ジョジョ・ラビット《僕的アカデミー作品賞!》
映画の点数…97点
ポスターの点数…82点
僕的・アカデミー賞受賞
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《ジョジョ・ラビット》です。
観たきっかけは一つで、アカデミー作品賞にノミネートされていたから。
主演の男の子が完全に新人だということや、監督のタイカさんの作品がそれほど好みでもない点などから特に注目していませんでした。
ダメですね、こういう思い込みは。
一応アカデミー賞関連は目を通しておくかくらいの気持ちで観にいったら、完全にやられました。
今の段階で僕の中ではアカデミー作品賞受賞です。
噂ではこの作品が実際に受賞することは無いような雰囲気ですが、僕の中ではナンバーワンですね。
もちろん現段階では日本でまだ観ることのできない作品があるのでそれを観るまではなんとも言えませんが、スコセッシ《アイリッシュマン》やタランティーノ《ワンス・アポン・アタイム・ハリウッド》みたいな大好きな映画監督には申し訳ないけど、僕は《ジョジョラビット》の方が好きでした。
映画のストーリー
終戦間際のドイツ、ナチス・ヒットラーに憧れを抱く10歳の少年ジョジョ。
臆病で純粋なジョジョは、頭の中の友達のヒットラーに励まされたり叱られながら過ごしています。
父親は戦争で家にいないようで、いわゆる【肝っ玉母ちゃん】のスカーレット・ヨハンソンと暮らしています。
ある日家の中で物音を聞き、ビクビクしながら調べてみると、壁の奥にユダヤ人の少女が匿われているのを発見します。
ナチス的思想に影響を受けるジョジョは、実際に目の前にいるユダヤ人の少女と対話をしていくなかで少しずつ考えを改めていきます。
みたいな話です。
ドイツ側から観た第二次大戦ものでいえば《戦争のはらわた》とか、ユダヤ人とドイツ人の交流で言えば《戦場のピアニスト》とか《シンドラーのリスト》のような佳作・名作色々あります。
しかしこの映画の特徴は「極めてコメディ的な軽やかなタッチで」「10歳の少年の目線から」終戦間際のドイツを描いたことでしょう。
登場人物が全員英語を話すし、ましてや特にドイツ的ではない白人や有色人種も普通に登場することから特にリアリティが大事な作品ではありません。
なにしろ映画のオープニングでは爆音でビートルズが流れます。
「近くで見れば悲劇であり、遠くから見ると喜劇である」と言ったのはチャップリンですが、まさにこの映画はかなり遠くからみた喜劇的視点から戦争を描いています。
そういう意味ではタランティーノの《イングロリアス・バスターズ》にも近いですね。
ただし両映画に共通するのは、油断していると急に【戦争の悲劇】を目の前に突きつけてくることです。
だからこそ映画として素晴らしいと思っています。
映画の良かった点
前述の通り、ただのコメディとして評価しているわけではありません。
そして、《博士の異常な愛情》や《フルメタル・ジャケット》のように突き放したような描き方でもありません。
コメディとして楽しく描かれていた映画ですが、おそらく20分後くらいに急に【死体】を画面内にハッキリとうつします。
それを10歳のジョジョに目撃させることで「あ、人は死ぬのだ」ということを強烈に植え付けます。
ベタと言えばベタですが、これはうまいですね。
そこから先は、どれだけコメディシーンが続こうとも「でも人は死ぬ。この後、いきなり死ぬかも知れない」という恐怖を感じながら見続けなければなりません。
ましてや舞台は終戦間際のドイツです。
多少なり戦争の知識がある人なら、このあとにロシアが進出してくることやヒットラーがどうなるかなど知っているわけですから。
ここで不思議なのは、今まで観てきたほとんどの映画では「アメリカ頑張れ!ドイツくたばれ!」みたいな目線で観ていたんです。(まぁこのあたりはアメリカはうまいなと。今ではまるでアメリカのおかげで戦争に勝ったみたいな印象ですからね)
ところがこの映画では「ああ、どうかこの人達は殺さないでくれ」と祈りながら映画を観ることになります。
数人「バカ丸出しのナチス」が登場するのですが、逆に「戦争に勝って無邪気にはしゃぐアメリカ兵」なんかも少し皮肉に描いているのでできる限りフェアな視点で描こうとしているのかなとは思いました。
