の他の観客はあまり笑ってなかったんですけどねぇ。なんでだろ。
90’sのPV風な映像で歌い上げる展開はあきらかに今作の映画とのバランスが崩れており、多分後年では「あれはいらなかったよね」という評価に落ち着きそうな気がしますが僕は大好きなシーンでしたよ。
練られたストーリー
前作「アナと雪の女王」の時にも思ったのですが、かなり脚本、というよりは[正しいお話かどうか]ということに気を配ってある印象です。
物語上、差別や共生などをテーマとしているし、3つ連続させて同じ展開をツイストさせるような演出をたくさん用意していたりとかなり丁寧に作っているというか。
ですがそこに「Let it go」のような10年に一度の名曲が生まれたりした結果映画のバランスがどうにも悪くなってしまったと思っていて。
今作も同じようなことは目立つなと思いました。
「オラフが消滅する→復活する」というのは前作と明らかに重ねてあるし、復活する理由も前作とは違う理由にしてあります。
映画的にはオラフを消滅させた方が盛り上がるとは思うのですが、そうはさせないというか。
「水には記憶がある」という設定をちゃんと前振りとして用意してありました。
考えれば考えるほど、なるほどしっかり作り込まれたストーリーだなと感心します。
ただその分、ちょっと頭でっかちな点も前作同様目立つとは思っています。
公開前にあった懸念
前作「アナと雪の女王」は、エルサを【少数の者】としてのメタファーとして観ることが出来ました。
見た目がアルビノっぽかったりするのが顕著ですが、レズビアンであるとか外国人であるとか障害者などにエルサを見られたわけです。
アナと雪の女王が傑作たり得たのは、今までのディズニー映画のヴィランのように【少数の者は排除する】というエンディングでなく、さらには【障がいを癒やす】というエンディングでもなく、【少数の者との共生を目指す】という終わりにしたことにありました。
エルサは魔法の力を無くすことなく、モンスターとして城を出て行き、そのモンスターのままの能力で城に帰ってきたわけです。
さらには「エルサが呼び起こした冬が終わり、夏がやってきたらオラフは死ぬ」という暗示すらも否定し「少数の者との共生において、何の犠牲もあってはならない」ということからオラフも助かることになりました。
障がい者やLGBTの方などは生まれつきの素質を持って生まれてきた方々が多くいます。
言うまでもなく、エルサのように魔女の力を持って生まれてきた少女同様、それを理由として差別されることなどあっていいはずがありません。
ですが、今作「アナと雪の女王2」のキャッチコピーにはヒヤリとする言葉がありました。
「なぜ、エルサに力があたえられたのか」。
つまり「何か理由があっての魔女になった=理由があって障がいを持って生まれた」とも言えてしまう言葉だったわけです。
もしもここで大した考えのない理由づけでエルサの誕生を提示したとしたら、世界中から反発があったと思います。
実際にそこはどう描かれていたのでしょうか。
エルサの役割
まずエルサは「人間の男」と「妖精と暮らす民達の娘」との結婚によって生まれた子であるということが判明します。
これは「外国人との結婚」であったり「全く異なる信仰の方との結婚」と言えます。
結果としてエルサは魔法の力を持って生まれてきており、アナは人間として(自国の人間として)、エルサは妖精側として(外国人として)の素質を大きく持つことになりました。
エンディングでは【橋にはたもとが二つある。アナとエルサが架け橋になるのだ】という決着をつけました。
なるほど。
エルサの役割を【架け橋として生まれた】とすることで「少数派のあなたは、人と人とをつなぐ架け橋になる可能性があるんですよ」というメッセージとした、と解釈もできます。
「アナと雪の女王2」では前作アレンデール王国だけでなく、世界がもっと広がったという終わり方をしています。
そういう意味ではハッピーエンドと言えそうです。
エルサの扱いに対する不満
エルサになぜ力が与えられたのか、については理解できました。
アレンデールと妖精の民達との架け橋になるためです。
しかし、僕はやはり納得はいきません。
それは「なんでエルサがそんなことをしないといけないのか」という理屈としては通らないからです。
ただでさえ今まで「普通の人生」を送れなかったエルサは、映画序盤で「“今”が永遠に続きますように」と懸命に祈っています
