タクシー運転手 《映画は傑作、ポスターは残念。。》
映画の点数…88点
ポスターの点数…30点
さすがの韓国映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《タクシー運転手 約束は海を越えて》です。
なんだか残念な邦題が追加されていますが、映画は極上です。
主演はソン・ガンホさん。
コクソンやアシュラなど、近年の韓国映画では傑作がドッカンドッカンと生まれているのは常識ですが、今作もまたそのうちの一作に当然入ることでしょう。
悔しいながら、一本あたりのクオリティでは日本映画は遅れをとっているのではないかと思うほどに韓国映画はレベルがあがっていて。
国際問題上のトラブルを抱えがちな日本と韓国ですが、そういったイザコザは一度忘れて映画を通した文化の交流が出来たらいいのになぁなんて思います。
映画のアウトライン
実話をベースにした映画です。
1980年5月に起きた光州事件が背景になっていて、どこからがフィクションでどこまでが本当かは不明な箇所も多いのですが、100名を越える死者を出した民衆蜂起というのは事実ですのでそれだけでも十分に一見の価値はあります。
僕も光州事件そのものは知りませんでしたが、それを知らなくても映画の運びがうまいのでほとんど問題なかったです。
タクシー運転手として働くソン・ガンホが、金に釣られてドイツ人ジャーナリストを連れて光州に向かうのですが、そこはすでに取り返しのつかないレベルで軍と民衆が対立している状況だったーーーという感じでしょうか。
ちなみにここからの話はあくまで「映画として」お話します。
実際の事件の政治的な事情や、実在の人物達の英雄的行動などについての言及は避けます。
映画の良かった点
まず主人公のサボク自体が政治に疎く状況がいまいち分かっていないという設定なのがうまいですね。
観客と同じ目線で「何が起こっているんだろう」というのをぼんやりと把握していく作りになっているので、事件の様子が分かりやすい工夫がされています。
なので特に前半は異常なくらいに脳天気なシーンが多いんですよね。
おそらく意図的につまらなくしているというレベル。
なので正直本当に最初の最初は退屈なシーンも多いのですが、そこは手早く説明を済ませてササッと展開させるのでほとんど気になりませんでした。
タクシーがドイツ人記者を乗せて光州まで向かいだしてからは、徐々に徐々に「なんかおかしい」となっていくのですが、そのバランスが素晴らしくて。
「今ならまだ引き返せる」というタイミングをいくつも用意しておきながら、ある瞬間をもって「はい、もう二度と引き返せません」という展開にもっていく。
前半までコメディ的なテンションだったのが、事件に巻き込まれた段階からホラーの演出や戦争映画の演出を巧みに使ってきて、いきなり別の映画が始まったかのようなんですよね。
今までずっと「血の通った人間」として画面を見ていたので、その人物達が急に暴力にさらされるとこっちにまで痛みが伝わってきます。
映画として非常にうまかったです。
戦争映画
光州事件は民衆蜂起なので戦争とは違うのですが、映画の演出としてはかなり戦争映画に近かったです。
スピルバーグのプライベートライアンを引き合いに出すのは言い過ぎかも知れませんが、「目の前にいた人がいきなり死ぬ」というショッキングな映像の連続には本当に恐怖を感じました。
これも悔しいけど今は日本映画では難しい気が。。。
シュワちゃんのコマンドーや、ランボー3くらいの「戦争サイコー」みたいなノリの映画も娯楽としては楽しいんですけど、たまにはこうした「本当に人が死んだ」としか思えない痛みのある戦争映画も観るべきだと思いましたね。
ラストのカーチェイス
この映画の評価が分かれるところなんでしょうけど、最終盤に急に荒唐無稽なヒーロー「タクシー」アクションが始まります。
明らかにここだけフィクション要素が強まるのですが、個人的にはアリだと思いましたけどね。
事実ではないけれど、スピリットだけは本物なんだという演出と捉えればいいのかなと。
言い換えれば「社会的に地位の低い誰かでも、セカイを救うことが出来るかも知れないよ」ということなのでしょう。
それ自体が民衆蜂起の姿そのものだし、これはこれで好きな演出でした。
ポスターの評価
韓国版と日本版でかなりデザインが違うんですよね。
まずは日本版
主人公の笑顔を前面に押し出しています。
これだけみるとほのぼの人情映画に見えますね。
下の方に光州事件の様子をのせて対比関係を出しているのでしょうが。。。
正直うまくいっているとはあまり思えません。
全体的なレイアウトがうまくいっていないように思います。
画面にのせる人物は、多くても主人公とドイツ人記者に限定した方が良かったでしょう。
その分のあいたスペースに事件の凄惨な状況をいれた方が良いと思います。
やたらと文字情報が多い上に、見事に事件の様子の箇所にキャストやスタッフ一覧が丸かぶりしています。
何も知らない人が一瞬だけこのポスターを見ても何がなんだか分からないのではないでしょうか。
いっそのこともっと彩度と明度をおとしてかなりダークな印象に為た方が良かったんじゃないですかね。。。
韓国版
日本版に対して非常にすっきりとしたレイアウトです。
ただしこれを日本で同じデザインで使うのは難しいでしょうね。
あまりにも何が何だか分からなすぎる。
映画を見終わってからこのポスターを見るとそれだけで泣けてくるのですが、映画の鑑賞前のことを考えると日本人には無理があるかな。
韓国内において光州事件がどれほど認知されているのかは不明ですが、「この笑顔の4人が、韓国を救った英雄なんだよ」というメッセージなんでしょうね。
事情を知っている人にのみ効果的なポスターだと思います。
まとめ
映画自体は文句なしの傑作だと思うのですが、実話ベースでありながら事件の認知度が低いのは欠点でしょうね。
独裁政権からの脱却とか軍の制圧とかに対してリアリティのない今の日本人には事件の背景が分かりづらいのも仕方ないでしょう。
とはいえそういった偏見を一度忘れて鑑賞すると、きっと良い出会いになると思うのですが。
そのための映画ポスターとしては非常に勿体なかったと思います。
もうちょっと緊張感のあるデザインだったら、この映画に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。
ちょっと残念ですね。。
それでは、また。
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犬猿 《少しずつ説明過多な映画とポスター》
映画の点数…72点
ポスターの点数…45点
𠮷田恵輔監督作品
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《犬猿》2018です。
主演は4人いて、窪田正孝さんと新井浩文さんの本格派演技兄弟コンビと、ニッチェの江上さんと筧美和子さんという役者以外で揃えた姉妹コンビ。
監督は𠮷田恵輔さん。
映画の点数に72点と「まぁまぁ」くらいでつけちゃってますが、これは𠮷田恵輔さんの前作「ヒメアノ〜ル」がとにかく好きすぎるので相対化して低くなっただけです。
そこらへんの映画よりはそもそも面白いのであしからず。
「ヒメアノ~ル」は冗談抜きに邦画史に残る作品だと思っていて、特にタイトルが出るシーンなんかは「うおおおおおおおおおお!!!!」と叫んで拳を突き上げたような突き上げてないような。
特に「もはやこういう人としか思えない」という人物を作り上げていた森田剛さんが素晴らしくって。
その吉田監督が描く「兄弟達のいがみあい映画」と聞くとそりゃあ楽しみでしかなかったですよ。
ちなみに僕も兄弟が多いので、身近な家族の地獄には見覚えはあるのです。
とまぁそんなわけでけっこう過度な期待してたんですけど、良くも悪くも今作は「目線をさげた」作りになってるかなと思いました。
映画の良かった点
特に前半の1時間くらいは良かったです。
兄弟と姉妹がお互いにじわーーーーーーーーっと相手を不快にしていく様を描いていて。
その不快にさせる方法も「あからさまにやるが無自覚(新井)」「堂々とやるし、自覚もあるが、不快にさせている点が思惑とはズレている(ニッチェ)」「自覚はあるが、バレないようにやる(窪田)」「自覚もあるし悪意もあるしバレたところでおかまいなし(筧)」と様々なパターンがあって。
ただしいずれも「はいはい分かるわ」と思う人は多いんじゃないですかね。
あるあるネタとして楽しむというよりは、登場人物の思想に自分が触れた瞬間に「俺にもこういうところがある」と自覚してズキズキくるタイプの演出です。
新井浩文さんと江上さんはある意味イメージ通りのキャラクターなので良いのですが、窪田さんと筧美和子さんは結構偉いなと思いました。
「ニコニコしてるけどウラでは人のこと見下してるんでしょ?」と言われそうな窪田さんがその役をやっていたり、「巨乳でビッチなバカなんでしょ?」という最悪なレッテル貼りなキャラクターを筧さんが体現していたり。
かくいう僕も筧さんはテレビで見ていて性的な魅力を感じるタイプだったので「所詮俺もこういう風に彼女見ているのかなぁ」などと自分にガッカリですよ。
でもやっぱ可愛い。
映画の不満点
前半のチクチクしたやりとりは楽しかったのですが、残念ながらそれぞれが感情をむき出しにし始めたあたりからは逆に退屈になっていって。
とにかくキャラクター達が思っていることを喋りすぎだと思うんですよ。
いくら感情が高ぶっているとはいえ「私はあんたに嫉妬してるわよ」なんて言わないでしょう。
そういうのは本人達も分かっているし観客も分かっているからわざわざセリフにしなくてもいいかなと。
新井浩文さんはいついかなるシーンにおいても演技がズバぬけてるので安心して観ていられるのですが、他の三人は少し厳しい箇所もあったと思います。
窪田さんはおそらく本当にいい人すぎて、あんまり怒鳴ったりが苦手なのかなと。
筧さんは泣きの演技とかになるとなかなか。。
だからこそ、セリフや表情にこだわらなくても演出だけでもノリきれたんじゃないのかなーと。
前半の「セリフにはない悪意のやりとり」が楽しかった分、それを説明されちゃうとなんだかガッカリ。
幅広い観客向けを想定したのかは分かりませんが、それでもやっぱり説明過多でしたね。
ポスターの感想
ポスターの感想も同じなんです。
あきらかに「犬猿」な顔をしすぎです。
映画内でもそうだったのですが、特に窪田さんはあまり人を怒鳴ったりしたことないのではないでしょうか。
とにかく顔が怖くないんでよね。。。
こうやってポスターで睨まれても「どうしたの、お腹痛いの?」くらいにしか見えなくて。
ポスター内で一番いい表情なのは筧さんじゃないですかね。
内側からにじみ出てきているような憎悪がうまく表現できていると思います。
彼女だけカメラを向いていないのは、本当は正面から撮ろうと思ったけどこの表情がうまくいきすぎたからかなーなんて思ったり。
映画もポスターもどこか説明過多な感じがして少し残念でした。
キャッチコピー
キャッチコピーは結構いいと思います。
愛憎が、溢れ出す。
文字がすべてバラバラに散らばっていて、「愛も憎しみもコントロールできていない」という感じがうまく表現されているなと思いました。
まとめ
「分かりやすく伝える」のはポスターの役割なんですけど、それをやりすぎちゃうと「くどさ」も出ちゃうのだなと思いました。
もう少し抑え気味な演出にした方がより良かったと思います。
とはいえ繰り返しになりますけど、とはいえ吉田監督作品ですから。
鑑賞はマストだと思いますよ。
それでは、また。
