映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ぼくのエリ 《実は悪くない??日本版ポスター》

映画の点数…82点
ポスターの点数…65点

 

超絶!雰囲気映画


こんにちは、ピースマイルです。


今回は【ぼくのエリ 200歳の少女】という映画についてです。


2008年にスウェーデンで制作されて以来徐々に人気を高め、日本でも2010年に公開された一作。


一部でカルト的な人気を持っているそうで、ハリウッドでも2012年にリメイクされました。(そっちは未見です)


この映画、まぎれもなく「雰囲気映画」です。


「おしゃれ映画」と言ってもいいですけど。


個人的にはそういう映画は大嫌いでして、嫌いな理由は「見た目に気を遣ってばかりで内容がガタガタな映画が多いから」です。


ではこの「ぼくのエリ」がそのような見た目だけの映画かと言うと、そういう駄目映画とは全然違ってビジュアルも内容も優れた良い映画です。


この映画、何が雰囲気映画かって、とにかくスウェーデンです笑


それはもうスウェーデン。


スウェーデン、行ったこともないし、知っている情報と言えばサッカー選手のズラタン・イブラヒモビッチくらいです。

他に何も浮かばない。。。


そういう、頭でザックリと思い浮かべた『スウェーデン』というビジュアルがバッチバチにお洒落に振り乱れるお洒落映画です。

 

映画の内容


この「とにかくお洒落映画」が、何故「お洒落に撮る必要があったのか」はしっかりと理由があって。


それは12歳の少年の初恋物語という、とても普遍的な美しさのある物語だからです。


さらに恋する相手がヴァンパイアなのですから、美しさ要素はさらに倍!


どれだけお洒落に撮ってもギリギリ嫌みにならない条件が揃っています。


僕はこのお洒落さが気に入っているわけですが、このあたりの解釈がそのまま各国の映画ポスターにつながっていくのが実に面白いと思ってこの映画を取り上げた次第です。

 

映画にまつわる悪評


この映画、観たことのある方なら既にご存じでしょうが、日本版においてかなり批判された点が2点あります。


それは「200歳の少女」という副題の追加と、性器のぼかし処理が入った点。


この変更によって映画の内容が誤解される恐れがある(というか誤解される可能性の方が高い)ので批判が集中したわけです。


隠す必要もないので書きますが、エリは実は虚勢された男性であって少女では無かったという点と、虚勢された施術後がボカされていたということですね。


このへんの批判については僕も完全に同意だしかなり日本映画界にガッカリしています。


既に語り尽くされた感もあるのでここではこの話はしませんが。

 

ポスターの感想


さて、以上の条件を踏まえて映画ポスターを見ていきます。

ポスター1

まずは(たぶん)本国版。

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うーん、お洒落ww


ガラス越しにいるヴァンパイアと、ギリギリまで薄くデザインされているタイトル。


これは「ヴァンパイアは招き入れられるまで入ることが出来ない」という設定を活かしつつ、ホラーとしての恐怖感も守りつつ、さらに少年の恋の儚さまで表現できているとてもいいポスターですね。


このポスターだけで完全に完成しているという気もします。


と言いたいところですが、日本においてこのポスターだとあまりにも情報が足りなすぎるでしょう。


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ポスター2

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こうなるとかなり「ホラー映画」感が強くなりますね。


ヴァンパイアという文字も確認できます。


映画の内容を知っている人からすると、このポスターだけでは違和感があるのではないでしょうか。


これだけだと恋愛要素をこのポスターから推理するのはかなり難しいです。


このポスターの製作意図は、むしろ「恋愛映画とかぬるいこと言わないで、ホラー感を強くしようぜ!」ということでしょうか。


だとしたら納得なのですが、これまた日本人ウケしなさそうです。。。


どうやら日本人はとにかく「ジャンルもの」を嫌う傾向があるようで。

 

ポスター3


こちら韓国版。

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かなり思い切ったレイアウトです。


韓国語はよく分からないのですが、タイトルは直訳で「赤い美人」みたいな感じですかね。


「美しきヴァンパイア」みたいなことでしょうか。


分からんけども。


ポスターから一切ヴァンパイア要素を排除しました。


完全に恋する少年の映画といった感じです。


わざわざキラキラの加工までして淡い恋心を演出しています。


ある意味好きなポスターですが、これもまた「何の映画?」かは推測出来なさそうです。。。

 

ポスター4


というわけで、それを踏まえての日本版ポスターです。

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前述の通りタイトルは最悪な改題だと思うので、それは一端無視してビジュアルについてのみ。


こちらも完全に恋愛映画シフトですね。


もうメロメロです。


見つめ合う二人のみで画面を構成し、あえて二人がかなりはみ出るくらいにトリミングすることで「他者が見えていない」くらい二人だけの世界に入っている様子を表現しています。


あくまでも恋愛映画としてなら素晴らしいポスターですね。


あえて「ホラー感」を匂わせているのはキャッチコピー。


「怖ろしくも、哀しく、美しい」とあります。


一言目で「怖ろしい」を使うことで、「ん?どういう映画?」と興味をひくことは出来るでしょう。


とは言え「ははーん、さてはこの少女はヴァンパイアだな」と推理できた人はいないでしょうが。

 

ポスター5


こちらは今では一番知られているであろうビジュアル。

 

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DVDのパッケージなどはこちらになっています。


今まで挙げてきた反省や長所を考えた結果、最終的にこうなったというのがよく分かります。


まずは「少年の初恋」の映画こそが話の主軸であるという宣言。


そして、少し小さめに血まみれの少女のビジュアルを対比的にのせる。


画面を上下に分割することで「少年が恋している少女には、とんでもない秘密が隠されているんだよ」というようなニュアンスが込められています。


タイトルが黄色と青なのは、スウェーデン国旗の配色でしょうね。


もはや最初に挙げた本国版ポスターの面影もありません。


僕は本来、ここまで大きく変更するようなことは嫌いなのですが。


この変更に関しては「まぁ、仕方ないというか、そうなるのもすごく分かる」という気がしています。


「いやぁ、とてもいいビジュアルだなぁ」とは言いませんが、多くの人が頭をひねってたどり着いた結果なのではないかと思うわけです。

 

まとめ


このように、改題や変更がすべて悪い結果を生むとは言いません。


この情熱を、なぜタイトル変更とぼかしの追加という最悪の事態の回避に向けられなかったのかが残念です。


とはいえ、それを置いておいてもとてもいい映画です。


未見の方は是非ご覧になってくださいな。


それでは、また。


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