映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

1917 《意志も意図も分かるのだが……》

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映画の点数…75点
ポスターの点数…80点

 

アカデミー作品賞・有力候補


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画はサム・メンデス監督の《1917》です。


先日のアカデミー賞ではポン・ジュノ監督のパラサイトが見事に受賞しましたが、その最終候補、なんならパラサイトよりも有利という情報もあったのがこの《1917》でした。


日本公開は発表の後であったため、どうしても「賞はとれなかったが、最終候補までは残っていた」という事前情報を頭に入れた状態での鑑賞となります。


サム・メンデス監督は作品数がそこまで多くないのもあるのですが、だいたいの作品は観ている状態です。


個人的にはアメリカン・ビューティーとかも当然面白いと思うものの、それよりもぶっちぎりで《007 スカイフォール》が大好きでして。


なので人間ドラマも戦争アクションもハイレベルで表現できるという信頼はありました。


ただし今作は何よりも「全編をワンカットで撮った!」ということが話題になっていて。


1917年当時、実際に戦地で伝令係として従軍していたサム・メンデスさんの祖父の体験を映画にしたという戦争映画としての面よりも、どのような映画体験が出来るのかが注目ポイントでした。

 

 

映画の良かった点


全編ノーカットの利点は、何よりも緊張感の持続という点にあると思います。


例えば銃撃されるシーンだと、目線が主人公と一致しているため「どこからか分からないがとにかく狙われている!」という恐怖を共有することが出来ます。


一息休憩をしていても、いつまた銃撃音が鳴るか分からないので、観客である自分も休む暇がありあません。


戦争映画としてとてもうまく機能しているなと思いました。


また、《ジャーヘッド》や《スカイフォール》でも印象的だった「一発の絵で衝撃を与える」というのはもうお手の物。


今作でも「街が炎に包まれている」という描写などは特に素晴らしい映像でした。


炎を使うという表現は様々なアクション映画でいくらでも観たことがあるはずですが、「目の前で街が燃えていて、自分にまで熱さが伝わってくる」という体験的な映像の見せ方なんかは本当にうまいなと。


「人が目の前で死んでいく」とか「爆撃の中を疾走する」とか、シームレスな映像の見せ方であるからこそ伝わってくる戦争の恐怖を感じました。

 

映画の不満点


これはもはやこの映画の宿命なのですが、とにかく「カメラ」が気になります。


全編ノーカット、というのを売りにした以上「どうやって撮影したのだろう」とか「これはCGかな」とか「ここは編集でつないだのかな」とかがとにかく気になります。


なので先ほど「シームレスだからこそ緊張感がある」と褒めた点と矛盾するのですが、撮影技術の方に目がいってしまってなかなか戦争の中に没頭出来ないんですよね。


このあたりは《グラビティ》とも同じでした。


あちらも15分間ノーカットみたいな演出が話題になりましたが、だからこそ気が散るという不幸な感情を持ってしまって。


影技術の方にスポットがあたると、映画の内容に集中できないというのは難しいところですね。

 

ご都合主義的展開


このお話は「A地点からB地点まで行き、軍事的伝令を伝える」というのが目的です。


その間に銃撃にあったり隠れたり河に落ちたりするのですが……これがですね、なかなか「テンポ良く」起きるんですね。


つまり、とても映画的なバランスがいい状態。


でも戦争って……そんなテンポ良くないでしょう、きっと。


もっとボーーーーーっとしてたり、あるいはカオスの連続であったり。


あくまでも「映画の展開に合わせた事件」のつなぎ合わせであるという風に感じてしまって、それもノレない部分ではありました。


もちろんそれは監督自身も意図していると分かっているのですが、映画がうまく出来ているほど気になる点でしたね。


特に敵に追いかけられて川に落ちるシーンがあるのですが、命からがら川から上がった場所がたまたま目的としていた隊の場所だったっていう展開は「ないわ〜」って感じでした。


あきらかに「映画の残り時間」に合わせた展開だし、そこまでの偶然が働いちゃうと命をかけた伝令っていうのも「ただ運がいいだけじゃね?」って気もしちゃって。


そもそも彼が伝令として選ばれたのは多少地図に詳しいとかそんな理由なんですけど、後半は逃げ回っているうちにたまたま目的地に着いたりみたいな展開ばっかりで。

 

ポスターの感想


ポスターは非常に素晴らしい出来だと思います。

 

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「命をかけた伝令」という副題は好きではありませんが、キャッチコピーの「走れ」というシンプルさは切れ味が良くていいですね。


英語でのキャッチコピーは「TIME IS THE ENEMY」なのですが、これを直訳してしまうと「時間は敵」みたいになってしまって日本人には伝わりづらいですよね。


だったらもっとさらに削り取って「走れ」の一言の方が切迫感があっていい感じです。


ビジュアルも大きく大きくフーツラ書体でしょうか、1917とドーーーンとビジュアル化。


そこに戦場の夕景や鉄条網のようなものがチラリと写り、1917年という100年以上前の一瞬を見事に切り取っているようです。


瞬間の美しさ、そして死の恐怖まで見事にパッケージできています。

 

別案


こちらはこちらでいいデザインですね。

 

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むしろより具体的ではあります。


戦争のど真ん中で、今まさに死の局面が迫っているという状態と、それに取り残されたように静止している主人公のビジュアル。


写真からその状況の音や匂いまで伝わってくるような迫力があります。


このあたりは映像的センスが世界トップであるサム・メンデス監督作品なのだというメッセージを強く感じますね。


「この映画、ビジュアルはとんでもないレベルだから」という宣言でしょう。

 

まとめ


正直なところ、僕自身はこの映画を手放しで大好きだというわけではありません。


ワンカット映画で言うならば近年でバードマンという作品がありましたし、あちらの方が好きです。


また、戦争もので言うならば同じくアカデミー作品賞にエントリーしていたジョジョ・ラビットの方が好きです。


かといってこの《1917》が必要の無い映画というわけでは当然無くって、この映画を通じて戦争の恐怖を体験できることはある意味人類史においての財産だとも思うんですよ。


「全人類、必ず観るべし!」とも思うし、ましてや映画館で観ることが出来るならよりベター。


気になってる方は今のうちの鑑賞をおすすめします。


それでは、また。