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ワイルド・スピード アイスブレイク 《映画もポスターも四苦八苦》
映画の点数…35点
ポスターの点数…70点
シリーズ過渡期
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画はワイルドスピード アイスブレイクです。
邦題だと何作目なのか分かりませんが、8作目ですね。
なんだかんだで現在スターウォーズと同じ本数映画が存在していることになります。
すごいな。
そして現在、来月の8月に次作の公開を控えています。
次作はホブス&ショウという、ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムの「世界2強のスキンヘッズ」によるスピンオフ。
次作を公開前に、最新作であるアイスブレイクを振り返ってみたいと思います。
ワイルドスピードは10作目で打ち止めという制作サイド発言もあるように、シリーズが過渡期にあるのは間違いないでしょう。
まぁ考えてみたら20年近く続く作品なのに、未だにドッカンドッカン世界中でやってますからね。
「もう少し落ち着けよお前ら」という気もします。
映画の感想
えーっと、非常に残念ながら個人的には今作は嫌いな一作でして。
「脚本がいい加減だ!」とか「どっから金を出してるんだ!」とかはもう言いませんよ。
そんなもの「ずっと脚本はいい加減だ馬鹿野郎!」でおしまいです。
それよりも、この作品は【映画の背骨】がないことが問題だと思っていて。
背骨がないのでふにゃんふにゃんなんですよね。
ワイルドスピードにおける背骨とは
「カーアクション至上主義」
「ザ・ファミリー至上主義」
だと思うんですよ。
この二つが出来ていないとこういう感想になるのかなーと。
カーアクション至上主義の失敗
ワイルドスピードは何よりも車を主人公にした映画のはずです。
前回のスカイミッションではビルの間を車で飛んでみたりヘリから飛んでみたり打ち落としてみたりと「車だって、空を飛べるぜ?」的なバカ映画でした(この場合のバカは褒め言葉です)。
ところが今作では冒頭のキューバのレースシーンを除けば車はわりとどうでも良くって。
ハッカーに操られて車がブンブン降ってくるシーンは楽しいっちゃ楽しいんですけど「それ車じゃなくていいよね。。。」としか思えないし、ハッカーが有能すぎると結構冷めるし。
後半の雪上のカーアクションは、撮り方が下手だからか「誰がどこにいて、何をしているのか、そして何処に行こうとしているのか」が全く分からないんですよ。
それってかなり退屈ですよね。
車って、信号があったり警察がいたり道路があったり対向車がいたりと「制限が多い」からこそ面白くなると思うんですよね。
そのルールを破るのは楽しいんですけど、あまりにもルールがなさ過ぎると緊張しなくなってしまいます。。
ザ・ファミリー至上主義の失敗
シリーズ4作目以降、とにかくこのシリーズは「ファミリーが一番大事」というファミリー至上主義になりました。
それは別にいいんですよ。
ですがそこで矛盾が生じます。
前々作でファミリーであるハンを殺害したデッカード・ショウまで今回はファミリー感を出しています。
それはいくらなんでもおかしいでしょう。
共通の敵に対峙するために協力関係になるのはまだいいとします。
でもあそこまで積極的に仲よさそうにされると「なんだったんだ今までのファミリーって言葉は」という風にしか思えなくて。
ファミリーという言葉をキーワードに映画をつくるのであればこそ、もう少し気をつかった脚本にするべきだったでしょう。
ジェイソン・ステイサムが人気キャラで多くの場面で活躍させたかったのは分かります。
でも彼が活躍すればするほど冷めちゃうんですよねぇ。。。
出番を減らす必要はないけど、ダークヒーロー的な立ち位置にするとか出来たと思うんですけどねぇ。
映画の良かった点
もちろん良かった点もあります。
シャーリーズ・セロンはさすがの迫力で、彼女が何か行動すれば勝てる気がしないオーラをガンガンに出してます。
ジェイソン・ステイサムがこうなってしまった以上、シャーリーズ・セロンだけは確固たる悪役として頑張ってほしいんですけどね。
それにしてもワイルドスピードはいつの間にか追加で出てくる人ほど役者の格があがるシリーズになりましたね。
MCUもそういう雰囲気がありますが、シリーズを長く続けるとこういう展開になっていくんだなと感心します。
ポスターの評価
さすがにシリーズを重ねてきただけあって、もうそんなにパターンは残されてないと思われますが今回はうまいこと乗り越えましたね。
舞台が雪や氷の上なので全体的にクリアな雰囲気を演出して。
タイトルを使って、今までのメンバー達の分裂構造を伝えていますね。
良くも悪くもイケイケで派手だった今までのビジュアルが定着している分、今回のようなポスターもなかなかいいなと思います。
もはやワイルドスピードシリーズは、ドムとダッジが写っていれば成立するくらい定着したのかもしれませんね。
まとめ
映画としてはどうかと思う部分も多かったんですが、ここまできたらお付き合いです。
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もうこの際ぶっ壊れ続けて大クラッシュしてシリーズ締めくくってもそれはそれでありなんじゃないかと思ってしまいます。
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若おかみは小学生! 《あかんオッサン泣いてまうわムービー》
映画の点数…85点
ポスターの点数…50点
「子ども向け映画」とは
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は昨年ヒットした【若おかみは小学生!】です。
一部映画ファンの評判も良かったので鑑賞したのですが、なるほど、これは観て良かったです。
僕には小さい子どもがいるのですが、親としては「どの作品を見せてどの作品を見せないか」はジャッジに悩むところで。
例えばトイストーリーとかは自信を持って見せていますし、本人も楽しそうです。
でもルパン三世なんかはある程度理解力がないと見せるのは危険ですよね。
最終的にはスコセッシでもタランティーノでもガンガン観たらいいと思うんですが、それまでは多少のコントロールは必要なわけで。
(まぁ僕自身はコントロールされるのは大嫌いだったし、放っておいても勝手に色々なものを観たりするようになるでしょうが)
そんな悩みを持つなか、この「若おかみは小学生」のような作品は非常にありがたいわけですよね。
自分が観ても楽しいし、子どもにも自信を持って勧められる。
まぁかなり荒唐無稽な話なので、素直に鑑賞できるのは小学校2年生くらいまでかなぁ。。。
でもそれくらいの年齢までに義務教育的にこの作品を見せてもいいんじゃないというくらいには素晴らしいと思いましたよ。
絵のタッチについて
前もって言っておくと僕は「こんな感じのタッチのイラスト」は非常に苦手でして。
そこだけはどうしても最後まで全く馴染めなかったし、それ故に評価に影響しているのは否定できないです。
当然それは「自分の好み」と「自分の年齢」だけの問題なので、それを理由に作品を批判することはありませんけどね。
キャラクターの造形は苦手なのですが、舞台の作り込みなどは異常なほどにハイレベルなのでそこを観るだけでも十分に楽しめます。
有名なところでは「卵焼きを切る包丁に、切った卵焼きが写りこんでいる」などの丁寧さ。
出てくる旅館の料理はいずれも美味しそうなので、それが自然と人間達の存在感にリアリティーを持たせているあたりは見事です。
映画のアウトライン
もともとあった児童文学の中から映画用にシナリオをアレンジしたのがこの映画です。
両親を自動車事故で亡くした小学6年生の「おっこ」が、祖母の経営する旅館で若女将として働くことになるが、そこにはクセのある同級生や幽霊などが住み着いていてーーー
みたいな感じですね。
この時点で「小学6年生が若女将。。。?雇用形態はどのように。。」などと考え出す僕のような奴は多少ノリきるのに疲れますが、よく考えたら「ドラえもんが家に住んでるよりは現実的じゃね?」とも思うのでオールオーケー。
大人として楽しむのであれば「どのような条件が揃ったときに、幽霊の存在を確認することが出来るのか」とか「何故、このタイミングでこの宿泊客と交流するのか」なんかを考察しながら観ると面白いですね。
そのあたりが隙無く練られている脚本だからこそ大人の支持率も高かったのでしょう。
映画の感想
両親を突然失った主人公を、どのようにして救ってあげるかに対してとても深い愛情を感じる一作です。
時には厳しく、時には甘やかし、時間を与えたり、声を聞いてあげたり、画面に映っていない場面でまで愛情を感じるようです。
特に宿泊者達の位置づけが絶妙で、「おっこと立ち位置が非常に似ている客」や「おっこが憧れるような魅力を持った客」、そして「おっこが絶対に目撃してはいけないはずだった客」など、シーンに応じておっこが健やかに成長できるような工夫がされています。
一応ライバルキャラクターのような立ち位置で「ピンふり」が出てくるのですが、そのキャラにしたって「誰よりも努力をしている」ことを周りも認めていたりフェアな扱いになっています。
大人の目線から見ていると、いかに「まわりの大人達が、子どもに対して配慮しているのか」が分かるのでそれも面白いですね。
こうなってくると「別に幽霊っていらなくないかな」と思ってしまうのですが、これも大人だから言えることで。
出てくる幽霊達がうまいこと物語の展開を繋いで説明してくれる役割になっていたりと、本当にうまく出来てます。
今や幽霊がストーリーテリングをする時代なんですね。うらめしや。
ラストシーン
90分のうち75分くらいは、やっぱり小学生向けなテンションですすむ映画で、急にファッションショーや挿入歌が挟まれたりしたときにはこっちは赤面してしまうのですが、ラストシーンは違います。
ついにおっこが「いつか絶対に乗り越えなくてはならないこと」つまり、父と母の死に強制的に向き合わなくてはならない状況が待っています。
こっちとしては「なんて非道なことをしやがる!!!」と制作者側に怒るくらいツライ状況なのですが、そこからのシーンは圧巻ですね。
今まで何かしら流れていたBGMがすべて無くなって、完全に無音のようなシーンが続きます。
キッズアニメとしては結構踏み込んだ演出だと思いました。
凡百のアニメならここで「哀しーーーーーい音楽」をのっけるのでしょうが、そんなことしなくても今おっこが何を考えているのか、どれほどツライのかは観客も理解できているのでそういった余計な演出は必要ありません。
ある意味ですごく「大人向け」で正統派な作り方だと思いました。
実際におっこも、改めてしっかりとその場に向き合い「自分がやるべきことをする」という成長を見せます。
いやーー。泣かされましたね。こりゃ泣くわ。
誰でもいいからおっこを抱きしめてあげてくれ。
ポスターの感想
まぁポスターには別に言うこともないというか笑
まぁ、まぁこういうポスターになるよねって感じでしょうか。
変にウェットな雰囲気を足して小学生の気持ちを削いでもいけないですからね。
あえていうなら「ピンフリさんと背景のデッサンがおかしい気がする。。。」くらいでしょうか。
なんかすいません。
まとめ
バカっぽい言い方になってしまいますが、とにかくいい映画だったなーと。
こういうのをいい映画と言わずして、何を褒めるというのか。
この前ブログに挙げたデスウィッシュみたいな作品も良いですが、いやいやまずはこういう映画こそ「いい映画」って言わないとですね。
