映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

JOKER《まぎれもない傑作……だけど》

映画の点数…89点
ポスターの点数…97点

 

話題度はこの秋筆頭


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《JOKER》です。


正直なところマーベル派の僕なので、バットマンやジョーカー自体には特に興味はありません。


ヒース・レジャージャック・ニコルソンのジョーカーも当然大好きですし、もっとも魅力的なヴィランであるというのは百も承知ですが、特段のファンというわけではなく。


ただここまで公開前から「これはすごい映画だぞ!」と煽られるとそりゃあまぁ観に行くでしょうということで。


主演がホアキン・フェニックス、監督がトッド・フィリップス、しかもロバート・デニーロが出演となると何かしらの事件は起こるのは予想できますよね。


実際の映画はどうだったかと言うと、、、、


もちろん面白かったです!

 

映画のストーリー


映画の内容自体は「いかにして最強のヴィラン・ジョーカーが誕生したか」です。


仕事がうまくいかない、母親の介護が必要、恋人もいない、かつ精神的、肉体的な障害も抱えているという主人公アーサーがジョーカーへと傾いていく様を丁寧に描いています。


今作のジョーカーは特に「まるでヒーローのよう」な側面もあり、一種のヒーロー誕の映画でもあります。


身も蓋もない言い方をすると「どんな悪役にも悲しい過去があるのさ」的な映画でもあるため、バットマンやジョーカーのファンである人ほど悩ましい気持ちになったりもするのかも知れませんね。

映画の良かった点


とにかくまず、映画が面白いんですよ。


言ってるとバカみたいなんですけど、丁寧な脚本、トーンを抑えた大人な撮影、音楽や効果音、そして役者陣の演技。


どれをとっても最高レベルでしたね。


主人公アーサーを丁寧に丁寧に追い詰めていき、ジョーカーとして精神状態が狂っていくまでをじっくりと時間をかけて描いています。


観ている間にこちらもアーサーに思わず入り込んでしまうため、まるで同時にジョーカー側へ転んでしまいそうな錯覚を覚えます。


少なくとも近年のDC絡みの作品の中では間違いなく最高傑作でしょう。


ジャスティスリーグヒース・レジャーダークナイトを合わせても一番面白いと思いましたね。


とても満足しています。


しかし、、、、、


傑作と言い切りたい本作ですが、個人的には引っかかることがありました。

 

ロバート・デニーロの出演


今作ではゲスト扱いではなくがっつりとロバート・デニーロが出演しています。


出演の意図はもちろん彼の代表作である「タクシードライバー」と「キングオブコメディ」の影響をかなり受けた作品であるからですね。


「社会の中に自分の価値を見いだせない主人公が次第に狂っていく」タクシードライバー、「人を笑顔にするということをはき違え、テレビに出演することに取り憑かれてしまった」キングオブコメディ


デニーロが出演するとなった時点で、もちろんこれらの作品と比べて鑑賞することになります。


監督も「あの映画と比べても負けることはない」というチャレンジングな気持ちがあったのでしょう。


そういう姿勢はもちろん支持するし、とても良かったと思います。


ただし僕自身は……やっぱりタクシードライバーキングオブコメディの方が上なんじゃないかなと思ったんですよね。


上、というのは主人公の持つ狂気のことです。


ホアキン・フェニックスのジョーカーは、丁寧に丁寧に狂っていく様を描いているため「どこかで引き返せたのではないか」とか考えてしまうんですよね。


でもタクシードライバーなんかは「ああ、もうこの人とは会話が出来ない」という狂気を感じるんです。


その差って小さくないですよね。


ジョーカーという存在に何を求めているかという話になりますが、個人的には「絶対にわかり合えない正義感の違い」なんですよ。


分かり合える余地のあるジョーカーって。。。。


僕はそこまでの魅力を感じなかったです。

 

ジョーカーを抜きにすると


上記のことと重なるのですが、ではこの映画が「JOKER」ではなかったとしたらどうでしょうか。


つまり、名前や設定がジョーカーではなく「普通の青年が殺人者になるまで」の映画だとしたら。


これは結構マズイんじゃないでしょうか。


僕たちは当然「このジョーカーが後々バットマンと対峙していく」という前提で映画を観ています。


だからこそ面白い部分というのは当然あって。


その前提がが無いのだとしたら、けっこう内容が薄めの映画になる気がしたんですよね。


それでもホアキンの演技があるからグイグイ観れちゃうんですけどね。。。

 

 

ポスターの評価

 

ポスターはですね、もはや言うことなしですね。


久々に「はいでた完璧〜」なポスターに巡り会えたと思ってテンション上がっております。


今回はさすがに自信作だけあって気合いが入っているのでしょう、たくさんポスターが作られています。


そのいずれも作品のテーマにバッチリと合っていて素晴らしかったです。

 

 

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いずれのポスターも基本的なルールとしては「ジョーカーしか画面内に登場しない」こと、「JOKERというタイトルの大きさは大体同じにしてあること」、そして「過剰な演出はしないこと」です。


この「過剰な演出をしない」というのは非常に今回大事で、例えばヒース・レジャーのポスターを参考に見てみます。

 

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舞台は同じゴッサムシティであるにも関わらず、まるで全く別世界のようですね


ノーラン監督ダークナイトの監督)は、ゴッサムシティ、およびジョーカーという存在を表現するためにゴッサムシティ全体が壊滅したかのような表現をしています。


あ、もちろんノーラン監督がポスターを作ったわけじゃないんですけど、便宜上。


さらに画面全体を傾けることでジョーカーの持つ狂気のようなものを演出していますね。


では改めて今作のジョーカーはというと、ポスターのレイアウトだけ見るとただ単に「街の中にいるピエロ」といった構図になっています。


今作のジョーカーはゴッサムシティという“社会”から生まれ出てきた存在です。


ヒース・レジャーのジョーカーが街や社会全体を破壊する存在だったのに対し、ホアキンジョーカーは社会によって破壊された存在なんですね。


だから、街=社会自体はドシンとそのまま存在しているポスターの方がより今作のテーマとして相応しいわけです。


制作者もそれを意識してか、空まで伸びる高い壁に挟まれて窮屈な構図をわざわざチョイスしているようです。

 

日本語版ポスター


今回は日本語版ポスターも本国版とほとんど変更しないで作成されました。

 

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ハリウッド側に「勝手に変えるなよ」と睨まれたのかどうかは不明ですが、英断だったと思います。


「本当の悪は笑顔の中にある」というキャッチコピーは「ん??大丈夫か??」とちょっと不安になりますが(それだったら「本当の悪は笑顔から生まれる」の方が良かったのでは?)。


わざわざ改変してまで変なポスターにするくらいなら、本国バージョンをそのまま使用するのも悪くないんじゃないですか?

 

まとめ


何はともあれ見た方がいい映画です。


それだけは約束します。


ホアキンがオスカーを受賞してもなんら不思議ではないですね。


可能な限り音響のいい映画館で浴びるように鑑賞するべき映画です。


いくつか愚痴めいたことは書きましたが、今年マストな映画であることは間違いなし。


今年も終盤ですが、まだいくつかの傑作に巡り会えたらいいなぁなんて思ったり。


それでは、また。

 

 

 

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