映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

片腕マシンガール 《正気で観てはいけない映画とポスター》

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映画の点数…65点
ポスターの点数…80点

 

正気を取り戻さない


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は片腕マシンガールです。


映画ファンの間ではかなり高めな知名度を持つ作品だと思うのですが、何がそんなに評価されているんでしょうか。


僕はこの世には「制作者が正気を失ってしまっているからこそ評価されている作品」ってのがあると思っていて。


別にバカにしているわけではなくって、普通の人だったら「こりゃあ無しだな」というラインを躊躇せずに飛び越えていく人達っていると思うんですよ。


その代表例が「ジョジョの奇妙な冒険」だと思うし、マルセル・デュシャンなんかもそう。


今作の監督・井口監督もまさに正気を失いっぱなしで作った一作のように感じます。


「何も考えてない」ということではなく、「真剣に緻密に作られているが、そもそもの前提として住むべき世界観が違う」という感じです。

映画の感想


まず、脚本とか演出はひどいんですよ。


それはもうハッキリとひどい。


井口監督はAV作品もたくさん監督されてるのですが、作りは確かにAVに似ているとも言えて。


低予算だからとかそういうことよりも、撮り方自体がAV的というか。


いつ主人公達が全裸になるのかヒヤヒヤしましたがそんなことは(残念ながら)無く。


とにかくこの映画は【セーラー服】の【隻腕】【女子高生】が【マシンガン】を片手につけて【ヤクザ】【忍者】に弟の【復讐】をするという。


復讐方法は銃殺・串刺し・断首なんでもあり。


いかにグロく派手に殺害するかが大事。


このいかにも「男の妄想全開」要素だけを盛り込んだだけの映画で、それを邪魔するようであれば多少の脚本くらいどうでもいいわけです。

 

というよりも、この映画はアメリカ資本なのでアメリカ人が見てみたい日本的要素」をぶちこみまくったって事ですね。


例えば主人公はセーラー服を着ているわけですが、物語の序盤を除いて学校なんて全く行ってないわけですよ。


セーラー服でいる必然性は全く無い。パンツ見えるし。


でも映画においては必然なんですよね。


「だってセーラー服の子がマシンガン付ける方がいいに決まってるじゃん」という必然。


全体的にこんな映画です。

 

映画の不満点


先に不満点を書いておくと「あまりにも演技が下手な人達の映像って、こちらが思っている以上に観るのが苦痛」という点ですね。


映画やドラマを見ていて「この人演技が下手だなぁ」とか思うことはありますが、この映画の場合「全体的にみんな下手」なんですよ。


それをまともに見続けるのはけっこう大変でした。


予算のことはあるんでしょうけど、もうちょっとだけでも演技指導するか演技が出来る人を集められなかったかなと思います。


まぁあとは演出がおかしいとかカメラがおかしいとか色々あるんですけど、演技レベルほどは気になりませんでした。

 

映画の良かった点


この映画が評価されたのは「誰も観たことがなかったもの」を具現化できていたからだと思います。


それも、「誰もが頭の中ではイメージできる範囲」というバランスで実現しているから面白いのでしょう。


セーラー服と機関銃】や【一騎当千】みたいに、セーラー服の女の子がメチャクチャに暴れるというジャンルは昔からあって。


そのジャンルにおける究極系がこの片腕マシンガールなのでしょう。


僕自身がこの映画を「大好きだ!」と思うことはないのですが、少なくともずっと忘れることの出来ない一作であることは間違いなくって。


そういう映画って誰がどう言おうが「勝ち」だと思うんですよ。


思っていたよりもエロ要素は抑えめなのも良かったですね。


映画的に必要ない場面でおっぱいがポロンポロン出てくるようだと悪い意味でのB級映画感が加速したのだろうなと。


ちなみに映画中で一番演技が安定していたのは元AV女優の穂花さんだったような気がします。

 

ポスターの感想


ポスターがこれまたブレていなくって微笑ましいですね。


外連味だけで構成されたと言っても過言ではないというか。

 

なんていうんですかね、ビジュアルの全てが大サビみたいな感じですね。

 

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これだけ観てもどんな映画かなんて分からないけど、「きっと自分の予期しない何かが起こる」というのは分かります。


あえて50年くらい前のポスターデザインにしているのですが、それだけで十分にギャグというか。


そんなわけねーだろ感はものすごい感じますね。


この映画全体に言えることですが、ギャグなのか真剣なのかの境目をずっとユラユラしている魅力があって。


このポスターからはその揺らぎを感じて面白いです。

 

江口寿史


さらに、江口寿史さんのイラストによるバージョンもあります。

 

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このポスターが制作されたことからも分かるのですが、やはり制作側は「セーラー服と銃器というフェチズム」というものを理解したうえでこの映画に取り組んでいるようです。


江口寿史さんという存在自体が一種のフェチズムの代表みたいなものですからね。


これらをまとめて「萌え」なんて言うのは勿体なくて、もっとエッジのある、なんならモロに性的な匂いを感じさせることに目的があって。


もちろんそういう思想に嫌悪感を抱く方もいるのは分かるんですけど、その嫌悪感も含めての一つのアートなんだと思います。

 

まとめ


一言で言うなら「観といた方がいいっすよ」という映画です。


好きか嫌いか大きく分かれるし、なんなら嫌いな人の方が多いと思う。


というか、この映画を好きだという人が日本中に溢れていたらもう日本は終わりだよ。


ただ、好きでも嫌いでも「感情を揺さぶってくる」映画ではあると思っています。


誰かこういう究極系の映画監督がいないと、分野の拡大ってしないわけでさ。


自分の気付かないところで、こうやって誰かが表現の可能性を広げていってくれてるんだと思います。


それを見届けるだけでも映画ファンとしてはとても幸せなことだと思いますよ。

 

それでは、また。

 

 

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