大人から観ると、実は少しホラーに見えるのも良かったですね。
時々おっこが「大丈夫?」というくらい様子がおかしい時があるのですが、それが本当に怖い。
でも子どもって本当にそんな瞬間があるよなって思うし。
だからこそこの映画は、是非多くの方が鑑賞すべきだと思うわけですよ。
絵のタッチで抵抗がある人も、騙されたと思って一度鑑賞されてみてください。
それでは、また。
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ゲティ家の身代金 《重厚なサスペンスとペラッペラなポスター》
映画の点数…75点
ポスターの点数…10点(一部のポスター)
リドリー・スコット絶好調
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画とポスターは《グティ家の身代金》です。
1973年に実際に起こった世界一の大富豪グティ家の孫息子誘拐事件をベースに描かれた一作。
監督はリドリー・スコットです。
リドリー・スコットはここ最近多作でして、80歳を迎えて絶好調期に入るという。
イーストウッドにしろスピルバーグにしろ、世界のジジイ達はどうなっているのか。
こっちとしては楽しい一方なので大歓迎なのですが、それにしたって休まなすぎだろとは思いますが。
さらに公開のほぼ二ヶ月前に主演のケヴィン・スペイシーがセクハラ問題で追放処分。
なんとそこからたった9日で撮影を終えて公開に間に合わせるという、「なんか地球の自転遅くなった?」みたいな離れ業をやってみせました。
リドリー・スコットおそるべしですよ。
映画のアウトライン
映画全体としては正統派な誘拐サスペンスの様子と、大富豪ゲティのクレイジーなケチっぷりを母親役のミッシェルウィリアムズの視点から描きます。
そもそも実話ベースでもあるので、最初のナレーションの時点で「あ、この孫は最後には助かるんだろうな」というのは分かります。
話の主眼はそこじゃないんですね。
あくまでも【ゲティ家】としての呪いというか、金を稼ぐだけ稼いだ人間の呪い、そこに嫁いだ人間の呪い、血が繋がっていることの呪い。
その奇妙さを楽しむ映画です。
映画の感想
さすが巨匠リドリー・スコットというべきか、映画は一本しっかりと筋が通っているような安定感を感じます。
とにかく映画が観やすい。
特に音楽の使い方がうまくて、画面で起きていることや心情の変化を低ーーーーい弦楽器で表現していて。
音が流れてくるだけで、何か事態が動き出すのが分かります。
役者陣は軒並み素晴らしいのですが、たった9日で撮影しきったクリストファー・プラマーがとにかく圧巻ですね。
ただ立っているだけでも威厳がありますし、しゃべり出すと人をイヤな気持ちにさせるし。
とても代役だとは思えないはまりっぷりでした。
ただ、ミッシェル・ウィリアムズが主役の一人であるというのが最後までちょっと気になっていました。
ミッシェル・ウィリアムズもただそこにいるだけでフェロモンが蒸発するほど魅力的な大好きな女性なのですが、彼女が母親役である以上「なんとなく助かりそう」という気がしてしまったのですがどうなんでしょう。
芯を曲げない強い女性役なので、「このままじゃ息子が殺される!」といった緊迫感が無かったのかなーとも思います。
ポスターの感想
今回のポスターは軒並み素晴らしい傑作が揃っています。
日本バージョン以外は。
いや、日本が独自に作ったわけではないのかも知れませんが、だとしてもそれを採用するなよって感じだし。
まずは海外版の一つをみてみます。
いずれのポスターよりもインパクトのある「耳」デザインですね。
これは人質になったゲティ3世が劇中で耳をそぎ落とされるところのイメージなのですが、耳をお金でグルグル巻いているのがとてもいいですね。
「命がほしいならば金を出せ」「一円だりとも払わない」「新聞社に耳の写真を売ってくれたら金を払う」と、とにかく金に翻弄された人質ゲティ3世とその耳。
インパクトがあるのと同時にしっかりと映画の本質を描いています。
事件ではなくスキャンダル
こちらのポスターは、マスコミに追われる母親ゲイルの写真をポスターにしています。
映画の一場面ではあるのですが、わざわざこの場面を切り取ったのには意味があります。
彼女にとっては大事な息子を誘拐された「事件」なのですが、その他の人にとっては世界一の大富豪の孫が誘拐された「スキャンダル」なんですね。
その気持ちの落差をこのポスターからは感じます。
それがすなわち「ゲティ家という呪い」を表しているようです。
ゲティ家の影
こっちはより分かりやすいですね。
偉大なる偉大なるゲティと、その影に入るしかない(そうしないと誘拐事件も解決できない)運命の二人を対比させています。
この銅像は、映画の最後の最後で効いてくるので、このポスターを記憶して映画を観た人は思わずニヤッとするのではないでしょうかね。
日本語版ポスター
こりゃーひどい。。。
映画の何を伝えたいのか整理してからポスター作ろうよ。。
これじゃただの誘拐事件に巻き込まれた母親だけの話じゃないですか。
この映画の本質はそこではないはずです。
それと、別に舞台がローマであることは映画を観る人には全く関係ありません。
なんでコロッセオなんて入れるのかな。。。
情報として邪魔なだけじゃないですか。
もしも映画の最後の最後、誘拐犯とミッシェルウィリアムズの一騎打ちがコロッセオで行われるならそれでもいいですよ。
日本映画ってなんで未だに「ヨーロッパかっこいい」基準でポスター作るんだろう。
せっかく他のポスターが良かっただけに非常にガッカリです。
まとめ
一本の映画としては決して派手ではない地味目な作品だとは思います。
ですがそこはさすがのリドリー・スコット。
じっくりと2時間上質な時間を過ごした気にさせてくれる一作でした。
もしまだ観られていない方がいたら、日本語版ポスターを目に入れないようにチェックしてみてくださいな。
それでは、また。
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暁に祈れ 《映画もパワフル ポスターもパワフル》
映画の点数…82点
ポスターの点数…87点
パワフル×100な映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《暁に祈れ》2018 です。
公開規模がそこまで大きくない低予算の映画ではあるのですけど評判も良くて、かなりプッシュされていた印象の映画。
観たら納得の【パワフル】な映画でした。
また、今回の映画はポスターも素晴らしいので合わせてご紹介します。
映画のアウトライン
タイでキックボクシング選手として活躍する主人公ビリー(イギリス人)がドラッグの使用で警察に逮捕され、言葉も不明な刑務所内でサバイブしていくというお話です。
更生のきっかけはムエタイ。
自分にとっての唯一の才能であるキックボクシング(=ムエタイ)を通じてもう一度人生を見つめ直すことになります。
主人公ビリーは実在の人物で、彼の書いた自伝を元に映画化されています。
映画の感想
映画冒頭、ボクサーである彼の体に丁寧に丁寧にワセリン(でしょうか。格闘技に詳しくないので分かりませんが)を塗っていく場面から始まります。
時間にして2〜3分くらいかけたんじゃないかというくらい丁寧にその様子をカメラでおいます。
肉体の美しさをたっぷりと表現することでこの映画の【生々しさ】が際立ってきます。
このシーン以降のボクシングは全て痛みを感じるほどです。
ほとんどの映画内で描かれる暴力シーンは、自分が痛みを感じるほどではありません。
それはあくまでも映画内の人物は他人でしかないからですね。
ですがこの映画のように【そこにある肉体】を丁寧に描くことで、映画内の人物と自分がリンクしてきます。
また、ボクシング以外での体のぶつかり合いも非常に多い映画なのでやはり冒頭のワセリンシーンはとても大事なんですよね。
刑務所内での暴力やレイプシーンなど、どにかく裸の肉体がぶつかり合うことの多い映画です。
良い意味でも悪い意味でも、肉体を味わう映画と言ってよさそうです。
映画の良かった点
映画が始まってから1時間くらいはとにかく主人公にとっての良いことは何も起こりません。
理不尽な暴力と、ドラッグが肉体と精神を破壊していく様子をしつこく描きます。
何しろ登場人物達はイギリス人のビリーに対してタイ語でベラベラ話しかけるのに字幕すら入らないので、ビリーも観客も誰が何を言っているのか全く分からないんですよね。
異国の刑務所でのSEX(同性のレイプ)& DRUG & VIOLNCE!!
何かの煉獄でしょうかね。
主人公ビリーと観客を絶望させきったところで。。。
もう一度立ち上がるという展開に燃えます。
描き方も淡々としていて良かったと思います。
いつ具体的に立ち直ったのかは分かりづらいのですが、その分「自然とボクサーに戻る決意がついた」という風に見えるので。
ただここからの展開もそんなに甘くはなくて、やはりドラッグの魔力とは凄まじいのでしょう。
何度かコロリと暴力とドラッグの地獄に転がってはまた復活してというのを繰り返します。
試合におけるパンチ(=暴力)は不思議と生々しさを感じないんですよね。
これはビリーが肯定的な気持ちで試合に挑んでいるからこちらも痛みをあまり感じないのだろうなと思いました。
(それでも印象が爽やかに見えるだけで、見た目的にはかなりボクシング描写には力をいれてるし迫力もすごいです)
ラストの父親との面会シーン=父親は実際のビリー本人というのも良かったです。
映画を通じてビリーがもう一度自分自信を見つめ直すという構図になっています。
映画の不満点
大した不満点はないのですが、せめてサラッとムエタイのルール説明だけでもして欲しかったですね。
何が反則で、時間が何分かなどが分からないまま鑑賞しているのでちょっとノリきれないというか。
チャンスなのかピンチなのかも良く分からないし。
でもそれくらいですかね、ほんと。
グッと体感温度のあがる素晴らしい映画だったと思います。
ポスターの感想
映画ポスターもこれまたパワフルで良い出来です。
まずはこちら。
極端な背中のアップで誰の背中なのかも分かりません(もちろんビリーですけど)。
それでも奥にいる入れ墨だらけの集団を観ると「これはただ事ではない」と分かります。
構図的に「一人で巨大なものに向かっていく」という決意を感じます。
ただし首元はうなだれており、挑戦的な姿勢というよりは「これしかない」といったバランスです。
背中をアップにしているのも「大きな罪を背負っている」ことを表しているようです。
つづいてこちらのポスター
こちらもまた極端なアップの写真ですね。
映画内でもそうでしたが、カメラが極端に人物の顔にグッと寄った撮り方をすることで「自分以外の状況が全く把握できない」様子が伝わってきます。
とてもシンプルな構図のポスターなのですが、映画の内容と密接に関わっているとても良いポスターだと思います。
まとめ
ボクシング映画にはあまり興味はないのですが、さすがにこれは面白かったです。
対象年齢があるのでしょうがないことですが、アベンジャーズなんかでは感じない「痛み」をちゃんと描いているのはとても好感がモテますね。
毎日観るのはツライですが、たまにこういう気持ちがダウナーになるくらいの映画も良い体験になると思いますよ。
それでは、また。
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デスウィッシュ 《ジャスト75点の完璧な映画とポスター》
映画の点数…ジャスト75点!
