プレシャス《最低なポスター》
映画の点数…85点
ポスターの点数…0点(日本バージョン)
ポスターの点数…95点(イラストバージョン)
こんにちは、ピースマイルです。
アカデミー助演女優賞にモニークさんが選ばれたり、マライアキャリーさんが女優として(しかもかなり上手でございます)出演されているこの映画【プレシャス】。。。
といえば聞こえはいいのですが、映画のレベルの高さに比べると作品の認知度が低いなと思って残念に思っております。
理由の一つに、主演女優であるガボレイ・シディベさんの知名度が映画公開時点で皆無だったことや、お世辞にも容姿が綺麗な方ではないことが挙げられると思います。
もちろんその「誰にも知られていない」ことも「美しくない」ことも映画にとって必要な条件だったのである程度仕方ないのですが、それでもやはり「もっと売れていいのに!」と思ってしまうのも事実。
こういう時にこそ、当ブログの趣旨の一つでもある「映画ポスターの魅力」を通じて作品認知度をあげていきたいところ。。。。。。。。
と、思いきや、ですよ。
かなりムカッとくるレベルで日本版ポスターがひどかったのでそれを記録したいと思います。
ボルテージ高めですがいってみましょう。
映画のあらすじ
まず映画のあらすじをお伝えしないと僕の怒りは伝わらないので、かなりザックリですが書き留めておきます。
「黒人女性プレシャス(16歳)は、両親からひどい虐待を受けて育ってきました。
プレシャスは父親から日常的にレイプされており、すでに一人のこどもを出産しています。
かつ生まれた子はダウン症を患っており、とても16歳の少女一人で育てられるような状態ではありません。
さらには再度父親からのレイプにより第二子を妊娠中であり、それが元で学校を追い出される形となり支援学校に転校することになります。
その間母親は娘に与えられるはずの生活保護をあてに暮らしており、やはり日常的にプレシャスに肉体的・精神的な虐待を続けています。
終盤になると、さらに目を覆いたくなるような大きな悲劇が彼女を襲うことになります。」
これが映画のあらすじです。
最後だけぼかしましたが、なるべく主観を入れずにあらすじだけ書くとこのような主人公の話です。
どこを切り取っても反吐が出る話ですよね。
特にモニークさん演じる母親があまりにもクズすぎて、観ている間ずっと不愉快な気持ちが続きます(だからこそ見事オスカーを受賞したのですが)。
この世の地獄を詰め込んだ映画なわけですが、いくつかの出会いと、プレシャス自身の強い心(ここが大事)もあり【わずかな希望】を感じさせたところでこの映画は終わります。
さて、ではこの映画をどのようにポスターにすれば多くの人の心に訴えることができるでしょうか。
海外版ポスター
まず海外版ポスター(写真バージョン)です。
画面中央に小さくまとめられた主人公プレシャスと映画タイトルや文字情報。
ふてぶてしく、でも孤独に歩くプレシャスからは、薄く羽がはえクラウンをかぶっています。
これだけの情報でも「決して幸せではなさそうな女性に、何かしら希望が芽生える物語なのだろう」という予想はたてられます。
この「プレシャスに羽があり、クラウンがある」ということは重要です。
映画の序盤こそ新しいことに立ち向かう勇気を持てなかったプレシャスですが、それでもひとつづつ自分の力で目の前のことに向き合っていきます。
この、モタモタと成長していくというバランスがとても良く、いかにも映画的という成長はしないんですよね。
だからこそ「薄い羽とクラウン」なのでしょう。
イラストバージョン
もっと特筆すべきはこちらのイラストバージョンのポスターでしょう。
簡単な平面デザインだけで、黒人女性がレイプの魔の手により心と体をバラバラにされているということが一目で分かります。
そもそも主演女優に知名度はないのですから、ポスター内に必ずしも女優の写真を入れ込む必要はありません。
むしろ知名度がないからこそ刺激的なポスターにすることにはメリットがあり、広告的な観点からも素晴らしいポスターだと思います。
映画の内容自体がこのポスターのような地獄を描いているのですから、観客の興味と実際の映画の距離感も近いと言えます。
さらに、映画を見終わったあとであればこのポスターを観るだけで吐き気がします。
映画の思い出を補完してくれるわけですね。
このようなポスターが日本で無数に貼られるという状況は想像できませんが、この映画を本気で観てほしいのならば絶対にやるべきです。
目を背けてはいけないことを描いている映画なのですから。
もしも「このような刺激的なポスターを公共の場に飾るべきではない。被害者の気持ちも考えるべきだ」という人がいたとしたら、少なくとも僕はそのような人こそ信用できない。
「いかにもらしいこと言って、見ないふりしたいだけでしょ?」と思ってしまいます。
最も観たくないものをエンターテイメントとして観るチャンスを与えてくれるのが映画の素晴らしい機能の一つですからね。
最悪の日本版ポスター
さぁ、ここから少し口調がお下品になるかも知れませんがお許しを。
このポスターを作ったデザイナーさんに恨みは一切ありません。
広告を手がけたディレクターや広報担当には大いに腹がたっていますが。
こちらが日本ポスターです。
なにこれ。
ここまで何から何まで駄目なポスターも珍しいですね。
もう全部駄目なので、上から順番に見ていきます。
キャッチコピーが駄目
キャッチコピー「世界中の人に愛された希望と感動の物語」。
なんですかね、この小学生が考えたようなキャッチコピーは。
ほとんど何も言っていないのと同じじゃないですか。
別に「トイストーリー」や「タイタニック」についてても違和感のないキャッチコピーです。
主演女優にも知名度はないし、そこまで広く知られたベストセラーが原作でもないのですから、もっと親切に情報は伝えないと誰にも関心を持ってもらえないでしょう。
しかも原作からはタイトル変わってるんだから「みんな知ってる話なんですよ」みたいな売り込み方も不親切です。
受賞歴のごり押しが下品
その下にはアカデミー賞の受賞のお知らせがデカデカとのっています。
その他の日本の多くのポスターもこういうことは良くやるから分かるっちゃ分かるんだけど。
助演女優賞をとったからといって映画を観ようという人は、そもそもある程度の映画ファンだと思うしそんなにデカくのせる必要もないでしょ。
しかもその女優はポスターには出てきてないし。
キャッチコピーがやはり駄目
「プレシャス・ジョーンズ16歳 愛する喜びを知り、愛される喜びを知った」
このキャッチコピーつけた人、映画みてないよね?
