映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ペンタゴン・ペーパーズ The Post 《観客の知識レベルを意識するということ》

ポスターの点数…65点
映画の点数…92点

監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 ジョシュ・シンガー
出演者 メリル・ストリープ
トム・ハンクス
音楽 ジョン・ウィリアムズ

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ごっつり骨太エンタテイメント


2018年、スピルバーグはレディプレイヤー1と本作ペンタゴンペーパーズという全く異なる作品を作りました。


かつてジュラシックパークとシンドラーのリストという悪魔の二本立て(同時上映では当然ないですが)を作ったこともありますが、もはや異次元すぎて何を言っていいか分からないレベルのことを相変わらずやってのけています。


スピルバーグがすごいというのが当然すぎて、逆に話題にすらなっていないというのがムカムカしてしまうんですが。


当然じゃねえっつーの。


アカデミー賞にはいくつかノミネートされたものの、ライバルも多くオスカーは手に入らなかった今作。


「もっと話題になってもいいんじゃないの?!」と驚いてしまうくらい骨太ないい作品だったと思うのですが。


ちょっと悔しいので、せめて自分も少しだけ触れてみようと思います。


気になった方は是非映画を観てくださいね。


まずは映画ポスターを振り返っていきます。

 

複数パターンのあるポスター


経緯は不明ですが、比較的多く公式のポスター、ビジュアルが発表されています。


おそらくですが、広報スタッフもどのようにして売り出したらいいか迷ったのではないでしょうか。


まず、日本ではほとんどこのポスターをメインに使ってましたね。

 

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このポスターのいいところは、
●トムハンクスとメリルストリープが出演している
●小道具を見る限り、ちょっと昔の新聞社の話である
●シリアスな雰囲気である
ということがポスターから伝わってきます。


そして、このあたりがポスターとしての最大公約数だったのではないかと思うのです。


お客さんに興味をもってもらうための情報を可能な限り提供するとしたら、このくらいのバランスになったのでしょう。

 

お客さんの知識レベル


この作品の原題は「The Post」です。


日本版ではタイトルが「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」と変更されています。


この改題もまた悩ましいものだったと思います。


「The Post」というタイトルから伝わってくるのは、ワシントンポストという新聞社が主役だということと、女性CEOであるキャサリンの人生に迫った映画だというメッセージです。


一方で「ペンタゴンペーパーズ」としてしまうと、急にサスペンスの要素が前面にでてきます。


しかし、日本人にとってはワシントンポストというものに馴染みはないですし、改題はやむなしでしょう。


仮に他にタイトルをつけるなら「キャサリン~はじめての女性新聞社長~」とか「報道の自由の危機に立ち向かった新聞記者達!」みたいな方向のタイトルになるでしょうか。くっそだせえですな。


つまり映画タイトルやポスターは、お客さんの知識レベルを意識しないといけないわけですね。


ウォーターゲート事件ですら日本では知らない人が多いでしょうし、もしかしたらアメリカでもそうなのかも知れません。


ペンタゴンペーパーズというタイトルと、このポスター。
決して良いデザインとまでは言えないのですが、一人でも多くのお客さんの心をつかむのが映画ポスターの仕事です。


その点においてはこのポスターは役割を果たしていると言えます。

 

他のポスター


では他のポスターを見てみましょう。
まず僕が一番好きなポスターはこちらです。

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レイアウトはシンプルながらも、どっしりとした重みのあるデザインですね。


主人公の顔こそ見えませんが、大きく名前も表記されているので分かりやすい。


そして何より、この二人が「てっぺんも見えない強大な何か」に立ち向かっていくという様子が見事に表現されています。


これが映画館に飾ってあったら間違いなく目がいくことでしょう。


ただし、実際に映画ポスターとして機能するかは疑問です。


まず、新聞社の映画であることがこれでは分かりません。特に日本人。


年代も不明なため、ペンタゴンペーパーズにまつわる話だとは思いつかないでしょう。
部屋に飾るならこれですけどねー。かっこいい。

 


