映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

GET OUT 《映画もポスターも切れ味抜群!》

f:id:peasemile:20190624170814j:plain

映画の点数…87点
ポスターの点数…93点

 

制作費5億円でもオスカーは獲れる


今回取り上げる映画は《GET OUT》


監督・脚本を務めたのは、アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”のジョーダン・ピールさんです。


制作費は5億円程度と言われていますが、映画としては初監督の作品で見事アカデミー賞・脚本賞を受賞しています。


あのスリー・ビルボードを差し置いての受賞ですから素晴らしい。


コメディアンの初監督作品であり、制作費も5億円


それでも世界中で大大ヒットしたという(日本ではあまり客足が伸びなかったそうですがね)


そもそも映画が終わるまで一度も「予算が足りなかったのかな」と思う箇所は無かったです。


そんなGET OUTは映画としてもポスターデザインとしても切れ味抜群の映画でしたよ。

 

映画のアウトライン


映画評論家の町山智浩さんは本作を「コメディです」と言っていましたが、構造や精神はコメディだとしてもパッと見としてはホラーでありスリラーであると思います。


大雑把なストーリーとしては


カメラマンの黒人青年が、白人の恋人の家にご挨拶に行く。


差別主義者ではないと自称する家族ではあるが、家族の振る舞いや友人達の振る舞いから主人公は不快感を覚える。


それとは別に、薄気味悪い態度のお手伝いさんや母親の態度を受けついに恋人と一緒に家から帰ろうとするのだがー。


ってお話です。


ホラーでありスリラーである以上、作品には必ずオチがあります。


そして、オチを明かしてしまうと急に作品のスピード感が無くなってしまうのがこの手のジャンル映画の弱点です。


ところが《GET OUT》 においてはそれがない。


とにかく映画が始まってから終わるまで一度も退屈しませんでした。

 

映画の良かった点


脚本の素晴らしさや社会風刺の切れ味は言うまでもなく素晴らしかったです。


その他に良かったと感じたのは、映画全体のルックスです。


近年のホラー映画で言うと「ドント・ブリーズ」や「イット・フォローズ」などもそうですが、ホラー映画だとか思わないほどに映画全体のルックスがいいんですよね。


一言で言うととても観やすいし、洒落ている


ホラー映画となると素人考えで画面を暗くしたりおどろおどろしくした方が良い気がしてしまうのですが、そうではなくてあくまでも観やすく綺麗に撮る。


でも実はカメラの傾き方や登場人物の目線ひとつで恐怖を感じさせる演出を細かくしているということです。


感覚だけで撮影するのでなく、かなり計算された撮り方をしてあることが分かって感心しました。


オチが分かっているにも関わらず、何度も観たくなるディティールの細かさがあります。

 

ポスターの感想


映画に負けず劣らず、ポスターの出来も素晴らしいです。
まずよく見かけたメインビジュアルから。

f:id:peasemile:20190624170814j:plain


とにかくビジュアルが大きなインパクトを持つポスターです。


主人公が椅子に固定されて激しく顔を歪めているとおり、画面が白と黒に二分割されているというシンプルなレイアウト。


シンプルだからこそ力強いメッセージを感じます。


それぞれ分析してみます。

 

大きなミスリードにもなっているビジュアル


まずこのポスター、ある意味で大きなネタバレをしています。


主人公が作品の中盤(といってもかなり後半)に椅子に拘束されてしまうのですが、それをポスターでバラしちゃってます。


映画を観る側は「はいはい、主人公がいつか拘束されるのね」と思いながら観ることになります。


映画を見続けていると、うっすらと浮かび上がってくる黒人差別を感じ取り「ああ、彼が黒人だから虐待されるようなストーリーになるのか」と思い始めます。


ポスターのビジュアルを知っているからこそ、そう自然に感じてしまうのです。


うまいですねー。


何がうまいって、そう思わせておきながら実は全く別の理由で拘束されるわけですから。


つまりこのポスターは、観客にネタバレしたと思わせつつ、実はそれこそが観客を見事に騙しているという仕掛けになっています。


誰ですか、このポスター考えた人。


かなりのファインプレーじゃないですかね。


完全にやられました。

 

