映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

タクシー運転手 《映画は傑作、ポスターは残念。。》

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映画の点数…88点
ポスターの点数…30点

 

さすがの韓国映画


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画は《タクシー運転手 約束は海を越えて》です。


なんだか残念な邦題が追加されていますが、映画は極上です。


主演はソン・ガンホさん。


コクソンやアシュラなど、近年の韓国映画では傑作がドッカンドッカンと生まれているのは常識ですが、今作もまたそのうちの一作に当然入ることでしょう。


悔しいながら、一本あたりのクオリティでは日本映画は遅れをとっているのではないかと思うほどに韓国映画はレベルがあがっていて。


国際問題上のトラブルを抱えがちな日本と韓国ですが、そういったイザコザは一度忘れて映画を通した文化の交流が出来たらいいのになぁなんて思います。

 

映画のアウトライン


実話をベースにした映画です。


1980年5月に起きた光州事件が背景になっていて、どこからがフィクションでどこまでが本当かは不明な箇所も多いのですが、100名を越える死者を出した民衆蜂起というのは事実ですのでそれだけでも十分に一見の価値はあります。


僕も光州事件そのものは知りませんでしたが、それを知らなくても映画の運びがうまいのでほとんど問題なかったです。


タクシー運転手として働くソン・ガンホが、金に釣られてドイツ人ジャーナリストを連れて光州に向かうのですが、そこはすでに取り返しのつかないレベルで軍と民衆が対立している状況だったーーーという感じでしょうか。


ちなみにここからの話はあくまで「映画として」お話します。


実際の事件の政治的な事情や、実在の人物達の英雄的行動などについての言及は避けます。

 

映画の良かった点


まず主人公のサボク自体が政治に疎く状況がいまいち分かっていないという設定なのがうまいですね。


観客と同じ目線で「何が起こっているんだろう」というのをぼんやりと把握していく作りになっているので、事件の様子が分かりやすい工夫がされています。


なので特に前半は異常なくらいに脳天気なシーンが多いんですよね。


おそらく意図的につまらなくしているというレベル。


なので正直本当に最初の最初は退屈なシーンも多いのですが、そこは手早く説明を済ませてササッと展開させるのでほとんど気になりませんでした。


タクシーがドイツ人記者を乗せて光州まで向かいだしてからは、徐々に徐々に「なんかおかしい」となっていくのですが、そのバランスが素晴らしくて。


「今ならまだ引き返せる」というタイミングをいくつも用意しておきながら、ある瞬間をもって「はい、もう二度と引き返せません」という展開にもっていく。


前半までコメディ的なテンションだったのが、事件に巻き込まれた段階からホラーの演出や戦争映画の演出を巧みに使ってきて、いきなり別の映画が始まったかのようなんですよね。


今までずっと「血の通った人間」として画面を見ていたので、その人物達が急に暴力にさらされるとこっちにまで痛みが伝わってきます。


映画として非常にうまかったです。

 

戦争映画


光州事件は民衆蜂起なので戦争とは違うのですが、映画の演出としてはかなり戦争映画に近かったです。


スピルバーグプライベートライアンを引き合いに出すのは言い過ぎかも知れませんが、「目の前にいた人がいきなり死ぬ」というショッキングな映像の連続には本当に恐怖を感じました。


これも悔しいけど今は日本映画では難しい気が。。。


シュワちゃんコマンドーや、ランボー3くらいの「戦争サイコー」みたいなノリの映画も娯楽としては楽しいんですけど、たまにはこうした「本当に人が死んだ」としか思えない痛みのある戦争映画も観るべきだと思いましたね。

 

ラストのカーチェイス


この映画の評価が分かれるところなんでしょうけど、最終盤に急に荒唐無稽なヒーロー「タクシー」アクションが始まります。


明らかにここだけフィクション要素が強まるのですが、個人的にはアリだと思いましたけどね。


事実ではないけれど、スピリットだけは本物なんだという演出と捉えればいいのかなと。


言い換えれば「社会的に地位の低い誰かでも、セカイを救うことが出来るかも知れないよ」ということなのでしょう。


それ自体が民衆蜂起の姿そのものだし、これはこれで好きな演出でした。

 

ポスターの評価


韓国版と日本版でかなりデザインが違うんですよね。


まずは日本版

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主人公の笑顔を前面に押し出しています。


これだけみるとほのぼの人情映画に見えますね。


下の方に光州事件の様子をのせて対比関係を出しているのでしょうが。。。


正直うまくいっているとはあまり思えません。


全体的なレイアウトがうまくいっていないように思います。


画面にのせる人物は、多くても主人公とドイツ人記者に限定した方が良かったでしょう。


その分のあいたスペースに事件の凄惨な状況をいれた方が良いと思います。


やたらと文字情報が多い上に、見事に事件の様子の箇所にキャストやスタッフ一覧が丸かぶりしています。


何も知らない人が一瞬だけこのポスターを見ても何がなんだか分からないのではないでしょうか。


いっそのこともっと彩度と明度をおとしてかなりダークな印象に為た方が良かったんじゃないですかね。。。

 

韓国版


日本版に対して非常にすっきりとしたレイアウトです。

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ただしこれを日本で同じデザインで使うのは難しいでしょうね。


あまりにも何が何だか分からなすぎる。


映画を見終わってからこのポスターを見るとそれだけで泣けてくるのですが、映画の鑑賞前のことを考えると日本人には無理があるかな。


韓国内において光州事件がどれほど認知されているのかは不明ですが、「この笑顔の4人が、韓国を救った英雄なんだよ」というメッセージなんでしょうね。


事情を知っている人にのみ効果的なポスターだと思います。


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まとめ


映画自体は文句なしの傑作だと思うのですが、実話ベースでありながら事件の認知度が低いのは欠点でしょうね。


独裁政権からの脱却とか軍の制圧とかに対してリアリティのない今の日本人には事件の背景が分かりづらいのも仕方ないでしょう。


とはいえそういった偏見を一度忘れて鑑賞すると、きっと良い出会いになると思うのですが。


そのための映画ポスターとしては非常に勿体なかったと思います。


もうちょっと緊張感のあるデザインだったら、この映画に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。


ちょっと残念ですね。。


それでは、また。

 


タクシー運転手制帽 紺 オールシーズン サイドメッシュ 交通帽章付き

 

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