映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

スノーピアサー《正直に、つまらない》

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映画の点数…51点
ポスターの点数…60点

 

ポン・ジュノ監督×ハリウッド


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


先日から【パラサイト アカデミー賞作品賞記念!ポン・ジュノ監督作品鑑賞週間】を設けて色々と観ているところです。


そのなかで今作《スノーピアサー》は、《オクジャ》と共にハリウッドの巨大予算で制作されたもの。


特にスノーピアサーはポン・ジュノ監督の代表作《グエムル》の主演二人(父と子)も出ていることもあり「ハリウッド映画なんだけどやっぱりポン・ジュノ監督」という姿勢も感じます。


とはいえそれが成功するかどうかは別の話。


主演には当時キャプテン・アメリカとして爆売れ中のクリス・エヴァンスを迎えており気合いは十分に感じたのですが……


残念ながら個人的には「つ!つ!つまらーーん」というのが正直なところでごぜえます。

 

 

映画のストーリー×パラサイトとの共通点


映画のストーリーは、生命が暮らすことが出来なくなった地球で(今作の場合、極端な気温の低下)、ひとつの列車の中で暮らす人類最後の生き残り達の話です。


超限定的な空間において極端な身分差がうまれたことをキッカケに、最下層にいるメンバーが団結して人権を取り戻すべく戦うみたいな内容です。


で、その最下層のリーダーがクリス・エヴァンスで、協力するメンバーにソンガンホがいたり。


下層にいる人間が圧倒的強者と対峙していくという内容自体はパラサイトにも共通するものがあります。


ポン・ジュノ監督の作品の多くが「不当な圧力をかける権力者と、それと戦うことになる一般市民」という構図になっていますね。


また権力者側を基本的にはコミカルにバカっぽく描くのも共通します。


リアリティに忠実であるということよりも、多少ファンタジー要素が生まれても面白い方を優先するというのがポリシーなのでしょうか。


ここまで観てみると「ポン・ジュノ監督作品の醍醐味をハリウッド資本で思い切りやる」と言えるのですが……そううまくいかないのが不思議なところです。

 

映画の良かった点


まず映画の良かった点を。


ティルダ・スウィントンさんが良かったですね。


彼女は後にオクジャでも非常に重要な役を務めておりますし、ポン・ジュノ監督が信頼している役者なのでしょう。


まさかこの人が後にアベンジャーズとしてキャプテン・アメリカと共に戦うことになるとは思いもしなかったと思いますが(共演シーンは無かったはず)。


他にもジョン・ハートオクタヴィア・スペンサーなどそこにいるだけで画面に説得力の出る役者さん達、彼らが活躍するシーンはだいたい良かったです。

 

映画の不満点


で、この映画の不満点なのですが……とにかく全体的に華がなさ過ぎませんかね?


強烈なメッセージや、インパクトのある映像、泣けるほどの別れや憎たらしい悪役、感動的なエンディング。。。。


どれ一つも無い、とにかく地味な映画だなというのが最初の印象です。


画面自体にはしっかりお金はかかっているし、チャチなシーンは特にありません。


それでもやはり地味なのです。

 

限定的な舞台


まず、舞台が列車という限られた空間であるという設定を最後まで活かしきれなかったと思います。


映画は常にクリスの目線で進むので、かなり長い時間同じ場所にいて→次の車両へ→同じ場所でドタバタ→次の車両へ→同じ場所でドタバタ………の繰り返しなんですよね。


「わぁ、列車の中なのにこんな場所が!」みたいなのが見せ場だったのでしょう(寿司屋があったりダンスフロアがあったり学校があったりする)。


でもそれも特に意外性のあるものがあるわけでもないし。


「2時間の映画の為に用意された場所なんでーす」という作り物感がありありなんです。


このへん《パラサイト》では、あたかも初めからそこに建っていた家に、あたかもそこに住んでいる人と感じるくらいリアリティがあったんですよね。


パラサイトも基本的に2軒の家を行ったり来たりする限られた空間の映画なのに、全く地味さは感じないんですよ。


これはつまり舞台をどう扱ったら魅力的になるのかコントロールが出来ていなかったからだと思うんですよね。


「映画の為に作られた舞台」と「舞台ありきで作られた映画」の違いというか。

 

クリス・エヴァンス


僕はこの映画の一番残念な点は、クリス・エヴァンスだと思います。
ファンの方ごめんなさい。


おそらく「クリーンで誠実な役を務めているカウンター」として、今作の汚れたダークヒーローをやってみようと思ったんだと思うんです。


役者としてそれは自然なことだと思いますし、全く悪いことではないでしょう。


でも残念ながらキャラクターを作り上げることには失敗したように思います。


そもそもこの映画において、彼の持つ映画的な責任が非常に大きいのですが、それに応える力量が足りなかったのではないでしょうか。


彼一人で「アウトローとして、リーダーとして、元犯罪者として、友を亡くしたものとして、恩師に裏切られたものとして、世界の仕組みを知り絶望したものとして、子どもの命を守る大人として……」とかなり多面的なキャラクターを演じる必要があったわけなのですが。


その複雑なキャラクターを表現出来ていたかというと、残念ながら出来ていなかったのかな。


なので観ている側は「二転三転する自体に対して、ただなんとなく対応しているだけの人」にしか見えなくて。


「お前よくそんな態度でクーデターなんか考えたな!」ってくらい特に何も考えてなさそうなんですよ。


もちろんそれは役者さんだけの責任ではなく、ポン・ジュノ監督の演出や脚本にも問題があったとは思います。

 

ポスターの感想


まずこちらのポスター

 

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巨大な機械の前に、斧を持った主人公が小さくうつっています。


キャッチコピーには「ただ前に向かって戦え」みたいな感じでしょうか。


前に進めというのは映画における最も分かりやすいテーマですし、それがそのまま人生を開拓していくことと一致しているので納得のキャッチコピーです。


巨大な何かの前に小さく写る主人公という構図は、主人公の非力さと孤独、敵の圧倒的な強さを表現しています。


ただそれでも挑戦的な視線で真っ直ぐこちらを見ている主人公からは力強さを感じます。


地味で良いポスターとまでは思いませんが、必要な要素はしっかりつめこんだ内容になっています。

 

日本語版ポスター


一方こちらは日本語版ポスター

 

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画面そのものは明るくなったし、具体的に列車や雪原がうつっているので映画の内容はより飲み込みやすいです。


ただ褒めるとしてもそれくらいなもので、ただ役者をまるでフォーマットのように並べて「前へ進め。世界を変えろ。」なんていかにも聞いたことあるようなキャッチコピーをつけたところで何のインパクトも感じません。


せめてキャッチコピーは「前へ」だけにするとかもうちょっと工夫があっても良かったのではないでしょうか。

 

まとめ


非常に当然ながら当然のことですが、いくら今や世界的映画監督ポン・ジュノ監督とはいえ、今作のように「うん、特に何もなし」みたいな作品も撮っていたわけですね。


ポン・ジュノ監督はパラサイトの時のインタビューで、ハリウッドのような巨大な予算の映画でなく、自分のサイズに合った作品を作っていきたいと言っていました。


謙遜している部分もあるのでしょうが、もしかしたらこういうスノーピアサーのような作品で自分の思ったようにコントロール出来ないもどかしさからの発言だったのかもしれません。


僕はこの映画を支持しませんが、逆に言えば一番「なーーーんにも考えずに観ることの出来るポン・ジュノ作品」とも言えるかも。


良かったらチェックしてみてください。


それでは、また。