永遠なんてないというのは当然ですが、今作のエンディングは人並みの幸せを願い続けた彼女の決着としてはやはりハッピーエンドとは言えないのではないでしょうか。
イジワルな見方をすると、「やはり魔女は魔女として暮らして、自分達のフィールドには合わないよね」という終わりにも見えてしまいます(実際には違っていたとしてもそう誤解をする人は一定数いると思います)。
もっと分かりやすい言葉を使えば、エルサが可哀想だと思ってしまって。
映画のオープニングで家族4人と幸せに暮らしていた様子を見たのもあり、ますます「エルサはもう二度と、いわゆる普通の暮らしは出来ないのだな」と実感してしまいました。
その他の不満点
前作と同じではいけないというのは分かるのですが、ちょっと過剰なアレンジが目立ちました。
前作では【魔法の力】が目に見えるのはエルサが使う能力とトロール達の存在の二点に集中していました。
ですが今作では妖精の能力の他にもサラマンダーや巨人なんかが登場します。
特にサラマンダーや巨人は物語上で絶対に出さないといけないキャラクターでもなく、映画としての幅をもたせるためだけに生まれたような存在です。
彼らには、オラフが担っているただのマスコットキャラクター以上の役割というものは特に発見できませんでした。
このへんはスターウォーズ Ep.8での新キャラの扱いにも近いものがありますね。
役割がないのなら新キャラなんて出すべきではないと思いますよ。
ポスターの感想
僕は以前のブログで「アナ雪の女王2」をポスターから想像するとこうなる、と書きました。
「このポスターから感じるのは、エルサは前向きな姿勢で未来を見ている。
アナは対照的に後ろめたく何か悩んでいるような雰囲気です。
ですが、別のポスターでは意味合いがかなり変わってきます。
アナとエルサが全く同じポージングで同じ方向を向いて歩いています。
二人の意志は一致しており、団結して前に向かっていくような印象です。
これはどういうことでしょうか?」
と書いています。
結果から言うと、どっちも正解でどっちも不正解でしたね。
自分の危険も考えずグイグイ進んでいってしまうエルサをアナは度々不安に感じていました。
エルサの方は(意外と前作から反省しておらず)、真実を確かめるために一人で暴走モードに入ります。
アナはエルサを見ているのですが、エルサはアナを見ていないんですよね。
この意識の差はポスターに現れているようです。
かといって二人で同じポージングで歩くポスターもおかしいというわけではなくて、こっちはこっちで意味が合っています。
スピンオフあたりからそんな感じだったのですがやたらとアナとエルサがラブとラブな雰囲気でしたよね。
今作もそんな感じで「二人でやってろよ!」みたいにイチャイチャするシーンがたくさんありあます。
エルサの方が暴走気味とはいえ、基本的には二人とも共通の目的のために行動しています。
なのでこのポスターもアリですよね。
まとめ
色々文句のようなことも書いていますが、アナと雪の女王の魅力ってそういうところだと思いますよ。
前作も「歌は良いけど脚本はさぁ」なんて散々言われた作品でしたから。
こうやってああだこうだ言い合っているうちは「映画を目一杯楽しんでいる」ということですからね。
そういった意味でもやはり今作も素晴らしい一作だったと思いますよ。
ただまぁしばらくスピンオフは控えた方がいいかな。
それでは、また。
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[リミット]《理想的な低予算映画》
映画の点数…60点
ポスターの点数…90点
ザ・低予算映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は[リミット]です。
今ではデッドプールとして「絶対に死なない男」として活躍するライアン・レイノルズ主演映画。
何故スペインで作られたか分かりませんが一応スペイン映画です。
制作費も日本円で3億円程度のザ・低予算映画ですね。
それもそのはず、90分ほどの映画のうち、本当に90分丸ごと棺桶らしきものに閉じ込められた主人公しか写らない映画です。
その他に写るのは携帯画面の先にいる浮気相手の女性と、棺桶に入ってきたヘビくらいですね。
むしろどうやって3億円かかったんだろうというくらい。
ヘビのギャラが5000万円くらいかかるのかも知れません。
サラッと楽しむくらいの感じで観たい映画を探しての鑑賞だったので、それはもう見事にサラッと楽しむくらいにはサラッと楽しめましたよ。
映画のストーリー