もしくは、どっか他の映画から適当に引っ張っただけでしょ?
あえて言うならだけど、まず最初に「愛される」ことを知ったが先でしょ。
そんなことは置いておいても、どこをどう観たらこういう映画だと思ったわけ?
ピンクの文字というのもセンス無いし。
この映画が伝えたいことってこういうメッセージだと僕は全く思わない。
映画に対する冒涜だよ。
どうしてここまでして「女性らしい感動的な映画」にしたいわけ?
映画さえ観てもらえれば、嘘なんていくらでもつくの?
全然内容が違うじゃん。
なんでこの映画の絶望や地獄のことは徹底的に隠そうとするのでしょうか。
写真も駄目
使用写真も最悪ですね。
この写真を見て普通に想像するとしたら「人生って色々あるけど、子どもを愛することはとても幸せなことだよね」みたいな感想になるでしょう。
そう感じた人は何も悪くないです。
だってそういう意図に見えるもん、このポスターだと。
もう、吐き気がするよ。
このプレシャスという映画では、徹底的に【家族という最も身近な地獄】を描いているわけじゃないですか。
プレシャス自身も、自分の子どもにゾッとするような言動や行動をとります。
「子どもがいたら幸せ」なんてことが全然当たり前じゃないことを描いているのに。
さらに、このポスターでは子どもから羽がはえてクラウンがあります。
こんな改変が許されるんですか???
プレシャスの成長は、子どもという天使の誕生がきっかけでしたか?
全然違うでしょう!!!
しかもプレシャスにはもう一人、もっと問題を抱えている子どもがいるじゃないですか。
なんでその子はポスターにのせないの?
ダウン症の子はポスターにしたら駄目なの?
天使じゃないから?
もう何から何までムカつく写真のチョイスです。
タイトルも駄目
はい、最後の最後にタイトルも駄目です。
何このダッサイ文字は。
デザイナーが入社1ヶ月目で作って怒られるようなダサさですね。
なんですかね、このキラキラの金色は。
プレシャスがこういう風に見えたんですかね。
プレシャスという名前なのに今まで誰からも大切にされなかったという皮肉があるタイトルなのにね。
普通にキラキラさせちゃってるの。
センス疑いますよホント。
ポスターまとめ
というわけで、かなり怒り狂って日本ポスターを批判してしまいました。
広報の人も「一人でも多くの人に観てもらいたい」という気持ちはあるんだと思いますよ。
でも僕は「だからこそ駄目だろ」と思うわけです。
映画と誠実に向き合った結果がこのポスターなのだとしたら、あまりにも誤差が強すぎます。
せっかくいい映画だったのに、広告として大きく失敗していると僕は思いました。
残念です。
映画の感想
僕自身、この映画の女優さんや原作は全く知らずに観たのですが非常に面白かったです。
面白いといっても内容は地獄そのものなのですが、その見せ方にセンスが光っていました。
学校で出会う友達は個性が強くユニークな人が多いのが良かったですね。
プレシャスのおかれている地獄のような状況も「あ、そう」くらいな距離感を常に持っているというか。
だからこそ暗くなりすぎずにエンタメとして楽しめます。
音楽の使い方もうまいです。
映画としてかなり重要なことを言う場面でも無駄に音楽で演出などはせず、あくまで演者の演技だけで淡々と表現します。
だからこそ「いきなり状況が悪くなった」という感じがより際立っていました。
映画としては二度と観たくはない作品ですが、全ての人に一度観てもらいたい作品だと思います。
良作でした。
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それでは。
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