愚行録 《映画は大傑作!!ポスターがもったいない。。》
映画の点数…96点
ポスターの点数…15点
久しぶりにきた邦画の大傑作
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《愚行録》2017です。
貫井徳郎さんの小説「愚行録」を実写化。
監督はこの映画で長編デビューとなる石川慶さん。
主演には妻夫木聡さん、満島ひかりさんらスター俳優を配置したのと同時に、役柄の大きさや小ささに関係なく的確なキャスティングがされている印象です。
最初に結論から言っちゃうと。。。。
本年度ベスト級に大好きな映画になりました。
2017年の映画を今更僕が評価したところでしょうがないのですが、この映画に出会うのが2年遅れたことが非常に腹立たしい気持ちでございます。
なぜ今まで観ることが無かったのかは後で書こうと思いますが、早いところ観ておけば良かったのに。。
映画のストーリー
週刊誌の記者として働く主人公(妻夫木聡)が、1年前に起きた親子3人惨殺事件の再調査を始めるという話です。
被害者(小出恵介、松本若菜)の交友関係を一通り探っていくうちに、複雑な人間関係が見えてきて。。。
みたいな話です。
一応映画のジャンルとしてはミステリー(犯人は誰だ?もの)になるのでしょうが、個人的にはミステリーの部分よりも人間関係のドラマとして楽しかった印象です。
世間的な評判がそこまで高くないのが歯がゆいのですが、もしかしたらミステリーとしてそこまで楽しくなかったという印象があるからではないでしょうか。
実際に僕も、一家惨殺事件の犯人自体は中盤くらいでなんとなく分かってしまったので犯人捜しものとして楽しんだ訳ではありません。
それよりも「なぜ、この人達は殺される必要があったのか」「なぜ、この人は殺す必要があったのか」の方が興味深かったんですよね。
映画の良かった点
今回はとにかく僕がこの映画をべた褒めするという内容になってしまうのですが、個別に色々書いてみようと思います。
俳優達の魅力
この映画の魅力の一つは俳優さんたちのベストアクトというものがあります。
僕自身は正直妻夫木聡さんは「好きでも嫌いでもないハンサムな俳優さん」みたいなイメージしか無かったんですよ(すいません)。
やたらと泣きの演技をするか、ニコニコした軽そうなキャラクターというイメージ。
でも今作の妻夫木聡さんは非常に良かったですねぇ。。。
愚行録での役柄は「軽い」というよりも「浅い」んですよね。
働いているときも会話をしているときも生活しているときも、いつも心は空っぽで適当にやり過ごしている浅さを感じます。
当然その人物の浅い感じは映画のストーリーとリンクしているのですが。
ずっとつまらなそうで、人生どうでもよさそうな感じ。
これって妻夫木さん自体の新しい魅力なんじゃないかなと思いました。
妻夫木さんの人間的に浅くてつまらなそうな人間をこれからドンドン観てみたいと思いましたよ。
そういう役を主役でやれる俳優ってそんなに多くいないですからね。
非常に不愉快さを感じるキャラクターなので妻夫木聡さんにもリスクはあったと思いますが、間違いなく今まで観てきた中で一番良かったです。
そしてその他の俳優さん達も非常に良かったです。
小出恵介さんの演じたクズで卑怯な、でも間違いなく純粋な役というのも最高に良かった。
名前も知らない役者さんも多かったのに皆さん本当に良かったですね。
これはキャスティングの時点で大成功だったんじゃないでしょうか。
正直、演技のレベルが少し低いかなと感じた方もいたのですが、それすらも演出としてコントロールされていた感じがします。
あ、満島ひかりさんはもういいです笑
彼女がレベルが違いすぎるのはいつものことなんで。
むしろ満島さんは「いつも通り」くらいの感じでしたよ。
演出が良い
先ほども触れましたが、演出がとても優れていた映画ですね。
例を挙げるなら冒頭、妻夫木さんがバスの車内でとある「引いてしまうような行動」をとるのですが、そのシーンで妻夫木さんはほぼ一言も声を出さないんですよ。
ですがたっぷりと時間をかけた長回し、画面全体を覆う雨の雰囲気、目線のやりとりなどだけで「いやーーーーーな気持ち」にさせられます。
このワンシーンだけで「はい出た、この映画面白いぞ」という予感はビンビンですね。
基本的にはしっかり落ち着いた画面作りなのですが、別に頑固に「自然体に撮るぞ」みたいな意地もなく、効果的なポイントではスローモーションを入れたり手ぶれカメラを入れたりワンカット固定長回しの撮影をしたり。
さらには「暗闇で無数の手に襲われる」みたいなフィクショナルな演出も使われます。
映画にとってどのくらいの演出がちょうどいいのか的確に判断できる監督さんなのでしょうね。
人間関係が面白い
とにかく2時間ずーーっとイヤな気持ちになるんですよ。
基本的には「死んだ人の悪口」を聞いて回るような展開になるので。
大学内でのマウンティングの話や、一人の女をヤる道具としてしか観ていないような会話であるとか、売春を斡旋しているような描写であるとか。
明確に「今、いやなことを言っています」みたいなセリフはないものの、空気全体から感じる攻撃的なメッセージがうまいなぁと。
僕としてはこういう友達がいなくて良かったなぁと思う一方、ずっとこの人達を観ていたいという野次馬根性みたいなものが否定できない気持ちもあります。
オチが面白い
先ほども言ったように、この映画のオチ自体(犯人は誰か)はけっこう簡単に分かると思うんですよ。
それとは無関係に個人的に良かったと思うのは、「殺人の理由すらくだらないものだった」という点なんですね。
普通映画の中での殺人というのは「緻密な計算でアリバイを作る」とか「殺人者になってしまうまでを丁寧に説明する」とかがセオリーだと思うんです。
ですがそれって殺人の理想化に過ぎないというか。
現実世界で起きる殺人ってもっと「しょうもない」じゃないですか。
計画も何もなく思いつきで人を殺したり、他に解決の手段がまだあるのに殺したり。
人が人を殺す理由なんて、実際のところはそんなもんというか。
この愚行録の中では非常に丁寧に「この人が殺されなければならなかった理由」を説明するんですけど、実際の殺人自体はかなり衝動的で偶然的な感じがあって。
映画のミステリーとして台無しと言われれば別に否定はしませんが、個人的にはこのくらい「いい加減な理由でいきなり殺したり殺されたり」の方が好きですね。
だって世の中はもっと不条理なのだから。
別に映画の中での殺人の理由にすべて納得したいわけでもないんですよね。
ポスターの感想
ここまでたくさん映画を褒めてきましたが。。。
ここからは残念ながら否定的なことを書かねばなりません。
ポスターが、全然ダメだーーー!!!!
