映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

リトル・ミス・サンシャイン 《感情のすべてがくすぐったい作品》

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映画の点数…93点
ポスターの点数…80点

 

小粒ながらの傑作


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画はリトル・ミス・サンシャインです。


監督はヴァレリー・ファリスジョナサン・デイトンコンビ。


近年ではバトル・オブ・ザ・セクシーズを監督されていましたね。


この映画はまさにこのブログの内容にドンピシャな「映画が素晴らしく」「映画ポスターも素晴らしい」という理想的な映画です。


当然細かい不満点などはありつつも、一度目にするだけで記憶できてしまう完成度の高いポスターを観るだけで幸せな気持ちになるんですよねぇ。。。


それでは映画とポスターの感想を振り返ってみたいと思います。

 

映画のストーリー


ニューメキシコ州アルバカーキに住む5人家族+1人のお話です。


シェリル・フーヴァー(母)と夫のリチャード。


彼女の兄でゲイのフランクは自殺未遂事件を起こした後、彼女の家族と一緒に暮らしはじめます。


シェリルの前夫との子供であるドウェーンはパイロットになるためにアメリカ空軍士官学校に入るという夢を実現させるまでに「沈黙の誓い」を立てている15歳。


リチャードの口汚い父で第二次世界大戦の退役軍人のエドウィンはヘロインの使用のために最近老人ホームを追い出されて家族と同居するように。


オリーヴはカリフォルニア州レドンドビーチで開催される美人コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」の予選を通過したことを知り、有頂天となります。


しかしながら費用やその他の諸々の問題により、家族全員が同行しなければならなくなり、古ぼけた黄色いフォルクスワーゲンT2マイクロバスでの800マイルの旅が始まります。

 

ちなみに距離で言うとこのくらいです。
日本で言うなら、東京から鹿児島までタウンエースで旅するみたいな距離のようですね。

 

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バスは老朽化によりクラッチが故障してしまい、部品の交換が不可能であったため、一家はバスを後ろから押し時速20マイルに達した時点で飛び乗るという方式で旅を続けることになります。


基本的なストーリーは「オリーヴの美人コンテストの為に家族で向かう」というロードムービーですね。


多くの映画がそうであるように、この旅を通して家族の一人一人が成長したり家族の関係性が深まったりするというストーリーです。


「バスをみんなで押さないとエンジンがかからない」という設定が象徴しているように、家族が向き合わないと物語が前に進まないわけですね。

 

映画の良かった点


物語自体はとても古典的な話です。


世界中で同じような映画は無数にあります。


あとは「どうアレンジするか」が監督の手腕によるわけですね。


そして今回の映画はそれが大成功だったわけで、予算1億円程度(日本映画としても安い方ですね)でありながら興行収入は100億円を超えアカデミー賞でも脚本賞助演男優賞を獲得しています。


脚本家のマイケルさんは後に「トイストーリー3」や「スターウォーズ・フォースの覚醒」などの脚本を手がけることになりどちらも大好きな作品なのですが、特徴としては「正々堂々とした成長物語の中になかなかダークなコメディを散りばめる」のがうまいなという印象。


いずれの作品も泣いてしまうくらい感動するのに、映画を見終わったあとにチクチクとしたトゲを残すような感じですね。


この《リトル・ミス・サンシャイン 》もそんな感じで「娘のコンテストに向かう」という誰がどう見ても「良い話」の中にヒリヒリとした人間ドラマをドンドン放り込んできます。

 

そもそも全員おかしい


まず車内に「先日リストカットをしたおじさんがいる」という状況が既に痛々しいです。


じいさんは薬物常用者だし、父親は明らかにうまくいかなそうな仕事をして案の定失敗していたり、息子はメモでしか会話をしないし。


そもそも「美人コンテストに出る」目的なのに、その娘自体がわりと太っているし衣装もダサいという。


改めて見渡してみると「そもそも全員おかしい」ということが頭に引っかかった状態で映画はすすんでいくんですね。


その違和感こそが映画の魅力であって、コメディシーンなのにその人物の背景を考えると泣けてきたり、緊迫したシーンなのにエロ本についての会話を1分くらい長々と繰り返したり。


この爆笑しながら涙が出る感覚は松本人志さんのコントを観ている時と共通するようなおかしさがありました。

 