ある日、イラクでトラックの運転手をしているアメリカ人の主人公が、土の中に埋められた棺桶の中で目覚めます。
なんのこっちゃ分からない主人公ですが、徐々に自分がテロリストに誘拐されて埋められているということが分かってきます。
はたして携帯電話だけを頼りに主人公は助かることが出来るのでしょうか。
というお話です。
まぁ言ってしまえば出オチ映画というか。
90分の一人芝居の映画を作ろうよ、という企画から走り出した映画なのでしょう。
政治的なメッセージとかも特にないですし、映画ライターさんの中には「上質な反戦映画だ!」なんて言う人もいたみたいですけど、個人的には「うーん、やっぱり基本的にはシチュエーションコメディとかに近いんじゃないの?」という感じです。
あまり深く考えずに楽しむくらいがちょうどいい姿勢だと思いますよ。
映画の良かった点
シンプルに「よくこれだけのアイデアで一本の映画を作れたな」というところが美点でしょう。
度胸もあるし、アイデアに見合った演出も工夫されていると思います。
シチュエーションが一切変化しないなかでも「絶望していく主人公」とか「切迫していく状態」などうまく描けていたと思います。
画面は一緒でも映像を補填しながら楽しむことは十分に出来ました。
それとこの手の映画にしては「主人公がアホな行動をとる」というシーンが少なかったのは良かったです。
電話をかけたりキレたりする順番も「まぁそうなるよね」という行動で動いてくれるのでストレスは少なかったです。
映画の不満点
申し訳ないけど長過ぎです。
よく90分もたせたな!と褒めたいところですが、残念ながらもっていません。
途中でハッキリと停滞してくるし、そのピークがヘビが出るシーンですね。
あれは明らかに「ちょっと絵的にも地味だし、ここらへんで動物パニック要素をいれようか」という狙いありきでしょう。
何分から映画と呼んでいいかは分かりませんが、せめて1時間ですっきり終わらせた方がきっと面白かったのでは?
「1時間以内に救助されなければ死亡」みたいな要素があった方が楽しかった可能性もあると思いますよ。
ポスターの感想
低予算映画のポスターとしてはかなりいいポスターではないでしょうか。
情報を限りなく制限して主人公が埋まっていることのみを伝えています。
閉所恐怖症の人はこれだけでも怖いですね。
100億円かけた映画でこのポスターはありえないと思いますが、ひとつのジャンル映画としてならこのポスターはかなり理想的といっていいでしょう。
高さを活かしたレイアウトに控えめながら土の質感なんかが追加されていて芸も工夫されていますね。
あえて不満を言うならば、縦の圧迫感はあるものの横からの圧迫感をあまり感じません。
ライアンには悪いですが、もう少し縮小して横からの圧迫感も高めるべきでしょう。
まとめ
毎日毎日記憶に残るような大作ばかり観ていたら頭がおかしくなりますからね。
たまにはこういう映画でブレイクするのも悪くないなと思います。
期待しすぎず、サラッと観てみてください。
ポスターもまた控えめではあるのですがそれなりに気がきいているので出来はいいと思いますよ。
それでは、また。
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アフタースクール《ちゃんとダマされますよ》
映画の点数…89点
ポスターの点数…60点
どんでん返し映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《アフタースクール》です。
もう10年以上前の映画になるというのがゾッとしますが、当時なかなか衝撃だったのを思い出し見直してみました。
当時はキサラギなどを筆頭に「後半のどんでん返し!」みたいな邦画が流行っていた印象があります。
内田監督は後に堺雅人さんと共に鍵泥棒のメソッドを作りますが、これもどんでん返しものの一つでした。
伏線回収どんでん返しものの映画が溢れかえったなか、今観るとそんなに面白くないかもと不安だっったのですが、これがなかなか面白かったです。
二回目なのでオチなどは当然覚えていたにも関わらず、そこまで無茶を感じない伏線回収ものだったなと。
多くの映画が「伏線のための伏線」とか「よく考えると回収なんて出来ていない伏線」とかに陥った中でスマートに出来ている作品なんじゃないかなーと思います。
堺雅人映画
身も蓋もないことを今から言います。
僕は日本人俳優の中で堺雅人さんが一番好きなのですが。
今作の堺雅人さんはいいですね!
