羊たちの沈黙 《映画史に残る作品、そしてポスター》
映画の点数…80点
ポスターの点数…95点
ポスターのインパクト
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《羊たちの沈黙》です。
ジョナサン・デミ監督による1991年の作品。
このブログでは映画の感想と一緒にポスターワークについても記述しているのですが、そのなかでも絶対に取り上げないといけない一作がこの《羊たちの沈黙》です。
もし映画を観たことがないとしても、ポスターのこのビジュアルを知らない方はほとんどいないのではないでしょうか?
アカデミー賞において主要5部門を独占したこの映画が、映画の内容において突出しているのは言うまでもありません。
ただ、多くの観客を映画館に向かわせたであろうこの強烈なビジュアルのポスターもまた同様に評価されてもいいのになと思っています。
今回はそのポスターワークについてお話します。
ちなみにですけど、子どもの頃僕が住んでいた町のユニクロにこの《羊たちの沈黙》のポスターが飾ってあったんですよ。
今みたいにスタイリッシュになる前のユニクロですね。
今では考えられないですよねぇ。
でも子どもながらに「お洒落なポスターだなぁ」と思っていた記憶があります。
映画のストーリー
FBIアカデミーのクラリス(ジョディ・フォスター)は、猟奇殺人事件の解決に乗り出すが、その過程で元精神科医の殺人犯ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)の協力を求めに行く。
レクターは捜査への協力と引き換えに、クラリスの過去のトラウマを聞かせることを条件に出すー
みたいな感じです。
映画を観たことなくとも「異常なカリスマを持った犯人が出てくる話」くらいには知っているのではないでしょうか。
公開から30年近くたとうとしている今でもレクター博士はオマージュされたりパロディにされたりと大忙しなキャラクターです。
それだけアンソニー・ホプキンスの演技がズバ抜けていたということなんでしょうね。
まさか彼が後にアスガルドの王にまで上り詰めるとはこのときは思いもしなかったです(マイティ・ソーより)。
ポスターの感想
何をおいてもまず目に入るのは口元に餓がいるというこのレイアウトです。
口と餓という、可能な限りセットでお見かけしたくない組み合わせですがそれによって鮮烈なインパクトを与えています。
もちろんこれが単に悪趣味なB級映画的な発想からきているとしたら失敗だったでしょう。
しかしこの映画では《被害者の口の中に餓が詰め込まれていた》とか《口を塞いでいる》とか《沈黙する》ということが非常に大きな意味を持っています。
ただインパクトがあるだけではなくて、ちゃんと映画的な意味があって採用されているわけですね。
また、このポスターにおいては非常に重要なことなのですが、この映画公開時のジョディ・フォスターがとにかく天使みたいに綺麗なんですよねぇ。
「こんなに綺麗な人がこんな大変な目に!!」とか「こんなに綺麗な人の口元に餓が!!」みたいなギャップが良いというのも大きいです。
ダリの作品
口元にある蛾がとても不気味な模様をしています。
有名な話ですが、これは芸術家ダリの作品で女体を組み合わせてドクロの形を作っています。
この不穏なドクロの形をしたじ女性は、劇中で殺害された被害者達を思わせます。
どこまでが意図的かは分かりませんが、ダリの作品というのも興味深いですね。
殺人を楽しんでいるかのような犯人《バッファロー・ビル》と、世の中に対して常に皮肉な視点を持っていたダリは、善と悪という極端な姿勢の違いがあるもののどこかで共通したものがあるのかも知れません。
タイトル
ここでちょっと問題になるのが、タイトルの印象です。
英語だとかなり縦に長いフォントを使ってスタイリッシュな印象を感じます。
キャストの名前なども共通したフォントを使用しており、読みやすさというよりもポスターの美しさの方を重視しているようです。
ところが日本のポスターになると少し条件が変わります。
太めの明朝体で、少しかすれたような処理がされたタイトルです。
英語版と文字の色まで同じであるにも関わらず、全く違った印象を感じます。
とはいえ《羊たちの沈黙》をブロック体で表現するのもなかなか難しいとは思います。
試しに簡単にやってみましたが、やはりちょっと固すぎる気がしますね。
《羊たちの沈黙》という邦題自体はとてもいい成功例だと思っているのですが、それをタイトルにする際に少し苦労のあとが見えるなあという感想です。
映画の感想
10年以上前に初見で観た際には相当な衝撃をくらったのですが、それはやはりアンソニー・ホプキンスという役者の素晴らしさが8割くらいあったような気がします。
改めて見なおしてみると、けっこうレクター博士の計画もいい加減なもんだなと思うこともチラホラ(笑)。
見張りの警官の数とか配置とか、エレベーターの構造とか救急隊員の行動とか、かなり相手まかせな運のある脱出劇だなと思ったり。
まぁそれすらも楽しんでいる犯人ということですかね。
まとめ
映画自体は今観ると少し粗が見える作品だとは思います。
これも結局、今観ると、の話ですが。
映画自体はアンソニー・ホプキンスの超絶演技で持って行った部分は大きいでしょうし、ポスターワークもインパクト重視で大成功していると思います。
推理ものでありながらこれほど長く愛される作品として定着しているのは、もはや映画を越えてキャラクターやポスターがアイコン化してしまうほどのエネルギーに満ちた作品だからでしょう。
作品も一級、ポスターも一級という非常に幸運な一作だと思います。
それでは、また。
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