映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

アイアン ジャイアント 《大人向けアニメとしては傑作》

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映画の点数…75点
ポスターの点数…70点

 

こんにちは、ピースマイルです。


監督であるブラッド・バードさんの作品は気付かないうちに大体観ているのに気付いたのですが、作品ごとに波がある印象で好きな作品も苦手な作品もいくつかあります。


特に「トゥモロー・ランド」は世間的にも評判が良くなく、僕も苦手でした。


ただ、多くの映画ファンが「アイアンジャイアントはいいんだよな」と褒めるのを聞き、ほぼ公開から20年もたった今更ながら鑑賞してみました。


なるほど、なかなか良質な作品でした。

 

質感の素晴らしさ


公開が1999年ですからトイストーリー2やムーランくらいと時期が近いのですが、ディズニー・ピクサーと比較しても全く遜色のないレベルのビジュアルです。


むしろCG技術の向上により、トイストーリーなどは今観ると古く感じる部分があるので、今となってはアイアンジャイアントの方が綺麗という印象すらあります。


70億円ほどかかった制作費は回収できなかったようですが、後年まで評価され続けることで最終的には黒字化したのではないでしょうか。


ただしこの映像的な素晴らしさが、一般的な評価と一致しているかというと疑問です。
この映画は最新のフルCGの技術力を使って、映画の舞台となる1957年くらいの質感を出すというチャレンジがされています。


「まるで1957年に制作された映画を観ているようだ」と錯覚するほどです。


でもこれを映画的なリテラシーのない子どもに見せても「トイストーリーの方が綺麗」と判断するでしょう。


ほんの少し程度でもアニメーションへの理解度がないと、逆に気付くことがないくらいの完成度の高さなんですよね。


そもそも監督は「Mr.インクレディブル」などでもやっていたような「現代の最高レベルの技術を使って、007のようなクラシックな映像表現をする」という試みが得意な人です。


この少し古くさい感じも含めて監督の意図だったはずなので、ある程度観客を限定したのは仕方ないことかも知れません。

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構造はE.T.と一緒


映画の構造はE.T.と同じです。


「ある日やってきた異形な友達と交流を深め、危機に立ち向かう」という話です。


その交流を通じ、少年が成長していくというのがフォーマットとなります。


今回のアイアンジャイアントの特徴としては、ジャイアントを成長させることで少年も自然と成長していくというものでした。


特に前半の方のロボットと心を通わせていくシーンは面白かったです。


鹿がハンターに射殺されるシーンを通して文字通り「心」を持ち、そこから「魂」の存在に気付いていく様子は感動的でした。


このあたりは「バンビ」であったり「ライオンキング」を意識したんでしょうかね。


映画内の印象的なセリフに「なりたい自分になれる」という言葉が出てきますが、それがメインテーマでもあるのでしょう。


何故かこの「なりたい自分になれる」というメッセージは後の作品にあまり引き継がれないのが謎なのですが。


このあたりだけをとってみれば、子どもに観せるに十分な作品だったと思ってるんですけどね。。。

 

不満点


この映画を「大人向け」と僕が思ったのは、ある程度のリテラシーがないと戸惑ったり誤解するシーンが多いと感じたからです。。


1957年が舞台なので、もろに冷戦の影響を受けてます。


ヴィランであるケントはソビエトからの侵略を異常に恐れており、ほとんど盲目的にジャイアントを破壊しようと動き回ります。


このあたりの心の動きをもう少し丁寧に描かないと、観ている側があまりノレません。
特に作中「ソ連というのは悪い国だ!」という描写も特にないため「なんでこの人はこんなにロボットを壊したいんだろう?」というのがよく分からないのです。
(まぁ今更ソ連の脅威について語り直すセンスもどうなのかなとは思いますが)


さらに、ロボットを壊すケントが悪い奴というような描かれ方をされていますが、こちらも意味は分かりません。


壊すか壊さないかは置いておいて、ロボットを一刻も早く発見しないといけないというのはごく自然なことです。


むしろ隠そうとしている側がおかしいでしょう。


ていうか何故隠そうとしているのかすら特に理由はないですよね。。。


観ているこちら側が、「大人は悪い奴っていうフォーマットの通りの設定なのね」と解釈しながら観る必要があります。


E.T.などの設定を借りているというだけで、このあたりの詰めの悪さが特に映画に慣れていない子どもに対してノイズになっていると思うんですよね。

 

ケントというキャラクター


この後ケントは最終盤になりようやく「人として超えてはいけないライン」を超えるのですが、それまでは基本的には「普通の人」なんですよ。


巨大なロボットによって町が破壊されているんですから、そりゃ全力で捜査するでしょう。


子どもがロボットを隠していると気付いたら、それなりに強気で居場所を聞くはずです。


だって発電所を丸ごと破壊するようなロボットですから。


今すぐ見つけないといけないと思うのは当然です。


ですが、映画内では終始このケントは悪役として描かれます。


子ども向けアニメとはいえ、これはどうかなと思います。


他の映画のパクリでもいいので、ケントがロボットを軍事に利用しようと企んでいるとかいう設定で良かったんじゃないですかね。


最後に至ってはもっと意味不明です。


ほとんどパニック状態になったケントがロボットに対し核攻撃をするのですが、監督や制作陣は原子爆弾に対する知識が何もないのでしょうか?


そもそもの設定が「ソ連からの核攻撃を恐れている」というものだったのにも関わらず、自分たちはいとも簡単に核を発射します。


日本人としては非常に不快な表現でした。


放射能というものもまるでないような描き方ですし、まさかただの大きな爆弾くらいにしか思っていないのでしょうか。


不用意な核描写をいれるくらいなら、子どもが鑑賞できないR18にでもしてほしいです。

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映画のまとめ


全体として非常にレベルの高い作品だった故に、その他の不必要だったり不用意な設定や描写がもったいなかったです。


子どもとの鑑賞の際には、リテラシーのある大人の解説が必須な作品なのではないでしょうか。


もしこれが全てブラックジョークなのだとしたらそれでいいんですけどね。
なんかそんな感じでもないしな。。。

 

ポスターの評価

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公式ビジュアルがたくさんある映画なのでどう評価するか迷うところなのですが、メインビジュアルと言ってもいいこちらのポスターについて。


映画を観た方なら誰しも「あ、スーパーマンのポーズだ」と気付くはずです。


このポーズというだけで、映画のテーマである「なりたい自分になれる」というメッセージが伝わってくるいいポスターですね。


ただし、それはあくまで映画を見終わってからの話。


この映画を観たことのない人に映画の内容を広告する意味合いとしては微妙です。


映画の最大の持ち味である「最新技術を使った1957年の表現」というのがうまく伝わってきません。


質感的にハッとさせる表現を優先させた方が良かったんじゃないかと思います。


公開から20年たった今でも全く問題なく鑑賞できるレベルの作品なのですから、そこを強調すべきと思うんですけどね。。


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それでは。

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