映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ファーストマン First Man

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日本版のポスター

 

監督    デイミアン・チャゼル
脚本    ジョシュ・シンガー
原作    ジェームズ・R・ハンセン(英語版)
『ファーストマン: ニール・アームストロングの人生(英語版)』
製作総指揮    スティーヴン・スピルバーグ
出演者    ライアン・ゴズリング


ポスターの点数…20点!
映画の点数…78点

最悪の改悪


まず映画のポスターについて。

最初に目にするのは自然と日本版のポスターだったので、それだけ見てみると

「お、なかなかカッコいいじゃん!」と思っていました。

ところがですね。映画を観終わったあとにポスターを再度観てみると

「なんか全然、ポスターの内容と違う」という印象。

ならばとアメリカ版ポスターを見てみると。。。。。。

 

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こっちがアメリカ版




「こっちは完璧なビジュアルじゃねーか!!!!誰だ日本バージョン作ったの!最低だ!!」と怒り心頭。

かなり腹のたつ部類の改悪だったと思います。


日本版とアメリカ版の意味が全く違ってくる


まず日本版のポスター。

これだけ見ると「宇宙を目指す青年の夢と希望の物語」じゃないですか。

そういう映画ならば、もちろんこれでいいわけです。

ですが、観た方ならわかる通り今作はそういった映画ではないんですよね。

むしろ「何かに取り憑かれた寡黙な男が、それでも手放せないものとは」みたいな映画なんですよ。

そうやって観て見ると、アメリカ版のポスターは実にうまくできていると思います。

日本バージョンでも十分寄りの画なのですが、それよりもグッとライアンに寄った構図。

これで「あくまでもアームストロング船長の一人称の話」というのが際立ちます。

まわりの赤い背景などは、ミッションの危険性を伝えるとともにアームストロングの心の葛藤を表現しています。

そして何を見つめるでもなく下を向いている瞳には、他者を寄せ付けない異常性が感じられます。

よく見ると「FIRST MAN」というロゴの中にさりげなく月があしらわれています。

月を目指した男の話であることは間違いないのですが、あくまで抑えめに表現しているんですね。


では日本版は


一方日本バージョンはどうでしょうか。

繰り返しますが、このビジュアル自体がダサいとかそういう話ではないんです。

むしろかなりカッコいい部類ですよね。

ララランドのポスターなどに比べたら1万倍いいです。

 

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ララランドにおける最悪の改変




ですが、ファーストマンの日本ポスターでは「意味」が全く違ってくるんですよ。

わざわざ首の角度を変えてまで「宇宙に夢見る」感じを演出しているのが最大の改悪ですね。

さらに、ライティングが「上から光が降ってきている」ことで希望を感じるデザインになっています。

でもそういう映画じゃないから!

奥の方ではロケットが飛んでいます。

これはまぁ、お客さんに宇宙の映画だと説明するためなので仕方ないとは思いますが、やはり映画のコンセプトとは違うんですよね。

アームストロング船長の見た目戦でだけ映画が進行するところに意味があるので。


怒りっぱなしもあれなのですが、いいところもあると思っています。

例えば、コピーはいいですね。

「旅路を体験せよ」というのは映画のコンセプトに合っています。

まるで自分が飛び立つような演出が多い映画なので、内容とちゃんとリンクしています。

グッと抑えめの「ファーストマン」というフォントも好印象です。

気付きにくい点ですが、文字の端っこにエッジがたつようにしていることで硬質感が増しています。


せっかくの映画を台無しにしかねない



けっこう怒りの文章をぶちまけてしまいましたが、やっぱり僕はこのポスターの改変は良くないと思います。

「これを見てお客さんが一人でも増えればいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが(確かにそういう面もあります)、そう単純なことではありません。

例えばですけど、「うわ!このお菓子めっちゃ濃厚でおいしそう!」というパッケージがあるとします。

ところが、いざ食べて見ると「なんか薄味だしおいしくない」となったとしたら、その人はもうそのお菓子は買わないでしょう。

もしも最初から「甘さ控えめで上品そうなお菓子だな」というパッケージだったとしたらどうでしょうか。

味が気に入れば、またそのお菓子を買ってくれることでしょう。

「自分の感じた印象」と「実際の味」が近いということは、とても大事なことです。

それは今回の映画にしてもそうで、これだけポスターの意味合いが変わってしまうと

「なんか思ってたのと違うわ」とガッカリしてしまうんです。

今の時代、本当にいい作品はすぐにSNSを中心に拡散します。

本当に自信のある作品であるならば、ポスターで小細工などせずに正々堂々と自分の商品を売り出すべきではないでしょうか?


ファースト・マン 下 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫) [ ジェイムズ・R・ハンセン ]


映画の感想


ララランドやウィップラッシュなど、監督作は基本的に好きなので鑑賞しました。

あと、ライアン・ゴズリング作品は観なければならない義務があるので鑑賞。

ところが、この自分勝手な意気込みが失敗でした。

観ている間ずっと「監督もお若いし、アカデミーノミネート監督として次のステップを目指しているんですね~」などという余計な雑念が邪魔して作品に集中できませんでした。

このへんは先ほど言った通り、ポスターから伝わるビジュアルと実際の映画のテンションに大きな差があることも影響しています。

作品の手触りとしては、特にララランドとは対称性が強い作品。

ララランドにおける、自由なカメラワーク、極彩色なビジュアルは封印。

彩度のおさえ、極端に無駄を省いたカメラがぱっと見でこれまでと違うことが分かります。

もちろんただの実験的なチャレンジだけではなく、あくまで映画のストーリーに合わせた演出なのですが。

この映画において、見る視点の多くはアームストロング船長が実際に見ている視線のみが映るような演出がとても多いです。

シーンごとに使用するカメラが違うというのも、映画館だとより効果的に伝わってくる部分。

このへんは本当に「うまいなあ」と感心しました。
(とはいえ、やはりそのへんのカメラを変えているという感じも、観ているときに気付くと若干冷めてしまうんですが。。。)

観た方がいいかで言えば、絶対に観た方がいいと言い切れます。

おすすめです。


ただし、、、、最後にどうしても感じた違和感を。


僕は、ライアン・ゴズリングの大ファンです。

好きな俳優を挙げるなら、必ず上位3人にはいれると思います。

それでもどうしても。。。今作のニール・アームストロング役に彼は向いていなかったのではないでしょうか??

分かるんですよ、キャスティングされた理由も。そして、それに対してライアン・ゴズリング自身も100%で応えています。

序盤の泣きのシーンなんて本当に素晴らしかった。

それでもやっぱり、ライアン・ゴズリングはアームストロング船長に見えなかった。。。

このへんは見てもらわないと分からないんですけどね。。。

顔が似ているとかそういう話ではないのですが。。

役者が売れるってのも、違うジレンマが発生して大変だなあと思った次第です。

 


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