ポスターの点数…ジャスト75点!
完璧な75点映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画はブルース・ウィルス主演、イーライ・ロス監督のデスウィッシュ(2018)です。
このブログでも時々触れるのですが、日常仕事をしたり家事をしたりの生活の中で毎回毎回「100点満点の完璧な映画が観たい!!」という心境にはなかなかなれないと思うんです。
そんな時にはやっぱりアクション映画でしょう!
「ジャンル映画」と聞くと、なんだかB級映画臭がするのですが、決して批判的な気持ちはなくて「なんとなく人をハッピーにさせるというジャンル」だと思っていて。
今回のデスウィッシュはまさにその手の映画として最適でした。
点数は75点なんですけど、75点を正確に狙いにいって75という、それはもはや100点に等しい75点だということなんですね(何言ってるんだろう)。
そして映画ポスターもまたジャストで75点の映画でしたよ。
ちなみにこの映画はリメイクされた作品なのですが、現代版にアップデートされている以上は過去作との繋がりはあまり考える必要がないと判断し、このブログ内では特に触れません。
映画のアウトライン
ストーリーは極めて単純。
外科医のブルース・ウィルスはある日愛する妻と一人娘を強盗に襲撃された。
妻は絶命し、娘は意識不明の重体。
理不尽な暴力に怒りを覚えたブルース・ウィルスは、強盗犯と世の中への復讐を決意する。。。
みたいな感じです。
斬新なアイデアなどはないのですが、イーライ・ロス監督の極めて政党派な撮り方もあって非常にスムーズに映画に没頭できます。
分かりにくい箇所は全くないので、途中でトイレに行くくらいなら話に置いて行かれることはないでしょう。
ポスターの感想
まずはポスターから観ていこうと思います。
なんですかね、この「映画を見終わった後に一切得るものはない」ことをビンビンに感じるビジュアルは。
いえ、それでいいんです。
僕たちはこの映画に対して、何か大切なメッセージなんて受け取る気はないのですから。
(正確にいうとこの映画には「家族がひどい目にあったら、あなたならどうする?」というメッセージは確かにあるんですけど、そんなの誰しも一度は考えたことあるでしょうからね)
もはやむしろ古くさくしているというか、実際に「カッコよくなりすぎないように」心がけているように感じます。
今時タイトルに血文字やスプレーのあとのような汚しを入れるデザイナーは正気ではないでしょう。
ということはもちろんわざとやっているわけで。
気軽に観てねという姿勢を強く感じて好感がもてます。
日本語版ポスター
僕はこのポスターに関しては日本語版ポスターの方が良くできていると感じます。
変更されている点は大きく三点あって、「背景にシカゴと思われる街並みが追加されている」「ブルース・ウィルスが傾いている」「タイトルがネオンぽく加工されている」ことです。
背景に街並みがあることで主人公ブルース・ウィルスがいかに無謀なことをしているのかが際立ちます。
ブルース・ウィルスを傾けていることで、彼が映画内で精神状態が不安定になっている様子が表現されています。
ベタな演出ですけどこの映画においてはそれでいいでしょう。
それか単純に「斜めの方がカッコよくね?」というだけの理由かも知れませんが、それはそれで良しということで。
タイトルがネオンぽくなっているのは、エンドロールの文字表現とリンクさせているというのもありますが、この映画においては「いかがわしくてホコリっぽい」ようなこの表現がピッタリだと思います。
文字まで斜めにしているのはちょっとやりすぎかなと思っていますが、決定的な差が出るわけでもないのでアリな範囲かな。
キャッチコピー
キャッチコピーもなんというか笑
ここまでストレートなキャッチコピーは見たことないレベルですね。
「悪人は、俺が始末する。」
今時小学生も言わないでしょう。
でもいいんです、これで。
例えばこのキャッチコピーが
「悪を裁けるのは、悪」とかだったらちょっと格好つけすぎですかね。
映画の感想
すでにポスターの感想であげた通りの映画です。
とにかく75点をちゃんと取り続ける素晴らしい作品。
75点の脚本、75点のグロ描写、75点のガンショップ店員の胸の谷間美女、75点のボスキャラ、75点の伏線回収のオチ。
ここで大事なのは「突っ込みどころも適度にある」ということです。
特に「ものすごくイヤな雰囲気を漂わせているが、特に事件は起こさない弟」が紛らわしく登場したり、いくら自分の務める病院とは言え備品をガンガン盗めたり、強盗犯への復讐のバランスがいい加減だったりと文句のつけどころはたくさんある。
でもそういう文句の一つもない作品って、なんだか可愛げがないと思いません??
「あそこがああだったらなー」とか言うくらいがちょうどいいと思うのです。
個人的には、もう少し外科医という職種を活かした活躍を見たかったですね。
ちゃんと魅せてくれるのは一箇所くらいしかなくて。
せめてラスボスくらいは「外科医だからこそ復讐できた!」みたいな演出が欲しかったかな。
まとめ
最大限にリスペクトできる「ちょうどいい映画」デスウィッシュ。
ブルース・ウィルスもいつの間にかすっかり老け込んできたのが気になりますが、ハードなアクションをあといくつか撮ってほしいというところ。
そのうちキアヌ・リーブスやデンゼル・ワシントン達も「ちょうどいい映画」俳優として活躍する日がくるのでしょうか。
それはそれで楽しみです。
それでは、また。
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スパイダーマン:ファーフロムホーム 《軽やかにエンドゲームを引き継いだ傑作》
映画の点数…90点
ポスターの点数…80点
何故、エンドゲームの直後にスパイダーマンなのか
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は【スパイダーマン ファーフロムホーム】。
細かい説明は省きますが、MCUの単体キャラクター映画の中では僕は前作の【スパイダーマン ホームカミング】が最も面白かったと思っています。(最も「好き」なのはガーディアンズオブギャラクシー)
その続編なので当然期待しちゃうところなのですが、問題は【アベンジャーズ エンドゲーム】の直後に公開されるということです。
当然、MCU側も狙いがあってそうしているわけなので、こちらとしても「ほほう、そこまで自信があるというのだな?」と構えてしまいます。
では実際の映画はどうだったのか。。。。
はい、完全に僕の負けです。
そんなことするのか。。。と笑ってしまいました。
映画の感想
MCUは今まで作品ごとに映画のトーンを描き分けてきました。
「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ」シリーズを骨格としながらも、「ソー・ラグナロク」や「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ブラック・パンサー」などはハッキリと他の映画とは違う独自の個性を持った映画として大成功しています。
同様にスパイダーマンも他の映画とは違うニュアンスを持っていて、スカスカのパンクロック「ラモーンズ」に合わせて描かれる【とても軽やかな】映画です。
話の規模も「そこれへんの近所」が舞台であったり、ヴィランも「普通の人間」だったりと、あまりにもストーリーもキャラクターもお金も大きくなりすぎたMCUの視点を一度グッとさげるための効果があったと思います。
なので今回も「エンドゲーム」後の行き着くところまでいったMCUを、もう一度フラットに落ち着かせる役割を任せられたわけです。
これはひどい。なんて無茶を言いやがる。
下手したら、というか高確率で「今更こんなしみったれた話を見たくないんだけど」とファンを失望させてしまうのではないか。
そのハードルを、今回見事に越えてみせました。
その手法がまさかの「ドキッ!恋のヨーロッパ大作戦!あの子のハートにキャッチウェブ!」というスイーツ映画だったとは。。。
恋愛映画スパイダーマン
今までのMCUにも恋愛要素はあったんですけど、あくまでもそれはサイドストーリーに過ぎなくて。
キャップやアイアンマンも恋愛していますが、ヒーロー活動と天秤にはかるようなことは基本的にしません。
ですが今回のスパイダーマンはもう、MJにメロメロすぎて。
敵とかどうでもいいから、エッフェル塔で告白することだけが目的という感じ。
でも実際に自分が16歳だったらそうだろうなとも想像つきます。。。
この小さな恋のメロディのお話と、エンドゲーム後の世界、そしてアイアンマンの亡霊と対面するピーターパーカーの苦悩が見事にかみ合っています。
エンドゲーム内では「普通の人々」をほぼ全く描いていませんでしたが、今回はその「普通の人々」の目線だけで描ききっているのが印象的です。
普通の人々は、恋愛したり学校に行ったりすることで精一杯で、ヒーローという存在をどこか幻想としてしか思っていないことをもう一度観客に突きつけてきます。
このあたりの自己批判性というかある意味悪趣味な感じというか、もう見事なバランス感覚ですね。
この映画の最もドキドキしたり感動的なシーンは、ヴィランとの決闘ではなくアイアンマンとの葛藤ではなくラストのギクシャクしたキスシーンではないでしょうか。
こんなの中学生の時に見てたらたまらんかったでしょうな。
そこら辺の恋愛映画よりもよっぽど恋愛映画としての傑作となっていました。
すごいわ。
ポスターの感想
MCUは映画は途方も無くすごいんですけど、ポスターに関しては結構保守的なものが多い印象です。
幅広い観客を呼び込むためにはある程度仕方ないんでしょうが、少し物足りない気持ちがあるのも事実。
ところが今回のスパイダーマンではいくつか面白いアイデアのポスターもありました。
スパイダーマンという映画の軽やかさがそれを可能にするのでしょうね。
いつも通りのポスター
こっちは、わりといつも通りの通常運転ポスター。
背景が今回の映画の旅先ということが特徴であることを除けばそこまで特殊な印象はありませんね。
スパイディが観光ブックを読んでいる(=浮かれている)というのは面白いアイデアですが、これは今までMCUが築き上げてきたブランドの信頼感があるからこそ出来た遊びだと思います。
旅行ステッカーバージョン
こっちはなかなか斬新なアイデアです。
前面いっぱいにうつったスパイディに、旅先のステッカーやパスポートを思わせるスタンプが押してあるというビジュアル。
映画の内容こそ分かりませんが、とても軽やかな印象をあたえるとには大成功しています。
元からのファンは当然観に行くでしょうし、「最近のヒーロー映画は世界観が広がりすぎてて冷めてしまう」という人にも興味をもってもらえるデザインでしょう。
日本バージョン
ポスターとは少し違いますが、これは日本で公開前によく見られたビジュアルです。