「ナチスドイツやヒットラーをコメディとして描くのは危険だし、この映画はその点で失敗している」という意見も目にしましたが、個人的には「監督がバカにしているのは盲目的に暴走する人間の愚かさであって、その対象には2020年現在のアメリカやロシアやシリアなんかも含まれている」と思いましたよ。
スカーレット・ヨハンソン
それと個人的にはスカーレット・ヨハンソンがとても素晴らしいなと思いました。
サム・ロックウェルなんかは既に誰しもが素晴らしい役者だと知っているのであえて書きませんが、今まで僕はスカーレット・ヨハンソンを役者として良いと思ったことは特に無かったんですよ。
ハスキーな声とグラマラスな魅力のある、こんなこと言っては失礼ですがセックス・シンボルとしての魅力を買われている人物だと。
ですがこの映画では、母親であり人妻なのでセクシーさは特にありません。まさに演技のみの評価。
そしてこれが非常に素晴らしかった。
「自分のやるべきこと」を理解しているタフな一人の人間、母親としての強さと弱さを併せ持った女性を見事に演じています。
出演シーンがそこまで多いわけでもないに関わらず、映画全体のトーンを支配している人物です。
アカデミー賞助演女優賞でのノミネートももちろん納得。
他にも主演の男の子やユダヤ人役の少女もメチャクチャ良かったですね。
特に二人のラストシーンは、幸せと悲しみと喜びに溢れておりこちらの感情も爆発するくらい最高でした。
ポスターの感想
オリジナルのポスターに準じているので、特に日本版ポスターが良いとか悪いとかはありません。
非常に潔いなと感じるのは、ここまで真っ赤な配色を恐れずに使っていることです。
当然この赤からはナチスを想像するのでこの色だけで難色を示した人も多数いたはずです。
ですがちゃんとポスターを見るとヒットラーが明らかにコメディな表情をしていたり、ナチス兵もなんだか変な表情に変なポーズ。
この映画がナチスを肯定するような内容でないことは一目瞭然です。
オリジナル別案
こちらのポスターはかっこいいですね。
皮肉なピースマークの中に、ウサギの顔がフォントで描かれています。
さすがにこのポスターだと日本ではどのような映画か分からないですよね。
他のビジュアル
コメディ路線な映画ということもあり、他にも面白いアイデアがあります。
アカデミーにノミネートされたあとであろうポスターはこれ。
ジョジョがアカデミー作品賞ノミネートされたことを限界までシンプルな情報で表現しています。
オスカー像がヒットラーになっているのもまた攻めてるなという感じがして好感がもてますね。
アカデミー賞にノミネートされたことを喜びつつも、権威に対して少しピリッとしたメッセージ性を感じます。
さらにウサギに追われるナチスの鍵十字というデザイン。
これは映画を見終わったあとだとさらに違った印象が沸きます。
最初は「ウサギだってナチスの役にたつさ!」とジョジョは思っているわけですが、最後にそのウサギはナチス(ヒットラー)にどのような態度をとるのか。
それを知ってから見るとまた面白いものがあります。
いずれにせよデザインが豊富で一つ一つのクオリティは非常に高いです。
ポスターの不満点
全体のクオリティは高いのですが、わずかながら不満はあります。
デザインレベルは非常に高いのですが、ちょっとインパクトに欠けるところがあります。
この映画はマイティ・ソーで成功したとはいえまだ名前が浸透したわけではない監督と、完全新人の少年による映画です。
それを踏まえたうえでポスターを見てみると、華が足りないと思うのです。
せっかく劇中では「お腹から蝶が舞うようなファンタジー要素」や「人は無残に死ぬ」というようなスキャンダルな映像もつかっているのですから、ポスターももうちょっとキツめのインパクトのあるビジュアルを持ってきても良かったのかなと思います。
まとめ
アカデミー賞の発表まであと10日ほどですが、式の前に観ておいてとても良かったと思います。
結果が出た後に観てしまうとどうしても結果を踏まえたうえでの感想になってしまいますから。
もしもまだ観ていないという方は、お早めの鑑賞をおすすめします。
賛否両論という声もたくさんありますが、いい映画って賛否両論巻き起こすからいい映画だと思うので。
僕は完全に肯定派です。
おすすめします。
それでは、また。
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