正直堺雅人さんだけで20点アップくらいしている気が。。
とはいっても主演は大泉洋さんの方だし、堺雅人さんは前半なんてほとんど出てこず出番も少ないです。
出ているシーンは少ないわりに、堺雅人さん独特の「何考えているのか全然分からない」表情がこの映画に非常に効果的だったなと。
堺雅人さん以外が演じていたら映画のニュアンスすら変わってきたんじゃないかなというくらい。
というわけで、僕がこの映画を好きな理由は堺雅人さんが出ているから、です笑
ポスターの感想
配色がうまく、一度観ると記憶出来てしまううまいレイアウトだと思います。
見ての通りピンクの使い方が印象的で、この配色だけでコメディ要素のある映画だということはすぐに理解できますね。
ポスター内のメインの三人は全く笑っていないので、もしこのピンクが黒やグレーであったら映画の印象すら変わっていたかも知れません。
さらに、パズルを敷き詰めた背景から「はいはい、ミステリー要素があるのね」というのもすぐに理解できます。
ポスターの配色とパズルの要素だけで「楽しい謎解き映画」ということが理解できます。
役者陣の向き
また、役者3人のポージングや表情にも注目です。
全員が正面を向いておらず、どこか違うところを見ていたり背中を向けたりしています。
これによって「彼らはウソをついているor本当のことを言っていない」という予感を感じさせます。
劇中の前半1時間ほどは大泉洋さんは一見ずーっと振り回されているように装っていますが、実際には彼もまたウソをついていることが分かります。
映画を見終わってからポスターを見てみるとまた違った印象になるわけです。
ポスターの不満点
よく出来ている面もあるのですが、不満点もいくつかあります。
まず、ちょっとゴチャゴチしすぎです。
パズルが散らばっていることでただでさえ騒がしいのに、常盤貴子さんや田畑智子さんらをポスターにのせるのは余計だったのではないでしょうか。
もちろん二人は映画の重要なピースなのですが、いずれにしても常盤貴子さんを二つのピースに分ける必要性は感じません。
田畑智子さんの表情もなんだか微妙だし。
せっかくポスターにのせるなら、ちゃんと専用に撮影するべきでしょう。
(細かいことを言えば、佐々木蔵之介さんの衣装も非常に目がチラチラするのです。だからこそ余計に情報は整理すべきと思います。)
あと、佐々木蔵之介さんや大泉洋さんの頭部に文字が少しだけ乗っかっています。
細かいようですがこれはいけません。
頭部は人間の最も目立つ場所ですので、ここに文字が少しかぶっているだけでも人物の印象がボケちゃうんですよね。
わずかな差とはいえ、少し人物を下げるだけでもけっこうスッキリして見えると思います。
キャッチコピー
一番の不満点は、キャッチコピーにあります。
うーん。
「甘くみてるとダマされちゃいますよ」。
ちょっといくらなんでもというか。
それを言っちゃう??っていうことじゃないですか。
たまに映画のコピーで見かける「あなたは必ず騙される」みたいな言葉。
これを言われちゃうと、映画を楽しめなくなると思いません??
