映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

ゲティ家の身代金 《重厚なサスペンスとペラッペラなポスター》

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映画の点数…75点
ポスターの点数…10点(一部のポスター)

 

リドリー・スコット絶好調


こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。


今回取り上げる映画とポスターはグティ家の身代金》です。


1973年に実際に起こった世界一の大富豪グティ家の孫息子誘拐事件をベースに描かれた一作。


監督はリドリー・スコットです。


リドリー・スコットはここ最近多作でして、80歳を迎えて絶好調期に入るという。


イーストウッドにしろスピルバーグにしろ、世界のジジイ達はどうなっているのか。


こっちとしては楽しい一方なので大歓迎なのですが、それにしたって休まなすぎだろとは思いますが。


さらに公開のほぼ二ヶ月前に主演のケヴィン・スペイシーがセクハラ問題で追放処分。


なんとそこからたった9日で撮影を終えて公開に間に合わせるという、「なんか地球の自転遅くなった?」みたいな離れ業をやってみせました。


リドリー・スコットおそるべしですよ。

 

映画のアウトライン


映画全体としては正統派な誘拐サスペンスの様子と、大富豪ゲティのクレイジーなケチっぷりを母親役のミッシェルウィリアムズの視点から描きます。


そもそも実話ベースでもあるので、最初のナレーションの時点で「あ、この孫は最後には助かるんだろうな」というのは分かります。


話の主眼はそこじゃないんですね。


あくまでも【ゲティ家】としての呪いというか、金を稼ぐだけ稼いだ人間の呪い、そこに嫁いだ人間の呪い、血が繋がっていることの呪い。


その奇妙さを楽しむ映画です。

 

映画の感想


さすが巨匠リドリー・スコットというべきか、映画は一本しっかりと筋が通っているような安定感を感じます。


とにかく映画が観やすい。


特に音楽の使い方がうまくて、画面で起きていることや心情の変化を低ーーーーい弦楽器で表現していて。


音が流れてくるだけで、何か事態が動き出すのが分かります。


役者陣は軒並み素晴らしいのですが、たった9日で撮影しきったクリストファー・プラマーがとにかく圧巻ですね。


ただ立っているだけでも威厳がありますし、しゃべり出すと人をイヤな気持ちにさせるし。


とても代役だとは思えないはまりっぷりでした。


ただ、ミッシェル・ウィリアムズが主役の一人であるというのが最後までちょっと気になっていました。


ミッシェル・ウィリアムズもただそこにいるだけでフェロモンが蒸発するほど魅力的な大好きな女性なのですが、彼女が母親役である以上「なんとなく助かりそう」という気がしてしまったのですがどうなんでしょう。


芯を曲げない強い女性役なので、「このままじゃ息子が殺される!」といった緊迫感が無かったのかなーとも思います。

 

ポスターの感想


今回のポスターは軒並み素晴らしい傑作が揃っています。


日本バージョン以外は。


いや、日本が独自に作ったわけではないのかも知れませんが、だとしてもそれを採用するなよって感じだし。


まずは海外版の一つをみてみます。

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いずれのポスターよりもインパクトのある「耳」デザインですね。

 


これは人質になったゲティ3世が劇中で耳をそぎ落とされるところのイメージなのですが、耳をお金でグルグル巻いているのがとてもいいですね。


「命がほしいならば金を出せ」「一円だりとも払わない」「新聞社に耳の写真を売ってくれたら金を払う」と、とにかく金に翻弄された人質ゲティ3世とその耳


インパクトがあるのと同時にしっかりと映画の本質を描いています。

 

事件ではなくスキャンダル


こちらのポスターは、マスコミに追われる母親ゲイルの写真をポスターにしています。

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映画の一場面ではあるのですが、わざわざこの場面を切り取ったのには意味があります。
彼女にとっては大事な息子を誘拐された「事件」なのですが、その他の人にとっては世界一の大富豪の孫が誘拐された「スキャンダル」なんですね。


その気持ちの落差をこのポスターからは感じます。


それがすなわち「ゲティ家という呪い」を表しているようです。

 

ゲティ家の影


こっちはより分かりやすいですね。

 

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偉大なる偉大なるゲティと、その影に入るしかない(そうしないと誘拐事件も解決できない)運命の二人を対比させています。


この銅像は、映画の最後の最後で効いてくるので、このポスターを記憶して映画を観た人は思わずニヤッとするのではないでしょうかね。

 

日本語版ポスター


こりゃーひどい。。。

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映画の何を伝えたいのか整理してからポスター作ろうよ。。


これじゃただの誘拐事件に巻き込まれた母親だけの話じゃないですか。


この映画の本質はそこではないはずです。


それと、別に舞台がローマであることは映画を観る人には全く関係ありません。


なんでコロッセオなんて入れるのかな。。。


情報として邪魔なだけじゃないですか。


もしも映画の最後の最後、誘拐犯とミッシェルウィリアムズの一騎打ちコロッセオで行われるならそれでもいいですよ。

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日本映画ってなんで未だに「ヨーロッパかっこいい」基準でポスター作るんだろう。


せっかく他のポスターが良かっただけに非常にガッカリです。

 

まとめ


一本の映画としては決して派手ではない地味目な作品だとは思います。


ですがそこはさすがのリドリー・スコット


じっくりと2時間上質な時間を過ごした気にさせてくれる一作でした。


もしまだ観られていない方がいたら、日本語版ポスターを目に入れないようにチェックしてみてくださいな。

 

それでは、また。


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