映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

オクジャ 《好き勝手に出来るすがすがしさ》

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映画の点数…85点
ポスターの点数…88点

 

オスカー受賞記念第2弾


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《オクジャ》です。


ポン・ジュノ監督がパラサイトでアカデミー作品賞を獲得しての記念レビュー2作目。


とかいいつつ、単に僕がこれを機にポン・ジュノ作品を見直したいというだけですが。


制作がNetflixという超巨大資本をバックに制作されました。


Netflix作品なので、厳密に言えば映画ではないのかも知れませんが、個人的には「でも家でDVD観るのも映画鑑賞って言うじゃん?」と思うので、一応映画扱いとします。


Netflixは監督の好きに作らせるという噂がありますが、Wikiによると制作費は50億円…。


日本ではキングダムで10億程度だったのに、「ブタちゃん、ニューヨークへ行く」みたいな映画に50億つっこめるNetflixの恐ろしさよ。。。。


そしてそれに見事に応えたポン・ジュノ監督。


改めて「ああ、これはもはや日本映画が太刀打ち出来ないレベルにあるな」と思いましたよ。

 

 

映画のストーリー


食料危機への対策を名目に遺伝子操作で作られた巨大ブタ。


韓国の田舎でおじいちゃんと孫で育てられていたオクジャ(ブタ)は、ついに食料にされるためにNYに移送されることに(これを孫のミジャは知らなかった)。


オクジャを救い出すために、ミジャのソウル、ニューヨークへと続く冒険が始まる。


みたいな感じです。


話の大筋こそ「家族同然のブタを助ける!」という感動ものなのですが、そんな甘ったるいものじゃないというのがポン・ジュノ監督の恐ろしさ。


少女のブタを助けたいという思いの裏側で、食品開発を全うする会社や、遺伝子操作を食品にまで行う安全性や倫理問題、超法規的なテロリズムを使ってでも動物を守ろうとする愛護団体、その奥に無数にある「うまくて安いものなら何でも食べるよ」という我々消費者側の視点。


どれが正解であるという明確な姿勢は避けつつも、「お前ら目をそらすなよ」というメッセージを痛快なコメディで描ききった一作。


まぁ見事なものだと舌を巻きました。

 

映画の良かった点


ポン・ジュノ監督のお得意技でもあるのですが「これは一体どういう気持ちで観たらいいシーンなの?社会派問題なの?コメディなの?」というジャンルレスなシーンはたくさん挟みつつも、観ていてストーリーに置いて行かれることがないという不思議な構成。


とにかく映画が観やすいというのが非常に優れた点です。


そういう「普通に撮ろうと思ったらいつでも出来る」という強固な実力があるからこそ、どんどん遊びの要素を放り込んでくるんですね。


特にこの映画は「グエムル」と違って具体的な“敵”がいません。


映画上の“敵”に見えるアメリカの大企業も、話を聞いてみると基本的には全うなビジネスをしているだけです。


もちろん動物虐待や、生産者を騙す行為もしていますが、それって僕らが暮らす実社会の中で普通に見かけるレベルの範囲なんですよね。


だから見ていると「あれ?これって俺が責められてる?」という不安に襲われたり、別のシーンでは「やっぱりこいつら酷いな」なんて気持ちがグラグラしてきます。


そういった観客の心を揺さぶりつつも、映画としてしっかりエンターテイメントしてるんですよねぇ。


一歩間違えばすぐさま駄作になりそうなものを、よくぞコントロールしきれるなと驚きます。

 

パラサイトとの比較


映画の内容はパラサイトと全く違うのですが、個人的には僕はこの作品があったからこそパラサイトのクオリティが上がったのではないかと思いました。


このオクジャはハリウッドスターもたくさん出ている超豪華な内容です。


レンホールやポール・ダノら個性派俳優をコントロールしつつ、決して超絶美人ではない韓国人を主役に、さらにはCGで巨大ブタを常にイメージしながらの制作になります。


制作費も50億ということもあり、恐らくではあるのですがポン・ジュノ監督も「素直に楽しめる箇所は楽しませる」ということをより意識したのではないでしょうか。


どこからどう観てもポン・ジュノ監督らしい作品でありながらも、所謂ハリウッド的な豪華な楽しみ方も出来るバランスになっています。


この経験が《パラサイト》の制作にも生きていると思っていて、「自分らしい個性のある映画」というバランスと「ここではしっかりとお金を使って贅沢な見せ場にする必要がある」というバランスを掛け合わせることに成功したのではないでしょうか。


さらには「朝に撮影を始めて、ちゃんと食事もとりつつ夜には撮影をやめる」という撮影スタイルを導入したようですが、このあたりも俳優やスタッフの権利の強いハリウッド的な考え方のように思います(このあたりはポン・ジュノ監督というよりも韓国国内の働きかけがあったようですね)。


成功を続けた結果として潤沢な制作費を用意しつつ(パラサイトは12億らしいです。ほぼ室内の映画と考えるととても贅沢な資金)、力のコントロールをマスターしたかのような余裕を感じる映画の作り方。


ポン・ジュノ監督自身は今後ハリウッドで撮ることに意欲的ではないようですが、このオクジャを撮ったことは非常に大きなレベルアップにつながったのではないでしょうか。

 

ポスターの感想


映像配信なのでポスターというのは少し違いますが。

 

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このビジュアルにもやはり「普通の映画とは違うな」というのは見て取れます。


ビジュアル内の情報がかなり少なく、シルエットと文字だけで映画の内容を読み取らなければなりません。


そもそもポスターは「相手に情報を伝える」ことが目的なわけで、となるとどうしても「分かりやすく見やすく読みやすく」ということに意識が集中します。


このようにパッと見ただけではどんな内容か分からないビジュアルなんて普通は通らないと思うんです。


でもそれを通してしまうあたりにNetflixの余裕を感じるというか。


「巨大な生物の上に見える、工場のような資本社会の象徴」というキーワードだけで映画への興味をかき立てるわけですね。


滅茶苦茶な勇気を感じて怖ろしいなと。


でもこれってNetflixのシステムを考えると、決してマイナスではなくって。


Netflixは日本では1300円程度で見放題なわけですから、このオクジャも当然追加料金無しで見ることが出来ます。


面白くなかったら途中で消せばいいし、特に損することもないわけです。


だからこそ、攻めたビジュアルでデザインすることが出来る。


むしろ既存の他の映画のゴチャゴチャしたビジュアルの中においては逆に際立って目立つかもしれません。

 

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これからの時代のビジュアルの方向性を読み解くことが出来るようです。

 

まとめ


ポン・ジュノ監督、恐るべし!


という話からついついNetflixのお話に広がっていってしまいました。


でもこれも日本映画に関係ないわけでもなくって、才能のある日本人監督もバンバンNetflixで映画作ったらいいと思うんです。


そのうえでもう一度日本映画に還元できたとしたらいいじゃないですか。


既に韓国映画は世界の潮流映画のど真ん中にきてしまいました。

 

周回遅れの日本は、いつ追いつくことができますかね。。。


それでは、また。