映画の内容を文字情報で並べつつスパイディを表現しています。
文字の大きさを少しずつ変えながら、スパイダーマンがしかめっ面をしているように見せるテクニックも素晴らしいのですが、それよりもまずはこのデザインのアイデアが秀逸でしょう。
これも他のポスターと同じく、映画の軽やかさを感じてとてもいいですね。
こういう地道なアイデアこそがお客さんの満足度を高めると僕は思っているんですけどね。
実際にそうだったらいいですけど。
まとめ
エンドゲームの後にこんなことを言うのも悔しいというか、もう完全にいいようにMCUに振り回されています。
傑作でした。
さらにマーベルは今後の計画を一気にまくしたててきたようで。。。
ここにきてブレイドをやるのだとか。。。
本当に怖ろしい会社だと思いますよ。
これからも注目し続ける必要がありそうです。
それでは、また。
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ぐるりのこと 《瞬間を捉えた映画と、瞬間を捉えるポスター》
映画の点数…90点
ポスターの点数…83点
《くらう》映画
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は【ぐるりのこと】(2008)です。
リリー・フランキーさん、木村多江さんら主演で、1〜2分しか登場しない脇役にいたるまで実力派の俳優を揃えた骨太の一作です。
骨太というとドッシリ重たい感触がしますが、実際の映画は基本的に普通の日常を切り取った、特別な事件の起こらないタイプの映画です。
ところが。。。。
とにかく映画を観ている最中、心臓に砂がゴボゴボ貯まっていくようななんとも言えない息苦しさを感じるんですよね。
特筆すべきはやはり木村多江さん。
この映画で日本アカデミー賞を受賞されていますがそりゃもう納得の一言。
圧倒的なパフォーマンスで映画全体を大きく波打たせています。
観る前から予感はしていたんですが、とにかく《くらう》こと間違い無しの映画でした。
映画の感想
リリー木村夫妻の1990年代初頭からの10年間の結婚生活を記録した映画です。
映画の性質上、突然話が1年、2年と吹っ飛んでいくので、途中で何が起こったのかはこちらが想像しながら観ていくことになります。
あらすじにのっていることなので書きますが、映画の早い段階で夫婦はおそらく新生児の子どもを亡くすことになります。
娘が死ぬシーンは全く画面にうつらないので、何があったのかは分かりません。
既に精神的にグラついた木村さんの様子からその時の心境を探ることになります。
こういう構造に映画のダイナミズムを感じますね。
この夫婦のどの瞬間を映画として抑えるのかは監督などの作り手に委ねられています。
でもこれって、実際の人と人との関わり合いも同じなんですよね。
大事な友人や実の親でさえずっと同じ生活をしているわけではない以上、相手のことを想像し、思いやり、ある意味カンを頼りに接するしかありません。
映画の画面に映っていることだけが真実ではないし、それ以外の楽しいことや哀しいこともきっとあるのだと思います。
「子どもを亡くした」という背景がドスンと真ん中にはあるのですが、それ以外には楽しいシーンもたくさんある映画です。
勝手に同情した気になっては反省する一方、ああ!やっぱり自分は彼女の苦しみを全然理解できていなかった!という気にもなります。
10年という豊かな歳月を越えて、映画が終わる頃には不思議と世界が愛おしく感じられる作品なのではないでしょうか。
瞬間
この映画は、人生の「瞬間」を捉える映画です。
瞬間の貼り合わせの10年分を映画にしています。
それを象徴するシーンが、映画の後半に「たまたま通りかかった見知らぬ他人の結婚式の金屏風の前で写真を撮る」という場面でしょう。
その様子だけを切り取ると「おちゃらけたイタズラ」のようにしか見えないのですが、この映画の中の10年の中の一瞬と考えると全く違った意味合いを持ってくるんですよね。
たった一枚のこの写真が、この夫婦の10年間の凝縮した姿なのでしょう。
振り返ってみると断片という瞬間でしかない人生も、見えていないだけで積み重ねてきた思い出がそこにはあるのだということを伝えてくれているようです。
ポスターの評価
先ほど書いた通り、この映画ポスターはこの映画のなかの夫婦の一瞬を切り抜いたものです。
このポスターだけでは伝わらない10年間が映画の中にあります。
ビジュアルだけで映画の内容が伝わってくるというタイプのポスターではないのですが、むしろ映画が終わったあとにガンガン効いてくるタイプのポスターですね。
このポスターを思い出したりTSUTAYAで見かける度に「あの夫婦は今何をしているのだろうか」と考えてしまうようなポスターですね。
このポスターって、普段僕が生業にしているグラフィックデザイナーという仕事にも大きく共通点があって。
グラフィックデザイナーも、背景にある様々な要素の一部分を切り抜いて一つのビジュアルにするのが仕事です。
瞬間の輝きをうまくデザインすることに頭を悩ませたり狼狽えたりするわけですね。
このポスターを観ていると、映画から生まれた一枚なのかグラフィックデザイナーとして切り取った一枚なのか、頭がグルグルしてきます。
こういうポスターとの出会いは幸せですね。
まとめ
「一瞬」と「連続」について色々と考えさせられた映画とポスターでした。
僕はこの映画は何度も見なおすような映画ではないと思っているのですが、一度観てしまった以上はしばらくこの夫婦のことを想いながら生活することになりそうです。
そのくらい、自分の中の一瞬を切り取られた気のする映画でした。
それでは、また。
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ワイルドスピード MEGA MAX 《抜けが良くなった映画とポスター》
映画の点数…45点
ポスターの点数…75点
予算もアップしてシフトチェンジ
こんにちは、ピースマイルです。
今回取り上げる映画はワイルドスピード MEGA MAX(2011)。
新作の公開が8月に迫っていますが、個人的にはこの5作目くらいから徐々にワイルドスピードの方向性が次の段階に向かったと思っています。
そのへんは好みが分かれるところだと思うのでどちらが良いというわけではありませんが、少なくとも映画としての完成度がグッとあがりました。
予算も従来の作品が80億円くらいだったのが、今作からMEGA盛りの120億円。
それもあってか興行収入的にも大成功だった本作。
映画とポスターを交えてお話していきます。
ポスターの感想
今までのポスターに比べて、かなり抜けのいいデザインになっています。
従来の作品のポスターがこちらなんですが、違いが分かりますか??
まず、人物達がカラーになっています。
前作までは人物をモノクロにして車の極彩色を際立たせていたんですよね。
何故ならこの映画の主役は《車》であったから。
ところが今回からは人物達もカラーになっており、ポスター内における車の占める割合もかなり減っています。
これまでの良くも悪くも賑やかでケバケバしい雰囲気から一転して、ブラジルのカラッと晴れた空をバッグに抜けの良いデザインになりました。
当然ここまでの大きなデザインの変更は意図的なのは間違いなく、それは映画の内容とも密接に絡み合ってきます。
ちなみに日本版のポスターはちょっとギチギチしすぎていますね。
従来のファン向けの要素を多めに残したような感じがします。
まぁ、日本においてワイルドスピードを観る層を考えると理解は出来るところですかね。。
ワイルドスピード MEGA MAX ポスター /REG-DS
映画の感想
今作よりかなり映画のニュアンスが変わってきました。
まず映画が始まって15分も経てば誰もが気付くとおり、映画全体のルックがかなり良くなっています。
監督は前作、前々作と同じだということを考えると、監督が映画との相性を増してきたことと制作費が上がったことの良さが出たのではないでしょうか。
シリーズのファンもそうでない方も、今までの作品の中では一番「観やすい」のは間違いないでしょうね。
車から人へ
どこかの政治コピーみたいですが「鉄から人へ」ならぬ「車から人へ」という印象。
つまり、主人公が交代したということです。
4作目ではすでに怪しかったですが、今までは主人公は間違いなく車でした。
車をいかにカッコ良く撮るか。
ですが今作からはその考えは一度封印したように感じられます。
今までのキャラクター達を総出演させ、キャラクターの魅力を何よりも優先させているのは一目瞭然。
映画全体の観やすさも、今までのキャラクター達のことをこちらが既に理解しているからというのは大きいでしょう。
特に新キャラであるドウェイン・ジョンソンは画面に映っているだけですでに100点のルックス。
もはや彼が真っ直ぐ立っているだけで映画として成立しているくらいワイルドスピードとの相性がバッチリでした。
正直、おかげで今までの主役のブライアンは今作で完全に脇役扱い。。
ケイパーもの
今までは何か問題を解決する際には「とりあえず車で行ってみる」という大雑把な作戦で切り抜けてきた主人公達ですが、今作ではついにみんなで手を組むことになります。
いわばオーシャンズ11やミッションインポッシブルのような雰囲気です。
車で解決するのではなく、人で解決しようとするのはシリーズにとっての大きな転換期ですね。
今までの登場人物が全員登場するシーンは否応無しにテンションがあがります。
映画の難点
とはいえ僕はこの映画にはあんまりノレなくって。。。。
それは、もう単純に《脚本がメチャクチャ》だと思っちゃって。
とにかく主人公達の行動が支離滅裂。
当初の目的はアメリカ警察から逃げ切るだったはずなんですけど。
「生活費が必要だなぁ」→「よし、列車強盗だ!」
なんで?!
そこから車を盗んでみれば「なんかギャングのマル秘情報を手に入れちゃったぞ」→「よっしゃ!子どもも生まれることだし全部盗んじゃおう!」
なんでだ!!
終始こんな感じで話が進んで行くんですよねー。
脚本がメチャクチャだったのは以前も同じなんです。
でも、今回から人間に焦点を合わせて映画を作っている分そういうおかしな点がすごく目立つようになったんですよね。
ケイパーものとしてどうなのか
映画の途中から、犯罪のプロフェッショナル達が全員集合して金庫を強奪する準備を始めます。
ここから観客である自分が望む展開は《計画を練る→いざ相手のところに忍び込んだら、トラブルにあってうまくいかない!→かと思いきやすべては作戦通りでうまくいく!》という過程を見たいわけじゃないですか。
ところが今回は《計画を練る→相手にバレる→完全に行き当たりばったりでなんとかする》という話になっちゃってるんですよね。
そりゃあないでしょう。
一応「実は金庫をすり替えてましたー」みたいな展開はあるんですけど、それがうまくいったのもただの偶然というか。
せっかく熱い展開になりそうだったのにもったいない!
