映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

イミテーションゲーム 《突き抜けない映画とポスター》

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映画の点数…77点
ポスターの点数…50点

 

大好物のジャンル


こんにちは、ピースマイルです。


今回取り上げる映画は【イミテーションゲーム】です。


主な舞台は1940年前後のイギリス。


ドイツの世界最強の暗号マシン・エニグマの解読に挑むアラン・チューリング(カンバーバッチ)とそのチームを描く映画です。


この手の「解読もの」とか「歴史もの」「ノンフィクション」「軍事作戦」みたいなジャンルは個人的には大好物で、とりあえずこれだけでも楽しめちゃうんですよね。


あとはどれだけ映画としてクオリティが高いかどうかなのですが。


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ポスターの評価


映画の感想の前に、まずはポスターから映画の中身を探っていきます。


こちらは日本語版ポスター。

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「アカデミー〜」のデカデカとしたコピーに関しては、まぁ理解できるところ。


内容が地味だし有名な偉人の映画化でもないので、観客の興味をひくには「映画としての出来がいいんですよ、だからアカデミー賞にエントリーされたんですよ」と煽るのは分かります。


ただ、デジタルチックな青色の背景に数字の羅列をしてあるのはちょっとベタすぎていただけないかと。


このポスターにしてしまうと、まるで「天才博士が数学的才能を発揮し暗号を解いていく」映画だと感じるでしょう。


確かにそういう部分もあるのですが、それは物語の本質と少し違うのではないでしょうか。


ポスターの内容というよりは、日本語サブタイトルにつけられている「エニグマと天才数学者の秘密」という言葉こそがこの映画のキモになっています。


エニグマ(暗号装置)とアラン博士の「秘密」を探っていく映画だとタイトルで分かります。

 

本国版ポスター


こちらの本国版ポスターの方がよりスマートで理想的です。

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ゴチャゴチャとした背景が一切無く、アラン博士の開発したエニグマ解読マシン「クリストファー」をイメージさせる円形の連続と、その中に書かれている「behind every code is an enigma」という文字。


このコピーには二重の意味があって、直訳すれば「エニグマ(暗号機)は全てのコードの裏に隠されている」という意味と「エニグマ(謎)は全てのコードの裏に隠されている」となります。


くだけた言い方をすれば「エニグマ暗号機とアラン博士の秘密を解読しよう」ということでしょうか。


こちらのポスターの方がアラン博士の顔がグッと引き立つレイアウトになっていて、より「彼の秘密こそが映画のキモなんですよ」ということが分かります。


日本語版ポスターと構図は近いはずなのに、こちらに伝わってくる意味合いが全然違うんですよね。


ただし日本語版ポスターの方をフォローするとしたら、本国版ポスターの方でどれだけの日本人の観客が食いつくかはかなり疑問です。


カンバーバッチは大好きな俳優ですが、彼の顔のアップと「エニグマ」というワードだけで日本の観客を映画感にゾロゾロ呼び込むのは難しいだろうなとも思うんです。


だとすると、ゴチャゴチャしてるのが気になるもののああいうバランスになるのも理解は出来ます。

 

映画の感想


さて、映画の感想です。


前述の通り、この映画は「エニグマの解読と共にアラン博士の秘密に迫っていく」という構造になっています。


今からその秘密のネタバレをするので、映画未見の方は気をつけてください。。。


ではネタバレしますよ。


この映画は特に中盤以降、アラン博士が同性愛者であるということに主軸がおかれていきます。


エニグマ解読マシンである「クリストファー」とは、アラン博士が少年期に恋した男の子の名前でした。(クリストファー君は結核で夭逝)


元々謎解きの面白さを教えてくれたクリストファー君と共にエニグマの解読に挑んでいたアラン博士の物語ということです。


これこそがこの映画に隠されていた「秘密」だったんですね。

 

映画の良いところ


映画のいいところは、まず単純に観やすいというのがとても良いですね。


軍事的な話や暗号機の複雑な話が出てくるにも関わらず「何故エニグマを解読しなくてはならないのか」「どれくらい大変なことなのか」の説明がスムーズなため、観客が混乱することはまずないでしょう。


