映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

吉原炎上 《気付きにくいが狙いの効いているポスター》

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ポスターの点数…75点
映画の点数…81点

 

吉原炎上について


恥ずかしながら、吉原炎上についてはほとんど知りませんで。


内容はある日突然燃え上がった吉原と、そこにいる恋人を助けるために活躍したレスキュー隊の物語かなくらいの感じで鑑賞しました。


レスキュー隊は最後まで出ませんでしたが、複雑な恋愛模様というのは描かれていましたね。


あと、なかなか燃えない吉原が最後の最後でボーボーに燃え上がるあたりは圧巻でした。


CGではなく本当に物体が燃えているという映像を観るのは、実は最近では貴重な体験なのかなとも思いましたね。

 

ポスターの感想


一見、出演者達を切り取って並べたようなビジュアルです。

 

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特にメインの二人は映画の序盤の名シーンから引っ張られているので「出演シーンから引っ張ってきた」ように見えるのですが、そこまで単純な話ではありません。


おそらく意図的にこれらのシーンを散りばめてあるのだと思われます。


その意図とは、演者達の目線です。


何人もの人物が写っていますが、いずれの人物も目線が合っていません。


女優同士の目線も合っていませんし、カメラの方も向いていません。


かと言って他の何かを見ているわけでもなく「ここではないどこか」をぼんやり想っているかのような目をしています。


この目線から読み取れる「後ろめたさ」や「背徳感」や「絶望」から、底知れぬ色気がにじみ出てきています。
(個人的にはそういう後ろめたい性に対する興味はないのですが)


大雑把に言ってしまえば、女性達のなんとも不幸な顔こそがこの映画の内容を表していると言えるでしょう。


考えてみると、映画の中においても人物同士が正面から語り合うシーンはそこまで多くありません。


最後の最後あたりで、名取と根津の一騎打ちのようにぶつかり合うシーンがありますが、それ以外に印象に残るシーンで目線を合わせるシーンはないように思います。


この「視線が合わない」ことはこの映画全体の狙いであるとも言えそうです。

 

総合的にみると


とはいえ、総合的に見ていいポスターだとまでは思っていません。


五社監督のおなじみらしい赤を基調としてビジュアルはカッコイイのですが、これだけの大作に対してはどことなく散漫な印象のポスターになっています。


やはりここは「目を疑うほどの」色っぽさを前面に出した方が映画のポスターとしては良かったのではないかと思うのです。


ポスターが豪華絢爛であればこそ、映画内に漂う人間達の空虚感が際立ったのではないでしょうか。


映画の感想


ここまでどっしりとした映画にも関わらず全く飽きたり疲れたりすることなく楽しむことが出来ました。


2時間15分という長尺の時間をすべていわば「風俗店」だけで構成した映画って他にあるのでしょうか。


女優達の多くもヌードに対し積極的に対応しているし、その後のイメージにも大きく関わるようなリスクある映画だったのでしょうが逃げずに真正面から演じています。


演技面に関しては圧巻の出来でして主役クラスから脇役までいい役者が揃っています。

 

性風俗の映像化について


例えばジョージ C スコットの「ハードコアの夜」や最近だと「万引き家族」など、性風俗を映画で描く際には基本的に禍々しさや絶望感と共に表現されます。


吉原炎上ももちろん絶望感のある描き方ではあるのですが、それと同時に花魁達の気高さや美しさもきっちりと描ききっています。


ある意味では「性風俗の賛歌」ともとれるかも知れません。


こういう姿勢に対し「NO」を唱える人も当然いるだろうし、僕自身も「風俗嬢かっこいいよね!フーー!!」とは全く思えませんが。


それでもどうしても映画から感じてしまう圧倒的な美しさというのはあって、それだけは否定しきれない部分だと思います。


それが「桜」と同様に限定的な美しさからくる感動なのか、それとも別の何かなのかは分かりません。


ただ、この手の映画を逃げずに撮りきったというだけでも文化的価値は大いにあるのではないでしょうか。

 

不満点


不満点が一つあり、実はそこがかなり大きなポイントだと思っているのでそれだけは残念でした。


名取演じる主人公が、どの段階で「花魁として天下をとる」という心境にいたったのかがちゃんと描かれていないように感じました。


「悔しさ」からなのか「諦め」からなのか、具体的な動機が分からないままに花魁として成長してしまうので、気持ち的にノレないんですよね。


その心境の変化がきっかけで周りの人物達との交流も変化していくので、きちんと描かなければならなかったシーンだと思います。


作品全体が映像から映画を作り込んでいく美しさがあるのに対し、ドラマの方はちょっとないがしろにされているのかな思ってしまいましたね。


とは言え、やはりこの作品は映画を好きになっていくうえでマストな一作だと思います。


たまにはこういう重厚な邦画も見てみたいですな。


それでは、また。

 


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