キャッチコピー


キャッチコピーには「just because you're invited , does'nt mean you're welcome(招待されたからと言って、歓迎されるとは限りません)」とあります。


映画を見終わった後なら分かりますが、このキャッチコピーもミスリードになっています。


観た方なら分かる通り、主人公は最初から最後まで「歓迎」されていますからね。


このように、ポスター1枚の中に多くのだましの要素があるわけですね。


憎いですな。

 

画面の分割


画面を分割している白と黒が意味するものは何でしょうか。


映画を見終わった後なら「意識だけ残っている自分」と「肉体の自分」が切り離された状態ということの暗示だというのが分かりますね。


ですが他にも「黒人と白人」と切り分けられてるという見方も出来ます。


さらに「GET OUT=出て行け!」を分割して「GET=手に入れる」側と「OUT=追い出される」側に分割しているという見方も出来るのですが。。。。。これはさすがに考えすぎですかね??


映画の考察をしようと思うほど、ポスターの中に隠し要素があるのではないかと興味がわいてきます。

 

表情


とまぁ色々言ってきましたが、何よりも主人公のこの表情がとにかく素晴らしいですね。


この顔を観るだけでも「え!何があったんだろう!!?」と映画を観たくなるじゃないですか。


そもそも多くの方はポスターを観た際に基本的にこの表情しか観ていないはずです。


僕が今まで挙げた要素は「潜在意識に訴えるもの」であって、主人公の表情や撮り方が魅力的だからこそ意味があるものです。


そういった意味ではやはり主人公のダニエル・カルーヤさんのこの表情が撮れた時点でポスターとしては勝ってるということでもあります。

 


日本語版ポスター

f:id:peasemile:20190624170949j:plain



うーーん。


残念ながら、僕が今まで挙げてきた良さは大きく目減りしたような気がしますね。


日本語版ポスターの方が明らかに「親切」であるというのは分かっています。


主人公が拘束されている、そして背後の誰かが犯人のようであるということをしっかり伝えています。


キャッチコピーは「何かがおかしい」とあるので、一見普通に見えるこの後ろの人達が何か不可解な行動をとるのだろうということが分かります。


分かるんですけど。。。


いや、親切すぎませんかね???


観ている側だって「よーし、正体をつきとめるぞ!」という気持ちで映画を観ていますし、監督も「さーて、誰が犯人かな?」みたいな撮り方をしているじゃないですか。


映画を観ると自然とそういう気持ちになるようにちゃんと作ってあるのだから、それをポスターの時点で言われると「なんか冷めちゃうなぁ」という気がしてしまうというか。。


後ろにいる人達もなんか中途半端です。


恋人を入れるのであれば、主人公の親友やパーティーの参列者も入れるべきだと思うし、そうじゃないなら恋人は同じ並びに入れない方がいいと思います。


そもそも有名な俳優も出ていないのですから、ここは潔く情報は極限まで少なくする方がむしろ興味を引き立てると思うんですけどね。。。


この映画をわざわざ観ようと思う人に対して適切なポスターとはあまり思いませんでした。

 

さらに別パターン

f:id:peasemile:20190624171021j:plain



わお。


これはすごいポスターですね。


映画を観たあとに観るとゾッとしてしまいます。


こういう遊び心のあるポスターを作るあたりが気がきいてますね。

 

まとめ


今回は「映画も満足、ポスターも大満足」なご機嫌な一作でした。


とても健康的でよろしいと思います。


こんな健康的な気分をホラー映画から感じ取るのも我ながらどうかと思いますが、予算がなくてもアイデアと工夫で良いものは作り得るという励みになりましたよ。


それでは、また。


ゲット・アウト [Blu-ray]

 

↓ 面白いと思ったらクリックください!励みになります!

にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村