スパイダーマン: スパイダーバース Spider-Verse《世界一の映画と、それに届かないポスター》
ポスターの点数…65点
映画の点数…95点
監督 ボブ・ペルシケッティ
ピーター・ラムジー
ロドニー・ロスマン
脚本 フィル・ロード
ロドニー・ロスマン
原作 スタン・リー
グラフィックデザインの敗北
グラフィックデザイン(ポスターやチラシや名刺など、紙のデザインのこと)を仕事にしている自分にとって、映画というものは自分の理想でもありライバルでもあり打ち負かすものであったりします。
何しろ相手は「動くもの」であって、僕の仕事は「動かないもの」です。
それでも、映画のような感動を与えようと頑張ってみたり、逆に「映画なんかでは表現できないものを平面なら出来る」という気持ちで仕事に取り組むこともあるわけです。
かなり大げさな表現をしていますが、簡単に言えば「この映画カッコいいじゃん!なんかこんなカッコいいデザインしてみよう」みたいな無邪気な動機であることがほとんどです。
だからこそ映画ポスターを観ると「これはすごい!」とか「これはちょっと・・・」と気になるわけなのですが。
そして今回のスパイダーバースのポスターに関しては・・・・・
残念ながら、グラフィックデザインの敗北だなと感じました。
映画の感想
ポスターの話の前に、映画の感想からお話しようと思います。
この映画がどのようなものであるかをお話ししないと、ポスターのことも話しづらいからです。
1961年に誕生して以来、コミック、アニメ、実写映画などと様々な形で表現されてきたスパイダーマン。
直近でもアベンジャーズに参戦するなど時代を超えて活躍を続けています。
シニカルで明るいキャラクター性もあってか活躍のジャンルも広く、CGなどの新技術の誕生と共に常にスパイダーマンも進歩してきました。
しかし、個人的には本作ほど劇的な進歩は今まで無かったのではないかと思えるほどに映画のレベルが高かったように思います。
脚本や性格とかの話ではなく、圧倒的な技術革命がスパイダーバースの魅力と言い切っていいでしょう。
圧倒的なレベルの高さ
多くの方がすでに表現されているように「CG的であり、実写的であり、平面的であり、漫画のような止め絵でもある」という、にわかに信じがたいことを実現したことがこの映画の価値です。
実写とアニメーションや漫画の融合を目指した表現の歴史は長く、古くはメリーポピンズ、新しい映画でも300《スリーハンドレッド》などはその可能性を追い求めたものと言えるでしょう。
ですが、それらの歴史がかすむほどに今作のスパイダーバースは素晴らしかったと個人的には思います。
そしてそれはアニメーションの技術的な革命と共に、スパイダーマン、あるいは全てのアニメーションにとっての一つの最終回答のようなものではないかとすら思うほどです。
前述の通り、2次元なのに立体的・立体的なのに漫画的という冗談みたいなことが本当に実現したのですから。
ストーリーの豊かさ
技術レベルが凄まじいことは分かりましたが、物語もまた素晴らしい。
ちゃんと現代版のスパイダーマンとしてアップデートされており、なおかつ自らの歴史をからかう批評性すらある大人な仕上がりになっています。
泣けるシーンではきっちりと泣かせ、笑わせるシーンではちゃんと笑わせる。
そしてついにスパイダーマンがスパイダーマンとしてついに「誕生する瞬間」の感動たるや。
ヒーロー映画のキモは、ヒーローが誕生する瞬間そのものだと思っています。
(そういう意味では例えばキャプテンマーベルなどは良くなかったと思うのです。暗い夜の玄関先みたいなところで変身されても燃えないでしょう)
そして、このストーリーに映像的技術が見事に絡みあっているのです。
新しい技術がキャラクターを際立たせ、生き生きと体温をもたせ、感動を増幅させる。
ただの映像PVに終わっていないからこそこの映画は素晴らしいのですね。
ポスターの評価
さあ、改めてポスターの評価です。
残念ながら・・・・・・映画の良さが伝わってこない!!!!
決して悪いポスターではありません。
観て貰えば分かる通り、非常にカッコイイポスターなんです。
スニーカーやパーカーなどで個性を演出できているし、平面でありながらも浮遊感も感じるし、キャラクターの決定的なネタバレはしないよう配慮しているし。
配色だってかなり計算されたものだと思われます。
それでもやはり、まだ足りないと思ってしまうのです。
世界一の映画に対して
このポスター、何しろ相手が悪かったとは思います。
オスカーを受賞した歴史的にも全く新しい表現にあふれた映像映画を前にして、グラフィックデザインが対抗できることは無かったのでしょうか。
このポスターでは「今までとは比べものにならないレベルのアニメなんだよ」ということは伝わらないと思うんです。
このポスターを観て反応するのは、元からアメコミや原作が好きな人や映画ファンくらいなものではないでしょうか。
それではもったいないとどうしても思ってしまいます。
この映画にふさわしいポスターは、こちらも誰も観たことがないレベルのグラフィックデザインだったのではないでしょうか。
印刷のやり方、表現の方法、何かしらのあっと驚く表現が求められたのではないかと思うのです。
無責任ではあるのを承知で
これだけのことを言うのだから、自分にはどれだけのことが出来たのかと考えるのですが。。
無責任であるのは承知ですが、どうしたら良かったのかは僕には分からないです。
結局自分にできるのは、自分の仕事をやることくらいなものです。
ただ今回の映画で強く感じたことは、グラフィックデザインの分野を映画がこのようにして浸食してくるということの危機感です。
スパイダーバースこそが限りなく映像的であると共に、限りなくグラフィックデザイン的でもあったのですから。
僕たちグラフィックデザイナーもまた、他業種を浸食するような表現を求めて行かなければいけないのかななどと途方もないことを考えております。
それでは。
「スパイダーマン:スパイダーバース」オリジナル・スコア [ ダニエル・ペンバートン ]
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