映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

スリービルボード 《地域性が大事な映画とポスター》

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映画の点数…91点
ポスターの点数…60点(やむを得ず)

 

アカデミー賞に半歩届かなかった一作


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画はマーティン・マクドナー監督作《スリービルボードです。


アカデミー賞では作品賞含む6部門にノミネートされたのですが、ギエルモ・デルトロのシェイプ・オブ・ウォーターに作品賞と監督賞は持って行かれてしまいました。


あくまで個人の意見としてはスリービルボードの方が心に刺さるものは多かったので少し残念です。


あ、もちろんデルトロさんは大好きな監督ですよ。


とはいえ主演女優賞と助演男優賞はキッチリ受賞したのは良かったですね。


どちらも最高の演技でしたが、特にサム・ロックウェルは本当にいい仕事をしたなと思っています。


ただしこの映画、役者陣だけが良かった映画では当然なくて映画本編もぶっとんで最高です。


映画ポスターと合わせて振り返ってみたいと思います。

 

映画の概要


元々の映画の原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」です。


ミズーリ州・エビングの外れにある三枚の看板広告、が直訳でしょうか。
けっこう長めのタイトルですが、もちろん意味があってのことです。


ミズーリ州という、アメリカにおいてかなり保守的で有色人種や性的マイノリティへの差別意識を強く残した場所が舞台であるというのは、この映画において非常に重要なことだからです。


さらにそのミズーリ州の中でも片田舎の方の話。


いよいよ限定された閉鎖的な雰囲気がタイトルだけでもフガフガただよってきます。


邦題は「スリービルボード」とかなり簡略化されているのですが、確かに無理はないでしょう。


多くの日本人にとっては「なんとなく南部の方が黒人差別が強い」くらいの知識しかないでしょうし、ミズーリ州がどこにあるのかさえ分からない方が大半でしょうから。


そんな片田舎で起きた未成年の少女がレイプされ焼死体で発見された事件を元に映画は動き出します。


殺害された少女の母親ミルドレッドは、犯人を逮捕できない警察に対し不信感を強めます。


(基本的には)善人である警察署長は、自身が批判されることに戸惑いながらも事件の解決を目指します。


差別主義をむきだしにした新人警察のディクソンは、署長を非難する母親ミルドレッドに対し攻撃的な姿勢をとります。


レイプ犯の追及そのものが映画の本ストーリーではなく、狭いコミュニティの中で交錯していく人間模様が描かれた映画となっています。

 

ポスターの感想


前述したことを踏まえ、映画ポスターを観ていきます。


まずはアメリカ版の一つ。

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大自然の中に3枚の看板とパトカー。


そしてタイトルや役者名のみというシンプルな構成です。


ですがそれぞれの要素が絡み合ってこれだけでも大きなメッセージを持っています。



空はほとんど夜に近い夕暮れで、ポスターの面積のおよそ6割程度は黒い雲に覆われています。


どっしりと重く巨大な空が、小さな小さなパトカーにのしかかってくるようです。


これは「一件の小さな事件ごときは、大きな現実の前に解決できないことだってある」という暗示でしょう。


これだけでもすでに、自分たちの存在がちっぽけに感じる息苦しさを感じます。


そこにうつるタイトルには………ミズーリ州の形が縁取られています。


これを観て「ああはいはい、ミズーリ州の話ね」というだけでも少なくともアメリカ人にとっては一種の意味合いを持つわけですね。このあたりは日本人には伝わりにくい部分なのでちょっと悔しい。

 

日本語版ポスター


では日本語版ポスターではどうなるかと言うとこうなります。

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なんていうんですかね。


困ったんでしょうね笑


自分もグラフィックデザイナーとして働く以上「こりゃ参ったな」みたいな仕事はいくつかあります。


この映画のデザイン担当の方も結構困ったのでしょうか。


だって何をデザインしたらいいのか良く分からないですよねこの映画笑


というわけで、人間同士が交錯しているようなビジュアルということにしています。


観客動員に当たっては「映画ファン」以外は結構無視したのでしょう、ポスター内にまさかの町山さんの推薦コメントが載っています。


映画ファン以外での町山さんの知名度はグッと落ちるでしょうが、それよりも映画ファンの一定のフォロワーに宣伝する方が得策と判断されたのでしょう。


ミズーリ州の地図の形を見せたところで、それがどこなのか分からないというのは大きなハンデです。


まぁ仕方ないんですけどね。


日本の映画だって大阪とかはよく出てきますが、外国人にとって大阪がどこにあってどのような人がいるのかなんて分からないのでしょうから。


ただ不満点としては、いくらなんでも暗すぎる印象なのが気になります。


あまりにも背景が暗すぎて、まるで本格ミステリーのような雰囲気。


でも実際のこの映画はコメディ的な要素もたくさん入っています。


ブラックジョークとはいえ、声を出して笑ってしまうようなシーンもとても多いですからね。


むしろ「娘がレイプされて殺されて、犯人を捜す話」という要素を前面に出す方がお客さんが入るという読みからこのようなポスターになったのでしょうか。


だとしたらちょっと浅薄かなぁなんて思ったり。

 

まとめ


「地域性」というものが非常に重要な映画というのは、取り扱いが難しいのだなとポスターを観て感じます。


映画本編を思い切り楽しむには一定の知識が必要ですからね。


ただしそれを抜きにしても、自分に置き換えてしまいたくなる登場人物がたくさん出てくる映画です。


まだご覧になっていない方がいましたら、暗いパッケージに騙されず、普通に楽しむ感じで観られてください。


それでは、また。

 

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