桐島、部活やめるってよ 《映画もポスターも一言言いたくなる作品》
監督 吉田大八
脚本 喜安浩平、吉田大八
原作 朝井リョウ
出演者 神木隆之介、橋本愛、東出昌大、清水くるみ、山本美月、松岡茉優
主題歌 高橋優「陽はまた昇る」
ポスターの点数…50点
映画の点数…97点
映画ポスターとは何か
詳しくは後述しますが、まず僕はこの映画を吐き気がするほどに大好きです。
コンディション次第では鑑賞後に命を落としかねない危険な作品だと思っています。
絶好調時に鑑賞しても3日ほどは具合が悪くなります。
そんな特別な作品でもある本作なのですが、映画ポスターとして非常に考えさせられるものがあるので取り上げてみました。
映画にとって、映画ポスターには、どのような意味があるのでしょうか。
そんな話です。
インパクトとしては最上級
この映画を観たことが無い方でも、このポスターには見覚えがきっとあるでしょう。
そのくらいインパクトのあるデザインです。
タイポグラフィ(文字)を生かす青空も効果的ですね。
かなりクセのあるタイトルを、隠すでもなく押し出すでもなく良いバランスです。
多くの方が、このポスターを観て作品に興味を持ち鑑賞したのだと思います。
映画ポスターは広告で(も)ある
映画ポスターの役割の大きな一つは、広告として機能しているかどうかです。
その意味において、このポスターは正解の一つだと思います。
主人公(の一人である)神木さんのアップというだけでも十分に映画としての宣伝になっています。
一度見たら忘れられないビジュアルは多くのお客さんを映画館に呼び込みます。
映画の内容とのマッチング
広告としては優秀なポスターです。
ですが、映画の内容を正確に表現できているかと言うとそうとは言えないと思っています。
このポスターから連想されるものが、映画と一致しない点が多いからです。
まず、この映画の主人公は神木さん(前田)一人ではありません。
むしろ、彼は話の主軸から外れたところにいる点が特徴です。
群像劇であるこの映画は、主人公が複数いると言っていいです。
この映画の公開時点では役者として全く無名だった東出さん(ひろき)を大きくポスターにのせるのはリスクがあったというのは理解できます。
松岡茉優さんですらまだほとんど無名ですね。
それでもやはり神木さんのアップというのは映画の内容を考えると違和感があります。
普通に見ると、神木さんが主演の映画と勘違いするでしょう。
というか、単に桐島は神木さんだと思うでしょうね。
ちなみに小説デザインはこちら。
こちらの方が、印象をぼかしたような作りですが。。
これで映画ポスターとして成立するかというとかなり疑問です。
うーん。難しい。
一人称を思わせるカメラ
ポスター内でアップになったカメラは、神木さん(前田)が映画部に所属していることを示すアイテムです。
また、映画のクライマックスでの場面を思わせる効果があるわけですね。
それは十分に理解しつつも、このデザインだと神木さん(前田)から見た学校の物語という気がしないでしょうか?
先ほど言ったように、この話は群像劇であり登場人物がそれぞれの目線で見ている物語です。
一人だけの目線ではないのですね。
さらに前田自体はクラスの様子をあまり観察していないタイプの人間です。
となるとやはり、このデザインでは違和感を感じてしまうわけですね。
パキっとした彩度
このポスターは、後ろの青空を含めてかなり鮮やかな色彩をしています。
綺麗ではありますが、やはりこの映画のニュアンスとは少し違っている気がします。
映画はむしろ、みんなのぼんやりとした雰囲気の連続でできていますし、実際に色彩もあまりありません。
(だからこそ最後の屋上シーンの鮮やかさが効いてくるんですよね)
キャッチコピーの難点
このポスターのキャッチコピーは「全員、桐島に振り回される」です。
ただこれもちょっと・・・・と思ってしまって。
映画を観たら分かるのですが、この映画内では「桐島に振り回されない」人物がちゃんといます。
そしてそういう人物こそがヒーローになったりもするのが面白いんですよね。
あえて言うなら、初見時においてはこのキャッチコピーを観た「観客側」が振り回されるのは間違いないと思うので、観客目線とは言えるのですが。
じゃあどうすればいいんだよ
以上のような僕が言ったことを修正したとすると
- 主人公が誰か分からないようなデザインにする
- 話が一人称ではないようなデザインにする
- 薄ぼんやりしたデザインにする
- キャッチコピーは「複数人、桐島に振り回される」にする
ということになります。
はい、そうですね
これだけ見ると、すごいつまらなそうな映画ですね!
だからこそデザインは難しいんですよね。。。。
文句ならいくらでもつけるわけです。
だって文句を言う側に責任なんてないのですから。
だからこそ、実際に作った側のことを考えると本当に尊敬します。
デザインの追求
僕はこの映画が大好きです。
なので、世界中の人に観て欲しいと思っているわけです。
当然、吉田監督やスタッフ、役者さんも同じ気持ちでしょう。
そのために、僕らのようなデザイナーがいると思っています。
たった一人でも多く、映画を見たいという気持ちにさせたい。
そのための追求をいつだってしているつもりです。
人のデザインを批評しながら、自分のデザインに文句を言われながら。
映画評論と映画がそうやって進歩してきたように
グラフィックデザインもまた映画と進歩できたらいいですね。
映画のための最適解を誰しもが考えているのですが、
それがいつだってうまくいくわけではない。
桐島のポスターを観るとそんなことを考えてしまうのです。
それはさておき
とにかくもしもまだ『桐島、部活やめるってよ』をご覧になったことがない方。
悪いことは言いませんので、ぜひ一度見てみてください。
ポスターをみて『なんか乗り気がしねえなあ』と思っている人にこそ観てほしいと思います。
かつての自分がそうであったように。
この世には、4種類の人間がいます。
映画を見る人、映画をみない人、桐島をみても何も思わない人、桐島を見ると発狂してしまう人。
ぜひあなたも発狂してみてはいかがでしょうか。
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