映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

愛しのアイリーン《観る人を不安にさせる映画とポスター》

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映画の点数…81点
ポスターの点数…80点

 

吉田恵輔監督作


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は愛しのアイリーンです。


ここ最近ようやく吉田恵輔監督の魅力に気付いた周回遅れの私ですが、愛しのアイリーンもとても楽しみにしていた作品です。


原作マンガの方は未読なのですが、以前監督されたヒメアノ〜ルのクオリティの高さなどを考えると原作未読でも特に問題はないかと思います。


というのも脚本→監督までこなされるのも関係があるのか、原作を2時間の映画にパッケージするのが非常にうまいので。


もちろん今作も2時間の映画としてバッチリな編集をされてましたよ。


これはあくまで個人の趣味の範囲ですが、近作である犬猿よりははるかに面白く、ヒメアノ〜ルには届かなかったかなという感じです。


ただしこれは好みの問題であって、映画としてのクオリティの高さは今作の《愛しのアイリーン》が最も映画として完成度が高いと思いました。


まぁ森田剛さんや窪田正孝さんのようなスター俳優が出演しているような映画ではないし、一般受けするタイプの映画とはとても言えませんが、色んな意味で多くの方に観てもらいたい魅力のある作品だと思います。

 

映画の内容


田舎暮らし、安定した職にもつけていない、彼女いない、実家暮らし、コミュ障、車は軽トラという42歳の主人公・岩男のお話です。


こういう設定が用意されたキャラクターは、普通ここから「夢を取り戻し走り出す」とか「運命の恋に落ちて人生をリスタートする」とか、逆に「世界に復讐するために暴走する」とかなっていくと思うんですよ。


ただし岩男はそういう映画の主人公とは違って、映画の始まりから終わりまで基本的に成長しないんですよね。


明日のことなんて考えていないし、人に優しくなんて出来ないし、目の前の性欲にかられて生きてはいるけどレイプしたりするような人間でもない。


魅力なんて何もないキャラクターです。


そんな彼が、やはり後先考えずにフィリピーナを300万程度で“購入”して結婚することでストーリーは動き出します(ストーリーは動くけど、岩男自体は変わらない)。

 

映画の良かった点


この映画、とにかく観ている間中ずっと不安な気持ちにさせられます。


「どういう感情で観たらいいのか分からない」から不安になるんですね。


ただし、「どういう感情で観たらいいのか分からない」けどいい映画と、悪い映画の二種類あると思っていて。


悪い映画の方は《踊る大捜査線》みたいな「感動させようとしているのだろうが、そこに至る演出がメチャクチャであるため気持ちがついていかない」ようなタイプです。


一方で今作のような映画は「主人公が歩く暗闇の中に同化してしまって、自分がどこに向かっているのか分からなくなる」ような不安からくる面白さがあります。


それって実際の人生とも同じですよね。


自分が今何をしているのかは分かっているつもりだけど、その結果がどうなるのかは結局のところ分からない不安感。


岩男ほどクズ人間の人はそうそういないとは思いますが、言葉に出来ない不安を噛みしめている人には無性に響いてくるような映画だと思います。

 

結局岩男って


話のオチは伏せますが、岩男という人間が結局なんだったのかは物語上では完全には理解できないままに終わります。


僕の感想でしかないですけど、岩男は「愛したい人間」だったんじゃないかなと思います。


「誰かに愛されたい」主人公はたくさん映画に出てきますけど、人でも物でも金でもいいから、とにかく無性に愛したいという欲望にかられた主人公が岩男だったのではないかと。


でも、それが出来ないもどかしさみたいなものも分かる気がします。


ストレートに愛を表現するのって、とても難しいことだと思うので。


そういうことが素直に出来る人は羨ましいなぁといつも思っています。

 


ポスターの感想


映画ポスターもなかなか興味深いです。

 

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マゼンタがキーカラーになったサイケデリックな背景の中に、花婿と花嫁の二人がいます。


ビジュアルだけでもカッコイイとは思うのですが、このポスターの中からも映画の設定がいくつか隠れているように感じます。


分かりやすいところから言えば、いくつもの鏡にうつしだされた自分たちの姿です。


結婚自体が多面的な意味のある結婚だったし、それぞれのキャラクターが考えていることも分かりにくくしてある映画です。


目の前で観ている画面が全てではないということの表現によく鏡は使われます。


また、結婚いている二人も一応抱き合ってはいますがとても幸せそうな表情には見えません。


お互いに見つめ合うでもなく、画面の真正面を向いています。


これも、お互いが実はそれぞれ自分のことしか考えていないような人間に見える効果があります。


もうこのビジュアルだけでも一通り成立していると思うので「地獄のバージンロード」とかキャッチコピーは余計だったんじゃないかなと思いました。


余計な文字情報なんかは極力なくした方がストレートに映画の魅力を感じることが出来たと思いますよ。

 

まとめ


自分の趣味の範囲の映画ではないんですけど、どうあれパンチのある映画だとは強く思いました。


観た人それぞれがきっと何かを「くらう」映画です。


もし未見の方がいましたらおすすめできます。


その時は、是非岩男と一緒に人生を不安に生きてください。


それでは、また。

 

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