映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

THE GUILTY 《これは日本版ポスターの方が上では?》

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映画の点数…72点
ポスターの点数…90点(日本版)

 

ちょうどいい佳作


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《THE GUILTY/ギルティ》です。


デンマークのサスペンス映画が、世界中でヒットを飛ばした一作です。


ハリウッド映画との大きな違いは見たらすぐ分かる通り、とにかく低予算で作られたということ。


何せ上映時間90分のうち、すべて同じ部屋(と、隣の部屋)で展開される映画です。


警察(日本とはシステムがどうやら違うようですが)として働く主人公が、電話オペレーターとして電話の向こうにいる女性の命を助けようと奮闘する様子を描いています。


奮闘といってもかなり冷静な主人公と、役者の雰囲気もありやはりかなり静かなムード。


画面全体も青っぽい蛍光灯の色に支配されていて、とにかく画面から伝わる情報のみに限ると非常に地味な映画です。


それがかえって「お、新鮮な映画体験だな」とウケたというのも分かります。


僕も非常に楽しめた一作でした。

 

映画の良かった点


もちろん、ただのアイデア一発の映画というわけではなく内容も面白いです。


電話の向こうにいる女性や家族が命の危険にさらされていることは分かるのですが、その情報の出すタイミングや役者の声の演技だけでそれをエンターテイメントにしないといけません。


ましてやデンマーク語(デンマーク語ってのがあるのかは知りませんが)。


英語以上に何を言っているのか全く分からないため、声のニュアンスやテンションで状況を推察するしかありません。


でも見事にそこをクリアしているんですね。


そこだけですでに合格点。


でもこの映画はそれだけではなくて、ただ90分間電話をしているというだけの主人公が成長していくということまで描いています。


ノローグや回想シーンなども一切ないため、主人公がどのように気持ちの変化をしていくかすらも表情や声だけで判断する必要があります。


それすらもやってのけてるのはこれまたお見事。


この映画が世界中でヒットしたのも納得です。

 

映画のダメな点


とはいえ、映画の駄目な点も正直あります。


それは、やはり「アイデアに合わせた脚本」にせざるを得なかったことがハッキリと分かってしまう点です。


例えば電話の向こうで助けを求める人物が、やけに機転の利く行動をしてみたり、その逆に「バカかお前は!!」みたいな展開になったりとキャラクターが安定しません。


これは映画に起伏をもたせるため以上の理由がなくって、顔が見えないのをいいことに随分と都合良く行動しているなという印象はどうしても持ってしまいます。


エンディングでは「なるほどそういう事だったのか!」というサプライズもあるのですが、そうなると「あれ?でもさっきの話と矛盾しないか?」と映画を遡って不満が出てくるんですね。


とはいえ、それは映画に対する姿勢の問題でもあって。


気軽に楽しむ程度であればそのくらいの矛盾よりも面白さの方が優先されると思いますし、現に僕も初見は非常に楽しめたのは本当です(でも二回目は見れないかな…)。

 

ポスターの感想


このブログの中ではちょいちょい「日本版ポスターはダメだ!!」と文句をつけることも多いんですけど、いやいや、今作に関しては日本版ポスターの方が絶対にいいと思いますよ!


まずは(たぶん)本国版ポスター。

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クールな主人公が、イヤモニで何かを聞いているというシンプルな構成。


画面の全体的な暗さと、逆光になっているドアから出て行く人物の様子からも「主人公には何か後ろめたいことがあるのかな」ということは伝わります。


でも、正直「何のポスター?」って感じです。


一応目線などから耳に注目する…とも言えなくもないですけど、でもやっぱり不親切。

 

 

別案


こっちのポスターはもっとダメですね。


これはハッキリとダメなポスターです。

 

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電話の向こうにいる被害者や加害者の人物達の様子は、可視化されないからこそこの映画は素晴らしいのです。


だからこそ僕たち観客は想像し、祈り、ヒートアップするんです。


なのに何故それをビジュアル化してしまうのか


ましてやかなり余分な彩色まで加えて、エンターテイメント色を悪い意味で増幅しています。


細かいことですが、斜めに傾いたフォントすらも完全に余計です。


映画のコンセプトそのものを否定する0点のポスターです。

 

日本版ポスター


さて、それでは日本版ポスターです。

 

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これはいいんじゃないですか??


はっきり言って日本での知名度は0の主演俳優を写すことはせず、イヤモニの向こうで何か事件が起きているということのみをビジュアル化しています。


画面の比率に対して写真が占めている割合がかなり狭いのもプラスの効果になっています。


かなり閉鎖された空間の映画だということ、情報が少ないということ、圧迫された状況だということをうまく表現しています。


犯人は、音の中に、潜んでいる というシンプルなキャッチコピーも主張しすぎずいい感じです。


このキャッチコピーだけで「ああ、何か事件なんだな」「犯人がいるんだな、誘拐かな」とか必要な情報は伝わってきます。


そのうえで、読もうと思えばギリギリ読めるくらいで状況を指し示す言葉がたくさん並んでおり、やはり主張しすぎないバランスでタイトルがのっています。


デザイン的なことを言うならば、画面上部にある「驚異の満足度100%」とかの情報は邪魔なのですが、これはあくまでも映画ポスター。


主演も監督も誰も知らないデンマーク映画なので、何かしら宣伝するコピーを入れるのは必然でしょう。


インディー映画として非常にバランスのいいポスターですね。


「オシャレでカッコイイ!」というポスターではなく、あくまでも「映画ポスター」として非常に優れたものになっていると思いました。

 

まとめ


映画自体は「おすすめです!観た方がいいですよ」くらいのテンションです。


ですが、今作に関してはグラフィックデザイナーとして「おお、いいポスターだな」という方に興奮しました。


10年後にもう一度観たい映画かと言えばちょっと言葉に詰まりますが、この映画ポスターだけでも非常に勉強になったなと思いましたよ。


それでは、また。

 

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