映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

クローバーフィールド 《広告は「正しかった」映画》

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映画の点数…65点
ポスターの点数…60点
全体の広告の点数…99点

 

このブログの主なテーマは「映画ポスター」なのですが、今回は少し範囲を広げて「広告」がテーマになります。


2008年製作の【クローバーフィールド】はJ.J.エイブラムス製作総指揮の《佳作》映画です。


《佳作》とわざわざしたのは、つまらないというわけではなくて制作費25億円程度のハリウッド映画としては低予算映画だからです。


まぁそれでもシン・ゴジラよりは10億近く多いですけどね。


当然低予算だから悪いということは一切なく、面白ければ何も問題ないわけです。


あとはどのようにして制作費を取り戻して黒字化するかということですが、その点においてのうまさが光った映画だったなと思い取り上げてみました。

 

映画の概要


2008年製作の映画ですしある程度ネタバレしちゃいますが、話は単純で「怪獣が出てきたから逃げる話」です。


それ以上でもそれ以下でもない。


映画としての特徴は、手持ちのハンディカメラで「偶然撮影されたもの」という体をとっているということ。


そのネタひとつで作品を作っているので、細かい部分での矛盾やおかしな点は多いのですが、私もいい加減いいジェントルですのでそんなことにはツッコミません。


楽しければ良いのです。


ではそれをどう「売って」いくかですね。

 

広告の戦略


まさに2008年当時だからこそ一番良かった戦略と言えるのですが、YouTubeなどを通して「偶然撮影された映像」の一部を配信してしまうという手法をとりました。

 

youtu.be


それを「偶然」発見した人が、徐々に拡散していくというのを期待するということですね。


映像の一部には「逃げ惑う人々」や「吹っ飛んできた自由の女神の首」の映像なども含まれ、本当にたまたま見つけた人は驚いたでしょうね。


やがてそれが世界中に広がっていき(バズり)、「現象」になっていきます。


この「現象」にまでなってしまうと広告としては勝ちだと言えます。


あとは制作側がリードしなくとも、現象に巻き込まれた側の人達で勝手に宣伝しあってくれるからです。(それが負の連鎖になるパターンの一つが「炎上」だと思うんですけどね。)


観客に事前に知らせる情報の量が多いというわけではないにも関わらず、広告としては成功しました。


何しろ、映画を観るまでは「どんな映画なのか」すら知らせずに観客を呼び込むわけですから。


メニューすら書いてないご飯屋さんが「さあうちで食べてってください」と言うようなものです。


ジュラシックパークは「恐竜がでる映画なんだな」、アルマゲドンは「隕石が落ちてくる映画なんだな」と分かっていて鑑賞します。


その予想すらさせずに映画をヒットさせたのは非常に素晴らしかったと思います。


結果的に映画は80億円以上を稼ぐヒットとなりました。

 

ポスターの話


このブログのテーマであるポスターに関しては、残念ながらあまり気合いの入っていない作りになっています。

 

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まぁ仕方ないんですけどね。


映画が公開されるまで、怪獣映画だとは言いたくないわけですから。


怪獣映画だと分かったうえでポスターを観ると、
・爪痕のようなものが見える自由の女神の傷
・マンハッタンに近づく何者かが泳いでいるような波の形
・雲の形が怪獣の姿に見えなくも無い
というヒントが残されています。


技術的なところでいえば、ハンディカメラで撮影していることを意識してかやけに素人くさい「みどりかぶり」をしているようなカラーバランスになっています。


蛍光灯の下で写真を撮ると、顔色が悪くうつる現象みたいなことです。


というようないくつかの工夫があるとは言え、もうちょっと何とかならなかったのかなーと思ってしまいます。


せっかく映画全編をハンディで撮ってるという実験映画なのですから、ポスターにももう少し無茶なアイデアをぶつけてもらいたかったなーという気持ちですね。

 

広告の評価


映画の広告としての新しい基準を作った功績は大きいです。


これからの映画も全て、SNSなどの利用を前提でないと十分な宣伝は出来ないと言っていいでしょう。


当然僕のような平面ポスターに惹かれる人も一定数いるのでしょうが、動画での広告ありきでのポスターも増えていく一方なのでしょうね。

 

映画の感想


さて、見事な広告もあってヒットした本作ですが、残念ながらそこまで上等な映画とは思えませんでした。


先ほど言ったように「ハンディカムで前編撮影すること」が映画としての大きなネタバレなので、そこから先はやたらとブレた映像でよく分からずに走り回ったりするシーンが延々と続くんですよね。


それで観客を退屈させない工夫がさほどされているわけではないので、印象的なシーンがあまり残っていないというか。

 

怪獣映画の絶対条件


映画が退屈なのはそれだけではなく、この映画の最大のミスはここにあるんじゃないかと思っています。


それは、怪獣が魅力的でない、ということです。


制作陣が日本の「KAIJU」にリスペクトを持ってくれているのはよく分かるし、単純に日本人としては嬉しいんですよね。


今度またハリウッド版ゴジラも公開されますし、パシフィックリムの大ヒットなどもあり改めて日本の怪獣が世界に認められたようでとても気持ちいいです。


とはいえ、このクローバーフィールドではそのリスペクトが成功につながっていなかったかなと。


こればっかりは誰を責めるつもりもありません。


ゴジラやキングギドラのような「神がかった」デザインは、作ろうと思ってすぐに作れるようなものではないですから。


日本だって無数の「こりゃ駄目だ怪獣」の失敗のうえで良い怪獣がたくさんいるわけです。


クローバーフォールドだって怪獣が最高にカッコ良かったら、僕は手放しで賞賛したと思うんですよ。


また誰かが「これはヤバい!」という怪獣を思いついたら是非とも映画化してほしいものです。


それでは

 


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