映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

来る 《映画としては良いが、ホラーとしては・・・》

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映画の点数…58点
ポスターの点数…15点

 

なんだったのかよく分からない


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《来る》です。


嫌われ松子の一生や告白で知られる中島哲也監督が手がけるホラー映画。


主演には岡田准一妻夫木聡黒木華、そして松たか子さんらが揃います。


なんだかんだで中島哲也さんの作品は大抵チェックしてますし、好きな作品も嫌いな作品も含め何かしら心を揺さぶってくる監督だと思います。


好き嫌いが分かれるのは当然という作家性の強い作品群であるのは間違いないし、今作も「中島哲也さんに作らせたらどうなるだろう」という前提を踏まえた上での映画化だったと思います。


そんな作品の僕の感想としては「なんだったのかよく分からない」でした笑


点数自体は低めにしてますが、理由は後述します。


ただし、見なくて良かったなんて全く思って無くて、むしろ鑑賞自体はとても楽しめました。


観て良かったなと素直に思っていますよ。

 

映画のストーリー


韓国映画の傑作「コクソン」や、それこそ老舗「エクソシスト」などとも共通する「なんか娘が呪われちゃったっぽい」というホラー映画です。


もちろんそれぞれ設定に差異はたくさんあるんですけど、王道のストーリーではあります。


物語は三部構成になっていて、「過去にお化け的なものと遭遇した気がする妻夫木聡パパ」の話。


その妻で「家族という地獄を渇望し、絶望している黒木華ママ」の話。


そして「事件の解決に首を突っ込んだものの、余裕ぶってるのは最初だけで後半はオロオロしているだけの岡田准一ライター」の話、です。


前半は正体不明の「あれ」に次々と妻夫木聡パパ周辺の人間が襲われていくという展開、後半は岡田准一松たか子さんを中心に「あれ」との対決へとすすんでいきます。


映画全体の特徴として、段落ごとにバッサリと映画自体の雰囲気が変わるというか、特に後半からは「違う映画が始まったのかな」くらいにテンションが変わります。


もっと言っちゃえば「前半はホラー、後半はダークコメディー」というくらい違う映画です。


もちろんこういう仕掛けのある映画も大好きですし、「今何をやってるんだろう」と振り回される感覚がこの映画の魅力だと感じました。

 

 

映画の良かった点


これはもうやっぱり後半の「除霊フェスティバル」ですよ。


大ボスの松たか子さんのビジュアルがまずいいですね。


褒め言葉なのですが、一番松たか子さんが不細工に見えるヘアメイクとかをわざわざチョイスしている感じとかが役者として素晴らしい姿勢だなと。


その松たか子さんを中心に、おそらく日本全国から「我、除霊に自信あり!」という猛者達がマンションに集まってきまして。


集まる途中でもどうやらバタバタと戦死していくという過酷な状況の中、ついに除霊フェスティバルの開幕ですよ。


ルールは武器使用・流派問わずの時間無制限デスマッチ。


お経から舞踏から科学から巫女からなんでもありのスペクタクル。


しかし敵も黙っちゃいない。


姿こそ見えないものの、次々とフェスティバル参加者達を惨殺しながら突き進みます(どこに突き進んでいるかは映画を見終わってもよく分からないんだけど、とにかく進んでいる)。


このブラックコメディーな演出が見られただけでも監督に中島哲也さんを起用したのが大正解だし、逆に言えばこの除霊フェスが無かったら映画全体がどうなっていたか不安でもありますが笑

 

映画の不満点


これは映画を見る前から気になっていた点だったのですが、中島哲也さんとホラー映画という組み合わせが“基本的には”悪いんですよね。


中島監督の最大の特徴はやはり「超現実的なサイケデリックな画面演出」だと思うんですよ。


一方でホラー映画の大原則は「カメラの存在すら忘れるくらい可能な限り演出を感じさせずに撮る」ことです。


そっちの方がよりリアリティを感じて恐怖が増しますからね。


そのお互いに相反する特徴をどう埋めてくるのかなと思っていたのですが。。。


残念ですが、別に埋まっていないというか埋めるつもりも無かったようで。
やはり先ほど褒めた「除霊フェス」のシーンこそが映画のキモだとして中島哲也を起用したのでしょう。


その代償として「ホラーとしての怖さ」は犠牲になってしまいました。


はっきり言っちゃうと、一回も怖いとは思いませんでした。


それでホラー映画と名乗られるとどうかなというか。


僕がこの映画に感じる不満点はすべて「ホラー映画なのに怖くない」という点につきます。

 

細かい描写


例えばですが、松たか子さんはスーパーな除霊士だという設定にもかかわらずラーメンを食べ、ビールを飲み、ケータイでゲームをしています。


意図としては「ギャップがあって面白いでしょ」ということなのでしょうが、僕はそれよりもホラー映画の演出としてのマイナス点の方が大きかったと思います。


「得体の知れない強い人」として描きたいのであればやはり飲食シーンは避けるべきだし日常描写も避けるべきだと思うんですよ。


映画全体的にこういうホラー映画としての恐怖を遠ざけるような描写が多くて。


岡田准一さんの花柄のシャツとか小松菜奈さんのエロい格好とか、画面内に邪魔な情報も多すぎるし。。。


細かい積み重ねが無いとホラー映画は機能しないと思うんですが。


僕はこの映画を「怖い気持ちになるため」鑑賞したのであって、それが出来ていない以上は合格点ではないよなーという次第。


いいところもたくさんある映画だけに残念です。

 

ポスターの感想


けっこう複雑な思いもあるポスターです。


というのも、ビジュアルだったりアイデアであったりユーモアだったりは非常にあるのかなと思うわけです。

 

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おそらく何回も会議したのだろうし、フォントのひとつにまで気をくばったデザインです。


とはいえどうしても僕がこのポスターを評価しきれないのは「全然怖そうじゃ無い」ということです。


配給側はおそらく「あんまりホラー色を出すとライトな観客が来ないでしょ」と判断したのではないでしょうか。


そしてそれはきっと正解なんです。


ポスターに散りばめられたポップなコピーの数々。

 

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「あの、ポップでキラキラした絵作りが得意な中島哲也監督の映画です!!!」というのを隠す気も無く前面に訴えています。


僕はそのやり方が納得いきません。


だったらホラー映画なんて作らなきゃいいじゃないですか。


「トラウマになるくらいの恐怖を与えてやるぞ」という気持ちがないなら、そこから逃げるなら初めからやらなきゃいいんですよ。


このポスターを作った人達に、そんな気持ちは無かったはずです。


前述通り、ビジュアルはお洒落でかっこいいです。


でもやっぱり僕はこのポスターが嫌いですね。

 

タイトル文字


こういう洒落たデザインはとてもいいと思うんです。

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わずかに切ってズラした文字になっていますね。


これは劇中「あれ」に襲われた際の様子や、お守りが切り取られた際の様子を表現しているのでしょう。


シンプルでいて、可読性も高く、映画との関係性もしっかりしているというタイトルは理想の形です。


だからこそ、ポスター内に入れる情報(文字)に無駄なものが多いことが悔やまれますね。

 

関連ポスター

 

こういう遊びはとても好きだし楽しいですね。

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いいぞもっとやれ。

とはいえ、やっぱりこれもわざわざ映画を恐怖から遠ざけることになってるんですけど。

 

まとめ


時間がたてばたつほど「愉快な映画だったな」と思います。


鑑賞してない人には素直におすすめできます。


ただし「心の底からびびりたい人」にとっては無関係な作品でしょう。
それでいいのかと思ってしまいますが、ともあれこういう映画体験もいいもんですね。
それでは、また。