映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

冷たい熱帯魚 《まれにみる芳醇な映画とポスター》

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映画の点数…78点
ポスターの点数…95点

園子温という監督さんには、ずいぶん熱狂的なファンがいる一方で一定数のアンチもいるという印象があります。


「そりゃそうだろ」とも言えるのですが、ファンもアンチも含めて「何?!園子温が映画を撮っただと!どれどれ、いっちょ見てみるか」と腕まくりをするという魅力がある監督というのは間違いないでしょう。


いずれの作品も鑑賞後はグッタリするくらい映画に酔っ払うようなパンチが効いており、その中でもこの「冷たい熱帯魚」はパンチ力の強い作品の一つではないでしょうか。


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映画の感想


そもそもこの映画には元ネタがあって、もしも知らない方がいたらご自身で調べていただきたいのですが(被害者のいる事件を個人的にはむやみに拡散したくはないため)。


史実を元にしているということが映画として面白いかどうかは全く別の話ですし、期待半分で観たのですがかなり面白かったです。


特に前半1時間半くらいの加速感はたまらなかったですね。


最初からハイテンションの映画であることは間違いないのですが、スピードの調整には実は繊細さも感じられます。


主人公一家がじりじりと村田という男に支配されていくのですが、いくつかの段階で「今ならギリギリ逃げ出せる」というタイミングも丁寧に描いています。


それに対して村田がたくみな話術で逃げ道を塞いでいくのですが、そこから完全に一歩踏み込んだあと、もう逃げられないと確定してからの加速が素晴らしいというか。


「おお、今俺は映画に酔っ払っている」みたいな感覚が気持ち良かったです。

 

ドライブしていく感情


映画の中で主人公は運転手をやらされているわけですが、流されるままに感情の方もドライブしてくのが面白かったですね。


「いるよね、こんなオッサン、さっさと逃げたらいいのに」という気持ちもある一方で「あれ、でもこういうオッサンにうまいことやられた経験ってあるよね」という記憶もあったりします。


そうして目の前で起こっていることをついつい後回しにしてしまうこともあると思います。


ひとつひとつの事柄から逃げているうちに、本当の凶悪から逃げられなくなるという状況は誰もがなんとなくイメージできるのではないでしょうか。

 

最終盤の展開


元ネタがある作品なので、どこまでを映画として扱うのかは監督次第ではあるのですが、さすがに最後の大逆襲展開にはおどろかされました。


ここから急にファンタジー的な印象が強くなっていきます。


これが好きか嫌いかによって映画の評価は大きく変わると思うのですが、個人的にはラスト15分くらいはカットして良かったんじゃないかなと思っています。


あのエキセントリックな展開こそが園子温監督らしさとも言えるのですが、あとは好き嫌いの話じゃないかなと思います。

ポスターについて


そんな「冷たい熱帯魚」のポスターですが、脚本も務めた高橋ヨシキさんがデザインしています。


これがまたいいポスターです。


「わらの犬」という映画のオマージュでもあるポスターなのですが、「あ、今この人の心は壊れているんだな」ということをこれだけのアップの顔ショットだけで伝えるのはとても難しかったと思います。

 

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まずその顔を的確に表現できている吹越さんが素晴らしいんですけどね。


極端に彩度を抑えたビジュアルに黄色い文字でキャッチコピーが入り、揺れる文字組や斜めに振られた文字でレイアウトされています。


これだけ多様な要素をひとつのレイアウトに入れ込んだら目が散らかりそうなものですが、文字の色などのトーンを揃えたりすることでうまくバランスをとっています。


手書き、ゴシック体、明朝体をうまく組み合わせており、顔のアップと文字組だけで映画全体の不穏さを表現できているんだから凄いことです。

 

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あと一点、映画のエキセントリックなテンションをもう少しだけポスターから感じとれたら尚良かったのかなーなどと思いますが。

 

日本映画を突破する


この映画の最大の魅力は何でしょうか。


実在した凶悪犯なのか、演じるキャストの素晴らしさなのか。


僕は、この映画を自由に制作できた環境が一番良かったのではないかと思っています。


自由な映画づくりが出来たことは園監督も語っている通り、その他の日本映画ではしないであろう、出来ないであろう場面をたくさん観ることが出来ます。


海外への出品を始めから考えていた結果でしょうが、主演は吹越さんとでんでんさんというおよそ主人公らしくない主人公。


ポスターもおじさんのアップの顔だなんて「本気でこの映画を売る気はあるのか」というくらい斬新なものでした。


それが逆に「こうした方が映画は面白くなる」という自信をもって映画を作り上げたのだろうなという制作側の強い気持ちを感じるんですよ。

 

映画が「スポンサーから金をもらって作る」というシステムになっている以上は作品の幅が狭くなって仕方ないとは思っています。


でもたまにはこうしたリミッターのきかない作品を観るのもいいことです。

 

それでは。


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