女王陛下のお気に入り《快作、怪作。余裕すら感じる映画とポスター》
映画の点数…87点
ポスターの点数…90点
トップ女優達の殴り合い
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げるは《女王陛下のお気に入り》です。
原題もズバリ《ザ・フェイバリット(お気に入り)》ですね。
先日のアカデミー賞では主演のオリヴィア・コールマンが主演女優賞を獲得しています。
オスカー俳優3人(オリヴィア、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ)の豪華共演、というと聞こえはいいですが、実際は3女優による殴り合いのような映画ですね。
スター女優や美しいセットの数々にうっとりする気持ちで楽しむのも悪くないですが、どちらかと言えばフジテレビの昼ドラの超拡大版みたいな姿勢が良いのではないでしょうか。
文字通り命をかけた女同士のドロドロと、命がけだからこその滑稽さを面白がる映画です。
映画のストーリー
1700年代初頭の(今の)イギリスの宮廷が舞台になっています。
とはいえ難しい設定はあまり理解してなくても全然オーケーで、「自分の国が戦争していることもいまいち分からないアン女王」と「アン王女に取り入り事実上国家を動かす権力を持った愛人(女)」と「召使いから貴族まで上り詰めることを画策する女」の戦いこそがメインです。
やってること自体は「私の方がアン王女が好きよ!」「私の方が好きよ!」「私を二人が取り合うなんていや~ん嬉しい困っちゃう!」みたいなことなんで。
あとから史実と照らし合わせてみると「え!これは本当の話なの?!」みたいな箇所が事実だったりもして。
バカな支配者を持つと国民は困りますなぁなんてあたりは今も通用する概念ではありますね。
映画の良かった点
あえて男性達は「バカで下品な役立たず」として描くくらい割り切っているのですが、全体的にその割り切り方がうまくいっているように思います。
話し方は現代語風になっていたり、時代的におかしい箇所も「映画のバランスがとれるなら」いくらでも改変しているようで。
そもそも男性がかつらをかぶって化粧をしている時代の話ですから、画面全体からはフィクショナルな雰囲気なんですよね。
ただし画面がフィクショナルな分、演じる主演3人の女優の鬼気迫る演技がより浮かび上がってくるというか。
並の俳優だったら衣装や雰囲気に負けてしまうのでしょうが、それを跳ね返すだけの演技力とパワーがあります。
当然といえば当然なのですが、この3人のうち誰か一人でもレベルが下がるようだと映画の質が一気に悪くなるわけですから。
オスカーのノミネートも受賞も納得の素晴らしいアンサンブルでした。
その演出に成功した監督の手腕もまた評価されるべきですね。
雰囲気のいい映画
映画を評価するときに「雰囲気が好きなんだよね~」というほどバカな感想はないのですが、この映画、雰囲気がいいんですよね笑
開幕すぐの極端な口角レンズによる絵作りからすぐに「あ、面白い予感がする」と感じます。
もちろんそこから「画面が綺麗なだけの中身のない映画」になる可能性も十分にあったのですが、この映画に関してはそんなことは一切なく。
画面はものすごく綺麗なのに、胃がキリキリするような暴力とイジメとマウンティング笑
つまりサイコーということなんですけど。
外国の宮廷の話という自分と最も遠い世界の物語でありながらもリアリティを感じることが出来るのは映画の作りがうまいからに他ならないですよね。
ポスターの感想
いわゆる商業映画とは少し違うためか、ポスターもかなり自由度の高さが感じられます。
一言で言えばお洒落なポスターということなのですが、少ない情報ながらも映画全体の禍々しさは伝わってきますね。
まず手前にいるエマ・ストーンのやたら演出めいた不機嫌でぶっきらぼうな表情と、全体のゴージャスで華麗な衣装とのギャップが面白いです。
オリヴィアやレイチェルもすました顔はしてるんですけど構図が大概におかしいですし。
「好きか嫌いかは見てみないと分からんが、エッジのきいた映画ではあるんだろうな」というのはすぐに分かります。
その時点でこのポスターはある程度「勝ち」ではないでしょうか。
映画に興味を向ける層と、見て貰いたい側の意志がかなり近いポスターだと思うんですよ。
実際これだけ攻めたレイアウトのポスターでありながらも世界的にヒットし評価されたわけですからね。
映画同様に実にセンスを感じるポスターです。
別案
とはいえ僕はこっちのポスターの方が大好きです。
まぁこっちのポスターをメインにしちゃったらいよいよお客さんは半減しそうですが、家に飾りたくなるくらいのカッコイイポスターだなと思いますよ。
先ほどのポスターよりもより禍々しさが強く、なんなら不快感すら感じるくらいですね。
日本語版ポスター
今回、日本語版ポスターはかなりいいんじゃないかなと思っています。
全体のレイアウトは本国版と同じなのですが、まず全体の色味を黄色から赤に変更しました。
ノスタルジックな雰囲気は後退しましたが、より女性的な印象が強まっています。
女性=赤色というのは単純な記号化かも知れませんが、柔らかいピンクというよりはやはり少しダークさのあるピンクにしているのがうまいです。
また、キャッチコピーも主張しすぎずさりげなく添えられているのですが内容はというとシャレがきいてて皮肉っぽさがあるいいコピーだなと。
このキャッチコピーがあるおかげで「ちょっとコメディでもあるのかな」と予感すると思うんですよ。
この「ごめんあそばせ」の一言が映画全体の軽やかさと禍々しさをうまく表現できていますよね。
とてもいいポスターではないでしょうか。
まとめ
呆れちゃうくらいのダークなコメディ映画といった感じで。
画面で起こっていることはドロドロしっぱなしなのですが、実際に見終わってみると不思議と軽やかな余韻が残るいい映画だったなと思います。
ポスターの方もその映画のテンションに近くて、良い意味で引きずらず軽やかなタッチを感じます。
監督の手腕だと片付けるのもいいですが、この映画に関わった方の多くが影響し合っての傑作になったような気がします。
万人にまではお勧めしませんが、映画に少しでも興味があったらすぐさま鑑賞することをお勧めしますよ。
それでは、また。
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