映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

グリーンブック GREEN BOOK

監督 ピーター・ファレリー

監督 ピーター・ファレリー

脚本 ニック・バレロンガブライアン・ヘインズ・クリーピーター・ファレリー

出演者 ヴィゴ・モーテンセン

マハーシャラ・アリ

リンダ・カーデリーニ

音楽 クリス・バワーズ

 

ポスターの点数…80点

映画の点数…95点

 


CD/グリーンブック オリジナル・サウンドトラック (解説歌詞対訳付)/オムニバス/WPCR-18181

タイトル通り【グリーン】が美しい映画

 

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日本版のポスター

この映画においてデザイン的な美しさは、グリーンにあります。

 

まさにメインビジュアルにもなっている車の色、そしてロードムービーなので緑豊かな風景を画面いっぱいに楽しむことができます。

 

さりげなく引きのシーンを入れたり、マシンにグッと寄ってみせたりとなかなか撮影も工夫されていて素晴らしい。それが押し付けがましくいあたりがニクいですね。

 

パッと切り取ってもポスターにつかえそうな美しい映像の数々は、グラフィックデザイナーとしても大いに勉強になりました。

 

実際のポスターもそのへんをうまく表現できていて、『この映画観てみたいな』と素直に思える良くできたグラフィックだなと。

 

ところがですよ。

 

アメリカ版のポスターを見てください。

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アメリカ版のポスター

 どうです?

 

ぱっと見は変わらないような気がしますが『なんとなく暗いな』と思いませんか?

 

『アカデミー⚪︎⚪︎〜』とか文字が入ってない分すっきりしているはずなのですが、なぜか暗い。

 

見たらすぐ分かるのですが、完全に違うのは『空』です。

 

もう一度日本版を見てください。

 

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空に注目!

 アメリカ版の暗めの緑色の空は、一枚のグラフィックデザインとしては色彩が統一されていてオシャレです。

 

そして、彼らが旅の途中で味わう苦しみも匂わせているようです。

これはこれで素晴らしい。

 

ですが、今回のポスターに関しては僕は日本版ポスターの方が良いのではないかと思ってるんです。

 

空を青空にしたことで、陽気な様子が際立っています。

 

確かにこの旅の途中、あまりにも辛いことがたくさん起きるわけです。

 

ですが、この映画を見終わって浮かび上がってくる風景は・・・・・

 

むしろこの青空の景色ではないでしょうか?

 

 ポスターというのは、映画を観る前には広告として機能します。

そして、見終わったあとには思い出として機能します。

 

どちらが優先すべきかは考え方の問題ですので、正解はありません。

 

あくまでも個人的な気持ちとしては、今回の日本版ポスターを青空にした改変は僕は良かったと感じています!


アカデミー作品賞

 

ここからは映画の内容の話です。

 

見事、第91回アカデミー賞・作品賞など三部門を受賞した本作。

 

監督のピーター・ファレリーはこれまでコメディ映画を中心に活躍してきており、本作も確かにコメディであるのは間違いないのだが会場では涙をこらえきれない観客も続出なのだとか。

 

実際僕も終盤ではかなりグッときました。。

 

それと同時にスパイク・リー監督などが「この映画はアカデミー賞にふさわしくない!」と表明するなど、批判が散見されるあたりも話題をよんでいます。

 

ロードムービー、バディムービー

この映画の特徴であり、そして同時に大きな魅力であるのが「ロードムービー」であり「バディムービー」であるという点です。

 

近年だけでもネブラスカ、マッドマックスなどの傑作が思い出されますが、この二つの要素だけでとりあえず楽しいしストーリーが明確であるという点で非常に見やすい映画でした。

 

日本人である自分であっても途中で行程マップなどを効果的に出してくれるので「ああ、遠くに行ったのだな」と感覚的に分かる点も好印象。

 

このへんは作り手側が意図したのでしょうが「今、主人公が何をしているのかは明確にしておく」という工夫がされています。

 

近年のアカデミー作品賞の中では、見やすさという点ではかなり上位ではないでしょうか。

 

それは、この映画において他に見てもらいたいテーマの邪魔をしないための配慮と思われます。


主役の二人

具体的には主演と助演になるのですが、実質的にはW主演と言って遜色ないのでそう表記します。

 

まずこの二人が出た時点でこの映画は「勝った」と言えるでしょう。

 

