映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

運び屋 原題: The Mule《グラントリノと鏡合わせのポスター》


監督 クリント・イーストウッド
脚本 ニック・シェンク
原案 サム・ドルニック
出演者 クリント・イーストウッド
ブラッドリー・クーパー
ローレンス・フィッシュバーン
マイケル・ペーニャ
ダイアン・ウィースト

アンディ・ガルシア

 

ポスターの点数…55点!

 

クリント・イーストウッドがおよそ11年ぶりに監督・主演を務めた本作。

 

俳優としては引退宣言もしていた彼が、再度役者としてカムバックを決意したことにどんな意味があったのでしょう。


映画ポスターをヒントに、その真意とメッセージを探ってみたいと思います。

 

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日本版ポスター

 

アメリカ版と日本語版はポスターがほぼ同じ


個人的には意外だったのですが、アメリカポスターと日本ポスターはほぼ同じでした。


レイアウトも同じですし、キャッチコピーすらほとんど直訳したような内容です。

 

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アメリカ版ポスター


アメリカ版よりも日本版の方が、イーストウッドの顔をでかく表示し、名前もデカデカと表示しているのでは?」という自分の予想は外れました。


配給側から「デザインの変更はしないこと」という指示が無かったのだとしたら、あえて全くそのままのデザインでいくことを選択したということになります。

 

このデザインこそがこの映画に最もふさわしいと判断したわけですね。

 

11年前との違い

 

11年前、グラントリノという大傑作で監督と主演を務めたイーストウッドですが、そのときのポスターとは全く違うニュアンスになっています。

 

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グラントリノのポスター

 

グラントリノをご覧になった方なら分かる通り、映画に登場する主人公はイーストウッドのイメージを意図的に投影したキャラクターになっています。

 

そして本作運び屋での主人公もまたイーストウッドの投影であるのは明白です。

 

ですがポスターの印象は全然違いますね。

 

グラントリノポスターではこちらを凶暴な視線で攻撃してくるような迫力を感じます。

 

一方の運び屋ではくたびれた老人の儚げな横顔のアップです。

 

このようにポスターから受ける印象は違うもののどちらもイーストウッドの分身であるというのも不思議です。

 

これは、グラントリノと運び屋の主人公では同人格の裏表のような意味合いなのでしょう。


どちらも軍隊経験があること、家族との間に問題を抱えていること、確固たる人格を持っていることなどの共通点があるのですがそれを映画にする際に真逆のキャラクター化にしています。

 

それにしても、運び屋にはモデルとなった実在の人物がいるにもかかわらず、どちらも同じような人格を持つ人物だという気にさせるのはイーストウッドの恐るべき点です。。。


消えていく車

 

車に注目してもらいたいのですが、ポスターの構図にこの映画を見事に表現する工夫が見られます。

 

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車のレイアウトに注目

 

車が画面の左から右に走っており、もう少しでポスターの端っこに到達するくらいの位置にあります。

 

このレイアウトにすることで『この車の行き先には未来がない』ことを表現しています。

 

同じ車のポスターでも《TAXI》のポスターでは未来に向かって破壊的にドライブしている』感じがしますね。

 

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TAXIのポスター

 

TAXIのポスターが立体的なのに対し、運び屋のポスターは平面的です。

 

これもまた、この車の運転が楽しげで幸福なものでないことを表しています。

 

さらに、車が大事なキーアイテムの映画にもかかわらずポスターにしめる割合が極端に小さいです。

 

暗い空に押しつぶされそうな車の圧迫感が見る方の不安感をあおります。

 

車の占有率だけで言えば、車の登場シーンの少ないグラントリノのポスターの方が車に存在感がありますね。

 

これはグラントリノという車が、強くて頑固な主人公の投影でもあったからです。

 

同様に、運び屋のポスターにおける消えゆく車もまた主人公の投影です。

 

この映画の宣伝でのキャッチコピーは『人は、永遠には走れない』です。

 

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キャッチコピーとポスターの一致性

 

ポスター内にある車も、いつか止まってしまう日を予感させながら走っているのでしょう。


ポスターとしては正解??

 

今までポスターのレイアウトの説明をしてきました。

 

そのうえでの評価ですが、実は僕自身はこのポスターはよく出来ているとは思っていません。

 

理由としては単純に『暗すぎる』という点です。

 

もちろんこの映画には負のオーラのある暗い側面もあります。

 

ですが、それ以上にこの映画はもっとコメディ的な要素のある楽しい作品です。

 

ポスターとのギャップを狙ったとも言えますが、それにしては少し極端ではないでしょうか。

 

映画のポスターに映画のどの部分をのせるのかは難しい判断なのですが、今回はちょっとウェットに寄りすぎたと思っています。

 

この映画の結末がいかなるものであるかは直接観ていただくとしても、『人間は何歳になっても、どんな局面であっても未来のある生き方はできるんだよ』というほんの少しの希望。


それがポスター内に感じられたとしたらもっと良かったのではないかと思うのです。


今後のイーストウッドに期待

 

先日、マリナーズイチロー選手が45歳で野球選手を引退しました。

 

その倍の時間を生きているイーストウッドは、一体いつをもって引退するのでしょうか。

 

プレーヤーとして、そして監督として。

 

そんなに遠くない未来にその日はやってくるのでしょうが、それまではこうやって作品が出ることを幸せに思い楽しむことにします。

 

この映画を観た方、ポスターを観た方もやはり、自分の人生をついつい投影してしまうのではないでしょうか。

 

そういう楽しみ方も映画やグラフィックデザインの魅力です。

 

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