映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ぐるりのこと 《瞬間を捉えた映画と、瞬間を捉えるポスター》

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映画の点数…90点
ポスターの点数…83点

 

《くらう》映画


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は【ぐるりのこと】(2008)です。


リリー・フランキーさん、木村多江さんら主演で、1〜2分しか登場しない脇役にいたるまで実力派の俳優を揃えた骨太の一作です。


骨太というとドッシリ重たい感触がしますが、実際の映画は基本的に普通の日常を切り取った、特別な事件の起こらないタイプの映画です。


ところが。。。。


とにかく映画を観ている最中、心臓に砂がゴボゴボ貯まっていくようななんとも言えない息苦しさを感じるんですよね。


特筆すべきはやはり木村多江さん。


この映画で日本アカデミー賞を受賞されていますがそりゃもう納得の一言。


圧倒的なパフォーマンスで映画全体を大きく波打たせています。


観る前から予感はしていたんですが、とにかく《くらう》こと間違い無しの映画でした。

 

映画の感想


リリー木村夫妻の1990年代初頭からの10年間の結婚生活を記録した映画です。


映画の性質上、突然話が1年、2年と吹っ飛んでいくので、途中で何が起こったのかはこちらが想像しながら観ていくことになります。


あらすじにのっていることなので書きますが、映画の早い段階で夫婦はおそらく新生児の子どもを亡くすことになります。


娘が死ぬシーンは全く画面にうつらないので、何があったのかは分かりません。


既に精神的にグラついた木村さんの様子からその時の心境を探ることになります。


こういう構造に映画のダイナミズムを感じますね。


この夫婦のどの瞬間を映画として抑えるのかは監督などの作り手に委ねられています。


でもこれって、実際の人と人との関わり合いも同じなんですよね。


大事な友人や実の親でさえずっと同じ生活をしているわけではない以上、相手のことを想像し、思いやり、ある意味カンを頼りに接するしかありません。


映画の画面に映っていることだけが真実ではないし、それ以外の楽しいことや哀しいこともきっとあるのだと思います。


「子どもを亡くした」という背景がドスンと真ん中にはあるのですが、それ以外には楽しいシーンもたくさんある映画です。


勝手に同情した気になっては反省する一方、ああ!やっぱり自分は彼女の苦しみを全然理解できていなかった!という気にもなります。 


10年という豊かな歳月を越えて、映画が終わる頃には不思議と世界が愛おしく感じられる作品なのではないでしょうか。

 

瞬間


この映画は、人生の「瞬間」を捉える映画です。


瞬間の貼り合わせの10年分を映画にしています。


それを象徴するシーンが、映画の後半に「たまたま通りかかった見知らぬ他人の結婚式の金屏風の前で写真を撮る」という場面でしょう。


その様子だけを切り取ると「おちゃらけたイタズラ」のようにしか見えないのですが、この映画の中の10年の中の一瞬と考えると全く違った意味合いを持ってくるんですよね。


たった一枚のこの写真が、この夫婦の10年間の凝縮した姿なのでしょう。


振り返ってみると断片という瞬間でしかない人生も、見えていないだけで積み重ねてきた思い出がそこにはあるのだということを伝えてくれているようです。

 

ポスターの評価


先ほど書いた通り、この映画ポスターはこの映画のなかの夫婦の一瞬を切り抜いたものです。

 

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このポスターだけでは伝わらない10年間が映画の中にあります。


ビジュアルだけで映画の内容が伝わってくるというタイプのポスターではないのですが、むしろ映画が終わったあとにガンガン効いてくるタイプのポスターですね。


このポスターを思い出したりTSUTAYAで見かける度に「あの夫婦は今何をしているのだろうか」と考えてしまうようなポスターですね。


このポスターって、普段僕が生業にしているグラフィックデザイナーという仕事にも大きく共通点があって。


グラフィックデザイナーも、背景にある様々な要素の一部分を切り抜いて一つのビジュアルにするのが仕事です。


瞬間の輝きをうまくデザインすることに頭を悩ませたり狼狽えたりするわけですね。


このポスターを観ていると、映画から生まれた一枚なのかグラフィックデザイナーとして切り取った一枚なのか、頭がグルグルしてきます。


こういうポスターとの出会いは幸せですね。

 

まとめ


「一瞬」と「連続」について色々と考えさせられた映画とポスターでした。


僕はこの映画は何度も見なおすような映画ではないと思っているのですが、一度観てしまった以上はしばらくこの夫婦のことを想いながら生活することになりそうです。


そのくらい、自分の中の一瞬を切り取られた気のする映画でした。


それでは、また。


ぐるりのこと。 [ 木村多江 ]

 


ぐるりのこと (新潮文庫)

 

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