映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

裏切りのサーカス 《極上のスパイサスペンス》

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映画の点数…85点
ポスターの点数…30点

 

デッぷりとしたスパイ映画


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は裏切りのサーカスです。


冷戦下イギリスでの諜報機関【サーカス】を舞台にしたスパイ映画。


スパイ映画といってもイーサン・ハントやジェームス・ボンドは登場しなくって、実に上質で雰囲気たっぷりのリアルな(まぁスパイに会ったことないから本当にリアルかは分からないけど)スパイ映画ですよ。


最近滝沢カレンさんの料理レシピが話題になってますけど、彼女の表現を借りるなら「デッぷりとした」描写の数々。


登場人物はほとんど初老以上の男性なのですが、色気が画面ごしにムッハムッハと溢れ出してきてました。


まぁキャスト陣がゲイリー・オールドマンコリン・ファースにカンバーバッチと、これでもかとダンディズム溢れる俳優が次々と投下されてきますので。


実は「誰が犯人だったのかよく分からんかった」のですが大変楽しい映画でしたよ(なんだそりゃ)。

 

 

映画のストーリー


ストーリーはある意味王道中の王道。


イギリスのスパイ組織・サーカスの中にソ連側の二重スパイがいるという情報が。


ゲイリー・オールドマンをリーダーとし、誰が裏切り者か探る任務が始まる……
みたいな話です。


僕も一応「誰が犯人なのか推理しよう」と思って観ていたんですけど、正直よく分からなかったです。


もちろん画面上では「こいつが犯人です」というのは分かるのですが、どうして判明したかとかはよく分からんというか。


そういう謎解きそのものを期待する人からすると評価は分かれるところなのでしょうけど、個人的には謎解き要素よりも人間ドラマや美術の美しさを堪能する映画だと思って観ていたので全然気にならなかったですね。

 

映画の良かった点


とにかくルックの美しさを楽しむタイプの映画だと思いました。


こう書くと「ただ見た目だけの映画なの?」と思われるかも知れませんがそうではなく、「スパイ活動という裏切りばかりの日々に疲れた顔」とか「仕事の危険を考え最愛の恋人と別れる決断をする顔」とか、映画にドッシリとした物語があるからこそ画面に魅力が出るんですよね。


複雑な感情を説明的なセリフでは表現せず、表情の変化や演出だけで見事に形にしてみせたのが素晴らしい。


と言いつつも、スパイ同士なので基本的にはポーカーフェイスなんですよね。


ポーカーフェイスなんだけど感情が伝わってくるという、なんて離れ業をやってのけてるんだという感じですが。


登場人物達は部屋で会話したり歩いたりしているだけなんですけど(銃とかはほとんど使わないから)、見た目で飽きることは一切なかったですね。

 

映画の不満点


まぁ、いくらなんでも説明不足な点は気になりました。


登場人物が多いので名前を初見ですぐに覚えられる人は少ないと思いますし、場所もいくつか転々とするのでどこがどこかよく分からなくなる。


映画の前半だけでももう少し人物の役割の説明などに説いても良かったんじゃないですかね。


最初の飲み込みづらさで映画に集中出来なかったらもったいないですよ。

 

ポスターの感想


映画はかなりドッシリとした映画だったのですが、ポスターは少し違います。

 

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ポスター全面に数字が打ち込んであり、暗号化されたメッセージのイメージなのでしょうね。


カンバーバッチ主演のイミテーションゲームも同じようなデザインでした。

 

イミテーションゲームの場合は「エニグマ(暗号機)の解読」が映画のテーマでしたのでこのビジュアルで良いとは思います。

 

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ただし、裏切りのサーカスに関してはどうでしょうか?


暗号化されたメッセージを読むシーンは2回程度しか登場せず、そもそも暗号自体があまり重要なテーマではありません。


スパイものだからということでこのようなデザインになったと思うのですが僕はこの映画には合っていないと思います。


画面全体にデジタルなフォントが敷き詰められることで、全体的に軽い印象になっていると思うんです。


そうすると「重厚でドッシリした映画」と「軽いポスター」が対照的になっちゃうんですよ。


ゲイリー・オールドマン単体のアップだと単調なポスターになってしまうかも知れませんが、だったら他のレイアウトで作っても良かったんじゃないでしょうか。

 

別案


こちらは別案。

 

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やはり敷き詰められた文字情報で「犯人は誰なんだ」みたいな雰囲気を出しているのは共通ですね。


でもやはりこちらも不満点があって。


何故背景を「青ベース」にしたのでしょうか?


この映画にはこのような少し未来的な寒色の印象はありません。


繰り返しになりますが、重厚でドッシリした映画です。


だったら背景もそれに合わせた黄色系やセピア調なんかにした方が良かったと思うのですが。

 

日本語版ポスター


この日本語版ポスターは悪くないデザインだなと思います。

 

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このレイアウトにすることで「誰が犯人でしょうか」と思わせることが出来ています。


またゲイリー・オールドマンも先ほどのように暗号デザインではないので重厚感を感じます。


また、黒いベタ(正確には柄が入っていますが)が下部にたっぷりとられているので重心が下がっており、これもまた画面全体の安定感を出すことに成功しています。


とはいえこのポスターも少し不満が。


右側にいる人物達が、「ストーリーの重要度」を優先して配置されています。


その代わり、「誰が犯人か」の候補の何人かが外されているんですよね。


それじゃ映画の本筋と違ってきます。


ここはやはり「裏切り者候補」は絶対にのせて、余ったスペースにカンバーバッチとかをのせるなら分かるんですけどね。

 

まとめ


映画がとにかく近年最高なくらい渋くて上質だったのですが、ポスターワークがそれに対してギャップがあったのが残念です。


こういう映画だったらむしろ「部屋に飾りたい!」と思わせるくらい渋めのポスターなんかにしても良かったと思うんですけどね。


日本でもこういう「初老達のガチンコ映画」が作られたらいいななんて思いましたよ。


それでは、また。

 

 

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