映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

タクシードライバー《素晴らしい映画、最高のポスター》

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映画の点数…95点
ポスターの点数…99点

 

JOKERを踏まえた上で


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画はタクシードライバーです。


昨年話題を呼び、ついにアカデミー作品賞ノミネートまでいった《JOKER》。


そのJOKERの元ネタとなったとなっている作品の一つがロバート・デ・ニーロとスコセッシの《タクシードライバー》でした。


他にも同じコンビの《キングオブコメディ》も元ネタとなっていますね。


パクリとかそういうレベルの話ではなく、かなり明確に映画内に取り込んだ上で制作されているので《タクシードライバー》と《キングオブコメディ》へのアンサー的な作品だったとも思います。


もちろんそのJOKERも大傑作でしたし、個人的にも大満足でした。


そのうえで、やはり僕は「タクシードライバーとかの狂気の方が凄まじかった」と素直に思ったんですよね。


そのあたりを確認したくて久しぶりにタクシードライバーを鑑賞してみました。

 

 

映画のストーリーの違い


ジョーカーとトラヴィスの共通点は、共に「社会的には価値のない貧困層(と自ら思っている)」という点です。


女性にフラれたり、他人にバカにされた態度をとられることで徐々に狂気が増していき、それが最後スパークする、というのは同じです。


とはいえやはり全く違う点もいくつかあって、まず「コメディアンに本気でなりたいアーサー」と「そもそも仕事なんて何でもいいトラヴィス」では全く違います。


それと元々は良心のあったアーサーに対し、トラヴィスは映画の冒頭から既に精神的に安定していません。


気になる女性に対してアプローチをかけることをためらうアーサーに対し、トラヴィスはかなり積極的に話しかけるし、そのナンパの仕方もかなり痛々しいです。


キングオブコメディも、主人公は冒頭から既におかしい人物でした。


同じようなストーリーに見えて、設定などには違いがあるのが分かります。

 

映画の良かった点


スコセッシとデ・ニーロの素晴らしい点はなんといっても「画面から伝わってくる禍々しさ」だと思います。


メソッド法なんて演技アプローチがありますが、この映画にうつるトラヴィスはどっからどう観ても「イっちゃってる人」。


言うまでもなくデ・ニーロはミッドナイト・ランやディア・ハンターなどで観られる「普通の人」を演じるのも当たり前に出来るので、これが演技であるというのは明らかです。


このただでさえ様子のおかしいトラヴィスが、後半になるにつれさらに異常になっていき、ついにイキイキとした表情で銃の練習を始めるに至ります。


映画内で決定的に事件が起きるのは最後の10分程度なのですが、それまでを全く退屈させることなくエンターテイメントにするのは脚本や音楽だけではダメでしょう。


やはりスコセッシの演出とデ・ニーロの演技があるからこそ成立している映画であって、他の誰が演じてもここまでの傑作にはなっていないと思います。

 

ジョーカーとの比較


改めてタクシードライバーを見直したところ、あくまで個人的な意見ですが、やはりジョーカーよりもタクシードライバーの方が普遍的でありより傑作だと思うんです。


ジョーカーは「なりたい職業があるが、持病や病気の母のこともありうまくいかない」という面もあるのですが、単に才能がないとも言えます。


それで夢が叶わないとか「いやいやいやいや、すごく普通のことじゃない?」と思っちゃって。


「全員がジョーカーになれる!」みたいな内容だったのですが、僕からすると「こんなことで犯罪犯すなよ」って思っちゃって。


何よりバットマンというヒーローありきのキャラクターという点が引っかかって、全員がバットマンを知っているという前提で作られた映画が評価されるのもどうなのかと。


これがフランス革命とかWWⅡとか、実際にあった出来事を映画にするなら別にいいんですけど、架空のキャラクターのマンガ(映画)に対して、さらに架空のキャラクターと設定を加えて映画にするっているのがスマートだとは思えないなぁというか。


だったらやっぱりタクシードライバーのように、単体で成立している映画の方がいいと思うし、2020年に見直してみても設定とかは全く古くなっていませんしね。


改めて一応補足しておくと、ジョーカーという映画自体はものすごーーーーく面白かったと思っています。


ただ、比較すると、というだけの話です。

 

ポスターの感想


うーーーん!!


かっこいい!!!

 

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なんなんでしょうか、この計算されつくしたような、されていないような美しさは。


まずビジュアルとしは100点ですね。


デ・ニーロがかっこいいというのは当然ありますが、配色、構図、テキスト全てにおいてハイレベルです。


さらに、映画ポスター、つまり「広告として」の機能も十分に持っています。


顔の陰影、ピントの合っていない感じ、深い夜の中で人工的な光に当てられた男。


着古したミリタリーウェアに、姿勢悪く佇む姿、さまよう目線。


これらすべてから、この男が真に孤独であるということが伝わってきます。


しかも単に孤独なのではなく、何か不穏さも持ち合わせています。


これらの情報だけでも「うわぁ、何かが起こりそうな映画だ」というのはビンビンに伝わりますよね。


これぞ映画ポスターだなと思います。

 

日本版ポスター


まず、スコセッシの表記が「スコシージ」になっていることに驚きます。

 

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昔はスコシージって呼ばれてたんですね。


アル・パチーノも実際にはパチーノなんて言い方ではないみたいですし、昔から活躍している人達って色んな言い方があるのかも。


さて、ポスターの内容としては一点気になることがあります。


せっかく「この男、孤独なり」というのがビジュアルから表現されているのに、コピーの最後に「ニューヨークの夜が、いま明けていく」となっています。


いやいや、そんな映画じゃないでしょ。


むしろ永遠に夜なんじゃないかっていう恐怖を感じるような映画ですよね。


なんでこんなコピーをつけたんだろうか。


わざわざ45年前の映画コピーに言う文句でもないですが。

 

まとめ


ついつい「ジョーカーよりもタクシードライバーの方がすごいぞ」みたいな書き方になった部分もありますが、別にそれは僕だけの意見です。


ジョーカーは間違いなく素晴らしい映画ですし、ホアキン・フェニックスは本当に凄まじい演技をしました。


それに全ての人がわざわざタクシードライバーキングオブコメディを見直す必要なんかないわけですよ。


どちらかを観るのであれば、新しく制作されたジョーカーを観るべきだと思います。


ただ興味があるのであれば、タクシードライバーも観た方が絶対に豊かな映画ライフになると思いますよ、くらいの感じです。


良かったら素晴らしい映画ポスターと合わせてご覧になってくださいませ。


それでは、また。