映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

第9地区 《年齢は高いほど、予備知識はないほど楽しい》

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映画の点数…85点
ポスターの点数…40点

 

こんにちは、ピースマイルです。


もう公開されてから10年も経ってるのかと思うとゾッとしますが、久しぶりに鑑賞してみてとても良かったと思いました。


いわゆるゾンビ映画やファンタジー映画は現実世界のメタファーとして描かれることが多く、この【第9地区】も例外ではありません。


10年前に見た時は舞台が南アフリカなので単純に「アパルトヘイト政策」のメタファーとして観ていました。


つまり、自分にとっては地球の裏側の差別の話であってあまり感情移入は出来なかったんですよね。


でも今回改めて観ていると「あれ。これ移民の問題と一緒じゃないか?」と思えてきて。


近い将来において日本でも必ず移民について議論しなければならない時期がくるわけですから、今このタイミングでこの【第9地区】を鑑賞する意味もあるのではないでしょうか。

 

そういう意味においては、一定の社会的知識があればあるほど面白いでしょうし、観る地域や育った環境で印象がガラリと変わる映画だと思います。

 

逆に言えば、映画に対する予備知識はほとんどない方が自分目線の楽しみ方を出来るとも言えるのでしょうが。


第9地区 [ シャールト・コプリー ]

 

映画の感想


改めて映画全体のレイアウトがうまいなと思いました。


前半30分かけてじっくりとドキュメント映像風にエビ宇宙人と人間の関係性を描いていくのですが、エビは当然のように差別される側の生き物であることを観客にたたき込みます。


そこから映像的にはかなりなだらかに「差別側」から「差別される側」の視点へと変化していきます。


そのあたりから映像も劇映画になっていくので「これが現実社会なのだ」というリアリティが増していきます。


ある日突然、自分と全く違う他者【宇宙人であり移民】が住んでいる街にやってきたとしたら、その時自分はどうするのだろうと強制的に考えさせられるようになっています。


自分が抱く差別的発想は、裏返せばすぐにでも自分に向けられる可能性があるんだよと映画は語りかけてきます。

 

単純に面白い


そういう人種差別など堅苦しいことを考えずに観ても、映画は単純に楽しく観られるよう作られています。


予算が少ないながらもアクションシーンはしっかりと迫力があるし、特に中盤くらいまでは人を殺害するシーンなどはちゃんと痛みのある表現をするので観ていて単調になりません。


後半こそド派手な殺戮シーンになるのですが、ある意味そこは映画的ボーナスステージとして楽しめばいいのではないでしょうか。


最初こそ【こんな奴が主人公で大丈夫なのか?】と思われたジェイクやエビ星人達も、観ていくうちに不思議と親近感がわいてきます。


賛否両論分かれそうなエンディングですが、個人的にはあのくらいの苦みのある終わりの映画もあってはいいのではないかと思いましたよ。

 

ポスターの感想


かなり好意的にみた映画なのですが、逆にポスターの方には不満があります。

 

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パッと見た印象では【インデペンデンス・デイ】や【未知との遭遇】のような宇宙人映画を思わせます。


もちろんそう思わせておいて全く違う映画なのだという裏返しの表現だとは思うのですが、それではちょっともったいないのではないでしょうか。


せっかく現実にあるスラムを使ってまで撮影したというこだわりようなのですから、ポスターからも感じ取れる《差別のある社会の禍々しさ》があった方が良かったと思います。


キャッチコピーである【人類、立入禁止】ではまるで宇宙人側が人間を支配しているような感じがします。


例えばですが、兵士が誰か見えない人を今にも撃とうとしているシルエットだけ小さくのせるとか。


明らかに生物実験のあとであろう機器から血が流れているショットであるとか。


何かしら《観たくないもの》をポスターにのせてみても良かったと思います。

 

タイトル文字


タイトル文字を含む画面全体に《汚し》がかかったような表現になっていて、確かにこれだけでもカッコイイのですがもう少し他でバランスをとっても良かったと思います。


ボロボロのスラムと対照的に奥にあるビル群はもっと綺麗にうつっているとか。


あるいはタイトルだけでも無機質で清潔なフォントにすることで「非人道的なことが行われているとは全く思えない」ような印象にするとか。


画面が左右対称で綺麗に収まっているのも少し違和感があって、ほんの少し画面を傾けるとか意図的なズレを感じさせるなどして「何かが歪んだ世界」という表現をしても良かったと思います。

 

まぁあとは、言いたくなる気持ちは分かるんですけどピータージャクソンの名前は入れなくて良かったんじゃないですかね。

 

あまりにもロードオブザリングとは違う話ですから。

 

まとめ


映画は最高、だからこそポスターがもったいないと思える代表的な例だったと思います。


もし観たことが無い方で「なんかB級映画っぽい」というようなことを思われている方がいるとしたら、そんなことありません。


それはポスターが悪いのです。


この映画は、B級映画の予算と無名俳優という皮をかぶった間違いなくA級映画です。


それでは。


第9地区 [Blu-ray]

 

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