映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

E.T. イーティーのポスターについて《すべてにおいて完璧な作品》

監督 スティーヴン・スピルバーグ

脚本 メリッサ・マシスン

出演者 ヘンリー・トーマス

ドリュー・バリモア

音楽 ジョン・ウィリアムズ

公開 1982年

 

E.T.と聞いて何を思い浮かべますか?


説明不要のスティーヴン・スピルバーグの世界的代表作。


映画の内容自体は多分世界中で65億人くらいは知っているので今更何も言うこともないですが。


ではE.T.と聞いたときに、あなたは何をイメージするでしょうか?


その後の日本のカルチャーにも大きな影響を与えたほどの映画ですので、たくさんの名場面があるこの映画。


ですが、多くの方にとって思いつくのはやはり『自転車が飛翔するシーン』ではないでしょうか。

 

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世界一有名なデザイン??


ジョン・ウィリアムズのテーマにのせて、月をバックに駆け上っていく自転車の名シーンは、その後のユニバーサルスタジオの象徴ともなっています。

 

 

(世界一有名な)映画ポスター


このE.T.のポスターは、世界一有名な映画ポスターと言い切っていいでしょう。


なぜこのポスターが素晴らしいのか紐解いていきます。

 

一枚の芸術作品としての素晴らしさ


大胆に配置された綺麗な月に対し、小さくうつる自転車のシルエット


なだらかなグラデーションが落ちた先にあるE.T.という文字はブレた手書きのような味があり、上部の整ったデザインとの対比になっています。


画面中央で交差する指と指が画面を上と下に分割しているのですが、ピントの少し合ってなさがこちらの集中力を逆に高めることに成功しています。


広告としての素晴らしさ


映画ポスターには、お客を誘客するという広告としての役割があります。


その観点から見ても良くできているのです。


真っ黒に塗られた自転車のシルエットからは、何が乗っているのかは分かりません。

 

前のカゴに何かが乗っているのが分かるのですが、正体をバラすことのないギリギリの範囲で興味をかきたてます。


一方で、どうやら人類のものではなさそうな細長い不気味な指が小さい人間の子供の指と交差している様子が。


これだけで『これは小さい子供と宇宙人の交流の話なのだな』と分かります。


E.T.というフォントが不安定に傾きおぼろげな印象をもっていることからも、これが未完成な子供からみた物語であるということが示唆されているんですね。


このように、興味をかきたてる要素をバランスよく必要最低限に散りばめています。

 

それと、E.T.の姿をメインビジュアルにしなかったのには理由が二つあるでしょう。


一つは、モロに姿を出してしまうとネタバレとして物語の魅力が半減していまうから。


今のようにSNSの発達していない時代ですので、情報をどこまで出すのかのコントロールはやりやすかったでしょうね。


もう一つの理由は、正直なところE.T.という宇宙人のビジュアルはお世辞にも全面的に可愛いとは言えない点です。


可愛らしさと不気味さを見事に共存させているあたりはスピルバーグしてやったりというところでしょうか。


仮にE.T.のビジュアルをポスターで見せてしまっていたら、多くの人にとって映画を見ることに抵抗感が生んだのではないでしょうか。隠して正解ですね。


思い出としての機能


映画ポスターには広告としての役割があるとの話をしました。その他にも映画ポスターには、その映画を見た人の思い出をパッケージする機能もあります。


つまり映画を観終わったあとにこそ意味があるんですね。


映画を観た人にとってこのポスターはどのように機能するのか。


まずは当然、映画内屈指の名シーン、自転車の飛行シーンを再び観てグッときてしまうでしょう。


『大人』からBMXで必死で逃げていく少年が、世界中のすべてから解放されるように舞い上がる姿。


何故その自転車が小さくシルエットで描かれているのかもここで意味をもってくるんです。


世界という巨大で真っ暗な夜から、小さな力しかもたない少年と親友がほんの一瞬のことかも知れないけれど抜け出していく儚さを見事に表現できています。


これがもっとポスター全面にうつったようなシルエットだと、なんか楽しそうな雰囲気をもってしまうんです。


そうではなく、この一瞬こそに意味がある、意味があったんだというのをこれだけで感じますね。


指と指が交差する絵がボケているのも同様です。


おぼろげでピントの合っていない感じこそが、少年とE.T.の短い時間の交流の儚さを感じます。


ちなみに、この指と指が交差するというシーンは劇中にありません。イメージなんですね。


ですが、観た方にとってはこの指と指の交差の意味は明白でしょう。

E.T.の持つ治癒の能力と、少年の心の交流が一致した見事な表現だと思います。

 

すみません、実は不正確なことを言っていました

 

実を言いますと、最初に公開されたポスターには

【自転車の飛翔シーン】は入っていないのです。

 

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すみません、こっちが本当

 

指と指が交差するシーンがメインビジュアルで、月も自転車もないんですね。

 

自転車シーンは後から追加されたイメージなんです。

 

公開時のポスターを観た印象からは、ロマンチックな要素がごっそり無くなっています。

 

むしろスピルバーグの前の作品である『未知との遭遇』のようなニュアンスが強いんです。

 

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未知との遭遇のイメージ

 

不気味さが全面に出ているんですね。

 

ところがこれがまた面白いもので、どちらかと言うとE.T.以前のスピルバーグのイメージはむしろ『少し気持ち悪い』方が合っているんです。

 

最初につくったポスターが悪いのではないのです。

 

むしろ最初のポスターの方がスピルバーグらしいのですから。

 

映画の評判に合わせてポスターが少しずつ変更されていったのでしょう。

 

映画の出来とポスターの出来は一致するのは当たり前ではない


優れた映画には、優れたポスターが必ず生まれるというわけではありません。


スピルバーグの作品ですら、後からイメージを変更することで多くの方の記憶に残るような調整をしたわけです。

 

ですがこのポスターの改変は大・大・大正解ではないでしょうか?

 

私たちは、映画というものをなんとなくのイメージで記憶しているものです。

 

そのなんとなくのイメージを決定づけたのが、このグラフィックデザインだったというわけです。


そういう作品に出会えたとき、グラフィックデザイナーとしてはとても幸福な気持ちになります。


みなさんも、自分の好きな映画のポスターがうまくその映画を表現できているか考えてみたら面白い発見があると思いますよ。

 

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