映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

We Love Television? 《そちらではないのでは?!究極の二択ポスター》

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映画の点数…87点
ポスターの点数…70点(もしくは90点)

 

萩本欽一さんについて


こんにちは、ピースマイルです。


今回取り上げる映画は萩本欽一さんのドキュメンタリー形式の映画、《We Love Television? 》です。


映画の公開から遡ること6年前の2011年を中心に「萩本欽一さん、もう一度視聴率30%番組を作りませんか?」と声をかけるところから、スタッフを集め台本を作り、そして放送までを追った映画。


正直に申し上げると、僕は萩本欽一さんに何も思い入れがありません


世代的にダウンタウンとウッチャンナンチャンからナインティナインあたりが青春の真ん中くらいにくる年齢ですので、萩本欽一さんは既に「過去の人」だったわけです。


好きとか嫌いという話ではなくて、一度も興味を持ったことがないというか。


この映画も評価が高かったから観ただけで、自ら手を伸ばすタイプの映画ではありませんでした。


ここまでが個人的なスタンスの話です。

 

映画の感想


映画を観るまでも、正直不安でした。


たとえドキュメンタリーとして面白いとしても、それはドキュメンタリーが面白いだけですよね。


だったらそんなの「仕事の流儀」とか「情熱大陸」で観たらいいわけですよ。


その手の映画だったらちょっとどうなんだろうと思っていて。


で、観た結果・・・・・・


映画として抜群に面白かったー!!


ナメててすいませんでした。


一度萩本さん個人の話は置いておいて、あくまで映画の出来の話を。


この映画、本当に容赦なくむき出しのまま映画化しているという印象で。


まず、主人公である萩本欽一さんがすでに70歳のご高齢なわけです。


メイクとかライティングとかせずに普通に手持ちカメラで写すと、本当に「おじいちゃんが大画面で写っている」という状態になるわけです。


これが、正直に言ってけっこう、キツい。


こちらは真剣に映画を観ているわけですから、本当に画面内のおじいちゃんと一対一なんですよ。


そのくらい本当に人間をむき出しにしてしている。逃げていない。


場面を演出するための音楽なども使っていません。


とにかく主人公・萩本欽一の顔面と言葉を観させる。


それだけだと演出としては優れていたとしても、映画としては退屈だったと思うんですけど、この映画にはちゃんと「物語」があるから面白いと感じたんですよね。


ドキュメンタリーでありながら、本当にそれが映画的な物語になってしまうという奇跡というか。

 

映画の構造


映画のアウトラインをなぞってみると、
「かつて誰もが驚くような伝説を残した英雄。そんな英雄も年をとり今では人々から忘れかけられていた。しかし、まだ俺はこんなところで終わる男ではないと立ち上がった英雄が、再び自分の戦場へと還っていく。」という話なんですよね。


まさに映画の王道ストーリーなんですよ。


最近で言うとバードマンであったり、部分的にはロッキーなども同じ系統の映画です。


そして、ある意味ネタバレになってしまうのですが、
「その英雄の再挑戦は、無残なまでに敗北して終わる」というところまでキッチリと映画化されているんです。


こんなもん。。。。。泣くでしょう。


しかも映画であって映画じゃない、実話なんですから。


主人公・萩本欽一は、映画の中で本当に無残に敗北するんですよ。


その敗北のシーンもかなりドライな演出になっていて好感が持てます。


無駄に音楽を重ねたりして叙情的にしていません。


テレビのドキュメンタリーだったら、ここから関係者に各自インタビューをとったり、ナレーションで「しかし、彼の挑戦は決して無駄ではなかった」なんてつけそうなものです。


この映画ではそうではなくて、寂しそうに、そして苛立たしげに「こんなんじゃ死にきれないよ。次はきっとやれる」という言葉を残して画面から去って行きます。


なんて・・・・・・なんて映画的なんでしょうか。


無様でみっともない場面であろうと、そのまま映画の中にパッケージしています。


そんなの目撃してしまった僕らは「かっこ良すぎる・・・」と思うに決まってるじゃないですか。


最後の最後、萩本欽一さんがまた次の挑戦を始めたところで映画は終わります。


観たものは間違いなくドキュメンタリーなんですけど、映画として本当に素晴らしいと思いました。

 

ポスターについて


で、大絶賛の映画なんですけど、ポスターについてはちょっと考えさせられるところがあって。


まずこちらがメインに使われていたポスターです。

 

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確かにこのポスターはかっこいいです。


セーターで猫背で笑顔でもない萩本欽一さんという時点でドキッとします。


「あ、こんな顔テレビで観たこと無い」とすぐに気付きますよね。


さらにタバコを吸っているあたりが、正直「過去の時代の人」という空気感を演出していて(このあたりは狙いと違うかも知れませんが)


タイトルの「We Love Television? 」を真っ黄色で斜めに降ってあるのも、写真とのギャップがあってとても良いです。


タイトルの方向と目線の先が一致していて、自然と「何を見つめているんだろう」というのが気になります。


「欽ちゃんではなく、萩本欽一」を映画化しているということがとても分かるポスターです。

 

別のビジュアルについて


で、先ほどのポスターではなく、同時に公開されたビジュアルにこういうものがあって。

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これがかなりいいデザインだと思ってるんですけど、どうですかね?


僕はこっちのデザインの方が、より映画的な深みが増すと思うんですよ。


確かにこっちのポスターは「萩本欽一ではなく欽ちゃん」の方をビジュアル化してあるのでドキュメンタリー感は無くなります。


でも良く見ると、萩本欽一さんが明らかに老けているという点、そしてキレの無いジャンプを観るだけでも「あ、こんなこと言いたくないが、欽ちゃんは老いたのだな」と伝わってくるじゃないですか。


ましてや背景のグレーの色ですよ。


これ、はっきり言って遺影ですよね。


萩本欽一が映画の中でも「死にきれないよ」という言葉を使っていますが、映画がそもそも死の匂いがかなりする映画なわけですから。

 

こんなに陽気なポーズであるのにも関わらず、どこか切なく死を連想させる。


このビジュアルを観た後で映画を観てしまうと、さらにグッとくるんですよね。


先ほどのデザインのポスターが公式になるのは十分に理解できるのですが、個人的にはこっちのジャンプビジュアルの方が良かったのではないかと思ってしまいます。

 

まとめ


この映画やポスターを、他の映画と同列に語るのはちょっと違うとは思いますが、とにかくまずは面白かったです。


ドキュメンタリー形式の映画って、「金儲けしたいだけだろ?」と思うような不出来な内容のものも多いのです、今作に関しては本当に映画としても大満足でした。


前述の通り僕は萩本欽一さんに対して強い思い入れはないものの、この映画のインパクトってかなり長いこと残ると思うんですよね。


自分が怠けていたりサボっているときには「お前はちゃんと頑張ってんのかい?」と問いかけられるような映画になりそうです。


それでは、また。


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