映画のように平面デザイン

年間200本映画を観る地方グラフィックデザイナーが、色んなものを平面デザインでとらえてみます

翔んで埼玉《緊張と緩和のポスター》

監督 武内英樹
脚本 徳永友一
原作 魔夜峰央
出演者 二階堂ふみ
GACKT
伊勢谷友介
ブラザートム

 

映画ポスターの点数…85点

キャッチコピーが少し古くて弱いかな。。。。

 

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翔んで埼玉ポスター



何気なく2019年度の映画の興行収入を見てみると、けっこう予想外なことになっていました。


映画評価ピクシーン(https://pixiin.com/ranking-japan-boxoffice2019/)様のデータです。

 

翔んで埼玉3位ですか!

 

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興行収入ランキング2019

 

最近よく耳にするなあと思ってはいましたが、アクアマンに大差をつけるくらいなんですね。


日本映画が調子いいのはいいことですね。


ドラマの再編集版みたいな映画が売れてばかりなのも面白くないですし。

7位とか10位のになると、何も分からないな。。。
アニメだろうか。

 

では改めまして、【翔んで埼玉】のポスターがなかなか興味深いデザインだったので掘り下げてみようと思います。

 


実は伝統的なデザイン

 

 

パッと見てのデザインを見て一言。
「なんてふざけているんだ・・・!」
という感想です。

 

もちろん褒め言葉です。


ポスターの構図は、アートディレクターさんがどこまで意図したかはともかく伝統的なデザインの一つです。

 

まずはこちら、スターウォーズのポスター。

 

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スターウォーズのポスター。構図が似てる

 

ライトセーバーを掲げるルークに寄り添うレイア姫と、周囲にコラージュされたキャラクター達。

 

このポスターを描いたのは生頼範義(おおらい のりよし)さんという日本人です。

 

SF誌に投稿された絵を気に入った監督のジョージ・ルーカスが、直接それ以降のポスターの制作も依頼されたのだそうです。すごい!

 

生頼さんの作品は他にもたくさんあるのでチェックしてもらいたいのですが、代表的なところではゴジラシリーズが有名です。

 

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ゴジラのポスター。超かっこいい。

 

このスターウォーズポスターは、後にセルフパロディー的な構図でエピソード8の時に再度登場します。

 

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40年の時をへてセルフパロディ


民衆を導く自由の女神

 

【翔んで埼玉】のポスターのルーツをさらに遡ると、1831年に発表されたドラクロワの名作民衆を導く自由の女神がまさにデザインの意図が近いです。

 

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200年前からあるデザインなのです

 

ランス7月革命時の様子を描いたこの絵画は、市民の力で悪しき政権に立ち向かう自由への戦いの象徴的な作品です。

 

迫害される埼玉県の地位を取り戻そうとする主人公達に重ね合わせたデザインなのでしょうね。

 

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ポスターもわざわざ金色の額縁に入っているようなデザインになっています。

本物の絵画の方はここまでゴージャスな額縁ではないようですが。

 


緊張と緩和

 

【翔んで埼玉】はコメディ映画です。

 

当然、映画を作った方々は映画を観て笑っていただきたいわけですね。

 

その意思をポスターにする際に汲み取るとしたら、方法は大きく2つあると思います。

 

ひとつは、ポスター自体で笑わせる方向にすること。

 

世界のナベアツさんが撮った『さらば愛しの大統領』という作品はその方向でした。
それがうまくいったとは思えませんが。。。

 

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成功したとはちょっと思えないデザイン

 

もうひとつの方法は、「大げさなくらい真面目にすること」です。


つまり今回の【翔んで埼玉】はこちらの方法をとったということです。

 

ポスター自体が大げさで真面目なタッチな分、緊張と緩和で映画のコメディ要素が引き立つというわけですね。

 

この手法は昨年ヒットしたカメラを止めるな!でも使われた方法です。


こちらも映画はコメディ、ポスターは真面目という作りです。

 

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緊張と緩和の失敗例

 

緊張と緩和の失敗例もあります。

 

山崎貴監督の三丁目の夕日です。
(なんか英文字で変なタイトルが付け加えられてましたが省略します)

 

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過剰すぎるポスター

 

映画は大ヒットしましたし、ポスターもこの作品以降ありとあらゆる形でパロディとされた名作と言えるのですが、映画ポスターとして良かったとは思っていません。

 

というのも、いかにも「昔の人たちの感動的な話です!!もう本当に心あったまっていい感じ!もう感動!ほら感動!人情っていいよね!感動!」みたいなデザインから押しつけがましさを感じるのです。

 

そもそも東京オリンピックあたりの日本を描いたポスターとしては、いくらなんでも古くさすぎます。
これじゃ大正ロマンでしょう。

 

「感動」の映画に「感動」のポスターをぶつけても、お互いの良さを打ち消し合うこともあるという例ではないでしょうか。

実際の映画の中身はこのポスターが主張するほどには良い話でもないし。

 

まぁ僕がいくら言ったところで映画は大ヒットしたから全部オッケーなんですけど。


まとめ

 

最初にポスターを見た時の感想は
「なんてふざけているんだ・・・!」でした。

 

これはとても大事なことですよね。

 

つまり「全力で」ふざけてるんです。


大の大人が。

 

それが伝わるだけでも、映画としての興味がわくものです。

 

してふざけている分、体裁としては「大真面目なふり」をすることが効いてくるということです。

 

逆に言えば「なんとなく雰囲気で片手間に作りました!」みたいなポスターもたくさんあるということです。

 

その分、【翔んで埼玉】ポスターはインパクトのあるデザインになったと言えるわけですね。

 

みなさんも大人が寄ってたかってふざけてる様を観に行かれてはいかがでしょうか。

 

 

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