なんなんでしょうか、このただ登場人物達を切って貼ったみたいなポスターは。
当然意図は分かりますよ。
これらの人物達の中に実は犯人がいるっていうことですよね。
でももうちょっとどうにかならないんですかね。。。
僕がこの映画を今まで観なかった理由が実はこれなんです。
こういうレイアウトのポスターの映画に良い作品がないというイメージです。
例えば近年だけでもこれらの作品があります。
たまたまですけど《怒り》には妻夫木さんが出ていますね。
この《怒り》も《64》も、ただキャストが豪華なだけで人物の描写が全然出来ていない映画だったと思っています。
登場人物が多いので仕方なくやたらとオーバーアクションでキャラクターの描き分けをしていたり、やたらと感情的なセリフを多用したり。
駄作だったとまでは言いませんが、「こんなんだったら小説のままの方がいいじゃん」みたいな印象が強いです。
わざわざポスターまではここに貼りませんが、三谷幸喜作品のポスターは全部これですよね。。。
ただ有名な俳優をポスター内に並べるだけでゴージャスな映画に見えるっていうことなんでしょうね。
それらの映画と愚行録が同じ扱いというのは非常に残念だなぁと思います。
オリエント急行殺人事件のポスターなんかはひとひねりしてありますね。
全員がカメラ目線というかなり作られたデザインになっています。
もちろんオリエント急行殺人事件の場合は“全員が同じ空間にいる”という設定の話ですのでこれでいいのですが、全員が違う場所にいる愚行録では同じ手法は使えませんけどね。
キャッチコピーもひどい
キャッチコピーもかなりひどいなぁと。
「仕掛けられた3度の衝撃。あなたの日常が壊される。」
はぁ??
え、まさか映画を配給する側からの目線の話なの?
「この映画はですね、驚きのポイントが3つもあるんですよ!」ってことね。
そんなもん自分から言うなよ、ダッセーな!!!!
「あなたの日常が壊される」???
だからそんなの自分から言うなよ。
あのさぁ、映画を観て日常生活に何かしらの影響を与えるなんて、そんなの当たり前に決まってんじゃん。
それを求めにお金を払って映画を観るわけでしょう。
貴方たちにそんなこと言われなくてもこっちは元からそのつもりなんだよ。
わざわざ言葉でそれを言われちゃうと冷めるだけだからね。
たまに「あなたは必ずこの映画に騙される」みたいな宣伝もあるけどさ。
それと同じかそれ以上にダサいです。
がっかり。
韓国版のポスター
偶然拾った韓国版のポスターがこちらです。
これが一番いいじゃないですか!!!
この映画全体は「妻夫木聡から観た話」が元になっているので、妻夫木さん一人に焦点を絞るのも不自然ではありません。
ズンと沈んだ表情と配色は映画全体の暗いトーンを見事に表現できています。
何よりこの変なレイアウトですよね。
ここまで大胆なレイアウトは日本ではほとんど見かけません。
このレイアウトだけで「こいつは何か嘘をついている」という感じがしますよね。。。
キャッチコピーには「真実が明らかになる瞬間、偽りと対面した」と書いてあるそうですよ。
キャッチコピーも完璧じゃないですか!!!
「真実と偽り」という対極にある言葉を並べることで興味を呼び立てるし、映画を見終わったあとにもう一度読むとさらにゾッとします。
このポスターを作った方が日本人か韓国人か分かりませんが、見事ですよね。
うらやましいなぁ。
このポスターだったら僕ももっとこの映画を早くに観ていたのに。
まとめ
というわけで、映画は最高、ポスターは最低というお話でした。
僕みたいに「ポスターを観て映画が面白いか決める」なんて人は少人数だとは思いますよ。
でも、少人数でも存在はするんですよ。
そういう人がこの映画に出会う機会を奪うってのは映画ポスターとしてあってはいけないことでしょう。
少なくとも今回のポスターははっきり言って「だいたいこんな感じで」って作ったとしか思えません。
もしくは映画自体を観ていないかです。
予算がどうとか色々あるかも知れませんが、せめてあと1時間長く打ち合わせをしてください、あと3回は校正してください。
もっともっとマシになる余地のあったポスターだと思います。
これよりひどいポスターなんていくらでもありますが、この映画にふさわしいポスターとは到底思えませんでした。
皆さんも、もし未見でしたら何も考えずに是非映画の方は見てくださいね。
そして監督最新作である「蜜蜂と遠雷」。
これも絶対に観に行きます!
それでは、また。
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