愛のある映画


ダークコメディな映画なんですけど、最終的にはとても愛を感じる素晴らしい映画でした。


物語のラストは当然「娘のコンテスト」になるわけですが、もう画面を観ていられないほどの惨劇が待っています。


でももう、泣けてしょうがないんですよね。


この映画に共通して感じるテーマ「でも、やるしかないだろう?」というあたたかいメッセージ。


一台のバンの中に「夢をみる少女」「夢に破れた少年」「夢を諦められない中年」そして「夢の終わりをむかえる老人」が同居しているという状況が物語のラストで交錯するんですよね。っても映画的には手際よく)人物の背景を描いてきた分、その全てがスパークする瞬間は本当に気持ち良かったです。


あのコンテストのシーンは映画史に残る爆笑シーンでありながら号泣シーンじゃないですかね。

 

ポスターの感想


ではこの映画のポスターを見てみましょう。

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まずパッと観て「お洒落」なポスターなのは間違いないですね。


一大の黄色いバス、それに合わせたバックの黄色が印象的です。


映画を観たらすぐに分かる通り、バスをみんなで押して出発している要素をポスターにしてあります。


あとは登場人物を並べて、タイトルをつける。


極めてシンプルな作りです。


ですが、その一つ一つのディテールは「適当に並べただけ」とは全く違います。


まず画像のチョイスですが、ただ映画の内容を紹介するだけであったら「美少女コンテストの場面をポスターにする」とか「家族の集合写真をポスターにする」という選択肢もあるはずです。


このポスターのように、みんなの顔が横を向いていたりボケていたりするものをチョイスしたのは何故でしょうか。


それはやはり「一台のバスをみんなで押し、そして乗り込み、前にすすむ」という行程こそがこの映画のテーマだからですよね。


このポスターだけを観ると「ポップで楽しそうだな」という印象が第一に飛び込んできますが、映画を見終わったあとにもう一度観てみると不思議とグッとくるものがあります。


もしかしたら偶然なのかも知れませんが、キャラクター毎の構図すらも意図があるように感じます。


あれほど自分の成功のことしか考えていなかった父親が、みんなの方を向いている。


駆け寄る孫を迎え入れようとしている祖父。


最後までバスを押しているのは誰で、一番最後方から家族を観ているのは誰なのか。


映画を見終わった後にもう一度機能するポスターというのが最も優れたポスターであると僕は考えているので、まさにこのポスターはその通りの出来になっています。

 

タイトルのフォント


かなり細かいですが、タイトルの文字が少しずつ大きくなっている点も注目です。


リトル・ミス・サンシャインという大会名をタイトルにしているだけなので、文字の大小をつける意味は本来はないのですが、この「少しずつ大きくする」とすることで頭の中で読み上げる際に「サンシャイン」の意味合いを大事にとらえる効果が考えられます。


「サンシャイン」の印象が強まることで全体的なポジティブさが増し華やかさを感じます。


洋服を着る際に帽子やシューズなど先端にあるものに気をつかうように、言葉の端っこにあるものは全体のイメージを左右するということですね。

 

あえて不満を言うならば、ちょっと毒っ気のある要素がなさ過ぎますね。


映画自体はけっこうブラックなところもあるし、そもそもPG12だし。


もうちょっとだけ配色などの工夫で苦みのあるデザインだったらより良かったのではないかなと思いました。


まぁそんなのは贅沢な話ですね。
とてもいいポスターです。

 

日本語版ポスター


日本語版ポスターも今回大変良いと思います。

 

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まず本国版のポスターに敬意を払い大きなデザインの変更は全くしていません。


その上でタイトルの入れ方もさりげなく、センス良くまとめています。


そして「夢と希望を乗せて、黄色いバスは行く」というコピーもいいじゃないですか。


過不足なく映画の本質をとらえています。


例えば「負け組家族が繰り広げる、愛と希望に溢れた物語」なんてつけちゃうと急にダサいですよね。


この「黄色いバスは行く」という言い切り型のコピーがいいです。


映画がロードムービーであるということを伝えるのと同時に、そのバスの行き先に何が待っているのかという興味を引き立てます。

 

 

まとめ


映画も良し、ポスターも良し。


もはや言うこと無しの傑作ですよ。


万人が喝采を送る映画ではないかも知れませんが、とにかく僕はこの映画が大好きですね。


笑って泣ける映画、デザインが良くてメッセージ性も高いポスター。


互いによい関係性を感じる素晴らしいコンビネーションです。


何か人生でつまらないことがあったら、黄色いバスに乗って彼らとともに旅をし直そうと思いましたよ。


それでは、また。

 

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