大好きなRX-7
ワイルドスピードシリーズが楽しかったのは、僕はやっぱり《車が主人公だったから》です。
特に一作目のRX-7やGT-Rが大暴れしていた頃が日本人として楽しくて。
日本車がコンパクトなスポーツカーの生産しなくなった背景もあるのでしょうが、大好きな車達のアクションを楽しめなくなったのは僕としてはやっぱり寂しいです。
映画としては面白くなっている分、皮肉なことではあるんですけどね。。。
これは僕のワガママにすぎませんが。
まとめ
今までの作品の中でクオリティは上がったと思いますし、基本的にはシリーズの進化として理想的な展開でしょう。
でもそれが全ての人を満足させるわけでもないのだなと。
当たり前なんですけどね。
とは言いつつもこのシリーズとは最後まで付き合うつもりではいるんですけど。
完全に良い意味で頭を空っぽに2時間たっぷり楽しめる映画です。
人生を豊かにする映画っていろんな種類があっていいんじゃないでしょうかね。
それでは、また。
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ワイルド・スピード 1〜4作目 《最新作公開前レビュー》
映画の点数…平均して60点
ポスターの点数…平均して50点
ワイルドスピードに関して
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
ワイルドスピードシリーズの最新作の公開が迫っています。
冒頭からこんなこと言いたくないのですが、以前の僕は「大人っぽくて社会派で難しい事ばかり言っている映画こそが高尚である」という思い込みをしていた恥ずかしい過去がありまして。
「中2っぽい映画なんゴメンだね」と言いつつ、そういう姿勢こそがむしろ中2っぽいという矛盾に気付かなかったわけですな。
なぜそういうことを書いたかというと、今回取り上げる《ワイルドスピード》のような作品を嫌悪していた時期があったわけですよ。
バカっぽくて薄い脚本、見終わった後に何の感動も残らない時間の無駄遣い、みたいなね。
いや、別にここから「ワイルドスピードは来世まで語り継がれる傑作である」という文章が始まるわけではないんですけどね。
普通につまらん箇所もたくさんあるんですけど。
でも、普通に人生生きてれば「とにかく今日は頭を空っぽにしてド派手なアクション映画をよだれを垂らしながら観ていたい」という夜ってあるじゃないですか。
もちろんそういう時にお酒を飲む人や友達と豪遊する人、そして車に乗ってナイトラインを駆け抜ける人、色んな解消法はあると思うんですけど。
そんな夜を吹き飛ばすための映画ってこの世に絶対必要あるなと今では思うんですよね。
というわけで、ここから色々とワイルドスピードシリーズに文句は書いていきますが、文句なんて言いつつも「俺、なんだかんだこいつらの事好き!」という気持ちには変わりはないというかですね。
みなさんももし良かったら、人を殴ったり銀行を襲ったりする前にワイルドスピードでも観てみたらどうですか?というお誘いです。
とか色々言いつつも、そんなに細かく書くこともないので4作品まとめてレビューです笑
ワイルドスピード(1作目)
65点
「主役」の演出
僕はいわゆる車オタクでもないし全然詳しくはないのですが、平均レベルよりは車が好き、くらいのバランスでして。
なので今作の「主役」である車が登場するシーンはもれなく面白いです。
シビック、RX-7、スープラ…登場する日本車を観ているだけでも満足感は十分にあります。
車に関する演出は映画全編を通して工夫がされており素晴らしいですね。
緊迫感があるシーンではカメラを揺らし、車の初登場シーンでは色っぽく舐めるように写し、レースシーンではエンジン音をしっかりと聴かせるなど「お、カッコイイぞ!!」と思わせる演出が巧みです。
少なくとも今作はCGに頼っている部分はほとんど無いように感じられ、重量のある塊が突進していく様子やクラッシュする様子を生々しく描いています。
なので車が大破したりすると、こちらも「痛い!」と思えるくらいちゃんと車をキャラクターの一つとして確立できています。
この手の映画の必須条件とは言え、それを実現するのは難しいことです。
そういう「車が主役」の映画としては完璧でしょう。
「脇役」の演出
主役である車の演出は良かったのですが、一方で「脇役である人間の描写」にかなり難点がありました。
「こういう映画でそんな細かいこと言うなよ!」って思われるかもしれませんが、頭を空っぽにして観たいからこそ余計なツッコミどころは減らすべきだと思うわけです。
まず主人公二人が本当に何を考えている人物なのか分かりません。
おとり捜査をしている警察の主人公ブライアンは、強盗犯だと思われるドミニクと接触するうちに「こいついい奴そうだから犯人じゃないぞきっと」と心を通わせます。
それはいい。
でも実際に犯人だと分かってからの行動がちんぷんかんぷんで、犯行を止めようと追いかけてみたり、一度は逃がした後にもう一回追いかけたり、カーレースをしたあとにもう一回逃がしたり。
何がしたいの。
一方犯人側のドミニクも「もう二度と刑務所には入りたくない」というよく分からない決意を胸に秘めた人物で。
もっともらしい言い方で当たり前のことを言っているのか。
その割には普通にカーレースで公道に迷惑をかけたり、気にいらない人は殴りかかったり、強盗を繰り返したり。
そしてそれらの行為の時に特に顔を隠したりはしません。
どうしてそれで逮捕されることはないと思っているのか。
一言で言うと、言っていることとやっていることがチグハグな頭の悪い人にしか見えないんですよね。
それで人望があるみたいな言い方されても「はぁ、そうですか」としか思えない。
バカばっかりが画面に映ると、観ている側が気を遣わないといけなくなるので疲れるんです。
まぁ色々言いましたが、主役の車達がカッコ良かったからアリ!
ワイルドスピード2
60点
陽気なパーティー映画
舞台がマイアミという点、主人公ブライアンが警察を首になっている点、分かりやすーーーい形でマフィアが登場している点などを考えると、シリーズ前半で最も陽気な映画になっています。
特にラストの「スーパーカー全員集合!!」な展開には笑っちゃうし、シリーズ2作目にして「ひゃっはー!」感がとてもあっていい感じ。
良くも悪くもお祭りで浮かれている感じですね。
浮かれすぎ問題
映画全体が浮かれているのはいいのですが、敵側のマフィアや主人公達も浮かれすぎです。
シリーズ全体の問題でもあるんですけど、敵側はなぜあんなに頭が悪いのか。
「ふははははは!飛行機で逃げると思ったかね馬鹿者!まさかの船で逃げるのだー!!」みたいな感じで逃げるんですけど、最終的にどうやって逃げるつもりだったの???
一旦警察に普通に見つかってる時点で終わりなんじゃね?と思うんですけど、浮かれてるからそういうのはどうでも良し。
景気よく船に車でダイブしたりであえなく御用だ!
マイアミの太陽がそうさせるのかい?
魅惑だらけのとんちんかんな映画でしたな。
ワイルドスピード3
25点
しっちゃかめっちゃか
どういう経緯で作られたのかは不明ですが、舞台が東京に変わって今までのキャストは全員退場。
完全オリジナルな映画となっていたのにまず驚きました。
もともとワイルドスピードシリーズは日本車に対する大きなリスペクトのある映画だったので、一度は日本を舞台にしたかったからではないかと(調べる気は特にない)。
サッカー選手のエデン・アザールとフェルナンド・ドーレスを足したような顔の主人公が東京の道路をドリフト決めまくるのですが、特に必要だったとは思えない【高校生】という設定のおかげで違和感バリバリMAX。
せっかく日本が舞台なんだからいつものような車ばっかりじゃなくて、フルカスタムのワゴンRとか、タイヤがハの字のbBとか、モニターが20個くらいついたヴェルファイアとか、いかにも日本らしい車文化も描いて欲しかったですね。
ていうか、やっぱり最終対決はハチロクとかにしてほしかったなぁ。
僕はそりゃランエボも好きですけど、そこはもうベタでもいいって思わない?(突然のクエスチョン)
まぁドリフト走行をグラフィカルに描いてくれたのは面白かったですけど、肝心のアクションシーンがほとんど山の中で真っ暗だったりして。
せっかくの車アクションなのに車の見せ方が悪かったので点数はこんなもんです。
ワイルドスピード4
70点
あの男達が帰ってきた
時系列的には2作目の続きらしいんですけど、感覚的にはシリーズ1作目の主人公達がみんな帰ってきたという感じの映画です。
前作と監督が一緒なのにも関わらず、格段にいい映画に仕上がっていました。
細かい演出は捨てて「イケてる元カノの復讐劇」に集中させたのが良かったですね。
今までの作品に比べて雑味が減った分、最もスムーズに観ることができたと思います。
今ではワンダーウーマンとして世界中の男性をへにょへにょにしているガル・ガドットのデビュー作らしいですよ。
まぁなんの役にもたっていませんでしたし、むしろいない方が映画としては観やすかったですけど。
やはり見にくい車のシーン
不満点としては、最後のバトルが何故か坑道みたいなところだったこと。
描き方が下手なのか、誰がどこをどう走っているのか全く分からないんですよね。
だから全然ハラハラしなくって。
インプレッサとグラントリノはカッコイイなーとか思いながらボーッと観てました。
ポスターの感想
良くも悪くも、いかにも品の悪いポスターばっかりですな笑
ドレスアップ雑誌の広告に入ってそうな色彩感というか。
ネオンが煙で揺れるようなビジュアルばかり。
あえて言うならTOKYO DRIFT(3作目)が一番かっこいいかな。
コンセプトはハッキリしてて気持ちいいですね。
主人公の車達はカラーで、そして脇役の人間達はモノクロで表現されています。
こういう振り切り方は好感がもてます。
まとめ
傑作と呼ばれる映画ではないと思っていますが、観ている間はウキウキしちゃうナイスガイな映画達です。
出来れば爆音の映画館でニヤニヤしながら楽しんでみたらいかがですかね。
それでは、また。
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アメリカン・ヒストリーX 《映画もポスターも、雰囲気はいいんだけど…》
映画の点数…75点
ポスターの点数…60点
