映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ウインド・リバー WIND RIVER《多角的に満足な映画と、一部だけ満足なポスター》

ポスターの点数…90(25)点!
映画の点数…91点

 

脚本、監督…テイラー・シェリダン
出演…ジェレミー〈ホークアイ〉レナー
エリザベス〈スカーレット〉オルセン

 

振れ幅の大きいポスター

 

この映画には代表的な公式ビジュアルが2種類あるようでして。


そのポスターの完成度の幅が異常にデカい気がしてるんですよ。

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まずこちらのポスターはとても良いポスターだと思います。90点!


真っ白な雪の中に残る血痕は、何かしら背景に事件性を感じさせます。


あえて引きの絵にすることで、中央の男性が小さく写っています。


この構図により、事件を解決するのは難しそうだという途方のなさを表現しています。


背景が雪(白)なので、赤や黒などの文字にすれば目立つのですが、あえてそうせず青を基調にした配色にすることで画面全体から儚さが感じられます。


さらに、わざわざタイトルに雪まで降らせて一部が消えゆくようです。


雪原の中の孤独感のようなものがフォントからも伝わってきます。

 

キャッチコピー


キャッチコピーの「なぜ、この土地では少女ばかりが殺されるのか」というのも、ちょっと過剰な書き方だとは思いますがなかなか良いと思います。


このキャッチコピーだけで「土地(舞台)が重要な映画なのだな」と「少なくとも複数の女性が殺害されているのだな」ということが分かり、映画の内容が俄然気になってきますね。


実際、この映画を通じて初めて知識を学ぶことも多いので知的好奇心も刺激される内容なんです(逆に言えば知れば知るほど不快感を覚えていく仕組みになっている)。

 

ちなみにこのポスターを観てすぐに連想したのはコーエン兄弟のファーゴという映画でした。

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構図も結構似ていますね。


ですがファーゴの方はデカデカと赤い文字でタイトルがついており、死に対する緊張感のようなものはあまり感じません。


映画の内容自体もファーゴは人の死はさほど重要なテーマではないです。


対してウインドリバーは死や生がかなり重要なテーマなので、やはり現在の儚げなタイトル文字の方が効果的に思います。

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他のポスターはというと


ところが、このポスターだけで展開できるほど映画ポスターというものは単純では無かったということでしょうか。


こちらのポスターは、個人的にかなりガッカリポスターになっています。

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まぁ分かるんですよ。


ジェレミーレナーが出演しているということをアップで見せておきたかったのでしょう。


銃器を目立たせることで、サスペンスにより危険な匂いを演出したかったのでしょう。


ですがこのポスターでは映画の内容といまいち一致しません。


アクション的な演出もかなり優れた映画ではありますが、それは計3箇所くらいの短い時間しかなく、話の主軸というわけでは全くありません。


銃器をデカデカと出すことで、むしろ安っぽさが出ている気がします。


それよりも先ほどのポスターの方がより死の匂いがするじゃありませんか。


映画ポスターに銃器があるだなんて、たぶんメガネをかけている人よりも多いですよ。
【マイナス30度・極限の中のクライムサスペンス  ホワイトアウト!】みたいな映画っぽくないですかね。


そう思っちゃった人はこの映画観ないと思うんだけどな。


ていうか今確認したら、まさにポスター下部に【極上のクライムサスペンス】って書いてありました。


僕が1分くらいで考えたコピーとかぶってるようじゃ駄目だと思うんですけど。。。


レイアウトも問題あり


画面の分割も何故か斜めにカットされていたりするんですよ。


分割するにしても普通に直線・直角にした方がスマートだったと思います。


このポスターが結構堂々とTSUTAYAとかに飾ってあったりするんですよね。。。


映画が良いだけにかなり残念な売り出し方でしょう。

 

ポスターのまとめ


かなり個人的には好きなポスターでした。


ですが、地味であることは事実だと思います。


僕のような人間は「お、面白そうだな」と感じますが、なんとなくポスターを見ただけの人は何の記憶にも残らない可能性はあるでしょう。


そのバランスをとるのは常に難しいのですが、いくらなんでも代わりのポスターがあれじゃあねぇと思いました。

 


映画の感想


監督を務めたテイラーさんは、一番有名なのはボーダーラインの脚本家としての部分なのではないでしょうか。

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やはり今作も脚本が素晴らしく、冒頭から一気に引き込まれました。


特に意地が悪いのは(褒め言葉です)、序盤をかなり淡々と撮っている点です。


ハンターの主人公が若い女性の死体が見つける→FBIが捜査にやってくる→被害者家族のところに事情を聞きに行く という一連の流れ。


観客側からすると、映画の中で人が死んだり捜査をしたりなんてのはホントによくあることで、大して緊張もせずに見ているんですよ。


もっと正確に言うと、緊張していないことにも気付いていない状態です。


その状態にある中で、急に被害者家族の様子やまわりの人間関係を浮かび上がらせることによって「あ!人が死ぬってこういうことだよな」と今更ながらにドキッとさせられる仕掛けになっています。


画面に映っている映画と画面の外にいる自分という距離感がある状態から、首根っこをつかまれて映画内に引きずりこまれるような感覚でした。

 

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監督としての手腕


脚本的な部分の素晴らしさすでに立証済みなのですが、監督としても十分に優秀なのではないかと感じました。


つまり、文字に頼らない画面演出としてのうまさの問題です。


映画の冒頭から何度か主人公が「白い服装」に着替える場面が出てきます。


これは動物をハントする際に動物側からバレないための工夫なのだなと観客側は思っています。
「ふんふん、そんな感じなのねー」くらいの気持ちです。


ですが最終盤、この衣装がかなり効いてくることになります。


銃撃シーンが始まると、画面のどこかに主人公が潜んでいるのは分かるのですが、白い服だからどこにいるのか分からないわけですよ。


「え??どこかな??」と探しているうちにドーーーーンッ!!と次の瞬間には殺害されてしまいます。


敵側の目線を通じて、主人公のハンターとしての恐ろしさを体感するという構図になっているんですね。


宇多丸さんがよく「見る側、見られる側が急に逆転する演出は良い」という趣旨のことを言われていますが、まさにこのシーンなんかはそうですね。


サスペンス映画でありながらも、アクションシーンでは緊張感ある演出が出来ていましたし、なんならホラー要素すら感じるほどでした。


もっともっと自ら監督として活躍してほしいです。


まあでも、まずはボーダーラインの続きを早く見たいかな!

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感想(1件)

 


それでは。

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