前半から中盤にいたるまでは「どうせこの後話が転換するんだよな」と思いながら見ることになります。
映画に集中するというよりは、構えながら見ることになるんですよね。
それって「映画は作り物ですよー」と常に意識してしまうことと同じなので、逆に映画の人物達への共感度が下がるんですよ。
「騙されないように気をつけていたのに騙された!!」というよりも「気付かないうちにすっかり騙されていた!」という方がよっぽど心地よいと思うんですけどね。
作り手側から「今から騙しますよ」なんて言葉は言うべきでないと思います。
まとめ
わざわざ「ダマされちゃいますよ」なんて言われなくても作りがしっかりしているのでちゃんとダマされると思います。
それだけでも満足度は十分な作品でした。
あとは繰り返しになりますが、このときの堺雅人は本当に色気があって素晴らしい!
そこだけでいいので見て下さい。。
それでは、また。
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ルビー・スパークス 《個性の強いポスター群》
映画の点数…82点
ポスターの点数…85点
ザ・変な映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《ルビー・スパークス》です。
《リトルミスサンシャイン》《バトル・オブ・ザ・セクシーズ》のジョナサン・ヴァレリー夫妻の映画。
個人的にリトルミスサンシャインが大好きでして、どうやらこの監督さんとの相性が良いみたいです。
いずれの作品も「思ってた映画と違う!」という違和感が必ずある監督ですね。
いつもだったら「内容を正しく伝えきれていないポスターの出来が悪いんだ!」と言うところなんですが、この監督の場合は【映画を観ているうちに、だんだん様子がおかしくなる】というタイプの映画なのでポスターが悪いというわけではないのです。
一言で言っちゃえばいつも「変な映画だったな!」の感想になっちゃうんですけど、その変さを楽しめたらなかなかハッピーな映画体験が味わえます。
映画のストーリー
若くして大ヒット小説を出した主人公カルヴィン。
しかし彼はその後スランプに陥り二作目を書き出すことが出来ずにいた。
友達も恋人もいない彼は、理想の恋人を空想しながら小説を書き始める。
するとある日、目の前に自分の書いた小説の女の子が現れる………
ここまでだったらよくある小説・映画のストーリーです。
主人公にしか見えない幻というパターンですね。
ですがこの映画はここから狂っていきます。
女の子が実体化したことで自分がとうとう狂ってしまったと嘆くカルヴィン。
しかし街の人や兄に確認すると、どうやら本当に実体を召喚してしまったということが判明。
自分の思い描いた理想の恋人との甘い生活を楽しむカルヴィンだが、すべてが思い通りにはすすんでいかず……
みたいな話です。
画面全体はかなりオシャレ映画であるにも関わらず、起こっている事態は「世にも奇妙な物語」というお話。
相変わらず「俺は一体何を観ているんだろう」という気持ちのまま振り回された100分でした。
映画の良かった点
ストーリー自体は、極端に斬新というわけではありません。
理想の恋人を召喚する→理想と現実が乖離していく、というパターンのお話は他にもあります。
ただしこの映画の場合は「相手を巨乳にする(しようと考える)」とか「自分から離れられない」とか性的な欲望にまで踏み込んでコントロール出来る設定で。
そうなると観ている側はホラーにも思えてくるんですよね。
《リトルミスサンシャイン》の時もそうでしたが、この監督の作品は「笑えるシーンなんだけど怖い」とか「幸せなシーンなのに、絶望を感じる」とか感情が多面的にグラつく感覚があって。
話のオチ自体はある程度予想がつくような映画なのですが、感情がいつまでも不安定なままなのでずっと緊張感を楽しむことの出来る映画ですね。
なにはともあれ「変な映画」ですよ。
たまにはそういう変な映画を楽しむのもいいじゃないですか。
ポスターの感想
変わった作りの映画だけあって、ポスターも様々なパターンが見受けられます。
まず日本語版ポスター。
ぱっと見の印象はズバリ「オシャレな恋愛映画」というポスターですね。
背景には女子受けを狙ったかのようなピンクとライトなグリーン。
見つめ合う二人からはのぼせるようなイチャイチャ加減を感じます。
ただこのポスターからは「小説を書いていたらその人物が具現化した」というようなニュアンスはあまり感じません。
コピーを読んでようやく分かる程度でしょう。
日本の広告としては「オシャレ恋愛映画」として売りたがったのが分かります。
アメリカ版
こちらは恋愛映画というニュアンスよりも「小説から女の子が飛び出した」という面の方をビジュアル化しています。
映画のワンシーンを切り取ったデザインではあるのですが、主人公やヒロインの顔すらも分かりません。