CM監督の映画作品
こんにちは、グラフィックデザイナーのピースマイルです。
今回取り上げる映画は《アメリカン・ヒストリーX》です。
この映画、トニー・ケイさんというCMクリエイターの方が作られた映画ということで。
それを知ったのは映画を観たあとだったとはいえ「なるほど、確かにそんなタイプの映画だな」といった印象で。
というのも、僕は僕でグラフィックデザイナーとして「何かを広告する」ことを生業にしているので、少し脳の働き方が似ているのかなと思ったり。思わなかったり。
そのへんをちょっと頭に入れながら映画の感想とポスターの感想を書いていこうと思います。
ネオナチの映画
ポスターにもドーンと写っているのでお分かりの通り、この映画にはネオナチや白人至上主義、それにまつわる思想の持ち主がたくさん出てきます。
僕自身にそういう思想はないと信じたいところですが、自分の意思とは別のところで無意識的に生まれてくるのも差別の特徴であって。
特に近年の韓国や中国との衝突を考えると本当に何かのきっかけ一つで自分がそういった民族差別的な発想に転がる可能性だってあるんだよなとは思います。
とまぁ、そういう話は自分の中に秘めておくとして、映画の中身としての主人公の話ですが。
現在と過去をいったりきたりしながらいかにして主人公やその弟が白人至上主義に傾倒していくかを描いています。
ある種のお勉強映画としても通用するくらいけっこう丁寧な心理描写もあるので、子どもが中学生くらいになったら親や先生がこの映画を見せたりしてもいいんじゃないのかなとも思います。
映画の良いところ
この映画、とにかく「観やすいなぁ」というのが印象です。
たぶん、何か作業しながらでも内容は頭に入るくらい丁寧で。
このあたりが広告屋の発想なのかななんて思ったりして。
分かりやすいところでいえば、現在をカラーで、過去をモノクロで描くので観ている側は混乱することがありません。
重要なシーンでは必ずといっていいくらいスローモーションになるので、制作側がポイントとしている箇所を観ている側が読み解きやすくなっています。
画面の作りもかなりスッキリしていて、誰がどこで何をしているのかで混乱することは全くないでしょう。
そして映画全体が「兄が出所してからの24時間」の話になっているのも特徴です。
トレーニングデイやアメリカングラフィティなど、主人公が1日かけて何か成長していく映画というのは傑作が多いイメージです。
とにかく観客にとって観やすくする工夫がしっかりとされています。
映画の難点
今挙げてきた映画の良いところなのですが、実はそれが映画の難点にもなっているとも思っていて。
映画を観やすくしようとしている分、かなり説明的なセリフが多いんですよね。
主人公が何故白人至上主義に傾倒していくのか、そして何故それを間違いだと気付くのかを、けっこうベラベラ喋っちゃう。
回想シーンの中ですらナレーションが入ったりするくらい丁寧なんですけど、正直それは余計だったかなと。
画面を見ていれば十分に理解できることなので、それを口で言われちゃうと冷めちゃうというか。
わざわざ説明されてしまうと余計に演技くささが前面に出てきてしまって、ネオナチなどの差別的主張の根深さが際立ってこないんですよね。
「俺は間違っていたと気付いたんだ。怒りからは何も生まれないんだ」「そんな過去があったんだね、兄さん、俺も今日から生活を改めるよ」なんて言うもんだから「え?これって教育テレビかなんかだっけ?」みたいな気もしちゃって。
せっかく絵作りは綺麗なのに、なんか《お利口さん》な映画なんですよね。
映画のフレッシュさ
とまぁ色々文句は言いましたが、実は今でもこの映画はフレッシュさを残していると思っていて。
というのも現在のアメリカ大統領トランプは本当にフラットに差別的発言をしてしまうタイプの人だったりするわけですよね。
それを「差別だ!!許さないぞ!!」という層が多数いるのも当然なのですが「いやいやまぁまぁ、景気も良くなってるしこのくらいは大目に見ようよ」と思っている人もたくさんいるわけですよ。
そういった人達にも、もう一度この映画を観て欲しいなあなんて思ったりね。
最初に言った通り、いつ自分が差別主義者に転がるかなんて分からないものだったりするもので。
アメリカン・ヒストリーX は、残念ながら悪い意味で今でもフレッシュな一作と言えそうです。
ポスターの評価
ポスターもですね、映画とほとんど同じ評価です。
広告としてはかなり観やすいすっきりしたデザインです。
画面を真っ白にして、ハーケンクロイツがしっかり際立つようなグラフィックに。
白い背景は白人至上主義を思わせるようですね。
白に映えるように文字情報は赤で上品に。。。。
うーん。
なんかすごく理屈っぽい気がする笑
すごく見やすいデザインだしカッコイイと思うんですよ。
でも、特にポスターから感じるメッセージがないというか。
もっと禍々しくするとか、空しさを感じさせるレイアウトにするとか出来たと思うんですよね。
お洒落だなというラインからは越えてこないよなと思ってしまって。
まとめ
とても丁寧な映画なはずなのに、映画もポスターもどこか表面的な描き方に収まってしまっていると思いました。
いいところもたくさんある映画だし、大切なメッセージも込められてるんですけど、それだけに惜しさが目立った映画でした。
僕は広告屋なので「分かりやすく分かりやすく」することに慣れてるんですけど。
それが映画になると、分かりやすくするのは良いよしても説明しすぎると駄目になるんだなと勉強になりました。
それでは、また。
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へレディタリー 継承 《映画もポスターも伏線はりまくり》
映画の点数…83点
ポスターの点数…90点
今世紀最大のホラー
こんにちは、ピースマイルです。
評論家のつけたキャッチコピーが《今世紀最大のホラー》とかなりのフカシをかました映画【へレディタリー 継承】。
今世紀あと何年残ってると思ってるんだ。
さてこの映画、ライムスターの宇多丸さん含め本当に多くの方が絶賛していたので楽しみにしていた作品でした。
ただ個人的にはホラー映画は好きなジャンルでは全くなくて、むしろ避けられるものなら一生避けていたいカテゴリーなんですよね。
なのでホラー映画に関する知識はかなり少ないと思います。
そんなホラービギナーな僕から見てもこの映画は本当に凄まじかったし、もう一度見たい、いや見たくない。そんな映画です。
同時に映画ポスターの出来がこれまた良かったので併せて紹介します。
映画の感想
評価が高いだけあって、《今まで味わったことの無い感覚》と《緻密に作られた映画全体の完成度の高さ》を併せ持つ希有な作品でした。
僕が83点とつけているのは「傑作というわけではない」ということではなくて、単純にホラー映画が苦手なのでポジティブな気持ちになれなかっただけです。
映画としては本当に良く出来ていましたね。
ライド感
アクション映画などでよくライド感という表現を使いますが、このヘレディタリーもかなりライド感のある作品だなと思いました。
自分が絶対に行きたくない部屋、見たくない方向にゆっくりとカメラが向かうのは本当に怖かったし、それだけ映画の中に自分が入り込んでいたんだと思います。
脚本全体が「この先自分がどこに行くのかが分からない」状態という作りになっているので、自分が全く信用していない人物の運転する車に乗せられてどこか知らない場所に連れて行かれるような恐怖がずっとあるんですよね。
それと、ホラー演出が結構ジャパニーズホラーっぽいというか。
アメリカ式のギャーーーーっ!!ドーーーーン!!!みたいな演出もあるにはあるんですけど、場面の見せ方と雰囲気の作り込みだけで恐怖を与えていく作りはとても日本的だなと思ったり。
このあたりも日本人である自分は映画に乗り込みやすかったかなと。
伏線・伏線・伏線
この映画、とにかく細部にわたって緻密な伏線が張られています。
「これは伏線ですよ」とはっきり分かるものから、映画が終わってみないと気付かないレベルの細かいものまで。
伏線ありまくりの映画って「はいはいこれも伏線ね」と気付いちゃってウンザリすることも多いんですけど、この映画の場合は【バレバレの伏線】か【気付かない伏線】のどちらかなのでストレスになりません。
というか、「このあとどうなるんだ!?」といくら予想したってほぼ全部裏切られるような展開が続いていくので伏線を気にしている暇もないというか。
正直中盤あたりで具体的に何も起こらない時間が長く続くところだけは退屈だったんですけど、それも映画が終わって振り返ってみると大したことなかったです。
ポスターの感想
この伏線張りまくり映画のポスターもまた、かなり出来のよい仕上がりになっていました。
まずビジュアル面ですが、ただ表情だけで怖い女優っていうのはもうそれだけで反則なんですけどね笑
とにかく怖いですね。
もうこの時点でけっこう勝利してますけど、この二人の女性がどのような結末を迎えるのかを考えるとさらにゾッとしますね。
この二人は、ポスターの外にいる「誰」を見つめているのか。
下部の方には小さくオブジェのようなものがあります。
これもまた意味深で、映画を観る前だと首のとれた人形のようなニュアンスなのですが。。。。
映画が終わってから考えると「なんて悪趣味な暗示をさせやがる!」というね。
ただ首がとれて横たわっていたように見える人形が、何かを礼拝しているような。。。。
こわ。
いやなこと考えるアートディレクターもいたものですな(褒めてます)。
キャッチコピー
今回、日本版ポスターのキャッチコピーがかなり良いと思ってます。
まずメインの「完璧な悪夢」。
これ映画全体をあらわしていていいですよね。
「悪夢」というのは、主人公の一人アニーが夢遊病を患っているところから連想されたのでしょうが、その夢遊病という設定のおかげで観客側は「今見ている画面が現実なのか夢なのか分からない」状態に度々陥ります。
ですが、その夢の切れ端が最終的には全て回収されて現実へと繋がっていく様子はまさに「完璧な悪夢」。
さらに、「“フィナーレ”まで瞬きすら許されない」という箇所の“フィナーレ”に“”がついているのもポイントです。
“フィナーレ”には、舞台やクラシックコンサートなどで使われるようなニュアンスが含まれていると思いませんか?
