映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ブラック・クランズマン 《すっきり飲みやすい猛毒》

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映画の点数…92点
ポスターの点数…75点

 

ストレートに面白い映画


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《ブラック・クランズマン》です。


僕がこの作品のことを知ったのは、監督のスパイク・リーが今年のアカデミー作品賞の《グリーンブック》を批判していたことが最初だったように思います。


けっこう色んなことに積極的にガブガブ噛みつくタイプの監督ですが、個人的にはグリーンブックは大好きな作品なので「まぁそこまで言わんでも…」とも思ったのですが、指摘されていた点も「なるほど確かに」と思うところもあり。


やはり映画で差別というものを表現するのは難しいのだなと改めて思いましたね。


ではそんなスパイク・リーが描く「黒人(ユダヤも含む)差別」映画はどうなっていたのか。


まず素直に思ったのは「想像していたよりも、ストレートに面白い映画だな」ということでした。

 

映画のストーリー


まず映画の脚本が優れているのだと思います。


KKKや黒人差別、ユダヤ人差別、ホロコーストが無かったという発言、そして実際に怒った事件を背景に映画は進んでいくのですが、それらヘビーな史実をうまく脚本に取り込んでいます。


時には時系列をバッサリ無視して「映画として面白いかどうか」で映画を組み立てているようです。


KKKに潜入捜査を試みる黒人警察が、いかにしてKKKの犯行を阻止するか、逮捕までもっていくかが映画の基本設定となっています。


差別を取り扱った映画ながら、「バレるかバレないかサスペンス」だったりコメディだったりするわけですね。


シンドラーのリスト」や「デトロイト」のような描き方の映画もあるしどちらも好きな作品ですが、少なくとも2018年~2019年はブラック・クランズマンやグリーンブックのような軽やかなタッチで描く映画がウケたのでしょう。


近年は特にポリコレだったりフェミニズムが一部暴走したような事例もいくつか散見されたので、もしかしたら「もうちょっとライトに表現できないだろうか」と世界中がなんとなく感じていたのではないか、なんて思ったり。


そんな空気感の中でこの映画は軽やかに世間を驚かせたんじゃないかなと思います。

 

映画の良い点


上記にあるように、まず何より映画が面白いということです。


当たり前のことを言うようですが、これって結構難しい。


例えばトイストーリー4やアナと雪の女王2。


僕は大大大好きな作品ではあるんですけど、一部ストーリーがグラグラしている部分があるのも事実。


でも作品がどのようなメッセージを持っているのか紐解いてみると、実に考えに考えに考え抜かれたストーリーだということが分かります。


「メッセージが考え抜かれている」からこそ、それを映画化するに当たって脚本に不具合が出てくることってよくあると思うんです。


だから、その不具合だけを観て「この映画面白くなーい」と言われちゃうのは可哀想だなと思いますが。


ですがこのブラック・クランズマンは「映画として面白い」し、「メッセージもドッシリとある」映画です。


しかも色んな映画ジャンルのいいとこ取りでもあって。


ヒヤヒヤサスペンスもあれば、素直に笑えるコメディでもあるし、歴史的な重厚さも感じるし。


だから気付きにくいのですが、非常にすっきりしていて飲みやすいのに実は猛毒っていう映画で。


見終わったあとはしばらく体が麻痺しちゃうような感覚になりますね。

 

映画のラスト


ネタバレとまでは言いませんが、映画のラストにトリッキーな演出が待っています。


あれを映画の文法としてとらえると色々な意見が出そうですが、個人的はとても良かったと思いますね。


あれがあるおかげで「お前ら何安心して映画観てるの?ちょっとこっちこいよ」と現実に無理矢理放り込まれるような感覚になります。


それが映画を激辛にしてていいなと。


政治的主張の多い映画は好きでは無いんですけど、ホロコーストと同じで「実際にあったことは、実際にあったこと」として真正面からとられるのは必要なことと思うので。

 

ポスターの感想


英語オリジナルのバージョンと、日本のポスターのバージョンを見比べてみたいと思います。


まずこっちが本国版。

 

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主演の二人を左右に分割して、中央に“色的な意味で”白を配置して綺麗なレイアウトになっています。


文字情報も目ですぐに可読でき、洗練さを感じます。

 

一方、日本語版ポスター


なんだか急にガチャガチャしだしましたね。

 

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違いは「ポスター上部のキャッチコピーの面積がでかい」こと「主演の二人が画面中央に寄ってきている」こと「中央のKKKをイメージさせる白い布に、目がついている」という点がパッと目に入ります。


このうちの「主演を観やすくする」ということと「KKKを分かりやすくする」という点に関しては理解できます。


この時点でワシントン息子さんはまだまだ無名だし、アダム・ドライバー知名度も映画ファン以外にはそこまで無いでしょう。


KKKに関しても、近年再び話題になっているとはいえ知らない人も多いでしょうから。


ただそれは配慮したとしても、いくらなんでもこれだけ文字がゴチャゴチャしているのはやはりどうかと思います。


元々あったスタイリッシュさがほとんど無くなっていますからね。


痛快リアル・クライムエンタテインメント、みたいなコピーは不要ではないでしょうか。


結局何言ってるのかわかないし。


中央の「俺たちがすべて暴く」ってコピーも不要だと思います。


別にいいコピーでもないし、特にそういう映画のトーンでもないですから。

 

別案


個人的にはすべてこのポスターで良かったのではないかと思います。

 

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アメリカ国旗が黒くひっくり返っている、そこに黒人男性が立っている、というだけでもはや一つのメッセージを感じます。


タイポグラフィもオシャレで、この映画の持つ皮肉めいた姿勢やスマートさをうまく表現できていると思います。

 

まとめ


はからずもグリーンブックと鏡合わせのような映画であるブラック・クランズマン。


どちらが面白いかは人それぞれだとして、僕はどちらも鑑賞することでより自分の知識がより立体的になると思います。


グリーンブックにしろブラック・クランズマンにしろ、こういう映画がそんなにお客が入ってないってのはどういうことなんだと思っちゃいますけどね。


良かったら見てみてください。


それでは、また。

 

 

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