スター俳優ではないからというのもあるかも知れませんが、なかなか斬新なスタイルです。
ですがこのポスター自体も元ネタを感じる部分があって、監督の前作である《リトルミスサンシャイン》と構図が似ているんですよね。
しかもキャストまで一緒。
前作を観ているファンへのサービスだったのかも知れません。
このポスターが映画の内容を示す意味でもデザイン的にも一番バランスが良いように感じます。
イタリア・フランス版
こちらはイタリアやフランス版
アメリカ版よりもやはり「恋愛映画より」なデザインになっていますね。
ただやはり色使いやデザインがいわゆる「ヨーロッパ的」な印象を感じます。
どのデザインがいいかは各国の広告会社が判断することですが、国毎の特徴が出ていて面白いですね。
まとめ
映画は「ザ・変な映画」だった分、ポスターがそれぞれ面白い作りになっていました。
映画のどの部分をフォーカスするかは広告屋の仕事なのですが、観る側を極端に制限するようなポスターにはしてほしくないなとは思います。
それでいて楽しいデザインのポスターが生まれてくれたらそれがベストですね。
それでは、また。
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シャイニング 《映画もポスターもクラシック》
映画の点数…85点
ポスターの点数…90点
クラシック・ホラー
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《シャイニング》です。
いよいよ40年ぶりの続編映画《ドクタースリープ》の公開が今月に迫っています。
まぁさすがに40年ぶりとなると「よっ!待ってました!」というよりは「どれどれ、あの映画をどう料理するのか」みたいな関心になってしまいますが。
なにせキューブリックが手がけた一作目の強烈なインパクトをそのままトレースするのは不可能なので、何かしら別のアプローチは必要だとは思いますが。
そのくらい一作目は映画として完璧なバランスだったと思いますし、その結果として原作者のスティーブン・キングはアレンジのしすぎで映画版シャイニングが大嫌いだったというエピソードもあるくらいです。
続編の公開に合わせ久しぶりにシャイニングを見直してみたのですが、さすがキューブリックというべきかほとんどのシーンを丸ごと記憶していました。
すべてのシーンに規律や美しさがあり、40年たった今でも全く古くなっていないのが分かります。
この映画は語り継がれるクラシックでもあり、現代でも通じる完全にフレッシュな作品だと言えそうです。
映画の不満点
まずはこの映画の不満点から書いていこうと思います。
後述するのですが、この映画の不満点と良い点は裏表になっているとも言えます。
なので今から書くことも人にとっては評価ポイントだったりマイナスポイントだったりするんだと思います。
まずこの映画、ジャンルはホラーです。
ホラー映画なのですから、映画の第一条件は「怖いかどうか」だと僕は考えます。
そう考えるとこの映画、僕は怖いとは全く思わないんですね。
もちろんジャック・ニコルソンの迫真の演技自体は「すげー」とは思うのですが、目を背けたくなるような恐怖はありません。
僕にとって映画の“怖い”とはリングや呪怨といったジャパニーズホラーが最高であって、洋画におけるホラーもイットフォローズとかは怖いんですけどジャパニーズホラーほどではないと。
シャイニングのような「人に取り憑いて豹変させる」みたいなやり方がそもそもあまり怖くないんでしょうね。
ここらへんは映画の趣味や性質が大きく関係してるのでシャイニングが悪い映画であるということとは全く違うのですが、とにかく僕は怖くなかったよということです。
映画の良かった点
先ほどの話の裏返しになるのですが、とにかくグラフィカルで画面が美しい映画だというのが分かります。
かなり作り込まれた映像だからこそ僕は恐怖を感じなかったのですが、確かにこの映画のように均整のとれた世界が崩壊していくという恐怖があるというのは分かります。
画面全体がおとぎ話のようで、何が真実か分からなくなりグラグラしていく様子は映画としてのスリリグでした。
観た人に強烈な印象を残すパワフルな映画なのは間違いないです。
役者を徹底的に追い込み演技を引き出すキューブリックの演出も加わり、役者にとっても監督にとっても映画界にとってもかけがえのない一本だったのだとおもいます。
ポスターの感想
映画ポスターもまた映画界、そしてデザイン業界にも影響を与えたポスターです。
まずはこれ。
このポスターを知らない人は映画好きには一人もいないでしょう。
確か「カメラを止めるな」でも娘役の彼女がTシャツとして着ていましたね。
もしかしたらジャック・ニコルソンという俳優よりも知名度のあるビジュアルかも知れません。
けっこうこのポスター自体がこの映画の本質でもあると思うんですよね。
というのも、このビジュアル、怖いですか笑?