マハーシャラ・アリなんかの演技レベルは言うまでもなく、2年前にもとったアカデミー助演男優賞を再び受賞。


近年の彼の演技はちょっと神がかっているレベルだと思います。素晴らしかった。

 

ただ個人的に驚いたのはヴィゴ・モーテンセン。

 

まさかアラゴルン(ロードオブザリング)がここまでの演技を見せつけるとは。

 

意外といっては失礼なのだが、ここまでのキャラクターを画面上に作り込めたことはキャスティングした側も含めてサプライズだったのではないでしょうか。

 

それくらい魅力的な人物に仕上がっています。

 

20kg太らせて映画に挑んだらしいのですが、彼のキャリアにおいて最も重大な役の一つになったことも考えると太っといて良かったなあと思います。

 

日本人俳優は、役づくりでここまで太ったりしませんが、たまにはこういう俳優がいてもいいのになと思ってしまいます。

 

別にこの役が必ずしも太っている必要はないのですが、トニーというキャラクターをいかに魅力的にみせるか考えた上での増量だったのでしょう。


素晴らしい!

 

差別

さて、ロードムービー、バディムービー、主役の二人とこれだけで映画としては「勝って」いるのだが、本作が評価されているのはそこだけでは当然ないわけです。

 

この映画、観ている間中、ずっと楽しい時間が続きます。


抑揚の効いたコメディ演出などではしっかり笑わせられるし、かけあいテンポも良くとても楽しい。

 


はずなのですが。

 


その画面のすぐ裏側にはべーーーーーーったりとした差別が常につきまとっています。

1962年、映画でいうならば、まだ「夜の大捜査線」が公開される5年前の話。

 

黒人であるシャーリーは、旅が南下するにつれより具体的な差別的な扱いを受けることになります。

 

それは言葉の差別、人権への差別、具体的な暴力へとエスカレートしていき、それがピークに達したときに主人公達は何を思いどのような振る舞いをするのか。

 

この映画の本質はそこにこそあります。

 

この映画を通して「誰が何を思うのか」が非常に大事であり、その意見の差がこの映画を賞賛する意見と批判するポイントに同時になっているようです。

 

賞賛と批判

この映画においてのイタリア系白人トニーは、あからんさまな差別主義者です。

 

黒人が単純に嫌い。

 

ただし、彼はその差別をあまり隠しません。

 

むき出しの差別と言ってもいいでしょう。

 

こう書くと「なんて非道な男なのだ」とも思えますが(実際非道な男でもある)、そう単純なことはないのが皮肉というか。

 

この映画内においての一番陰険な差別は、あまり目に見えないようコソコソと隠れているからです。

 

 

「黒人のピアノを聞きに行く」というステータスを欲しがる知識人。

 

直接本人にこそは言わないが、イタリア語でこそこそ差別的発言をしている人。

 

この「自分は差別している」ことをしらけた態度で認めない人たちこそが一番の難敵なのだと少なくともこの映画では言っているように感じます。

 

だからこそ、すべての観客に響くのではないでしょうか。

 

なぜなら、ほとんど全ての人間は、自分が誰かを差別したことがあるという心当たりがあるのだから。


一方でこの映画に対して批判的な態度の人は、結果的に白人が黒人を受け入れて救ってあげるという構図が不快なのでしょう。それは非常に分かる。

 

いわゆる「白人の救世主」ともとれる映画は今もまだまだ無数に公開されています。

 

それが日本に置き換えられたとき、ムカムカする気持ちは自分にもあるし、ましてやアカデミー賞をとられた日などにはアカデミー会場までプラカードを持って駆けつける所存です。

 

ところでアカデミー賞の会場ってどこなんでしょうね。
(今パッと調べたら、ハリウッドのドルビーシアターというところらしいです。)

結局グリーンブックはアカデミー賞にふさわしいのか

個人的にはこの映画が2019年にアカデミー賞を受賞したということには大きく意味があると思っており、そしてそれは実はあまりいいことでは無かったりします。

 

そもそも1962年の話を何故今やらなければならなかったのか。

 

アメリカだけをみてもメキシコ系、アジア系、そして黒人に対する差別は根強く残っており、トランプ大統領の不用意な発言によりそれが一部で加速している節もあります。

 

スペインだってカタルーニャとの分裂、日本だって在日の方に対する差別はなんら他人事ではない。

 

この映画を観たときの「チクチクした感情」の正体を一人一人が確認できたとき、ようやくこの映画が「古くて昔の映画」になれるのではないでしょうか。

 


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