映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ローソンPB商品ボヤ騒動への所感

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ローソンのプライベートブランド(PB)商品が、熱く燃えています。


コロナウィルス騒動でステイホーム、ホームご飯を大いに支えるコンビニ食品。


大手スーパーの売り上げすらも超えたコンビニの、しかも自社製品ともなれば相当に気合いの入った商品であろう、デザインであろうとお察しいたす。


ところがフタを開けてみれば「どれが何の商品か分かんねぇよ!」と日本全国で火の手があがる事態となっている。


人種差別運動で(文字通り)燃え上がるアメリカに対し、「デザインが分かりづらい」ことでボヤ騒動になる日本に生まれて良かったなどと胸をなで下ろしつつも、僕自身がデザイナーであることもあり対岸の火事、対岸の暴動ではないと意識を高める所存です。


では今回のPBデザイン騒動について少し考えてみたいと思います。

 

 

デザイン考察

 

まず実際の商品を見てみましょう。

 

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浮かんでくる感想は三つあります。


まず一つ目。「いや分かるかこんなもん」


二つ目。「言うてもオシャレやん」


三つ目。「美味しそうには思えない」


この三つです。


SNSを中心に燃えているのは当然一つ目の「何の商品かパッと見て分からん!!」という点ですね。


実際に買い間違いやレジの打ち間違いなども既に発生しているようです。


お客さんが実際に買い間違えている以上はデザインとして失敗していると僕も思います。


ちなみにデザイン的に「何が問題でこうなっているのか」は他の方が既に語っているのでここでは語りません。

 

www.businessinsider.jp

 

言うてもオシャレやん問題


さて、これはデザイナーである僕からすると大きな悩みどころです。


確かにこのパッケージ、オシャレだなと思います。


全体のデザイントーンを限りなく統一することで「ローソンのオリジナルやで!」ということは一目瞭然だし記憶にもすぐに残る利点があります。

 

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ナチュラルな配色やフォントからは「コンビニ弁当の無機質なイメージ」は感じられず、まるで「ついさっき、出来たてをパッケージしました!」というような雰囲気もあります。


そう、デザインの意図としては理論上正しい部分もあるんですよね。


恐らく商品担当の広報さんやデザイナーさん達からすると、出来上がりは意図としてうまくいった分部もあるのでしょう。


「でもさぁ、商品の区別がつきにくいよね」という意見も当然出たはずです。


そういう意見が出ていないわけないし、そこまで商品開発部はポンコツではありません。


それよりも商品の分かりにくさの方が目立って炎上してるわけだし、恐らくですが「多少炎上してもそれが宣伝になるだろう」という意図はあったと僕は思ってます。


炎上を利用して商品を売るというやり方は好きではありませんが(そもそも勘で言ってるだけで確信はない)、話題になった以上はローソンの一種の勝ちではあるんですよね。


例えばセブンイレブンのコーヒーメーカーのデザインやウィダーインゼリーのパッケージデザインを佐藤可士和さんが手がけてこれまた「分かりづらい!」と炎上してましたが、少なくとも僕なんかはこの炎上によってセブンのコーヒーやウィダーインゼリーを認識しなおしたわけだし、ある程度の宣伝には実際なってるんですよ。

 

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僕はわりと「お客さんに分かりやすいように!」をモットーにデザインするんですけど、そうではないアプローチからでもお客さんを呼び込む方法はあるんだなと軽く歯ぎしりなんかもするわけです。

 

※追記 6月12日

どうやらこのお仕事、社長直々のプロジェクトだったようですね。

だとすると少し納得です。

 

一部の権力をもった人がデザインに口を出してきて、もう何も収集がつかなくなるというのは本当によくある話です。

実際僕も今現在そういう仕事を一件かかえており、なんだかなぁと思いながら仕事をしているところでございます。

 

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美味しそうには見えない問題


僕が今回のボヤ騒動で最も気になった点は、実はこの点にあります。


そもそも、美味しそうには見えない、という点。


商品パッケージにおいて“美味しそう”に見せる効果のことを「シズル」と言います。


ラーメンに湯気の加工をしたり、ビールの入ったグラスに水滴をまぶしたりすることで「シズルを出す=美味しそうにする」ということですね。


商品パッケージは常に「美味そうというアピールをして買ってもらう」競争をしているわけです。


ところがこのやり方にもジレンマがあって、皆が同じ方向を向いたデザインをしていると何が何だか逆に分からなくなるんですね。


というわけで今度は「高級感を演出するためにあえて抑えたデザインにする」とか「値段が安いことをアピールするためにあえてチープなデザインにする」とか違う手法も出てくるわけです。


では今回のローソンPB商品。


このパッケージから受ける商品のイメージは………


ごめんなさい、僕には美味しそうには見えないです。


僕が感じる印象は「巨大資本を使って大量生産された商品の一つ」というものです。


フォントやデザインが限りなく似ている分、ローソンという巨大企業の「どや顔」を感じとっちゃうんですよ。


それはそれで悪く言うつもりもなくて、お金のある企業が積極的に自社開発をするのは当然であり素晴らしいことです。


ただそこに僕はあまり乗っかれないのです。


僕が食品のデザインに求めるものは「僕に食べて欲しいと思って作られた(気がする)デザイン」です。


商品を選ぶ人それぞれに向けて、誠意のあるデザインをしてあるかを大事にしてます。


「デザインごときで何を言ってるんだ」と思われるでしょうが、まぁあくまでも僕の基準です。


ですが、一定数の人は僕と同じような感覚で商品を選んでいるはずです。


人は買い物をするときに、自分の意図で商品を選んだと納得したい生き物です。


例えそれがデザイナーや商品開発部の意図に沿ったものであったとしても。


ローソンの今回のPB商品はその点から最も遠いデザインだと思うのです。


「これ買っておけば間違いないよ」というメッセージは感じますが、僕はそれよりも「自分の目で美味しそうかどうか判断したい」と思うのですよ。


たとえコンビニであったとしても。


実際に美味しいかどうかなんて食べるまで分からない。


だったらやっぱり僕は食べる直前まで「おいしそうでしょ!」というアピールをするデザインに惹かれるのです。

 

まとめ


僕もデザイナーである手前、今回の商品デザイナーを非難する気は特にありません。


というよりも、特に何も思わないのです。


だって今回このようなデザインにしたのは間違いなくデザイナーじゃなくてローソン側の姿勢の問題だろうから。


まぁなんというんですかね、僕の正直な感想としては「いいんじゃないですかね」ってのが本音です。


「ダメだ売れない!」ってなったら変えたらいいし、「売れ行き的には問題ないや」っていうなら続ければいいんじゃん、と。

 

デザイナーとして無責任な言い方ですけど、これで誰か死ぬわけでもないし(アレルギーとかは気をつけないとダメだけど)。


一部の文句くらいなら気にしないで試行錯誤していくくらいが健全なスタイルだなと思う次第でございます。