多くの方が不気味だしギョッとはするが、恐怖を感じるようなビジュアルではないと思うんです。
なんならちょっと笑えちゃうんですよね。
奥さんの表情もあまりにも過剰な恐怖表現で、それが笑えちゃうという。
行きすぎた恐怖表現ってちょっとコメディにもなるんだよなと思います。
リングの貞子しかり、エクソシストの階段降りしかり。
グラフィックデザイン的な観点から言うと、白の使い方がとてもうまいですね。
ポスターのかなりの部分を白地にしておりそこにタイトルなどの情報があるのですが、本来は全面に写真がきてもいいはずなんです。
そうではなく白地をたっぷりととってあるところにグラフィカルな映画表現だった映画の質に近い部分を感じます。
このあたりのデザインは2001年宇宙の旅や時計仕掛けのオレンジでも共通するものがありますよ。
新作のポスター
続編であるドクタースリープのポスターはどうなっているのでしょうか。
こちらは英語版から一つ。
三輪車、奥から迫っている真っ赤な恐怖(超大量の血液)、そして左右対称な背景。
映画を観たことがある人ならすぐにピンとくるデザインですね。
ただし特に前作とポスターのテンションを合わせるつもりなどはなさそうです。
むしろその他の要素は特に似てもいなくて、かなり巨大なタイトル、色彩や重力のバランスがおそらく意図的にマッチしていない主人公。
この「なんだか気持ち悪い」と感じるところまで含めてのポスターワークなのでしょう。
日本語版ポスター
こっちは日本語版ポスター。
これはこれで「はいはい、シャイニングね」と分かるデザインです。
とはいえこちらもやはりそこまで前作に寄せすぎるようなことはしていません。
多少雑に切り取られた背景に主人公の顔がのっているだけです。
ポスターワークが前作よりもいいとは一切言えませんが、余計な情報は排除して「あのシャイニングの続編だよ、見てね」という姿勢はなかなか潔い判断ではないかとも思います。
まとめ
先にこんなことを言うのはあれですが、キューブリックのシャイニングを超えるなんてことはあり得ないと思うんですよ。
というのも、あれは唯一無二の映画監督の唯一無二の作品だから。
そことの勝負は初めからしないで、オリジナルの次回作を楽しませてくれたらと思いますよ。
それでは、また。
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アナと雪の女王 《つまるところ、歌》
映画の点数…95点
ポスターの点数…40点(日本語版)
結局は歌
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《アナと雪の女王》です。
今月にはシリーズ2作目の公開が迫っております。
1作目は記録的ヒット、そしてヒット以上に社会現象となり今では「映画界におけるクラシック」と言ってもいいくらいの作品でしょう。
最初に結論を言ってしまえば「作品のクオリティが完璧とは言わないが、そんなことよりも楽曲のレベルが突き抜けすぎている」という映画だと思います。
「脚本がダメだから傑作とは言えない!!」と主張される方の意見も否定しませんが、僕自身は「ミュージカル映画なのだから、歌が良いのであればその他のことはあまり気にしない」という感じです。
何よりも映画公開時、イディナ・メンゼルのLet it goがの歌唱シーンであまりの楽曲の圧力に後ろのシートに押さえつけられるような気さえしたんですよね。
あの衝撃が忘れられないし、どんなに映画の文句が出ようとも「でも俺、あの時信じられないくらい感動したもんな」という記憶があるので。
やっぱりこの映画は大好きな一本ですね。
楽曲という部分を除けば一番好きなディズニー映画はラプンツェルです。
映画の概要
もはや誰しもが知っている話でしょうから映画のストーリーラインなどは省略します。
この映画が記録的ヒットになっていったのは、とにかく楽曲の異常なレベルにあったと思います。
