映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

レディ・バード 《映画とポスターの乖離が気になる作品》

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映画の点数…90点
ポスターの点数…45点

 

予想を超えた傑作


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画はレディ・バードです。


正直ですね、この映画観るつもりなかったんですよ。


それはもうハッキリと、ポスタービジュアルのせいです。


後で詳しく書きますが、とても自分と相性の悪そうな映画だと思ったんですね。


ところがゴールデングローブ賞は受賞したしアカデミー賞もいくつかノミネートされたし、ロッテントマトでも評価が高いし。。。


イチかバチか観てみるかということで鑑賞。


いやー、そういう冒険もしてみるものですね。


90分の小粒な作品ながらも傑作でございました。

 

映画のストーリー


あらすじを書いているだけで具合が悪くなりそうですが、「ここではないどこかへ」を夢見る高校生の女の子クリステインレディバードが繰り広げる日常が舞台の映画です。


サクラメントという田舎とも都会とも言えない街で暮らすレディバード


基本的には(日本でいうところの)高校3年生の1年間を通じて、親との確執、友達との関係性、恋とリビドー、そして大学進学と街との別れ。


一言で言えば「青春映画」には間違いないのですが、生ぬるいスイーツ映画とは違って胸をギリギリと締め付けてくる映画です。


コメディタッチの演出で何度も劇中笑ってしまう場面はあったのですが、当の本人達はいたって真面目に行動してるんですよね。


そこがさらに面白いし、ホラーでもあるというか。


まるでかつての自分を観ながら「バカだなぁこいつは」なんて言いながら笑っているかのよう。

 

映画の良かった点


監督自身の体験も織り込まれているそうですが、一つ一つの行動がかつての自分を観ているようで胸が痛いというか。


自分のことを“レディバード”と名乗るのも痛々しいし、クラスのイケてる女の子に寄り添っていくのも見てられないし。


自意識を剥き出しにしていることを自己表現と勘違いしているあたりが、なんとも大人の心を激しく動揺させます。


でもそれはそれとして、まずは普通に楽しい映画なんですよね。


なんでももともと6時間くらいになりそうだった映画を90分にしてあるということで非常にテンポが良くサクサク進みます。


まず冒頭の母親との痴話げんか→車から突然のダイブ→母親の絶叫→タイトル、という流れが非常に心地よくって。


そこだけですでに「はい、これ傑作の予感」というくらい。


こういう、そもそも楽しい映画なんだけども心臓にグサグサくる映画というのは大好きなジャンルで。


「シング・ストリート」や「勝手にふるえてろ」、「横道世之介」なんかが思い浮かびます。


置かれている状況なんかは細かく違いますが、【大人になる、その瞬間】を描いている点では一部共通するのではないでしょうか。

 

レディ・バードの焦点


映画評論家さんのレビューでは「これこそが自分のなりたい自分だと暴走しては、派手に失敗する」と書かれていました。


その意見は否定しないんですけど、個人的には「ただ単に、今の自分を否定したくて言い訳を並べているだけ」の人物としてレディバードを観ていました。


「今の自分がつまらないのは、田舎のせい、母親のせい、恋人がいないせい、友達がイケてない女の子のせい」という。


そこから離脱するためにジタバタしてるだけで、自分の本質は何も成長していないという悪循環にハマる様子を描いていると思いました。


まぁ多分、自分がそうだったからそう見えるのでしょう。


「ここではないどこかへ」という点は同じでも、前向きな姿勢なのか逃げ出したいだけなのかはちょっと違うと思うんですよね。


かなりテンポの良い映画で具体的な描写を省いているところも多い分、観る人によって感想が変化するような映画なのだと思います。


そういう映画って素晴らしいですよね。

 

ポスターの感想


さて、今まで映画を褒めてきたのですが、映画ポスターにはちょっと文句がございます。


僕はこのポスターを観てこの映画を今までスルーしてきたのですから。

 

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まず、ビジュアル面については言うこと無しです、100点ですよ。


斬新なレイアウトだし、彩度の抑え方やフォントの使い方までどれをとっても素晴らしい。


でもですね、映画ポスターとしてはどうなんだろうと思うわけです。

 

映画のテーマと乖離していないか


冒頭でお話しましたが、僕はこのポスターを観て「これは相性が悪そうだ」と感じたんですよ。


特に日本語版ポスター。


まだ映画を観ていない前提で言うと、涼しげな顔をして神を赤く染めた女性。


後ろには十字架がうっすら見えていて宗教的な雰囲気も強い。


まっすぐ前を見ているけど、何も観ていないかのように空虚な顔をしている。


そしてキャッチコピーが「羽ばたけ、自分」。


これはまずい、非常に危険な臭いがする。


これらの情報から僕が判断したのはアメリとかに代表される、ちょっとイっちゃった女性を主人公に、見た目だけがゴージャスで、雰囲気だけがお洒落で、見た目だけの恋人が出てきて、ふんわり・ふんわり・ふんわりとした映画」だと思ったんですよ。


セカイ系という言い方でもスイーツ系という言い方でもいいのですが、とにかく観ている間中こっちが恥ずかしくなるような映画。


どうでしょうか?


そのような映画のポスターにも見えてきませんか?


実際の映画はもっと泥臭くて血のにおいもするような映画なのに。


主演のシアーシャさんはあえてニキビも隠すことなく映画に出ているのに、何故ポスターではツルンと陶器のような横顔なのでしょうか。


少なくとも映画内に出てくる彼女とポスターの彼女はあまりに乖離していると思います。

 

キャッチコピー


先ほど日本語版ポスターのキャッチコピーがマズイと言いました。


「羽ばたけ、自分」。

 

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一見悪くなさそうなキャッチですが、僕はいまいちだと思います。


まず、英語版でのキャッチコピーは【Fly Away Home】です。


羽ばたけ、は良いとしても【自分】と【Home=家】では意味が違ってくるでしょう。


レディバードは、自分自身を羽ばたかせることではなく、とにかく今いる場所から逃げ出したい人物のように見えます。


なので【Fly Away Home】はしっくりくるのです。


たしかに「羽ばたけ、家から」では良くないとは思いますが、それならば「逃げ出せ、自分」「私から、羽ばたけ」とかの方が良いのではないでしょうか。


こちらの方がより生々しさを感じるので映画に沿った言葉のように思うのですが。。。

 


まとめ


ビジュアルがカッコイイポスターだっただけに、映画との内容の乖離が非常に残念です。


もしもこのポスターを観て映画を借りた人は「なんかスイーツな感じがあんまりしない」と逆に不満に思うのではないでしょうか。


映画を観て欲しい客層と、実際に観てしまう客層が合致しなくなるポスターだと思います。


もう少しどうにかならなかったのかなぁ。


映画はお薦めです!!


それでは、また。

 

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