意味的には別に「ラスト」でも「最後」でも同じ意味なのですが、フィナーレとすることで戯曲的な印象が深まります。
“フィナーレ”としたのは、まさに映画のラストがある種ぶっとんだおとぎ話のような感覚さえ与えるからでしょう。
これもまた映画が終わってから感じる伏線になっていたんですね。
映画をちゃんと読み込んだ方がつけられたキャッチコピーだなと思います。
説明過多でなく、それでいて過不足無く情報を伝えるキャッチコピーだと思いました。
まとめ
今年は梅雨がなかなかあけないですが、暑い夏にはピッタリの映画ではないでしょうか。
ただし、出来ればお風呂に入る前の鑑賞をおすすめします。
体がヒンヤリする以前に、緊張しすぎてじっとり汗をかくような映画です。
さらに初々しいカップルで観るのはオススメしませんね。
「てめぇ!!なんてもの見せてくれてんだ!!」と別れ話に突入する可能性も十分にあるでしょう。
その注意点さえ守れば、あまりにも上質な映画体験が約束できると思いますよ。
それでは、また。
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トイ・ストーリー4 ※ネタバレ有り! 《満点ではないが合格してみせたことに拍手》
映画の点数…93点
ポスターの点数…90点
誰もが恐れていた続編
こんにちは、ピースマイルです。
まず最初にお話ししますが、当記事内ではトイ・ストーリー4のネタバレを含みます。
未見の方は是非とも映画をご覧になってから読んでいただけたらと思います。
さて。トイ・ストーリー4が公開されると聞いたときの第一声は「なんてバカなことを…」でした。
多くの方と同様「下手な続編なら作
それくらいトイストーリーの3作目はこれ以外にないくらいの「綴
それをまた今回「開く」となるなら、よほどの着地を見せないとフ
このあたりの気持ちは公開一週間前のブログに記しております。
トイ・ストーリー4(公開前予想) 《過去最高にノスタルジックな作品に??》
では実際の映画がどうであったのか、映画の感想と共に当ブログのテーマである映画ポスターの評価と交えながらお話していきます。
なんだかんだ号泣
まず冒頭の5分で僕は泣きましたね。はや。
映画が始まってから涙を落とすまでの最短記録です。
まぁこれは今までの作品の積み重ねがあったからこその話なのです
ボーとのお別れにあのような経緯があったというのを知るだけで泣
そこからトイストーリーのテーマソングが流れてくるだけでそりゃ
ていうかウッディ達が画面で動いてるだけで既に泣けるんですけど
そこからボニーが初めて幼稚園に体験入学するまでの流れでもう一
新キャラ、フォーキーの誕生までの流れはとても良かったですね。
一作目のウッディならフォーキーの存在に嫉妬していたはずなのでしょうが、今作では
僕のようにトイストーリー一作目を子供の時に見ていた人が、今度
そりゃもう泣くしかないというか。
このあたりで既に映画のテーマが一部示されているのが分かります
それは「別れ」と「継承」ですね。
中盤での中だるみ
最高のスタートをきった4作目ですが、残念ながら中盤でか
ギャビー・ギャビーをヴィランとしてストーリーが展開していくの
さらわれたフォーキーを再開したボーと救出するのが目的なのです
アクションシーンやギャグシーンはいずれも面白いんですよ。
でもそのアクションシーンとかになった途端にストーリーがいちい
その救出劇に第二の主役であるバズが形だけ参戦するんですけど、特に役にたってる
あくまでも「バズに出番がないから慌てて登場させた」という風にしか見えませんでした。
中盤で必要だったシーン
中盤で描かなければならないことは、いかにウッディがボーとの人
その描きこみが最低でも5分ずつは追加で必要だったでしょう。
捕らえられたフォーキーは「なんとなくボニーの所に帰ろうとしてる」だけで、ボニー自身を大切に思うきっかけは無いんですよね。
だから救出される際もほとんど受動的で、自らボニーの所に戻ろうとする行動と意思がないのでカタルシスが生まれにくくなっています。
フォーキーというキャラクターは大好きになったのですが、それは序盤のウッディとの掛け合いの中だけであって、中盤以降はほとんど空気になっていました。
それとウッディがボニーの元を離れようと思うシーンはもう少し丁寧に描く必要があったと思います。
それはボーの描きこみの甘さからきていると思っていて、ボーが「いろんな世界を見るのは楽しいよ」と言うわりには具体的に何が楽しいのかあまり説明してくれないんですよ。
せめて自由を謳歌しているボーをウッディが新鮮な眼差しで羨望するシーンは必要だったでしょう。
それらのシーンをいくつか追加することで、その分アクションシーンはもう少し整理できたはずです。
特に「フォーキーの救出に失敗」→「もう一度侵入」の流れは明らかに余計でし
だったらせめて舞台をアンティークショップから他の場所にうつすなど工夫して欲しかったです。
継承
中盤で中だるみしたのですが最後には全てを取り返します。
ウッディのこれまでの役割をフォーキーとバズ達に継承し、自分の
トイストーリー3が「親離れと子離れ」を描いた映画であったよう
ウッディとボーの結婚というのが一つ。
そして、ウッディを父親目線としてフォーキーとボニーの結婚とい
自分の手元から離れていく娘を見守り、託し、そして自分の人生を再び歩み出すという結末。
ピクサースタジオは、ウッディという一人の人格に対しケリをつけたかったのだろうなと思います。
ウッディは今までずっと、子どもを幸せにすることを願ってきた父親でした。
でも、それでもいつかは必ず子どもとのお別れはきます。
観客もそれにはずっと気づいていました。
そのウッディに対して、観客自身がお別れをする機会を設けたのでしょう。
ここで評価は真っ二つに分かれると思います。
「それを描いたらトイ・ストーリーという映画の骨格自体が崩れる」という見方もできるでしょう。
僕もそう思います。
トイ・ストーリー4は、踏み込んではいけない線を越えたと思っています。
でも僕個人としてはそれもアリだと今は思っています。
観客自身である僕たちも、ウッディの仕事を「継承」していってくれというメッセージだったと思うからです。
結局のところの映画の感想
ここまで感情がグチャグチャな映画も久しぶりです。
今まで書いたように、映画としてはハッキリと難点があると思っています。
そのあたりはトイ・ストーリー3の時も思っていました。
トイ・ストーリー3だって、バズの扱いがどう考えてもおかしかったし、ヴィランの扱いもいい加減だったと思います。
でも映画の芯の部分がしっかりしていたから傑作となりえた。
トイ・ストーリー4も同じではないでしょうか。
映画としてはグラグラなところもあるけど、ウッディという男の結末を描き切ったことには素直に感謝したいです。
ボーと抱き合うシーン、ジェシーが笑顔でウッディを見送るシーン、バズとの「To Infinity and Beyond」の掛け合いのシーン、後ろにきらめく移動遊園地。
シャレにならんくらい号泣してましたからね。
アベンジャーズ・エンドゲームくらい泣いてました。
色々な意見があって当然な内容だとは思いますが、僕個人としては大満足しています。
ありがとう、ウッディ。
Reach for the Sky!!
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ポスターの感想
映画が終わって改めてポスターを見てみましょう。
以前書いたブログでの予想でも書いたのですが
トイ・ストーリー4(公開前予想) 《過去最高にノスタルジックな作品に??》
二人がこちらに背を向けているのは、「何か違う未来を見つめている」ということの暗示と予想しました。
これは当たっていましたね。
ただし、僕はウッディとバズがお別れをする未来は全く予想していませんでした。
改めてこのポスターを見ると、それだけで泣いてしまいます。
これは、ウッディとバズという親友同士が最後の思い出を刻むシーンだったんですね。
(実際には同シーンは存在しないので、イメージとなりますが)
まぁだからこそ、バズは映画のストーリーライン上重要なシーンでもっと活躍させるべきだったとは改めて思いますが。
メインビジュアルになっている次のポスターは、あまり観客に事前の予想をさせないようなポスターになっていますね。
映画の中で正直ハムやエイリアンズは何も活躍してませんからねー。
ブルズアイですら活躍してません。
アクションシーンでもっと出番をあげても良かったのに。
というわけで、バズとウッディのポスターのみが極端に良くてあとはまぁ普通です。
まとめ
映画が公開されるまで不安で不安で仕方ありませんでした。
でも今ではとりあえず晴れやかな気持ちでいます。
これから文句を言うことも多々あるとは思うんですけど、それでもやっぱり観て良かったかなぁとは思っています。
今度こそ、ウッディ達とお別れをすべきだと僕は思いますがピクサーさん、どうなんですか?
それでは。
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キャリー(1976) 《映画は苦手だけどポスターはピカイチ》
映画の点数…45点
ポスターの点数…85点
ホラー映画の古典
1976年公開当時はセンセーショナルな演出で観客を恐怖のどん底に突き落とした《キャリー》。
そんなキャリーも今では古典とも言っていいくらいスタンダードな作品になっています。
監督はブライアン・デ・パルマ。
原作はスティーブンキングで、主演のキャリー役にはシシー・スペイセクです。
正直、今挙げた三人と母親役のパイパーさんの4人だけの映画と言っても過言ではない映画です。
実際演者の二人はアカデミー賞にノミネートされたくらいだし、彼らの演技を見ているだけでも十分に楽しめます。
そんなベストなキャスティングだったシシー・スペイセクさんですが、映画だけではなくポスターにおいても存在感をみなぎらせています。
映画の感想
最後の体育館での大殺戮シーンは確かに見応えがありましたが、残念ながらそれだけ。
それ以外のシーンはほぼ全て苦手でした。
これはもう単純に、僕とデ・パルマの相性が悪すぎるからだと思います。
他のもデ・パルマ作品も大体苦手なのです。
いくつかの名作を撮っている彼だし、世界中ではこの作品は大いに愛されているのでしょうから僕などがいくら小さく文句を言っても特に問題はないでしょう。
なので遠慮なく苦手な箇所を挙げると、まず全体の絵作りが苦手です。
意図的なエフェクトをかけまっくた白っぽい演出が、キャリーの処女性を演出しているのでしょうね。
でもそれは、演出でやられるほどに冷めえてしまうんですよね。
そんなことしなくても、ストレートに表現するだけで彼女の魅力は十分に伝わります。
それと、説明過多な音楽が苦手でした。
なぜ緊迫したシーンで「緊迫してくださーーーーい!!!!」みたいな音楽を鳴らすのか。
逆に冷めます。
ただし前述の通り、体育館の悲劇シーンは見応えたっぷりで面白いですね。
(画面内の出来事は完全なる悲劇なんですけど)
独特の宗教観が悲劇を生みだすというのは、日本だと「八日目の蝉」なんかは近いですかね。
ただどうしても「敬虔なカトリック」がどこまで日常レベルで厄介な人達なのかとかは、実際に会ってみないことには分からないもので。
その点においてちょっとノレない部分があったかなぁなんて思ったり。
このへんは映画の罪ではないんですけどね。
ポスターの感想
上記の通り映画は苦手なんですけど、ポスターに関しては素晴らしいと思います。
こわーい。
グラフィックデザインとして優れているということでは特にないんですよ。
文字の組み方やタイトルの表記なんかは、むしろ「学生レベル」みたいな感じです。
ですがこれが大正解!
ポスター全体から伝わってくる未熟な感じこそがより恐怖を演出していると思います。
キャリーという少女の不完全性がうまくビジュアル化されているんですよね。
そのせいでB級映画のような雰囲気も感じさせてしまうのですが、実際の映画もB級映画のような部分も大きいので特に問題はないかと。
写真の分割
何よりも目を引くのは当然キャリーの二枚の写真ですよね。
天使のような笑顔のキャリーと、とても同一人物とは思えないキャリー。
動画で怖いと言うのは分かりますが、このキャリーに関してはポスターのこのビジュアルだけでも十分に恐怖を感じる迫力があります。
この写真が同時に並んでいることで「劇中で何が起こったんだろう=どんな映画なんだろう」と興味が沸いてきます。
これが恐怖の顔の方だけをのせていてもあまり効果は無かったのではないでしょうか。
ちゃんと「幸福のキャリー」と「地獄のキャリー」を同時に提示することでその絶望の落差が伝わってくる仕掛けになっています。
まとめ
古典作品の弱点でもあり、そしていいところはCGやフォトショップが無いことだと思います。
画像編集能力が低い分、アイデア勝負なところが大きくて。
なのでこうした優れたポスターにも巡り会えるわけなんですよね。
デ・パルマ監督はやっぱり苦手なんですが、少なくともラストシーンを目撃するだけの価値は十二分にありますよ。
それでは、また。
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