映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

万引き家族 《ポスターに騙された!気持ちよく》

監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原案 是枝裕和
出演者 リリー・フランキー
安藤サクラ
松岡茉優
城桧吏
佐々木みゆ
樹木希林
音楽 細野晴臣


映画ポスターの点数…90点
映画の点数…90点

 

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ポスターワークも素晴らしい


評価も当然の作品

 

第42回日本アカデミー賞各部門を根こそぎかっさらい、パルムドールでも最高賞をとった一作。

 

間違いなく2018年度日本映画最高の作品だし、これだけの評価も当然と思います。

 

映画の内容に関して、これだけ話題になりDVDも出ていることですからここから多少のネタバレ含みます。

 

まだ観ていない方で情報をシャットアウトしたい方はお気をつけください。


だまし絵のようなポスター

 

映画ポスターは「家族」が笑顔で集合してこちらを見ている構図です。

 

映画を観た方なら分かることですが・・・・・

 

こんなシーンは映画に出てきません。

 

家族をこうやって写真に撮るような人物もいません。

 

笑顔で仲良さそうにするシーンもありません(個人間では多少ありますが)。

 

住んでる家はもっとジメジメしてるかドロドロ暑いイメージなので、こんなに爽やかでもありません。

 

そして何よりも。彼らは家族ではありません。

 

そう、画面のほぼ全てが嘘で出来ているポスターなんですね。

 

もちろん、それは意図的なものです。


タイトルが元々違っていた

 

この映画は、撮影段階では『万引き家族』ではなく『声に出して呼んで』というタイトルだったのだそうです。

 

『声に出して呼んで』というのは、自分のことを家族として呼んでほしいという願望を表しています。

「お父さんと呼んで」とかそういうことですね。

 

このポスターはその『声に出して呼んで』というタイトルを意識しながら見ると分かりますが、これが家族であったらいいという気持ちが表出したものなわけです。

 

だから実際におかれている現状とは逆転している箇所が多いわけです。


嘘をついてもいいの?

 

とは言え映画ポスターですから。

 

映画の内容と違うポスターにしてもいいの?という疑問があります。

 

しかし今作に関しては、それが大正解なんですね。

 

なぜならこの映画は、謎解きのような構成もある映画だからです。

 

僕も含めて事前に情報を入れずに鑑賞した人は、このポスターの人物達は当然家族だと思い込んで映画を見始めます。

 

ましてやあのポスターです。

 

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改めてみてみると

 

『万引きしながら暮らすほど貧しいけど、なんだかんだ幸せな家族なんだろうな』
と勝手に思うわけですね。

 

実際に映画の序盤はそのようにも見える撮り方をしています。


ですが映画を観ていくと


『あれ、なんかおかしい。なんかおかしい。おかしい、というか、ちょっとこれはマズいんじゃないか?』


と観客側が気付いてい来ます。

その過程と共に、映画自体もどんどんドライヴしていくという仕組みになっています。

 

ポスターが映画の大きな大きなミスリードとして機能しているのです。


スリードのポスター

 

他の映画でも似たような手法は見かけることが出来ます。

 

万引き家族と同じ2018年の作品、フロリダプロジェクト

 

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フロリダプロジェクト

 

どう考えても幸せなイメージしか感じないこのメインビジュアルですが、映画の内容はやはりダークサイドの強いハードな一作でした。

 


ユージュアル・サスペクツあたりもミスリードに含んでいいかと思います。

 

このビジュアルだけ見ると、当然犯人はこの中の誰かだろうと思いますよね。

 

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ユージュアルサスペクツ

 

こちらもそのつもりで観ていると・・・・・・最後にはひっくり返る結末が待っています。

 

 


後味を引きずるデザイン

 

とはいえ、万引き家族のポスターが単に『観客をだますためのもの』としてだけ存在するわけではありません。

 

映画を見終わってから改めて見てみると、『もしかしたら、もしかしたらだけど、彼らにもこうやって幸せに暮らせた未来があったのかも知れない』と思ってしまいます。

 

映画内には出てこなかった幸せな光景を改めて見ることで、より映画の中で描かれたことが浮き彫りになるわけですね。

 

素晴らしいポスターだなと改めて思います。

 

映画の感想

 

今作は是枝監督の今までの映画の集大成とも言えるものであるし、堂々たる出来だなと思います。

 

映画としての『頑丈さ』が他の作品を圧倒しています。

 

格闘技における達人技でねじ伏せられたような気持ちですね。

ああ、僕は格闘技はやったことはありません。

 

散々評論された作品でもあるので、素晴らしいと思った点をいくつかだけ。

 

まず、家族の「正体」を謎解きのようにして少しずつ明かす構成にしたのが本当に大正解。

 

この正体が明らかになっていく度に映画がズンズンと不穏な空気に包まれていき、観ているこちらも「あれ?これ結構ダメなんじゃない?もう詰んでないかコレ?」と不安になっていきます。

 

だから映画の途中あたりから僕は「もうこの映画終わってくれ!お願いだから!だってこのあと絶対にいいことあるわけないじゃん!」と思っていました。

 

イーストウッド作品でこのような『映画とめてくれ』心境によくなるのですが、人を不安に不安にさせていくのが是枝監督は本当にうまい。

 

なんて嫌な人なんだ!

 

完璧な俳優陣

 

次に、これを言うと身も蓋もないが、俳優陣が完璧すぎますね。

 

具体的な指示を省くことで、ある程度俳優独自に演技をさせるドキュメンタリックな撮り方をしたそうです。

 

それに見事に俳優陣が応えてみせたのはほとんど奇跡にも近いのでは?

 


安藤さくらさんの泣きのシーンなどは、もはや言う事無し。

 

観た人にしか分からない。圧巻。一生忘れないシーンの一つです。

 

ただ、個人的に気に入っているのはリリーさんの演技です。

 

おそらくだが、ほとんど何も考えずにその場で喋っているのではないだろうかと予想しています。
これが本当に面白い。

全く内容のないセリフを二回も三回も繰り返し、それを誰も聞いてないし本当に邪魔くさい。

 

観ながらずっと「ああ、うぜぇ(最高!)、マジでうぜぇ(最高!!)と思っていました。


是枝監督最高

 

是枝監督の作品は、撮る作品すべてが完璧だなんて当然思っていません。

 

ですが、いずれの作品も『いつまでも忘れられない』作品なのは間違いないです。

 

たまに思い出したかのように日常生活の中にスッと紛れ込んでくる映画の場面の数々。

 

万引き家族もまた、僕の地続きの生活の中でふいに顔を出すような作品になっていきそうです。

 

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