時代が1927年〜1941年〜1951年と行ったりきたりするのですが、画面の彩度を変えることでそれら時代の変化をうまく表現しています。


特に1951年になると途端に画面が灰色になるのは、「現代のアランは幸せではない」ことが暗示されていたりと気が利いています。


また、映画の中盤以降なだらかにアランの内面の方に物語の主軸がシフトするという構成も面白かったです。


物語の結末に向けてだんだんと胸クソ度は加速していって、オチにいたってはアラン博士の自死という最悪の形で決着するのもあくまで映画のインパクトとしては最高だったでしょう。


それと映画を見終わってWikiなどでアラン博士の事をより知ることで見えてくる映画の小ネタなども興味深かったです。


アランがリンゴをチームのみんなに配ることで親交を深めようとするのですが、実はアラン博士はリンゴを食べることで自死をしたらしいとか。


マラソンが趣味だったことを映画内にうまく取り入れていたりとか。


よく考えられた脚本だなと感心しました。

 

映画の不満な点


しかし、この映画にも残念な点はあって。


それはこの映画が、どの方向にも「突き抜けていない」点にあります。


【イミテーションゲーム】はいくつかの映画的に輝く可能性があった箇所があります。


例えば「暗号を解読していくことのカタルシス」や「博士の抱えた秘密というミステリー」、「天才博士が心を開いていくラブストーリー」や「戦争に勝利する英雄録」、「LGBT差別への告発」などです。


【イミテーションゲーム】では主に、「博士の抱えた秘密というミステリー」と「LGBT差別への告発」というような内容がメインと言えるでしょう。


だとしたら、思いっきりそっちに振り切った方が良かったと思うんです。


例えば序盤、アラン博士は「暗号の解読には興味はあるけど、政治的なことに興味は無い」という態度をとります。


そのわりには終盤では「犠牲者を少なくするためにはこの方法しかないんだ」というような政治に踏み込んだ発言もしています。

 


また、第二次大戦の実際の映像を挟み込んで戦争のリアリティを少しだけ匂わせます。


これは「一方では戦場で死者がでている、その一方では役にたつかも分からない機械を開発して室内で暗号を解読している人がいる」という対比なのですが、だったらもっと「血みどろでぐちゃぐちゃの死体が写る」とかしないと駄目だと思うんです。プライベートライアン級の。


それがあると、実際に解読が成功したときに「結果的に多くの人が救われた」というのが効いてくると思うんですよね。


暗号の解読もラブストーリーも、全て消化不良のような扱われ方をしていたように感じます。

 

LGBTの捉え方


この映画は最終的には「男娼を買ったアラン博士が逮捕され、尊厳も功績も全て失った末に自殺する」というところに着地します。


あまりにも大雑把に言うと「LGBT差別とか最低!」ということなんですけど、それを主題にするのであればもう少し踏み込んだ表現が必要だったとも思うんです。


少年期に恋したことが、どれほどの幸せであり別れが辛かったのか(少年期の頃の子役の演技はものすごく良かったですけどね)。


女性と婚約することの葛藤や、婚約解消の時の心境。
男娼を買う時の葛藤や幸福感。


それらが映画内からは感じ取れないのです。


そこをあと1シーンずつでもいいので入れていたら、彼が自殺した際に僕はタイムマシンを開発して1951年当時のイギリスに乗り込んで大暴れしたことでしょう(何言ってんの)


僕はLGBTに対する差別が吐き気がするくらい嫌いです。


だからこそ、もっと容赦ないくらい映画の中では胸クソな展開にしてほしかった。


あらゆる方向で「この映画、もったいない」と思った箇所でした。

 

ポスターの話


またポスターの話に戻すと、ポスターもそういう意味で「突き抜けていない」んですよね。


このポスターからは少なくとも「何が主題なのか」が読み取れません。


せめて「絶対に言えない秘密が、ふたつある」というようなキャッチコピーくらいつけても良かったのではないでしょうか。


エニグマの秘密と、ゲイである秘密。


映画を見終わった際に「差別ってマジでくそだな」と思えるような仕掛けがあった方が良かったなと思います。


それでは、また。


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