映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ボラット 《適度に気の利いたデザインポスター》

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映画の点数…77点
ポスターの点数…80点

 

一定のリテラシーを求められる一作


今回取り上げる映画は《ボラット》です。


正式なタイトルは「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」と非常に長いタイトル。


観たことの無い方に少し映画の内容を説明すると、
カザフスタン人のふりをしたイギリス人俳優がアメリカに渡り「カザフスタンの国営テレビの取材です」という体で撮影を行うという、いわばドッキリカメラ。


バカな外国人のふりをしながら相手を油断させ、相手の心に潜む差別心や偏見をあぶり出すのが狙いです。

 

例えば「ワタシの国ではゲイは許されないんですよ!」と言うと、ついついアメリカ人も「そうだよな、俺もそう思うよ」と言ってしまうという。


映画内では一度も「これはドッキリカメラなんです」というような説明などはないため、観ている側の知識やリテラシーによって映画の面白さも変わってくると思います。


例えばアメリカの南側に行けば行くほど保守派の人が多く「銃社会に肯定的であり、まだまだ性的マイノリティへの理解は低い」くらいの知識はあった方が楽しめると思います。

 

文化的知識の共有


2008年日本公開のこの映画を観ようと思ったのには理由があって、現在日本では(事実上)外国人労働者を受け入れて職をあたえる取り組みを行っています。


ご存じの通り、そのシステムを悪利用した日本企業も多くまるで奴隷のように労働者を扱っているような会社もあります。


そんなゴミクズ会社は今すぐ全部潰れてもらうのが良いとしても、これから移民のような形で他国の文化がドッと日本にやってくる日は近いでしょう。


そんな時に僕たちがとるような態度は、例えばこのボラットの中に出てくるようなアメリカ人そのものなんじゃないかなぁとも思うわけです。


それは無意識のうちの差別であったり、無関心であったり、知ったかぶりであったり。


映画ボラットは全てがコメディでありながら、一度裏返したらそのままそれが文化的な衝突になることを浮き彫りにします。


正直ちょっと難しい映画ではあるんですけど、観る価値は絶対にある映画です。

 

ポスターの感想


まず海外版のポスターはこちらです。

 

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まさにドキュメンタリー的なフリをしているポスターですね。


このポスターを観ただけで映画の内容を推測するのは難しいのではないでしょうか。


多くの人は「外国人がアメリカにやってきて、文化的な意見の違いから生まれる可笑しさを描いた映画かな」と思うのではないでしょうか。


実態はもっとえげつのない作品なわけですが。


狙いとしては、あくまでもさりげない演出にすることで映画を観る観客すらも騙そうとしているのだと思います。


まぁ撮影中にすでにいくつか事件を起こして話題になった作品でもあったので、観客が入るという自信はあったのでしょう。


どこまでもふざけきった作品だし、ポスターですらそれを反映しています。
素晴らしい。

 

 

日本語版ポスター


日本語版ポスターはどうでしょうか。


アメリカと同じように表現するのにはかなり無理があります。


なにせアメリカに対する知識自体が日本人各人によってバラバラで、ましてやカザフスタンの知識なんてほぼゼロでしょう。


そこで考えられたポスターがこちらです。

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なるほど、うまいですね。


顔を少し大きくしたり背景を真っ赤にしたり吹き出しをつけたりして、この映画がコメディであるということをまず観客に伝えています。


映画タイトルがわざわざカタカナで「栄光ナル〜」とすることで「インチキ外国人らしさ」を出しているのもうまいですね。


多くはマンガで見られる「ワタシ、アメリカに行キタイアルヨ」みたいな外国人に対する少し侮蔑的な表現です。


最近はあまりこの表現を見かけなくなりましたが、今回あえて使用しているのはこの映画が「インチキ外国人のフリをしている」という前提があるので差別的なニュアンスが含まれないからでしょう。

 

キャッチコピー


キャッチコピーが今回かなりいいですね。


「バカには理解不能なバカです。」というかなり攻めたキャッチコピー。


「もしも面白さが分からないなら、それはお前がバカだからだよ?」と言っているわけです。


これにカチンとくる人がいたとしても、その人は多分映画の内容を理解できないだろうからあんまり関係ないのかなぁという気もしますし。


たまにはこういう攻めたキャッチコピーもいいですね。


日本人観客向けにちゃんとアップデートされたいいポスターだと思います。

 

まとめ


映画もポスターも、ある程度の知識があった方が楽しめるというジャンルはあります。


脳みそが溶けていても楽しい映画もそれはそれで大好きですが、たまにはこういう映画で自分の知識と常識を刺激してみてもいいんじゃないでしょうか。


それでは、また。


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