映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

カメラを止めるな! ONE CUT OF THE DEAD

監督・脚本・編集 上田慎一郎
特殊造形・特殊メイク 下畑和秀
特殊造形助手 中村夏純
衣装・タイトルデザイン ふくだみゆき
エンディング曲 「Keep Rolling」山本真由美

 

ポスターの点数…85点!
映画の点数…99点

 

ポスターの目的

 

2018年、最も話題になった映画と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

 

多くの人にとってボヘミアン・ラプソディ、万引き家族、そしてこの「カメラを止めるな!」のいずれかだと思います。

 

では質問を変えて、その中でポスターのインパクトが強かったのは?

 

それは「カメラを止めるな!」でしょう。

 

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カメラを止めるな!といえばこれ

 

もちろん、他の映画とは方向性が違うのですから「どちらが上」とかではありません。

 

あくまでインパクトの話ですね。

 

同様に、最もインパクトの強いタイトルだけで選んだら当然「万引き家族」です。


では何故カメラを止めるな!のポスターがこれほどインパクトのある仕様になっているか、なぜその必要があったのか。

 

これはお分かりの通り、この映画が公開された時点で上田監督をはじめキャストの誰一人として、国民的知名度が無い方ばかりだからです。

 

ボヘミアン・ラプソディのポスターを考えてみて下さい。

 

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フレディ・マーキュリーの顔すら写っていません。

 

あのシルエットだけで「あ、クイーンだ」と分かる知名度があるからこそ、あのポスターを作ることが可能なのです。

 

同様に、マイケルジャクソンのThis is ITなどもそうでしたね。

 

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カメラを止めるな!のポスターはとにかくインパクト重視で見た人の記憶に残るビジュアルを優先すべきだったということです。

 


メディコム・トイ BE@RBRICK ONE CUT OF THE DEAD カメラを止めるな!(ZF57495)

ポスターとしての最大公約数

 

 

ところがここで問題が発生します。

 

この映画、見た方なら分かりますが「完全ネタバレ禁止」仕様の映画なのです。

 

こうなると困ります。

 

キャストも有名ではない、なのにどんな映画かをポスターで説明するのも制限がある。

 

つまり「ネタバレはしない」けど、「この映画見てみようかな」と思う程度の情報の出し方。

 

その最大公約数を計算し、結果的に出来上がったのがこのビジュアルということになりました。


アートディレクターの工夫


そもそもこの映画、ご存じの通り予算が300万円程度の作品です。

 

ポスターやタイトルなどにお金をまわす余裕はほとんど無かったでしょう。

 

現に、あのタイトルデザインは上田監督の奥様がされているそうです。(ちなみに衣装も担当)

 

うーーーーん。。。おそろしい才能ですよね。。

このタイトルも、キャストのスタイリングもほとんど完璧ではないでしょうか?

 

ではどのような工夫がなされているか。

 

まず、人物には極端に彩度調整を行い劇画タッチな雰囲気を出しています。

 

これだけを見ると「ハードなホラー映画」でも通用する雰囲気です。

 

ですが、一面バックに黄色がおいてあり、そして手書きフォント風のタイトルがあります。

 

この二つがかなり「幼さ、コミカルさ」を演出しているので、人物の劇画タッチとのアンバランスさが絶妙なんですね。

 

まわりに「いい感じにラフに」配置された血のりなんかもコミカルさを引き立てています。

 

つまり、背景とタイトルだけで「この映画はコメディです」と説明しているわけです。

 

うーーん。改めて素晴らしいタイトルデザインと言えますね。

 

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タイトルデザイン

 


映画の内容とのバランス

 

 

では実際の仕上がった映画との関係性はどうでしょうか?

 

まずキャチコピーの

「この映画は二度はじまる」

 

うん、もうこれしか言うことないよね笑

 

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あらためてポスター

 

他にも「席をたつな」とか「衝撃の30分」とか書いてある広告もあるのですが、
「頼むから、途中でちょっと面白くなくても最後まで見て下さい!!」というメッセージを感じます。

 

そういう映画なのですから、コピーとしては正解でしょう。

 


後ろの方にいるゾンビを見ると「ああ、ゾンビが出るのね」と分かります。

 

ですが、ゾンビを前面に強調しすぎるとその手の映画を嫌う方は映画を観てくれません。

 

あくまでも控えめに配置しています。

 

一番目立つのは、カメラのレンズをこちらに向ける異常な顔をした男性です。

 

このインパクトがあるため、映画を観ている間中観客である僕たちは「カメラ」を意識しながら観ることになります。

 

そしてそれこそがこの映画の楽しみ方なのでやはりこの配置は大正解なんです。

 

あとこれを言うとセクハラくさくてイヤなのですが、「B級映画=露出の多い美女」というのは定番中の定番ですので、中央にヒロインを配置しているのも効果的なんですよね。


この辺は映画の仕上がりとあまり関係がないのですが。

 

というわけで、色々と言ってきましたが映画ポスターとしての完成度はかなり高いです。

 

この映画のヒットの要因の一つは、このビジュアルで映画を売り出したことも大きく関係していると思っています。

 

ちょっと奇跡的とも言える仕上がりなのではないでしょうか。

 


映画の感想

 

 

もう、映画を観ている間、なんと幸せな時間だったか。

 

個人的には2018年ベスト映画でした。

 

前評判があまりにも高かったため、ハードルが上げられすぎた結果あまり面白くないだろうなと思っていたのですが。。。

 

新人監督ビギナーズラックで80点の映画を出したので、みんなが凄い凄いと言っているんだろうと思っていたくらい。

 

実際、最初の一時間くらいはハッキリとつまらなかった。

 

「これはひどいな、これで高評価ならガッカリだ」と思っていました。

 


そこからだ

 

自分の全ての感情をごっそりとさらわれてしまいました。

 


映画を観るときに、求めるものは何か。


どの映画を観るかによってそれは大きく違うはずですが、例えば「爽快感」「恐怖」「快感」「知的欲求」「人生を変える」「号泣」などなど色々あると思います。

 

それらの映画に求めるものが、この映画には凝縮されています。

 

コメディで描かれるほどにグッとくるし、観た人全員ではないとは思いますが個人的には涙をこらえることが出来ませんでした。

 

ああ、なんと愛にあふれた話なのかと。

 

そういう瞬間にこそ、「いま、俺は映画を観ているんだ!」という幸せを感じます。

 

さてこの映画、どこまでが狙い通りなのでしょうか。

 

あまりにも奇跡的な出来なので、ついついそんなことを考えてしまいます。


考えれば考えるほど絶妙。

 

監督、おそるべし。

 

すべての日本人に観てほしい一作。

 

完璧!

 


カメラを止めるな! [ 濱津隆之 ]

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