【映画ポスター】 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 The Post スピルバーグ /インテリア アート おしゃれ フレームなし /両面

 

次にこちら。

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このポスターなら、メインポスターとして採用したとしても良さそうですね。


色使いがオシャレです。


ただやはりこちらのポスターも、サスペンス要素が大きく後退しているという弱点はあります。


見方によっては「オシャレな雰囲気系映画」にも見えてきます。


そうとられるのは良くないですね。。

 

 

さらにこちら。

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これはいくつかの評価が集まったあとのポスターのようですが、これもカッコイイ。


かっちりとセパレートされた主人公二人が、それぞれ自分の仕事と対峙している様子をあらわしています。カッコイイですね。


ある程度映画の情報が行き渡っているという条件であれば、こういう別ビジュアルのものを小出しにするメリットは大きいでしょう。


日本のポスターがやりがちな、滅茶苦茶に賞をとったことをアピールするゴテゴテさはありません。


情報は多いのにすっきりして見えるあたりにデザイナーのセンスを感じます。

 

最後にこちら。

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これはレディプレイヤー1との対比とも見えるようなデザインですね。


レディプレイヤー1がディストピアを表現するのに手書きタッチを採用したのに対し、こちらのポスターは「かつて本当にあった真実の戦い」みたいな雰囲気が出ていて良い感じです。


ポスター内にたくさんの情報が詰め込まれており、特にホアワイトハウスがドンと真ん中にあることで「政権VS新聞社」の構図が良く分かります。


このポスターが採用されていても良かったとは思うのですが、そうするとちょっとファンタジー色が強すぎたでしょうか。


このペンタゴンペーパーズという映画には、40年以上前の物語でありながらも「今もまだ同じようなことが起こってるんだよ?」という強烈なメッセージもあるので。


ファンタジーっぽい雰囲気を出してしまうのは非常にもったいないとも思います。

 

ポスターのまとめ

 

というわけで、なんだかんだで現在のメインビジュアルになっているポスターが現状の最適解ということになるのでしょう。


ただしどうしても「オシャレなポスターだな」などとは思えません。


もう少しだけでも、単純にカッコイイと思える要素があればなお良かったのになと贅沢なことを考えてしまいます。


例えばですが、この映画の魅力でもある新聞記者達の体育会系なマッチョ感を出すとか。


その逆に、女性社長の孤独感を出すとか。


もうちょっとだけ、何かがあるとなお良かったと思うのです。

 

映画の感想


まず前提として、この手の映画が大好物なんですよね。


知的好奇心をくすぐりつつ、サスペンスとしてのドキドキ、さらに真相に迫っていくワクワク感。


近年だとスポットライトという映画がありましたが、一回映画を観るだけで色んな味を楽しめるのが好きなのかも知れません。


さらにここに、スピルバーグ才能が加わることで面白さが倍増しています。


具体的には、ホラー的な演出です。


E.T.やジョーズ、ジュラシックワールドなど、こちらビックリさせることが得意中の得意な監督なので、それをこの重厚なテーマの映画と掛け合わせるという離れ業をやってのけます。


ただ外に出て公衆電話から電話をするというだけのシーンでも、じわーーーっとカメラを動かしてみたり舐めるようなアングルにしたり。


それだけで恐怖を感じるような作りになっているのだから恐ろしい。


これだけのレベルの作品を、過去最短の製作時間で仕上げたというのだからもはや言葉もないですな。


ジョン・ウィリアムズのスコアも久々に良かったなと思う。

「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」オリジナル・サウンドトラック [ ジョン・ウィリアムズ(指揮者) ]


少し前の作品、ブリッジオブスパイもまた最高の作品だったが、やはりスピルバーグは今後も鑑賞がマストな映画監督であるのは間違いなさそうです。

 

それでは

 


ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書【Blu-ray】 [ メリル・ストリープ ]

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