映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

夜空はいつでも最高密度の青色だ 《映画はともかく…ポスターは最高》

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映画の点数…45点
ポスターの点数…90点

 

詩集を原案とした映画


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は夜空はいつでも最高密度の青色だです。


最果タヒさんの同名の詩集を《舟を編む》で知られる石井裕也さんが監督した作品。


詩集が原案というか、もう本当にストーリーの中で登場人物達が詩を読む=セリフを言うというような仕組みになっていて。


なのでセリフとしてはハッキリと不自然だしおかしな点もあるんですけど、それも踏まえて楽しむタイプの映画と言えます。


主人公には石橋静河さんと池松壮亮さん、脇には松田龍平さんや田中哲さんら実力派が揃ってます。

 

映画のストーリー


看護師として働く傍ら、ガールズバーでバイトをしている美香(石橋)。


日雇いとして建築現場で働く慎二(池松)。


偶然の出会いから二人の交流が始まり、お互いの心を通わせていく話です。


少し踏み込んだ言い方をすると、自分のことを肯定できないタイプの主人公達が、生きることの意味や死ぬことの意味に向き合いながら少しずつ前向きな心を育んでいく、みたいな解釈でしょうか。


自律神経症のような症状を持っている慎二(劇中では自身のことを「俺はおかしいから」みたいな言い方をしている)は、ものすごくお喋りな時と全く何も喋らない時の差が激しい人。


それに対して美香は、すべての事象や心情を言葉にして整理したい人。


その手段として詩が登場します。


大きな事件が起こるというよりは、主人公達が自分に向き合って正直な気持ちを取り戻すようなシーンが多いですね。

 

映画の良かった点


詩を映画にするという、そのチャレンジングな姿勢はやっぱり良かったと思います。


観たことのない映画体験が出来るという意味では観る価値が絶対にある映画ですね。


画面全体の作りがザラザラしていて湿っぽい感触というのも良かったです。


目線が「世界全体」に向かないように、内側内側に迫っていくような演出は観ている側に対してとても親切な作りだったなと思います。

 

映画の不満点


とはいえ、正直僕は映画全体は苦手でした。。。


とにかくあらゆるシーンが「それっぽーい」くらいで止まってるんですよね。


「日雇い労働者=社会の底辺」とか「水商売で働いている=心が貧しい」とか「親との関係が悪い、あるいは死別している=その後の人生に暗い影を落とす」とか。


どこかで見たことあるような設定の人物達がウロウロ悩んだりしているので「それって偏見なんじゃないの?」と反発したくなっちゃって。


そうじゃなくって、「まわりの人から見るとどう考えても不幸な要素は見当たらない」のに自己肯定が出来ない人物達にした方が良かったと思うんですけどね。


どの人達も、才能がないかお金がないかだけの問題で、例えば宝くじが当たってしまえば悩みなんて全部無くなるような人たちなんですよね。


だったら別に映画で見なくてもいいかなーなんて。
特に不満だったのは、池松さんが演じる慎二を少し障害のある人のように描いていること。
言葉は少し不自由だけど、心はとても純粋!みたいな感じ。


ものすごく嫌いな発想に思えちゃうんですけど。。。。


平成の終わりにそんな表現しちゃう?みたいに思っちゃいました。

 

そもそも詩集は。。。


そもそもの問題ですが、詩集を題材に映画を作ることの意義。


意義はあったと思います。


姿勢は買います。


でもやっぱり。。。。うまくはいってなかったかと思います。


詩を喋っている間、どうしても映画の時間が止まるんですよね。


詩の意味を考えながら映像を追っているため、どうしてもワンテンポからツーテンポ映画としておかしな間が出来てしまう。


それにやっぱり詩は活字として読んでこそ成立する媒体なんだと思いましたよ。


自分のペースで、自分で映像を作りながら、自分の言葉で読んでいくからこそ感動的なのであって。


誰かのペースで、映画の映像を観ながら、人が呼んでいるのを聞いてもそりゃ感動しないなって思います。


残念ですけど、肝心の詩を読み上げるシーンこそが一番退屈だと思ってしまいました。

 

ポスターの感想


ところがどっこい。


この映画、ポスターがとてもいいんですよ。


4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのフルカラーのこと)で作ったポスターはこちら。

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まぁ、これはこれでいいんですけどそうじゃなくってもう一案の方。


3色(特定の色を組み合わせた3色)印刷で作ったポスターがこちらです。

 

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かっこいい!

 

こういう印刷って、本来は「お金がないとき」に使う方法なんですよ。

 

例えばスーパーのチラシとか。

週末の数日しか使わないチラシに大きなお金はかけられません。

だから印刷に使うインクの種類を絞って安く済ませるんですよね。

 

当然ながら、映画のポスターなどに用いることはほぼありません。

 

見てもらうと分かる通り、人物の顔も一色で塗りつぶされるので表現の幅が狭まりますからね。

 

ですが今回のポスターはそれを逆手にとりました。

 

色の足りない安っぽいビジュアルが新鮮です。

 

そしてその表現自体がこの映画のニュアンスを非常にうまく伝えてくれています。

 

どこか頼りなく東京で暮らすこの二人にとって世界はこのように偏った見え方をしているのではないか。

 

そんな二人が重なるとき《赤と青が重なるとき》に何か違った色が見えてくるのではないか。

 

見た目がおしゃれであるのと同時に、映画の内容にマッチしたとても良いビジュアルに仕上がっています。

 

まとめ

 

仕事をしているとついつい「予算もねぇのにマシな仕事は出来ねぇよ」と思ってしまうんですけど、こういういいポスターを見てしまうと甘ったれたこと言ってられねえなと思いなおします。

 

イデア次第で捻り出せる可能性はまだまだあるんだろうなと。

 

映画監督にとって嬉しい言葉ではないかも知れませんが、このポスターを見た後に映画を観ると補完して良く見えて来る部分すらあります。

 

ポスターの魅力ってまだまだあるよなぁと思った次第。

 

それでは、また。

 


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