映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

サバイバル ファミリー 《矢口監督に失礼だと思う残念なポスター》

ポスターの点数…20点
映画の点数…85点

 

こんにちは。ピースマイルです。


今回取り上げるのは、あえてわざと言いますけど「ウォーターボーイズ」「ハッピーフライト」の矢口史靖監督作である「サバイバルファミリー」

2017年の作品です。


わざとと言うのは、ウォーターボーイズ等とは作品の毛色が全く違うにも関わらず「あの!あの矢口監督!ていうかウォーターボーイズの人が撮った映画だよ!」みたいな宣伝が多かったのが非常に気になったからです。


そりゃ僕だって広告の仕事をするときには、そこは第一の売りだと考えるので気持ちは分かるのですが。。。


もうちょっとやり方があったのではないかなとポスターに対して思ってしまったのですよ。

 

ポスターの方向性


サバイバルファミリーのメインのポスターはこちらです。

 

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CM特報などもそうでしたが、かなり「コメディ色」を強めに打ち出しています。


フジテレビと電通が関わってるみたいですが、これが最善のビジュアルだと判断したのだとしたらちょっともったいないなと思ってしまいましたよ。


だって、少なくともポスターの出来なんかよりも映画の出来の方がはるかに良いのだから。


この映画、コメディの部分はたくさんあります。


でも、いずれのコメディシーンもその裏側には極限状態の人間の弱さがあるから笑えるシーンになっています。


矢口作品の中でも異例ないくらい「ハードボイルド」な一作だと思うんですよ。


なんでそこをもっと際立たせてくれなかったのだろうと思います。

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ポスターの中身


まず何より目立つのは、なんとも言えないおかしな顔をした小日向さんが豚と格闘している場面です。


映画を見る前にこのポスターを見た人はどう感じるでしょうか。


おそらく多くの人が「食べ物がなくなったから仕方なく豚を追いかけ回すというコメディなのだろう」と思うのではないでしょうか。


実際の映画の中身をみると・・・・・・確かに、食べ物がなくなったから仕方なく豚を追いかけまわすというシーンです。


でも、決して短絡的なコメディではありません。


映画の後半あたりに位置するこのシーンの時点ではすでに「いよいよ死を覚悟する必要がある」くらいのギリギリの状況なわけです。


そのギリギリ家族が必死になって豚を追いかけ回すからこそ、笑えるけど泣ける場面なんですよ。


それをこういうポスターの使い方にしたら台無しだと思うんですよね。
(キャスト陣も、本気で朝から晩まで豚を追いかけ回して撮影したらしいですよ。監督のこだわりがしっかりと画面に残っているとてもいいシーンです)

 

背景の黄色も納得いきません。


ポスターの「かっこよさ」としてはかなり良いと思います。


配色を黄色と黒と白だけでまとめたビジュアルはスマートでかっこいいです。


ですが、やはり映画とマッチしているとは思えない


この映画では電気が消滅した世界を描くわけですから、当然照明がありません。


なので監督やスタッフは必死で自然光(に見える)演出で映画を撮ってるわけじゃないですか。

 

それなのに、背景にバキっとした黄色を置くような作り込まれた世界観のポスターにする意味は何でしょうか?


これだとあまりにもフィクション性が前面に出てしまい、映画のリアリティを邪魔するだけだと思うのです。

 

ちなみに他にこのようなビジュアルも

 

こっちでいいじゃん!!

 

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高速道路を自転車で進む仏頂面の家族。


こちらの方がより映画に対して忠実ですよ。


ストーリー全体の目的は「関東から鹿児島まで移動する」ことなのですから、ロードムービーとしてのビジュアルとしてもこちらが的確です。


また、この家族はどこにでもある「仲が悪いとかではないが、信頼しきるには足らない年頃の子供のいる」家族なわけです。


その意味でもこちらのビジュアルの方が良いでしょう。

 

香港版のポスター


さらに、どうやら香港版のポスターにこのようなものがありました。

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やっぱりこっちでいいじゃん!


明らかに日本版よりこちらの方がいいと思います。


海外では当然俳優さん達の知名度はグッと下がるでしょうから、顔を大きく載せる必要がないという利点はあったのだと思います。


それは置いておいても、映画を見たスタッフは「この映画の大事なシーンはこれかな」と判断したからこのポスターになったと思うのです。


僕も同意します。


日本版ポスターのような「必死な顔」ではなく、香港版ポスターの「切実で不機嫌な表情」の方がこの映画を的確に表現しています。

 

矢口監督に失礼


全体的に今作の広告は、矢口監督に失礼だと思ったんですよ。


矢口監督の代表作は、確かに「ウォーターボーイズ」「ハッピーフライト」であるとは思うんです。


でも、矢口監督がコメディだけしか撮れないような偏った監督というわけではないでしょう。


スピルバーグがジュラシックパークとシンドラーのリストを同時に撮れる監督であるように、矢口監督もサバイバルファミリーのようなスリリングな映画が撮れるわけじゃないですか。


そのような多様な映画を撮れる監督に対して、過去の作品のイメージをわざわざ引っ張り出して宣伝するのは映画産業として非常にもったいないと思います。

 

映画の感想


映画の感想としては「意外と見たことのない映画」として非常に満足しています。


古今東西、世界が活動を止めるディストピア映画はたくさんあるんですけど。


ウォーキングデッッドや宇宙戦争など、それらの映画の多くは「急に世界が壊れる」のが特徴だと思うんです。


確かにそちらの方がインパクトあるし面白いですよね。


ですが、サバイバルファミリーの魅力は「ゆっっっっっくりと壊れていく世界」をちゃんと描いたことだと思います。


僕自身被災経験がありまして、家を失ったり避難所で生活した経験がちょっとあるんですけど。


この「え、自分はどこに行ったらいいの?え?しかもそれを自分で決めないといけないの?誰か教えてくれないの?」という状況は非常にリアリティがありました。


「そうそう、トイレって一瞬で壊滅するんだよねー」とか「すぐに戻れる前提で考えちゃうから、変にまわりを意識した洋服チョイスしちゃうんだよね」とか懐かしい気持ちで見ていました。


ちなみに僕は、何をトチ狂ったのか「革ジャンにブーツ」というありえない格好で外に飛び出しました。


完全に北斗の拳でした。反省してお詫び申し上げます。

 

映画にツッコミどころはたくさんあるんですけど、リアリティのあるサバイバルものではなくて単発的なシチュエーションものとして考えるととても面白い映画だったと思います。


ツッコミどころがあるなんてことは監督は当然理解していて、そこから逃げたり言い訳せずに「自分の撮りたいものをちゃんと撮る」ということに正面から取り組んでいるんですよね。


そのような姿勢を見せてくれると、こちらもツッコミどころに対して「よし、ここはスルーしよう」と思えます。


あまりこういうことは言いたくないのですが、邦画として久々に面白い一本でした。
満足!!

 

それでは。

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