シング・ストリート Sing Street 《各国広報部が頭をかかえた?名作》
監督 ジョン・カーニー
原案 ジョン・カーニー
出演者 フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
ルーシー・ボイントン
ポスターの点数…35点
映画の点数…99点
一生涯の大傑作
まず最初に申し上げておきますと、僕はこのシング・ストリートという映画がどうかしてるくらい好きです。
生涯ベスト映画には当然ながらランクインします。
音楽も最高、脚本も最高、演者も最高、撮影も最高、何もかも最高で何から褒めたらいいのか分からない傑作なんです。
そしてその「何から褒めていいのか」に、この映画を配給した広報部の苦労がうかがえます。
世界各国のポスターを見てみましょう。
日本版のポスター
DVDのパッケージも含め、日本版でのビジュアルイメージはこのようになっています。
非常に厳しいことを言いますが、僕はこのポスターをどうしても良いと感じません。
しかし!広報部様の血のにじむ苦悩は感じるのです。
それだけでもう、恨みとかは一切ないのです。むしろよくここまで考えた!とも思えるのです。
不満な点
このポスターからは「バンド感」をほとんど感じません。
「淡い青春物」といったジャンル分けされそうなビジュアルです。
背景にはいかにも青春を匂わせるグリーンがグラデーションで敷かれており、主人公のほっぺの赤さが未熟な若者像をかもしだしています。
タイトルなどのフォントを丸っこくしていることからも、バンド感からはむしろ遠ざけるような意図を感じます。
実際の映画は、上映時間の半分は音楽を作ったりPVを作ったりしています。
映画の脚本が歌詞と連動している箇所も多いので、もっとバンド映画なのだという要素をポスターに込めるべきだと思うのです。
これはおそらくですが、ポスター内にバンド感を前面に出すことで日本のお客の入りが悪くなるとの判断だったと思われます。
肯定的な点
バンド感を前に出さなかったのは、個人的には非常に悔しいのですが賢明だったと思っています。
この映画に登場するバンド・グループは1985年前後のポップでサイケデリックな印象が共通しています。
Duran DuranやThe Cureなどのバンド感をポスターに出したとしても、一定のファンは反応するでしょうが多くの人は「自分には関係のない映画だ」と思ってしまうでしょう。
そういうのはクイーンやマイケルジャクソンほどの知名度があってこそ成立する戦略だと思うのです。
だからこそ、日本版ポスターではあえて「青春もの」という切り取り方をしたのだと思います。
この映画は青春ものとしても傑作なのは間違いありませんから。
ポスターの内容が間違えているわけではないのです。
しかし、ただの青春ものとしてこの映画を片付けるようなことは日本の広報部はしませんでした。
このポスター、キャッチコピーがかなり優秀だと思います。
【君といれば、無敵。】
これだけ見ると誰のことを指しているのか分かりません。
ですが、映画を見終わったあとにガツンと効いてきます。
ここでいう【君】とは大好きな彼女のことであり、バンド仲間のことであり、尊敬する兄のことであり、そして音楽のことを指していることが分かります。
このキャッチコピーをつけた方々は、この映画を真剣に噛み砕いて理解したうえでこのフレーズをチョイスしたはずです。
映画のすべてを、たった7文字で表現しきったこのキャッチコピーは大変な傑作だと思います。
そういった点も含めて、やはり日本スタッフは大変な苦労をされたのだろうなと思うのです。
僕の苦情などどうでも良いことでしょう。
アメリカ版ポスター
では他の国の広報部の苦労を見てみましょう。
アメリカ版ポスターではこのようになっているようです。
日本版と同様にグリーンを背景にしていますが、印象が全く違います。
これはDuran DuranやThe Cureなど映画に出てくるバンド達のサイケデリックな色彩からイメージしたものでしょうね。
文字列もすべてが斜めになっていたりと、まるで音楽ライブのフライヤーのようです。
このポスターからは、音楽を通じた男女のラブロマンスを感じます。
ただし、この情報だけではバンドものであることは全く感じません。
むしろ二人だけのストーリーのようです。
実際の映画も、特に最後は男女二人の話になるのでおかしいというわけではありません。
恋物語の部分にスポットを当てたのでしょうね。
ポスターから女の子が消える
一方でこんなポスターもあります。
このポスターからは、ヒロインが消えてしまいました。
映画においてまだ知名度が多少ある彼女を消してまでも、むしろバンド感を前に出そうというわけです。
映画内ではもっとカッコイイ演奏シーンがあるにも関わらず、このモッサイ感じのビジュアルを採用したのは面白いですね。
少年達の成長ストーリーとしての側面をポスターに込めているようです。
北欧版のポスター
北欧版のポスターがこちらです。
これが映画の制作陣の意図したポスターなのでしょう。
たしかに、色々なことを複合的に考えるとこのような解答になる気がします。
- 手書きの力強いフォント=バンドらしさと若々しさの表現
- サイケな色彩=85年前後のポップスの表現
- 主人公のイケてなさと綺麗なモデル彼女=恋物語としての魅力
をそれぞれ感じますね。
U2のボノなんかのコメントがのっているのも北欧らしいです。
日本版のポスターもこれだったら良かったなぁーなんて思いつつも、やはりこのポスターでは日本の多くの人には伝わらないだろうなとも思います。
このへんは音楽文化の違いですから仕方ないですかね。。。
思わぬ国から良いポスターが
ところが、北欧版とはまた違った意味でなかなか良いポスターが見つかりました。
韓国版ポスターです。
これ・・・・・・・実はけっこういいんじゃないでしょうか。
パッと見は一番ダサいと思うんです。間違いなく。
ですが、映画の内容を考えると実はとても良く出来ている。。。
「お金も実力もない未熟なバンド」感が出ています。
必死にもがいている若者の反抗的な態度も出ています。
にもかかわらずカラっと晴れた空のアンバランスさに笑ってしまいます。
この「めちゃくちゃカッコつけてるのに、全部ダサい」感じがまさに青春そのものじゃないですか。
このポスターでお客さんが来るかどうかは置いておいて、映画の内容を一番表現できているのはこれでしょう!
素晴らしいですね、韓国スタッフ。
まとめ
いい映画だからこそ、それをポスターにするのは本当に難しいのだと改めて思います。
だからこそ思うのです。
おそらく世の中には「なんかパッケージが好きじゃない」という理由で見逃している傑作がたくさんあるんだろうなと。
映画だけでなく漫画や食べ物や観光地や、なんでもですね。
グラフィックデザイナーとしては悔しいところですが、皆さんも少しでも気になったものは表面だけのデザインにこだわらず一度手にとってみてはいかがでしょうか。
それでは。
↓ 面白いと思ったらクリックください!励みになります!