Let it beが出来上がったあと、あまりの楽曲の凄さに映画の脚本やエルサのキャラクター自体が変わったというのは有名な話ですね。
しかもLet it beを除いたとしても3曲〜5曲はかなりのレベルの曲が連発して出てくるという奇跡みたいな作品です。
となると、映画自体が楽曲に合わせてバランスを変化させたというのはある意味仕方ないし、結果的には成功だったのだとは思います。
主にエルサやハンスのキャラクターが変化したことで脚本に多少無理がきたのかなと。
なので後半に行くにつれ映画自体の印象がけっこうボケだすのですが、それにしてはなんとかまとめあげていると僕は思ってます。
ポスターの感想
記録的ヒットとなった本作ですが、映画公開時は特に騒がれていたわけではないと記憶しています。
公開から一週間、二週間たつごとに話題が話題を呼んだ理想的なヒットになった気がします。
このあたりの現象は「君の名は」のヒットの仕方に近いですね。
どちらも楽曲に恵まれ、徐々に観客数を伸ばした映画です。
ところでこの映画のポスターはどうだったか。
うーん。
改めてみても「なんだかよく分からない」ポスターですね。
ここまで有名な作品なので皆さんは誰が誰なのかご存じでしょうが、もし仮に「はじめてこのポスターを観た場合」で考えてみてください。
あんまり面白くなさそうじゃないですか笑?
タイトルに「雪の女王」とあるので、おそらく画面上部にいるのが雪の女王なのでしょう。
そして中央下部にいる人物と姉妹なのでしょう。キャッチコピーに姉とありますので。
あとはディズニーらしい雪だるまの生き物と、木こりみたいな男性がいます。
背景にはそれぞれの城があります。
お終いです。
これじゃちょっと、興味が沸かないと思うんですよ。
キャッチコピーの「凍った世界を救うのは真実の愛」とありますが、これじゃいまいち何のことか分かりません。
せめて「エルサが世界を凍らせた」という情報は伝えるべきでしょう。
ポスターを観る時点では、エルサをヒロインともヴィランとも思えるような作りにしていた方が映画への興味も高まると思われます。
あとクリストフには申し訳ないけどポスターからは消えてもらった方がいいでしょう。
あくまでも「アナとエルサが向き合う」という構図にした方がストーリーに入り込みやすいです。
中途半端な画面の分割でなく、二人が対立するようなポスターでも良かったと思います。
2作目のポスター
では2作目のポスターはどうでしょうか。
こちら英語版。
エルサとアナが背中合わせで森の中にいるようです。
どうやら雪は解けており、地面には落ち葉が目立ちますね。
このポスターから感じるのは、エルサは前向きな姿勢で未来を見ている。
アナは対照的に後ろめたく何か悩んでいるような雰囲気です。
日本語版ポスター
ですが、日本語版ポスターでは意味合いがかなり変わってきます。
アナとエルサが全く同じポージングで同じ方向を向いて歩いています。
二人の意志は一致しており、団結して前に向かっていくような印象です。
これはどういうことでしょうか?
まだ映画を観ていないので、どちらのポスターが映画の内容に相応しいのかは判断がつきません。
ただしこの時点で僕が好きなポスターは日本語版ポスターですね。
前作でアナとエルサは真の姉妹に戻れたので、2作目では協力して進んでいってもらいたいと思うからです。
このあたりは実際に映画を観てから考えてみましょう。
まとめ
かなりハードルが高くなりすぎた二作目までもう少し。
水準点を超えてくれるところまでは期待したいですが、あまりにも一作目が奇跡的な作品だった故のハードルです。
もう一度くらい一作目を復習するとして、二作目を楽しみに待ちたいと思いますよ。
それでは、また。
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