映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

トゥルーグリット 《何故か安心するポスターデザイン》

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映画の点数…82点
ポスターの点数…80点

 

こんにちは、ピースマイルです。


年に何回か「今日は西部劇を観たいなぁ」という日があります。


特にアメリカの南北戦争やゴールドラッシュに詳しいわけでも好きなわけでもないですし、よく考えたらカウボーイとかシェリフとかもいまいちどういう存在なのか分かりません。


それでも何故か西部劇に惹かれるのは「いつ観ても大体の映画は面白い」という安心感があるからだと思います。


その安心感は、映画ポスターにも不思議と引き継がれています。

 

ポスターの感想


先に申し上げておくと、このポスターは「まったく新しいデザイン」や「最新技術が使われている」とかいうものではありません。


むしろ逆です。


このトゥルーグリットという映画は1969年制作ジョン・ウェインの映画のリメイクなのですが、その頃の雰囲気を残したデザインになっているので古さを感じるのは間違いありません。

 

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あくまで「西部劇映画のポスターとして良かった」という話です。

 

ビジュアルの安定感


このポスターに求められるものは「安定感」です。


ウッドストックやアポロ計画が全盛期のアメリカにおいて、この安定感あるデザインが広く求められたかは疑問なのですけどね。


さて、ポスター含むグラフィックデザインにおいて、安定感を演出するにはいくつかの方法があります。


まず、ビジュアルや文字を傾けず真っ直ぐにするということ。


当たり前のことのようですが、こうすることで画面の重心が安定します。


画面が斜めになったビジュアルとはこういうことです。

 

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斜めにする時の意図は、勢いを演出したり不安感を演出する場合に使います。


トゥルーグリットのポスターにはそうした演出は求められていないわけですね。

 

左右対称

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ポスター全体が基本的に左右対称になっているのも効果的です。


国会議事堂、タージマハール、ホワイトハウスなど、左右対称のデザインのものは安定感をもたらします


ポスターもそうですね。


主演の男性二人は劇中で対立関係にあるので、お互いに背を向けることで左右対称にしています。


文字組も多少強引目にしてでも中央揃いにしてあり、文字の読みやすさというよりはデザインとしての美しさを優先しているような印象があります。


左右対称デザインにするのには弱点もあって、それは「人工的に作られたような印象」を人に与えてしまうことです。


綺麗に整いすぎているものを観ると、「誰かが意図的に作ったのだろう」という人工的な感じがするわけですね。


ただし今回のポスターにおいてはそれが弱点にはなっていません。


俳優もわざわざカメラ目線でこちらを見ているし、かなり意図的なポージングをしているのでそもそも人工的な狙いがあるわけです。


それは、西部劇が現代においては全て意図的な意味合いがあるということの証明でもあるのかも知れませんが。

 

文字の表現

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使われている文字のデザインも全体の雰囲気に強く影響を与えています。


色をほとんど使わず肉太のドッシリした文字です。


また、使用しているフォントの種類も限定的です。


普通、読みやすさなどのことを考えると複数の色やフォントを使用するのですが、そうすると派手になったり軽くなったりします。


それを避けるために統一性のある文字デザインにしてるんですね。


現在は僕も含めてパソコンでサラサラと文字が打てるのですが、昔はそうはいきません。


なのでこうした「定規やコンパスを使って一つずつ書いた」かのようなフォントにすることで時代感の演出も出来るんですよね。

 

ポスターのまとめ


一見すると地味で古くさいデザインなのは間違いないのですが、それは当然理解したうえでの制作側からのメッセージを感じます。


それは「古き良き時代の、重厚な西部劇映画ですよ」というコーエン兄弟の宣言です。
この宣言に対し「よっしゃ乗った!」という人は映画を観るのでしょうし、何も感じない人はやはり映画も観ないでしょう。


観客を限定することになったとしても、自分たちが映画を届けたい人には届くように仕向けたいいポスターだと思います。

 

映画の感想


前述の通り、極めて正直に作った西部劇という印象です。


コーエン兄弟が何故このタイミングで映画を作ろうと思ったのかは分かりませんが、予想するに「作りたいから作った」ということなのではないでしょうか。


もともとコーエン兄弟の作品はいずれも好きなのですが、どの映画を観た感想も「すげぇカッコイイ映画だな」という一言になってしまいます。


そのコーエン兄弟がすげぇカッコイイ西部劇を作りたいのだと思ったとしたら、それはもう「すげぇカッコイイ西部劇」が出来るに決まってるわけですよ。


で、実際にあがった映画は「すげぇカッコイイわ」という映画でした。


まるで馬鹿のような文章ですが、でもそういうことなんですよね。


観客自身も「コーエン兄弟が作る西部劇。そりゃカッコよさそうだ」と思って観に行くわけですから。


それに見事に応えただけでこの映画は大成功だと思います。


特にラストの星空の映像はとても印象的でした。

 

長く残る佳作になると思います。
それでは。


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